我、無限の欲望の蒐集家也 作:121.622km/h
副題:英雄達との狂闘
これは、五月も後半に入った頃のことである。
関東に位置する海鳴市で、一番の大きさを誇る如月邸。
その地下にある巨大施設──元々雪山にあったものを流用してきているため、便宜上カルデアと呼称するその施設の中に造られている
「【──悠久なる時の流れの中、常に我と共にありし万物の蒐集書よ。
我が血潮を使役し、我が心が求めしモノを集め続け、無限にふくれあがりしその内は。
幾重もの世界を越え、集め・戦い続けてなお敗北を知らず。
故に、戦に敗れ逃げ去ることもなく、その思想はただの一人にも理解されなかった。
しかし、例え独りであろうとも、我は汝と共に次元を越え万物を蒐集し欲を満たす。
されど、我が欲望は留まることを知らず、無限に溢れ湧き出ゆくだろう。
例えそれが、与えられた偽りの感情だとしても。
この身体が求めるものはここにある。
ならば。
全身全霊を持って、我が欲望を満たすとしよう】」
戦いが大好きなサーヴァント達VS.如月奏音というカードである。
確かに一対多数でも戦うのに支障はない。むしろ好カードでもある。相手が一騎当千の英雄達でなければ、の話ではあるが。
とりあえず、今は準備フェイズなので全力を出すために詠唱で無制限の蒐集書、その能力を解放しておこう。
「なぁ、カナタ。今日こそ、本気を見せてくれるんだろうな!」
「──本気は出さねえよ。見たけりゃ出させてみろ」
本領発揮を期待する青い槍兵に対してそう煽る。
挑発行為は禁止されていないので、やれるものならやってみろと他の英雄達に対してでもあるのだ。『本気は出せない』とかいうやれやれ系主人公では決してないが、本気を出そうとするとメンタルがやられるので覚悟が決まるまで正直やりたくない、というのが本音である。
覚悟さえ決まれば、すぐにでも本気を解放して、こんな戦い終わらせるんだけどな。
そして、気持ちのレベルを段階で表わすなら、現状態は『やるき』であって、その上に『本気』があって、『HERO must Die.-英雄死すべし慈悲は無い-』というチートも存在しているが、本気は文字通り封印してあるし、HMDは普通に考えて世界も破壊しかねないので使えない。
まあ、本気が見たいのであれば、覚悟が決まるまで待ってもらうか、四の五の言っていられない状況に追い込んでみろ。という戦闘狂にとってはこれ以上のない挑発である。
「こんな時しかオメエの本気見れねぇもんなぁ!!」
「そんな事いう前に、まずは俺に一撃入れてみろよ」
「上等だ!」
「お前等もだぜ? 一騎当千の英雄とか言われていても、俺の前では所詮烏合の衆なんだからな」
「「「上等だテメェ!!」」」
挑発を繰り返せば繰り返すほど、状況は悪くなっていくが、攻撃は掠りもしないだろうから問題ない。
「・・・そもそもなんでこんな事になったんだっけ?」
『それは君のステータスが低すぎたからだね。せっかく人と同じように肉体を得たんだから、訓練をしてステータスアップしようっていうのが目的だっただろ?』
『今までのツケってやつだ。これ前にも言っただろ? ククク』
「それがいつの間にか大乱闘スマッシュヒーローズになってるし・・・」
『君と闘いたいって英雄は多いからね。時間短縮のためにも全員乱闘で・・・』
「何故俺は一人なのか!」
いや、間違ってはいるが全部が全部というわけではない。確かに本が無ければ、まともな戦いは出来ない。出来るのは殺し合いくらいだ。何せ吸血鬼になれば万事解決だし。それに軽い魔術──
「初めは最悪だったのを覚えてる」
そうだ。本当に最初の方、つまりはこの時期にこの訓練を始めたときは地獄だったのを覚えている。戦う条件として吸血鬼化無し、バフ無し、蒐集書無しで三騎士クラスとの戦闘だったのだから。
蒐集書なしとか本当に雑魚だから。戦闘能力ゼロの最弱主人公って評されていてもおかしくなかった。まあ、日常系ならそれでも良かったけど、嬉々として戦闘系に首突っ込むやつの称号じゃあ無いよね。最初期は外付けだけが最高峰の、自分クソスペだったから。
訓練を重ねてバフが解除され、蒐集書が解放される内に、参加者が増え、いつの間にか大乱闘になっていた。筋力だの俊敏だのは相変らずそんじょそこらの学生と変わらない雑魚だが、戦いの中で磨いてきた観察眼と、それを生かした戦略・戦術の構築は脳筋相手なら完封できるほどだと自負している。
もちろん、それだけで終わるはずも無く、スキルの一つとして存在している
そのスキル、無限の欲望だが、これは常時発動型でその効果がとんでもないのだ。不屈の意思や、戦闘続行等その辺りの生き汚さを披露するスキルだ。スキルを思いついたときの言い訳として、「自分の欲を満たすために何でもする精神」が欲しかった。
それだけなのに、実際に発動したのを客観的に見てみれば、死にかけで倒れそうになるぐらいのボロボロの状態で、それでもなお立ち上がる。なんていう学園都市住まいの某記憶喪失の少年みたいな戦いを現実ですることになるとは思いもしなかった。
そんなこんなで大乱闘スマッシュヒーローズが開始しようとしていた。
『そんじゃ、カウントダウン行くぜェ』
「お、おう」
『10・・・9・・・0!』
「おいっ!!」
音速を超える英雄もいるというのに、カウントダウンで不意打ちを仕掛けてくるのは止めて欲しい。
真っ先に突っ込んできた文字通り一番槍の集団を、
『一回目の死亡確認・・・っと』
『相変らず無茶苦茶な戦い方だね・・・』
ちゃんとカウントダウンしてくれたら死ぬ必要は無かったんだけど。
先述の通り、吸血気になることも出来るため、伝承通りの回復能力も発揮できるのだが、現状、下手に死ぬことは出来ないので、吸血鬼化はなるべくしないようにしている。
ならば何故、死んでから生き返ったのか。
如月奏音は不老である。決して老いることの無い生命体ではあるものの、不死では無い。殺されれば死ぬし、癌などの病気で死ぬ可能性もないわけではない。
しかし、今の身体状況では安易に死ぬという選択肢がとれるわけではない。だからこそ、蘇生魔法と呼ばれる大禁呪を手に入れることにしたのだ。とはいってもその蘇生魔法は、五次聖杯戦争におけるいーちゃんのサーヴァント、ヘラクレスのように時間の巻き戻しに近いものであった。
つまるところ、ゲーム風にいえば残機──命のストックが続く限り、正真正銘の不老不死として立ち続けることが出来る。
下手に死ぬことは出来ないと言っていたのに、何故それならば死んでもよいのか。それは、死者を蘇らせるのではなく、死んだという事象を
最も、怒ってきたとしても滅ぼすけど。
そして、現実でゲームのようにリスポーンなんかを繰り返せば繰り返すほど、その精神は壊れていくものである、が。
生憎と無限の欲望というスキルのお陰で、この精神は保たれている。というか、限界が来ていることすら認識できていないのかもしれない。
そして、二十三回目というのは覚えゲーのことである。
セーブとロード。もしくは初めから。
何度も何度も繰り返してエネミーの動きを記憶して、最適化しその場に一番適した行動をとってハイスコアを目指すアレのことである。
その、セーブ&ロード機能とも言える力を
「──さぁ、死に物狂いで謳え」
と、上から雨のように矢が降ってこようとするのに気付く。そう言えば弓兵もいたのだった。接近させないように気を張っているし、暗殺者も眼球の前では形無しのために、遠距離攻撃の専門家を見落としていた。
しかし──
「だからどうした」
降り注ぐ矢の雨を傘のように展開した
敵に一切の接近も許さないとは、相も変わらぬ優秀さである。我が本の管理妖精は。
「・・・ほらほら、しっかりしろよ英雄共。貴様らの仕事だろう? 俺みたいな化け物を倒すのは。化け物を倒すのはいつだって人間だ」
人間でなくてはならないのだから。
『・・・君は化け物じゃないよ、奏音くん』
「・・・知ってるさ。でも、今の状況見てみろよ。英雄達が一丸となって一人の敵に挑む、どう考えても俺は化け物だろう?」
『ちゃんと人に戻るんだろうね?』
「この模擬戦が終わればね?」
周りはしのぎを削る戦いの中、通信先のロマニ達と軽口を叩く。それだけ余裕があるというか、もう蒐集書だけで良いんじゃないかな。所有車がお荷物状態って笑えない現実だから。ただの事実でしかないから。
「道を空けろ!」
「・・・ん。何か来るな」
「
「
「
どうやら、真名解放した宝具が撃たれるようだ。未来の己が戻ってきていないということは、今時分でも何とか出来るということだろう。
「「「「■■■■■■■──!!」」」」
「なんて?」
十人以上の宝具の真名解放が合わさったお陰で、何と言っているのか全く分からなかった。とりあえずアーサー王三人のエクスカリバーが放たれたのは確実だろうが、それ以外が全く分からないという自体になってしまった。
まあ、例えそんな事になろうとも対処は出来るのだが。
迫り来る光の奔流──これだけでどっかのビーストⅠの第三宝具に届くのではないかと勝手に夢想する程の光量と熱量である──が迫り来る。
そう言えば今更なのだが、勝利条件を教えておこう。
如月奏音の勝利条件は、全英雄達の場外吹き飛ばし。英雄達の勝利条件もまた同様である。つまるところ、文字通りの大乱闘スマッシュヒーローズなのである。
絶対防御圏を展開し、己の身を守る。音は遅れて聞こえてきた。衝撃が身体を襲う。その勢いで身体が浮き、そのまま場外へ。
ザ
ざ
危ない。
何も考えずに円上に展開した絶対防御圏ではそのまま後方に吹き飛ばされてしまう。つまりところ対抗手段としては、以前イリヤが見せた錐形の物理保護形態。それを参考に防御した途端。後方から弓兵と槍兵の一撃が身体を貫いた。
ザザ
ざざ
背骨の心配をする暇もなく、腰回りの皮膚を引き千切るほどの勢いで身体を回して後方に射出門を作成した。しかし、調子に乗った己が、最速の英霊である槍兵の動きを目で終えるはずもなく、懐に潜り込んだ槍兵の槍で
ザザザ!!
ざざざざざっ!!
真名解放が必要ない蒐集物の魔力を増幅させて、驚愕してそのまま後方へと飛び退いた槍兵と、周りの英雄達に向けて、聖剣の一撃(二本)を叩き込んだ。
「そろそろいい時間だろ。潮時にしようぜ?」
『うーん。確かにいい時間だ。でもどうする気だい?』
「俺にできる事なんて、以前から一つだって決まってるんだよ」
今までのフィナーレは、蒐集物のミサイルを使った絨毯爆撃や、宇宙空間戦闘用の光剣を使ってなぎ払ってからの爆散などが多かったのだが、今回は趣向を凝らして英雄の皆さんにも仕込みを手伝ってもらったのだ。
蒐集書から撃ち出され、切り落とされたりして地面に転がる剣や槍、斧や矢。その全てが、赤い弓兵の宝具と同じ事ができると、彼等は忘れていたのだろうか。
「さぁ、いーちゃんシメはよろしく! 『
『っ!? もうバカぁ、爆発オチなんてサイテー・・・・・・!』
というわけで、自らの足元に散らばっていた蒐集物の、魔力を暴走させたことによる自壊に巻き込まれた英雄達は、呆気なく吹き飛びGAME_SET。いーちゃんの名言も聞けて、十分満足のいく結果となった。
イリヤside
わたしはイリヤスフィール・エミヤ・アインツベルン。長いから皆にはイリヤって呼んで貰ってます。現在私立聖祥大附属小学校三年生。好きな人はお兄ちゃんです。
わたしがお兄ちゃんと出会ったのは今から・・・結構前です! 士郎お兄ちゃん、美遊、クロと一緒にお兄ちゃんの家族になりました。士郎お兄ちゃんは、今では凜さんとお付き合いした“士郎お兄ちゃん”やセイバーさんと結ばれた“士郎お兄ちゃん”。その他たくさんの可能性の士郎お兄ちゃんが一つになってます。
あと、もう一人わたしがいて、わたしより年上で名前はイリヤスフィール・
お父さんは親バカで、お母さんも親バカです。誰かあの人達を止めてください。学校のイベントごとにお父さんが無駄に張り切っちゃって。その度に、お兄ちゃんに止めてくれるようお願いしてます。お兄ちゃんの影響力は凄くて、みんなのことを“雑種”って呼んでたギルさんが、皆を名前で呼ぶようになるくらいです。
どうして? って聞かれると困るんだけど――。
第五次聖杯戦争に参加した英霊さん、立香お姉ちゃん達から聞いたお話は───
──とある聖杯戦争でのこと。
その聖杯戦争では、切嗣もアイリも誰一人欠けることなく衛宮家が生きていて、衛宮士郎が正義の味方に憧れていない世界線。そんな理想郷を作り上げたのは、コレクターである如月奏音だった。
そして、理想郷に飲み込まれ、もはや聖杯戦争の影も形もなくなってきた頃、数年前からすっかり居着いてしまっていたギルガメッシュが唐突に言い出したのだ。
「そう言えば、雑種。貴様、
「んー? ああ。それがどうした?」
「フン。貴様のような凡俗が、我と同じ土俵に立つというか?」
「ハァ? 突然、なに言ってんのお前」
奏音は不思議そうに首を傾げ、目の前に腕を組んで立つライダースーツ金ぴかの情報を頭の中で整理し始める。
「我は英雄王ギルガメッシュ。この世の財、その全ての所有者だ」
「・・・知ってるけど」
「そこでだ!」
「ギルは、俺が蒐集家じゃないと否定したいのか」
「フッ。やはり雑種に王の意思はわからんか」
「じゃあ何なんだよ」
「決まっていよう! 英雄の中の英雄王。すべての財の原点を持つこのギルガメッシュと、選り好んだ財を複製する貴様。どちらが収集家として優れているかの勝負だ!」
フハハ! と上機嫌に笑う英雄王。ご機嫌王とか名前を変えたほうがいいのではないかと言いたくなるぐらいに機嫌が良さそうだ。
「えー。面倒だし、英雄王のギルガメッシュが一番で良いよ」
「そうだ! 雑種は下から我のことを見上げていろ。貴様ら雑種は我を天に仰ぎ見るべきなのだ・・・・・・。ええい、そうではない! さぁやるぞ、雑種! ふはははは!!」
高笑いをするギルガメッシュに呆れた表情を向ける奏音。頭を面倒臭そうにかくと、キリッと細められた眼で英雄王を貫く。
「ルールは?」
「単純明快。貴様と我とで純粋に戦うだけだ」
「分かりやすくて良いじゃねーか。よし、それで行こう」
「ちょ、ちょっと待った。流石にここでやらないでくれよ!?」
士郎にそう言われて、奏音はここが
「場所は移動しても大丈夫か?」
「貴様と全力で戦えるところならばどこでも良い」
(なんでこんな好評価なんだろう・・・?)
奏音はそんな事を疑問に思いながらも、場所を移動するために衛宮家を出る。行き先は破壊可能のお達しが出たアインツベルン城だ。
アインツベルンの人達に、少しばかりの形だけの謝罪を心の内のみで行った後。英雄王ギルガメッシュと蒐集家如月奏音は本来であればギルガメッシュがヘラクレスを下し、イリヤスフィールのハートキャッチをするアインツベルン城のロビーで向かい合う。
待ちきれないといった様子で笑うギルガメッシュの背後の空中に、黄金の波紋が複数出現してその一つ一つから宝具の原典が顔を出す。
「どうだ、雑種。これが我の財だ。例え数百年かけようとも、所詮人間の貴様には決して集めることのできぬ、英雄の持つ宝具。その原典だ。フハハ!」
「───決めたぜ」
「何をだ」
不敵に、得物を目の前にした肉食獣のような目で原典を見る奏音に、ギルガメッシュは少しばかりの期待を込めてそう問うた。その返答が自分の予想を大きく上回る事を願って。
「集めてやる。お前が王座に座って集めたその財宝の数々、残さず全部俺が蒐集させてもらう!」
「・・・・・・フッ。フハハハハハハハハハハ!! 全て! 全てと言ったか、雑種! 例え貴様が勝ってもやらんぞ」
「戦闘中に全部奪ってやるから安心しろ」
「世迷い言をいつまで吐くつもりだ雑種」
「ハッ。俺を誰だと思ってるんだよ英雄王サマ。
「森羅万象天上天下欲しいものは全て手に入れる。
「欲するモノを手中に収めるために力を手に入れ、すべからく手にする。
「一度集めると宣言したら、殺されたとしても集める。
「──それが
「
「さっきテメェは、俺を“所詮人間”と言ったな。認識が甘いぞ、英雄王。
「お前に挑むのは、誰が何と言おうと正真正銘──“英霊の紛い物”だ!」
「咆えたな、
「やっぱりテメェはノリが良いな! 英雄王!」
黄金の波紋から連続して撃ち出される原典を、彼はあらかじめどこへ飛んでくるか分かっているかように、華麗にかわし続けていく。
暫くかわし続けていると、宝具の射出が止まりギルガメッシュが不満そうにしながらも腕を組んで立っていた。
「・・・・・・」
「・・・あれ?」
「待ってやる。
「俺、座はあるけど英霊じゃねえから、厳密には宝具じゃねぇんだけど・・・」
「さっさとせよ」
はいはい。と奏音は自らの持つ、無制限の蒐集書へパスを繋げるための呪文を紡ぐことにした。言い方を知り合いの小学生から借りて。
「【───世界をその身に秘めし書よ。
あるべき姿を我の前に示せ。契約のもと、奏音が命じる。
蒐集書への魔力ラインが繋がったことを確認した奏音は、眼前に立つ英雄王の戦術を複製して、白銀の波紋を空中に展開し、蒐集書の中で複製された大量の宝具を出現させた。
「【
「・・・・・・」
「───【
「誰かマスターを起こしてきてくれないか」
「はーい!」
「私が行く!」
「私!」
え、えっと今日はここまでです!
そんなお兄ちゃんも今は自分の部屋のベッドで寝ています。
お兄ちゃんは、士郎お兄ちゃんよりとっても良くモテるので、みんなが幸せになるために最終的には重婚して貰わないといけないかもしれません。
え? わ、私がお兄ちゃんのこと好きになった理由? 恥ずかしいから内緒ですっ♡