私は九校戦の後、残りの夏季休暇中、機嫌が悪かったようです。
お兄様だけでなく、友人達からも後で指摘されました。
お兄様が、藤林響子さんのプライベート電話番号を知っていた事を黙っていた事に、いささか不快な思いもしましたが、それ以上に横島さんのあの物語です。
横島さんは、魔族という人智を越えた力を持つ悪魔に囚われの身になりながらも、味方のゴーストスイーパーに情報を流すスパイ活動を行っておりました。
襲い来る魔族たちの被害はそれにて、相当抑えられたはずなのに……
横島さんは人類の敵だと、世界中の人に罵倒される立場に、皆真実を知らないとはいえ、あまりにも酷い仕打ちです。
更にです。
ゴーストスイーパー側の司令官は、魔族を滅ぼすためにスパイ活動を行っていた横島さんごと、抹殺しようとしたのです。
酷い…酷すぎます。
物語だとわかっていたとしても、私はつい怒りをあらわに……
それに横島さんは優しい人です。
例え敵だろうと……優しさを忘れない人でした。
横島さんが敵だった女性魔族ルシオラさんを見殺しにせず、助けた時の理由とセリフがこれです。
『夕焼け好きだって言ってただろ?一緒に見ちまったからな、それが最後じゃ悲しいよ』
横島さんの優しさがにじみ出ているセリフです。
もし、お兄様にそんな事を言われたらと思うと顔が真っ赤になり眠れませんでした。
そんな横島さんに徐々に敵の魔族の女性達は心を開き始め……ついには囚われの身の横島さんを逃がすことに………
ゴーストスイーパーに復帰した横島さんは、その後も訓練を重ね、世界を救うキーとなりうる存在まで成長を遂げて行きます。
魔族の女性の一人、ルシオラさん……彼女は自分たちの命を握ってる魔神を裏切り、愛する横島さんに付いたのです。
横島さんもそれに答え……魔神との戦いに身を置いて行くのです。
私は複雑な気分でした。
おキヌちゃんを応援する身ではありますが……ルシオラさんも素敵で一途な女性に見えたのです。
自分の命をなげうってでも、横島さんについて行くという強い意志を持っていました。
私も四葉本家を裏切ろうとも、何が有ろうとお兄様について行きたいと思ってるから……
そんな憂鬱な感情なまま、物語の映像を見続け、現実では夏休み終盤に……
さらにショックな出来事がありました。
横島さんは魔神との死闘で遂には、横島さんの全力の攻撃で小さなかすり傷しかつけられない相手に、100万倍以上の力の差がありながら、それでも勝利を掴むのです。
普通では考えられません。100万倍以上の戦力差など、現実覆るはずが無いからです。
これは物語だからと割り切るのですが………
魔族や地球が滅ぶ一歩手前等と言う荒唐無稽なお話のはずのに、内容やその映像は妙に現実感があるのです。
そこまでは、私も感動を持って思わず喜びの声を上げそうになったのですが……
その影で、ルシオラさんは亡くなってしまったのです。
横島さんが魔神と対決する前に受けた致命傷の傷を癒すために、自分の命を使ったのです。
本当に自分の命をなげうって横島さんを助けたのです。
ルシオラさんは、横島さんが魔神を倒すという偉業をやり遂げ無事だと知ると、満足げにあの世に行かれたのですが……
横島さんの嘆き悲しみは言うまでもありません。
私は思わず涙が溢れ、一晩中枕を濡らしてしまいました。
翌日もベッドから出る事が出来ず、お兄様に言い訳をするのに苦労しました。
それでも前に進もうとする物語の中の横島さん……
でも、私はまたしても、物語のその続きを見ることが出来なくなりました。
横島さんのその背中はあまりにも悲しすぎます。