本編とは毛色が大分ちがったシリアスモードです。
真夜のあの日
2096年2月末
四葉家当主四葉真夜は吸血鬼事件(悪霊事件)が世間で騒がれている中、とある人物が日本に侵入した情報を得て、四葉家の全勢力掛けて追跡を命じていた。
その男の名前はジード・ヘイグ
香港を中心に大亜連合の裏社会を牛耳っている大物だ。反魔法国際政治団体ブランシュの総帥とも目されている。
齢100歳を超えていると言われ、本人自身も失われた大陸導術を操る魔法師という噂も。
真夜はこの男に浅からぬ因縁があった。
真夜は33年前、台湾で魔法実験の素体として、誘拐され僅か12歳という年で、男共に蹂躙され精神を破壊されかねないような残酷な目に会わされた。その命令を下したのがこの男だったのだ。真夜もこの男があの場に居た事を今も覚えている。
その影響で子供が出来ない身体となり……婚約者とも婚約を解消され…周りからも腫れ物のような扱いをされる日々を過ごしてきたのだ。
現在、真夜は四葉家、当主として辣腕を奮う。
狙った獲物は必ず仕留め、非情な決断も即断する。裏では人道に外れた事までも行い。四葉家を最強たらしめてきた。
世間をあざ笑うかのように次々と裏で暗躍する真夜を知るものは、心は33年前に完全に壊されたと……そして鬼になったと皆思っている。
そんな真夜も信じている事があった。
真夜はあの屈辱と絶望と苦痛の中で見た一筋の光を……
2062年
当時12歳の真夜は少年少女魔法師交流会に出席するため台湾へ赴くのだが、何者かに連れ去られ、何かの実験素体とされ、さらに3日3晩男共にその身体を蹂躙されたのだ。
あの日、真夜は男共に蹂躙され心が壊れ……深い闇に落ちていく事を感じ……心が閉じようとした。まさにその時、笛の音と共に急に頭の中に見た事も無い映像が温かな感情と共に流れてきたのだ。
それはとある女性の記憶だ。
真夜はその女性となってその記憶を追体験していたのだ。
その記憶は、真夜の常識では考えられない妖怪や霊が存在した荒唐無稽な物語だ。
その話は女性の少女時代から始まる。
日本の中世に似ているが妖魔や霊が居た世界。
世間を恐怖に陥れた妖怪を封印するために、少女は人柱となり、幽霊となる。
300年程経ち既に記憶があいまいであった幽霊となった少女は、ある少年と出会う。その少年はスケベでバカだが、心優しい少年で、いつも幽霊である少女の心を温かな気持ちにさせてくれた。
そして、少年は数々の苦難を乗り越え、幽霊の少女を人として蘇らせる。
その後、少年はその少女を妹のようにかわいがり、人として蘇った少女は少年に恋をする。
しかし、その恋は苦難の道でもあった。彼に好意を寄せる女性は数多く。彼自身鈍感であったからだ。
そして、彼は自分以外の一人の女性を選び、戦いに身を投じ隠れた英雄となるが、その女性は志半ばでこの世から去ってしまった。
そして、英雄となった彼は心を痛めたまま、突如として少女の前から消えた。
彼が姿を消して1年半。
時代は混沌とした空気が漂っていた。
少女は女性へと変わりつつある中。彼をおびき出すために悪漢どもに捕まり、今の自分(真夜)と同じ目に会ったのだ。
彼女は最後まで彼を信じた。
そして……彼は、最後の最後で現れたのだ。
彼女を嬲った悪漢共は彼に消滅させられ、彼女の壊れかけた心と記憶を共に消し去った。
彼はその後、彼女を守るために村と家を再興し彼女と過ごす。彼女は彼に大事にされ、恋人関係になる。もちろん甘酸っぱい彼と彼女の生活が彼女の心を幸せ一杯に満たして行くのを感じる。
そこでこの物語は終了する。
その彼女の心が真夜の心にも響き、闇に閉ざされる心から希望という形で救い上げたのだ。
その後、四葉の手によって真夜は助けられるが、身体はボロボロにされ、凄惨な蹂躙された記憶は残る。
双子の姉の深夜の魔法によって、記憶は記録として心の中でしまわれることになる。
あの、彼女の心を救ったあの荒唐無稽な映像も同じく残った。
その後、真夜はあの映像の事件や戦いやあの彼を探したが見つからない。
もちろん彼女の記録もだ。彼女自身になり追体験したため、彼女の容姿はよく覚えていないが……
唯の夢なのか……それとも、神様が刹那に見せた救いだったのかそれは分からない。
ただ、あの暖かさだけは心に残っている。
真夜はその後の人生であの時の記憶の彼と彼女だけが、救いとなっていたのだ。
いつか彼のように自分を助けてくれる人が来てくれると信じ……
しかし、真夜の前に彼のような人は現れなかった。
そして人との接触を避けるような人生を歩む。その間、友人を作る気も、ましてや異性の恋人など作る気にもならなかった。もちろん男性とも触れることすら嫌悪していた。
そして時が経ち……あの時の記憶と心の温もりも薄れかけ……世界を嫌悪するだけの毎日を過ごすようになっていた。
唯一の興味は、亡くなった姉の息子である司波達也の成長を見守る事が真夜の楽しみであった。
彼なら、真夜を拒否したこの世界を壊してくれると……
2095年4月
達也が魔法大学付属第一高校に入学する。
達也のクラスメイトの情報リストが手元に届き、何気無しに目にした時だ……
真夜は稲妻に撃たれるような衝撃が身体全身に走るような錯覚に陥った。
息は切れ、心臓の鼓動が早まり、身体が震える。
あの記憶の彼と瓜二つの少年がリストに居たのだ。
いや、そんなはずは無い。唯の空似だと言い聞かせる。
あの記憶もただの妄想だったと言い聞かせる。
それでも真夜はあの時の温かな心が蘇ってくるのを感じざるを得なかった。
真夜はそんなことがあるはずが無いと思いながらも、彼のことを徹底的に調べさせたのだ。
その少年の名前は……
「……横島忠夫」
真夜はその少年の名前を口に出す。
何故かその名をするだけで、心が温まる。
氷室村出身
村立中学卒業
15歳
記憶の彼は少年から青年へと成長し20歳前後のはずなのだ。
だとするとありえない。
しかし……
家族は無し
身元引受人は氷室蓮
『救済の女神』の氷室家15代目当主の名だ。
「氷室…あの氷室……あの場所は氷室!?」
真夜は彼と彼女が最後に過ごした場所を思い出す。
そして、ネットで氷室村を検索すると……記憶と似たような場所が幾つもあるのだ。
「彼は……実在したの?でも…世界中の記録には何も…しかも年齢は…わからない……でもあの記憶の中の彼ならば…………」
記憶の中の彼はありえないような不思議な術を数々行使していたのを思い出す。
あの彼ならば不可能を可能にする……
希望を失わない限り、何度でも立ち上がる。
そしてもう一つ、自分が追体験した彼女の事だ。
ネット検索で氷室絹の画像が幾つも上がる。
言わずと知れたこの近代日本の英雄『救済の女神』氷室家13代当主氷室絹
今も尚独立した勢力として古式魔法の大家の基礎を一代で築き上げた人物だ。
氷室絹1977年~2058年
しかし、記憶の彼女はそれよりも300年前に幽霊になっていたという、もはや笑い話もならないほど経歴の持ち主だ。
そんなことはありえない……絹の経歴を確認してもそんな様にはとても見えない。
絹の若い頃の画像が検索中に上がる。
巫女服姿の彼女は優しく微笑んでいた。
「………確か記憶の彼女も…巫女服をよく着ていた…でも、どこにでもあるわ」
入試成績
魔法学関連は壊滅
一般教養はトップクラス
魔法適正能は判別不能
記憶の彼はこの世に存在するはずが無い妖怪や魔物と戦っていた。
その戦闘力はこの世界で見ても、間違いなくトップクラス。
やはり、他人の空似、あの場所もたまたま氷室に似ていただけ……
それでも、真夜は気になって仕方が無かった。
「……様子を見るしかないわ」
今しばらくお付き合いよろしくお願いします。
ジードヘイグの設定を原作から大幅に変更してます。
ジードヘイグはもちろん目玉の悪魔の仲間だった人物です。