我、無限の欲望の蒐集家也   作:121.622km/h

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今回は物語回。

魔砲少女だけでなく型月関連のキャラクター達も一切登場しません。


タイトル・タグ詐欺ではなく、ただ作者の技量不足です。


副題:久々の変態行為


007

なのはちゃんの専属保育士になってから早、早くも何年・・・たったんだろうか。

 

なんか必死で飲み込みが異常に早かったなのはちゃんに知識という知識を詰め込んでいた記憶しかない。

 

結局、どれだけ経ったのかは正確に把握できないが、なのはちゃんは既に小学一年生になったし、イリヤ達も小学校三年生になった。

 

──つまり、少なくとも二年は経っているのか。

 

 

あー。考えてみればそのくらいの時間は経っていた気がする。

 

つまりは二年間の英才教育を経て、なのはちゃんは同級生を遥かに凌ぐ知識量と、どうでもいいような雑学と語彙を併せ持つハイパー小学生に仕上がってしまった、というわけなのだ。

 

うん、ちょっと育て方間違ったかな。

 

子育て、というよりかはやはりどう考えても保育士として、家庭教師に近い働きをこなしたつもりだったので、育て方ではなく、教え方と教えるものを間違えたのだろう。

 

 

さて、そんな家庭教師失格かもしれない、教え子に余計な知識を植え付けた張本人は、そろそろ大学、もしくは専門学校に入学せねばなるまい。

 

以前言ったように、例え如月であろうともやはり世間体が大事なのだ。周りの英雄達はあれでもしっかりと手に職を持っていて、それを生かして会社を興したり、働いたりしているのだ。

 

要するに、学生に見えるお前は、学生のように学習機関にお世話になれよと、上──は如月的に存在しないはずの位、からのお達しがあったのである。

 

 

ちなみに、現在はまたも平日。なのはちゃんが卒園してしまったので、保育士のバイト、といっても給金ももらってないし、ボランティアのようなものだったのだが、世間から見れば十分なバイトだったそれを、所謂解雇というか、必要が無くなったというか。

 

まあ、切られたわけである。

 

そして、財力だけはあるプーというとても面倒臭い立場にあるはずの、あるべきはずなのだが、平日の昼間っから。昼間である。

 

昼間、といっても時間的にやはり何かしら語弊があるといけないので、昼食を食べた後のオヤツ前の時間であるとここで明言しておこう。

 

おやつ、おやつの前の時間に、ドーナツなんだろう。お昼ご飯は、一時間ほど前に食べたような気がするのだが。

 

なにゆえ。

 

 

「なんで、俺はここにいるんだ・・・?」

 

「なんじゃお前様。ついに記憶喪失か?」

 

「ついにとはなんだ、忍。まるでいつかなるのは分かっていたみたいに言うのはやめろ。あらぬ誤解を生むかもしれないだろ」

 

 

記憶喪失になる要素なんてどこにもない。それに加えてそういうのを予防する道具だってある。それに、もし万が一失ったとして、そういったものが全部使えなくなったとしても、優秀な管理妖精が目覚めさせてくれることだろう。

 

それにしたって、何故平日の昼間っから、三桁年上の外見年齢八歳未満で、精神年齢もそれに引っ張られている幼女と、ドーナツで有名な全国チェーン店でデートをしているんだろう。

 

 

「儂がドーナツを食べたいと言ったからであろう。儂はそのように記憶しておる。詳しくは思いださせようとせんでくれ。流石に儂もミスドの店内を血で汚したくはない」

 

「お前、まだあのグロテスクな思い出し方するのか!?」

 

「うむ。生憎そうすればすぐに思い出せる故な。さて、興が乗ったからもう少し詳しく、記憶喪失のお前様でも分かりやすいように説明してやろう」

 

「記憶は失ってないけどな」

 

 

重要である。

 

 

「今朝、急にドーナツが食べたくなった儂は、お前様に要求したのじゃ。

 

「ドーナツをくれと。

 

「お前様は、ヒマそうにしておったから、二つ返事で頷いた。

 

「儂のお願いを聞いて、快く儂にドーナツを献上すると言っておったではないか」

 

「今、それを振り返って、どうして忍関連の話題でもう少し冷静になれないのかと、自己嫌悪に陥っているところだよ」

 

 

忍のそれは、お願いというよりか身売りに近い交渉だった。

 

ドーナツを奢れば何でも言うことを聞いてやる。ニュアンスは違うがほとんど意味としては同じ、そういう条件だった。

 

もちろん一にも二にもなく飛びついたのだが、やはり、もう少し冷静になるべきではないかと、後の祭りを踊っている。

 

 

「あまり、自分を卑下するでないぞお前様よ。それが死因であろう?」

 

「体よく利用されただけだよ」

 

 

普段であれば、例え落ち込もうと注意不足なんていう理由で死ぬことはなかった。あの時は学校中から見下され、居場所がなくなっていたので、殺すのに丁度いいタイミングだった、というだけである。

 

 

「そういや、お前と出会ってからもう何年経つんだっけ?」

 

「なんじゃ、今日は回想デーか?」

 

「・・・突然なんだとは思ったけど、聞かせてくれ。どんな催しなんだ、回想デーって。ややこしいぞ。もし聞き間違えた場合、昆布やワカメを食べる日なのかと思われちゃうよ」

 

「最近は何でも記念日にしたがるらしいし」

 

「記念日が祝日になる日が来たら毎日休みになりそうだな」

 

「ならば全員が逆に働かなければいけない日になりそうじゃ」

 

「確かに」

 

 

あまり長い休みが続いてしまえば、逆に早く学校が始まらないかと思ってしまう事はないだろうか。課題は「もらったその日に終わらせる」タイプの真面目くんだったので、夏休みなどでそういうことが良くあったのだ。

 

友人がいないなんて事は、なかったのだが、積極性に欠ける者達が集まっていたらしく、頻繁に連絡を取り合うことはあれど、何かしらの集まりや遊びに行こうといったイベントが起きることはなく、ヒマな夏休みを過ごしていたからなのだろうな。

 

 

「寂しい、学生生活じゃな」

 

「うるさい、お前になにが分かる」

 

「何も分からん。じゃが、儂と出会った後のお前様は楽しそうじゃったぞ」

 

 

夏休み。と忍はそう言った。

 

確かに、直江津高校三年生の時に過ごした夏休みは楽しかった。といえると思う。イベントごとが多すぎて、楽しめたかどうかで問われれば良く分からないと答えなければならないのが、本音だ。

 

というか、正直思い出せない。

 

思えば忍との出遭いも遠い昔のことである。

 

最初は本屋の帰りだったっけ。

 

エロ本は買ってない。エロ本は買ってはいないけれど、テレビで放映されれば100パーセント誤解を受ける表紙の本を買った帰り道。

 

あの、今はもう、宇宙のどこを探しても見つからない、如月奏音が誕生の惑星。忍達と出遭った故郷。

 

宇宙を探しても見つかりっこないけれど、案外近くに存在しているのである。例えばこの、何でも入る蒐集書の中とか。

 

人が住んでいた星を蒐集したのかと、そう問われればNOと答える。かの惑星は怪異組──と勝手に呼んでいる四人、を除いてほぼ全ての生命体が文明をそっくりそのまま残して、絶滅・全滅したのだ。しかし、何故か忍野メメくらいは、いつかこの地球で出会ったりしそうなのだけど。

 

あいつのことだから。「ひさしぶりだね、如月くん」とでも言ってくるのだろう。

 

そもそもあいつが、忍野メメが地球にいるのかどうか、定かではないのだが。

 

 

「あの男ならばあり得んことではないかもしれん。・・・時に、お前様」

 

「・・・ん?」

 

「今日の夕餉はなんじゃ?」

 

「さっき昼飯食って、今ドーナツ食ってんだろ? 飯の話をするなよ・・・」

 

 

まさかもう腹減ったんじゃないだろうなと聞けば、そうではないと帰ってくる。

 

士郎達も参加しているキッチンで注文すれば好きなものが食べられるというのに、わざわざ聞いた理由は久しぶりに食べたくなったからだそうだ。

 

そういえば、いつからだろうな。作ってないの。

 

 

「血はいるか?」

 

「後でお前様から直接もらうから、メンヘラクッキングをせずとも大丈夫じゃ」

 

「そんな呼び方してるのはお前くらいだと思うぞ」

 

 

食事の中に血を混ぜるその行為は、確かにメンヘラのように見えてしまうかもしれないが、いたって普通の食事行為の一環として、一時期やっていた、というか試していた方法なので、今は当然やってもいないし、やるつもりもなかった。

 

というか、料理自体作るのが久しぶりだった。一世紀近く台所に立っていないかもしれない。忍含めた怪異組や、士郎達に一時期振る舞っていたその腕は、すっかり錆び付いてしまっているだろう。

 

だからではないが、久しぶりついでに、藤見町商店街で食材を買って帰っても良いかもしれない。

 

そうしたほうが、より風情が出る。形式的に、庶民的に。商店街の雰囲気を感じながら買い物をして帰るというのも、また楽しいことだと思う。

 

 

「帰りは商店街に寄るぞ」

 

「む?」

 

「買い物して帰るんだよ。食材を買って帰るんだ」

 

「ふむ」

 

「金は十分にあったはず・・・」

 

 

財布を取り出して残金を確認する。目の前に詰まれた大量のドーナツは、精算済みなので今の残高と今後の金銭取引になんの影響も与えはしない。

 

さて、何を買うかにも寄るけれど、安いものと、ありものを組み合わせれば、今晩の一食くらいは何とかなりそうだった。

 

と、通路側。つまりは窓の外が見える場所に座っていた忍が、突然何かに気付いたように声をもらす。

 

 

「あれは迷子娘ではないか?」

 

「──なにぃ!?」

 

 

忍の声に跳ねるように反応し、窓の外を見るために振り返る。

 

その姿を完全に捕らえることは出来なかったが、その背に常に背負っていると言っても過言ではない巨大なリュックサックが目に──

 

 

八九寺。八九寺、はちくじ。八九寺じゃあないか。見えた。見えたぞ。

 

さあ、八九寺と戯れようじゃあないか。

 

 

「忍! 全部食ってからゆっくり来て良いぞ!」

 

「・・・なるべく早く行くようにするから、あまり派手なことは」

 

「八九寺ィィィイイイイイイイイイイイイ!!」

 

「」

 

 

ここ最近の生活、ひいては数年の間全く使っていなかったと言っても良い脚の筋肉をフルに動かし──もしかしたら吸血鬼もどきとしての力も使ったかもしれない程の、かつてないほどの全力疾走で八九寺の後を追う。

 

視界に八九寺を捕らえたその瞬間、もう飛びつく準備は出来ていた。

 

 

「はちくじぃいい!! 会いたかったぞ、この野郎!!」

 

「きゃーっ!?」

 

 

突然背後から抱き締められ、悲鳴をあげる少女八九寺。ここが商店街の通りであることも、今は頭の片隅に追いやられ、ところ構わず彼女の柔らかなほっぺたにキスの雨を降らせた。

 

 

「八九寺! 八九寺ぃ! 八九寺ぃぃ!! 久しぶりじゃねーか! 久しぶりすぎるほど久しぶりじゃねーか! お前どうしてここにいるんだ? どうしてここにいてくれちゃってるんだ!? お前と会えないからさあ、お前がどっか行っちまったんじゃないかと思って、ついに愛想を尽かしたんじゃないかと思って、気が気じゃなくって、ああ、もう、だからもっと触らせろもっと抱きつかせろもっと舐めさせろ!」

 

「きやーっ!きゃーつ!ぎやーっ!」

 

「うん、腕にスッポリ収まるこの感じ、間違いなく八九寺だ! こらっ! 暴れるな! 全身くまなく触れないだろうが!」

 

「ぎゃああああああああああああっ!」

 

 

久しぶりに全開のスキンシップを行った。街中を歩いていれば八九寺に逢えたあの頃とは違い、なかなか逢えないものだから、幸運値を疑ったほどだ。

 

最初は本気の悲鳴を上げた八九寺だったが、だんだんと親戚の叔父さんと戯れる姪っ子のような、楽しそうな悲鳴を上げるようになった。といっても、この感覚は二人だけのものであって、周りから見ればそれすなわち変質者なのだろうけれど。

 

八九寺も慣れたもので、誰が自分にこのような暴挙を行っているか分かったのだろう。もっとも、八九寺にセクハラをしているやつを見かけたら問答無用で殺すのだが、今は良いだろう。

 

──そしてこの一連の流れ、スキンシップの最後はもちろん決まっている。

 

 

「がうっ!」

 

 

なんと、今回は腕まで呑み込まんとするほどの大口を開けて、左手を噛み砕かれた。

 

 

「がうっ! がうっ! がうっ!」

 

「痛え! 何すんだこいつ!」

 

 

痛いのも。

何すんだこいつも、よくよく考えてみれば八九寺に向ける言葉ではないのだ。

 

いやはや。久しぶりの八九寺との逢瀬で今までにないほどテンションが爆上げしていたのだ。ガチで服を脱ごうとしたのは初めてかもしれない。

 

噛み付かれた痕からとめどなく血が流れ続けるくらいの歯形を残して、八九寺は悪漢(?)の魔手(?)からを逃れ、距離をとって、

 

 

「ふしゃーっ!」

 

 

と、うなり声を上げた。

 

久しぶりの野生化モードである。

 

いや、今現状だと何をしていても久しぶりが文頭に着くのだが、今は良いか。

 

 

「ま、待て待て! 八九寺! 俺だ!」

 

「ガルルゥ」

 

「よーし、イイコだ八九寺。ほーら、よく見ろー。敵じゃないぞー。俺だ」

 

「・・・・・・あ、・・・・・・」

 

 

八九寺は剥き出しになっていた犬歯や、立てていた爪をしまいつつ、落ち着いてきたのか、確認するように言った。

 

 

「・・・如月・・・刀奈さんじゃないですか」

 

「概ねその通りであって非常に惜しい感じなんだが、しかし八九寺。人を日本の学園の生徒会長でありながらロシア代表で自由国籍を所有している、更識家十七代目当主の本名みたいな名前で呼ぶな。俺の名前は如月奏音だ」

 

 

以前にも、名前をアナグラムにするやり取りをしたような憶えはあるが、その時は刀奈ではなく高菜とかそんな噛み方だった気がする。

 

まぁそれも、今となってはどうでもいいことだ。

 

とにもかくにも八九寺とのスキンシップというノルマを本当に久しぶりに達成できたので、気分は上々、大満足の一日だった。

 

 

「待ってください、如月さん。どうしてやり遂げたような顔をして立ち去ろうとしているのですか! ほんの数秒前に自分が犯した行為を思い返してみてください!」

 

「まだ何かしなくちゃいけないのか? 八九寺も欲張りさんだな」

 

「そういう話をしているのではないのです! ご存じのことだろうとは思いますけど、ここは私達がじゃれついていた田舎とは違い、街中の、しかも商店街ですよ? セクハラまがいのことをして胸を張っているなんて、褒められたことではとてもありません」

 

 

ああ、そういえばそうだった。実際に周りの人々はケータイを取り出して通報しようとしたけれど、少女の反撃があまりに酷すぎて、関わりたくないとでも思ったのか、見て見ぬ振りをすることに決めた人が大勢いる。

 

あとは遠巻きに眺めている人達が多数か。

 

うん。

 

 

「なるほど。つまりは八九寺は、『たくさんの人に見られていると恥ずかしいです。もっと人がいないところでしてください』と、そう言うわけだな?」

 

「どこをどう解釈したら、そんな回答が湧き出てくるんですか。どんな神経をしていれば、そんな科白をこれ以上ない真顔で言えるんですか。

 

「・・・相変わらず、意味不明な思考回路をしていますね、如月さん。私はいつになったら良く耳にする「知的な如月さん」を見ることができるんですか?」

 

 

そんな存在は聞いたことがない。知的な如月奏音が存在するのだろうか。居ないことは、ないだろうけれど、八九寺の前では知能指数が下がるからな。

 

それに。

 

 

「これからも見ることはないと思うぜ。何故なら、俺は例え何年、いやこれから先何億年経とうとも、八九寺を見かけたらロケットスタートで飛びついて、その体を隅々まで味わうと神様に誓ったんだ」

 

「何を神様に誓っているんですか! 今すぐ撤回してきてください!」

 

「・・・撤回は無理だ。北白蛇神社の神様に誓ったからな」

 

「じゃあ目の前にいるじゃあないですか! ほら、今すぐ撤回してください」

 

 

そう言って胸を叩いて自らを強調する八九寺。何だこの生き物、可愛すぎではないか。

 

とりあえず拝んでおこう。

 

 

「・・・これからも味わいます。よろしくお願いします」

 

「・・・・・・全く。本当にしょうがない人ですね。他の人達にも似たようなことしてるんじゃないでしょうね?」

 

「おいおい。八九寺は俺を何だと思ってるんだ? その言い方じゃあまるで、俺が小さい子を見かけたら問答無用で襲いかかってしまう、最低最悪のロリコン野郎みたいじゃあないか」

 

 

そんな最低な存在に成り下がった覚えは無いけれど、年下にモテるのは否定しない。原因が分からないから何ともしようがないことも明言しておこう。

 

 

「その表現は的確です。今まさに行った、犯した罪ですよ」

 

「前科者は嫌だな。八九寺限定だから許してくれないか?」

 

「うわあ。驚きました。こんなに嬉しくない限定が存在するんですね」

 

「待て待て。なんだかんだ言って、八九寺も楽しんでいるだろ? 嬉しくないだなんて、つれないことを言ってくれるなよ」

 

 

寂しいじゃないか。

 

兎ではないけれど、八九寺に拒絶されたら毛布を被って泣き続ける自分が想像できる。

 

 

「・・・嬉しくはないですけど、嫌でもないですよ」

 

「やったぁ!」

 

「お前様は通常運転じゃのう」

 

 

と、どうやら丁度忍が追いついてきたようで、ペタペタと足音をさせながら、歩いてきた。ドーナツを食べ終わったにしては、早かったような気がしなくも無い。

 

 

「お前様のスキンシップの激しさは知っておるからな。酷いことになる前に追いつこうと思ったのじゃが・・・手遅れだったか」

 

「ええ。もう一連の流れは終わってしまっています」

 

「迷子娘を見かけたことを声に出さねば良かったやもしれんな」

 

「もし忍さんが言わなくても如月さんなら嗅覚とかで気付きそうです」

 

「流石の俺もそんな事は出来ないぞ?」

 

 

できそう、と思われていること自体、一度膝を突き合わせて印象を訊いてみたいところではあるが、大体把握しているからまあ良いか。

 

 

「でも、如月さんだったらヒロインの居場所くらい嗅覚で見つけそうです」

 

「いやいや、流石に・・・。って言うかちょっと待ってくれ。その理論でいくと、八九寺って俺のヒロインだったのか!?」

 

「では、わかりやすく解説をしましょう。彼女は蟹。大きい妹は蜂、小さいのは鳥。後輩は猿、ラスボスは蛇。大好きなのは僕、愛してるのは猫。生涯添い遂げたいのは鬼。では本命はと聞かれたら、如月さんは何と答えますか」

 

「ノータイムで蝸牛と答えてやるさ!」

 

「ほら、ヒロインじゃないですか」

 

 

そうか、八九寺はヒロインだったのか。

 

ところで、挙げられた九人のヒロインの内、六人が既に死んでしまっているのだがいいのだろうか。

 

それだけ聞くと誰でも首を傾げてしまうだろうから、どうしてそうなったのかを始めから説明していこう。

 

如月家怪異組が元々住んでいた惑星は、現在如月が居を構える地球のように、科学技術の発展を目指す国が集まった星だった。

 

そこにある日本と似たような島国で育ち、猫に魅入られる少女と友達になり、鬼と出遭い、蟹に行き遭った少女を助け、蝸牛に迷った少女とじゃれ合い、猿に願った少女と戯れ、二人の妹をそれぞれ弄り、蛇に巻き付かれた少女と関わり、他にも様々な怪異に出遭って、

 

 

 

───最終的には全てを失った。

 

 

 

それは、偶然というにはあまりに出来過ぎていて、必然というには計画性のない出来事だった。

 

きっかけはなんだったか。

 

例え想像できていようと、あれは避けようのない速度で、一瞬にして突発的に。

 

偶然にも仕組まれたように。

 

世界を焼き払ったのだった。

 

 

次世代のエンジンと言われていた巨大原動機関の暴走による超爆発。

 

その爆発のエネルギーは星から生命体だけを奪い去った。

 

その爆発が起った当時、何の因果か忍に血を与えていた、その後だったので、どちらかと言えば吸血鬼より。無情にも生き残ってしまった。

 

同じように生き残っていたのは、同じ理由で忍。神様になっていた八九寺。不死鳥の月火。どうやって生き残ったのかは知らないけれど、斧乃木余接と忍野扇だけだった。

 

 

「さて、晩飯買って帰るかぁ」

 

「お。お邪魔しても良いですか?」

 

「ああ、八九寺も食べるのか?」

 

「ええ、いただきます!」

 

 

過去を振り返るのは止めにしよう。周りに居る、彼女達が悲しそうな目をするから。

 

指摘すればそんな事はないと否定されるのだろうから、勝手に心の中で感謝しておこう。皆のお陰で、今日も楽しく生きていけていますと。

 

 

「・・・八九寺用挨拶を他人にやったらどうなるか」

 

「捕まります」

 

「捕まるじゃろ」

 

「──だよなぁ」

 

 

さて、今晩は何にしようか。


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