誤字脱字報告ありがとうございます。
では、深雪編の続きをどうぞ。
今晩もベッドの上でタブレットであの映像を見ています。
横島さんの物語を見る様になって、1か月が過ぎました。
私の毎日の日課となり、毎晩が楽しみで仕方がありません。
今迄、テレビドラマやアニメなどを見たことがないのですが、この横島さんの物語の映像にいつの間にやら夢中になっていました。
今は徐々に劇中の横島さんの優しさに気が付きだしてる子が増えてきてます。
机の妖怪の愛子さん。お隣に引っ越してきた小鳩ちゃん。そしていつも横島さんと一緒にいる幽霊のおキヌちゃん。
その中でも私はどうしても、あの子に感情移入をしてしまいます。
幽霊のおキヌちゃん。
年は私とさほど変わらないこの子は、料理や家事も出来て、真面目で優しい子です。
この子は、劇中の横島さんの事が大好きで仕方がないことは、見ていてとても伝わってきます。
ただ、中々その事を伝えることができないようで、もしかすると幽霊である自分が横島さんの事を好きになってはいけないのかもと、考えてるかもしれない。
私もそうだから、お兄様に恋人になってほしいなどと口から裂けても言えません。
私達は本当の兄妹だから、いくらお兄様を愛していたとしても。
しかも、そんな彼女の思いも知らずに、横島さんは幽霊の彼女を妹のように扱います。
大切にはされておりますが……何か違います。
それもお兄様と一緒です。
まるで、私とお兄様のような関係。
だから自然と幽霊のおキヌちゃんに感情移入をしてしまうのです。
7月初旬頃、この物語のおキヌちゃんに転機が訪れます。
おキヌちゃんは実は300年前に厄災を振りまいた大妖怪を封印するための人柱だったのです。
その大妖怪が復活し、再び関東一円に厄災をまき散らそうとしたのです。
おキヌちゃんは自分の使命を思い出し、再び、封印をするため、自分の幽霊である身が消滅することも厭わずその大妖怪を鎮めようとします。
おキヌちゃんは、今を生きる横島さんが大好きだから、横島さんに傷ついてほしくないから、自らを犠牲にし、その大妖怪に立ち向かったのです。
一日1時間と決めていたのですが、その日ばかりは、このお話の続きが気になり、一晩中この物語の映像をのめり込む様に見ておりました。
私は自然と涙が出て止まりませんでした。こんなにも感情を揺さぶられる出来事は、お兄様が私を助けていただいた沖縄戦以来です。
そんなおキヌちゃんを助けるために、横島さんは必死でした。
それほど強くも無い横島さんは、決死の覚悟でその大妖怪に突撃し見事撃ち倒ししました。おキヌちゃんを助けたい一心で……横島さんが振るう光の剣……私も見たことがあります。あの剣で……
そして、おキヌちゃんとの別れの時がやってくるのです。
おキヌちゃんの肉体は人柱として、氷漬けの300年前のままの休眠状態だったということなのです。
それがわかって、おキヌちゃんが幽霊から人として生きることができると、ハッピーエンドになるのでは思えば、そうではありませんでした。
おキヌちゃんが人として復活すると、幽霊の時の記憶がすべてなくなると言うのです。
それは、横島さんとの別れを意味してます。
おキヌちゃんにとって、横島さんとの別れは死ぬほど辛いものでした。だから復活を躊躇してました。多分。私もお兄様の事を忘れるぐらいならば、死んだ方がましだと思うでしょう。きっと彼女も同じ思いだったのだと思います。
しかし、劇中の横島さんは涙ながら、おキヌちゃんの復活を決断しました。
『さよならはナシだ!!生きてくれ、おキヌちゃん!!』
私はその横島さんの涙ながらのその力強い言葉がずっと耳に残り、心に強く響きました。
このシーンは、その日から、しばらく何度も繰り返し見てしまいました。見るたびに涙を浮かべてしまいます。しばらくその事で学校でもうわの空だったようです。
もし、お兄様が同じお立場なら、きっと、私の事を復活させていただけると思いますが……劇中の横島さんのように涙を流して下さるのでしょうか?心の叫びを表に出していただけるのでしょうか?
お兄様が魔法実験の影響で感情が欠落してるのは十分存じ上げてます。でも、同じ女の子として、それでも言ってほしい。
そう思わずにいられません。
その後の映像をしばらく見ることができませんでした。
多分、おキヌちゃんはこの劇中の役目を終えてしまったのですから。
心を落ち着かせて、再び続きを見始める……
やはり、おキヌちゃんは記憶が消えたまま、氷室キヌの名で高校生として、横島さんとは全く別の場所で生活をしていくシーンが流れました。
予想通りでしたが、流石にこの後を見る気になれませんでした。
しかし、気になる事が。
氷室キヌ……氷室家十三代目当主氷室絹。『救済の女神』……同姓同名。そんな気がしてましたが、どうやらこの幽霊のおキヌちゃんは氷室家十三代目氷室絹さんをベースにキャラクター作りをされていたのでしょう。
ドクター・カオスならば、1000年以上生きてらっしゃるので、氷室絹さんに会ったことがあるのかもしれません。いいえ、氷室絹さんは『救済の女神』日本を守った英雄として、何度も映画化された人です。その映画を元にこのキャラクター作りをしたのかもしれません。
私は、氷室家十三代目当主氷室絹さんに詳しい、美月に話を聞きました。
放課後、目をキラキラとさせ延々と3時間も語られました。
聞かされた氷室絹さんの話は、もはや女神のような方でした。劇中のおキヌちゃんは料理に家事と色々と完璧にこなしておりましたが、おっとりして、天然なところがあり、たまにおっちょこちょいで、恋する事に不器用で……そんな人間味があふれた子ですから、美月から聞いた氷室絹さんのイメージとおキヌちゃんのイメージが一致するわけもありませんでした。
しかし、美月のお宝だと言う氷室絹さんの数少ない若いころの写真データを見せて貰いました。
……似ています。本人ではないかというぐらい似ています。
ただ、ドクター・カオスもこのようなデータを持っていたのでしょう。
ではないと、あそこまで似せて作れません。
私は氷室絹さんの事が気になって仕方がありませんでした。
そこで、子孫である氷室要さんに少しお伺いしました。
美月ももちろん同席。なぜか雫も一緒でした。
「司波先輩、なぜそんな事を?」と言いつつも私が聞きたかった質問に答えてくれました。
私が聞きたかった質問とは、氷室絹さんに恋人はいたのかという事です。
美月に聞いても、結婚もせずに男性の影も形もない、処女性を保った真の巫女だと言ってましたから、世間一般ではそう言う風に通っていますが、実際はどうなのかと。
すると意外な言葉が返ってきました。
祖母である14代目の恭子さんから聞いた事があると。
晩年の氷室絹さんは弟子の恭子さんに語ったそうです。
好きな人が若いころに居たと、そして恋人同士だったと……。
それが10代の事だったそうです。その恋人が今どうなったかは語らなかったそうですが……多分お亡くなりになったのでしょう。
70歳を過ぎた今でも、好きだと頬を染めて惚気ていたそうです。
要さんがそう語った絹さんは私の中で劇中のおキヌちゃんと重なって行くような気がしました。
それを聞いて、どこかホッとしました。靄が掛かったような心が洗われたようでした。
劇中では横島さんと別れる事になってしまいましたが。
実在の氷室絹さんは若いころは、好きな人と恋焦がれる恋をし、結ばれていたと……
私は胸のつかえがとれ、次のお話を見ることができます。