誤字脱字報告ありがとうございます。
深雪編
遂に横島の記憶中編終了です。
全国高校生魔法学論文コンペティションが10月末日に京都で実施され、お兄様は五十里先輩のサポートメンバーとして発表の場に出られました。
先だってからの、周公瑾の件は、お兄様が全国高校生魔法学論文コンペティションのために前日京都入りした際に、十師族で第三高校の同学年の一条将輝さんと共闘し、自決に追い込み、ミッションは達成されました。
11月に入り、学校では大きな行事も無く、四葉からの命令もありません。
お兄様とひさびさに穏やかな日常をすごしております。
そんな中、横島さんのあの映像を見続けておりました。
横島さんとおキヌちゃんは氷室家に戻り安寧に過ごしておりました。
恋人同士ではありましたが別宅で二人暮らし、まるで新婚夫婦のような感じで……。
おキヌちゃんの笑顔が少々羨ましいです。
私も実質、お兄様と二人暮らしの時期がありましたが、横島さんとおキヌちゃんほど初々しく仲睦まじくはありませんでした。お兄様がその、そこまで心を開いてくれないので……いえ、私は飽くまでもお兄様の実の妹だから。
横島さんはおキヌちゃんに術を教えていました。
それは横島さんが古来あった氷室の術式を復活させて、さらに改良し、発展させたものでした。
横島さんは既に神に匹敵する力を得ておりました。
この頃の横島さんは紳士で誰が見ても素敵な男性に見えると思います。現実の横島さんとは大分差異があるようです。
しかし、おキヌちゃんとの幸せな生活の裏では、横島さんは色々と動いておりました。
横島さんは魔界という世界に行き、魔神を討伐しに行ったのです。
その魔神は、おキヌちゃんを攫った組織とつながりがあった魔神です。
横島さんの怒りは凄まじく、千の命を持つという巨大な存在であるはずの魔神を、神でさえ手出しできなかった存在を、人間である横島さんは圧倒的な力で消滅させたのです。
あの横浜で見た横島さんよりも更に凄まじい力を発揮して、もはや何人にも抗えないのではないかという力です。世界を丸ごと消し飛ばす勢いでした。
現実ではこんな事はあり得ないですが、もし、この横島さんが現実だとしたら、世界の魔法師全員集め対峙したとしても、全く歯が立たないでしょう。
しかし、なぜでしょうか。その横島さんの姿を私はどこかで見たような……デジャブーを感じております。
さらに、地上世界では妖怪妖魔と人間の争いが激化していっておりました。
横島さんは仲間と共に、争いを鎮静化させるために、中立の立場で妖怪妖魔や人間の説得に奔走しておりました。
その中に、あのドクター・カオスとマリアさんの姿もありました。
そんな中でも横島さんは、何もなかったかのように必ずおキヌちゃんの元に帰っておりました。
横島さんはおキヌちゃんには決して、魔神との戦いや、妖怪妖魔と人間との争いの説得については話しませんでした。
でも、おキヌちゃんはそれに気が付いており、横島さんに何もしてあげられない自分の無力さに嘆く一面もありました。
横島さんとおキヌちゃんはお互いを気遣い思う心は同じでした。
そのようなお話が続き、12月初旬には、横島さんの中編のお話が遂に最終局面を迎えました。
横島さん達の必死の説得も実らず。
遂には、人間と妖怪妖魔との最終決戦が刻一刻と迫っていたのです。
横島さんや神々の見立てでは、この決戦で人間が負け、滅ぶと予想しておりました。
横島さんはそこである決心をしました。
それは前々から準備はしていたようです。
世界最大の禁忌。
世界分離を……
横島さんは人間の世界と妖怪妖魔の世界と今ある世界を二つに分けるという途方もない術式を編み出したのです。
二つに世界を分ければ、争いは起こらないと……
横島さんは世界各地に文珠を仕込み準備を進めていたのです。
横島さんは世界分離を行う前に、世界の人々の記憶から自分の存在を消しとったのです。
横島忠夫という人物が初めからいなかったかのように。
特に知り合いには入念に直接、文珠を使って消していきます。
そして、一番最初に記憶を消したのはおキヌちゃんでした。
なぜ人々から自分の存在の記憶を消したのかというと……
横島さんは世界分離を成した後……二つの世界が二度と神や悪魔の干渉を受けないように、自らの肉体と魂を使い封印を施そうとしたのです。
要するに横島さんは自らを消滅させようとしたのです。
記憶を消す……要するに横島さんは、自分が最初から存在しなければ、おキヌちゃんは悲しまないと思ったのです。
私は思います。横島さんは愚かです。
そんな事をしてもきっとおキヌちゃんは横島さんを思い出します。
私がお兄様にそんな事をされても、必ず思い出す自信があるからです。
だから、横島さんはおキヌちゃんの為にも何があっても死んではいけないのです。
現実の横島さんもそうですが、女心というものを全く分かっていないです。
そして、遂に横島さんは世界分離の術式を紡ぎ出しました。
先ずは、世界の時間の流れを限りなくゼロに近づかせました。
これは、神の介入を防ぐための物でした。
世界に散りばめた888個の文珠を使い世界を覆う術式を完成させ、世界分離を行っていきます。凄まじい精神力と演算能力で、気の遠くなるほどの術式の数々をコントロールしていきます。
しかし、成功間近に最高神がこの事に気が付き、止めに入ったのです。
横島さんは世界分離を急がせ何とか分離に成功させ、後は自らの命を使い封印を施そうとしたのですが、その寸前に最高神に止められたのです。
横島さんは天界の規定により、世界分離を行った罪に問われ咎人となり。
天界で封印される事に……
そして、人間だけの世界と妖怪妖魔の世界と二つの世界が出来上がり、何もなかったかのように時代は流れて行ったのです。
ここで、中編のお話の映像は終わってます。
これでは横島さん一人が全く救われない話です。
確かに世界は救われました。横島さん一人を犠牲にして……いえ、おキヌちゃんもです。
記憶を消され、永遠に恋人と会えないなんて……
私は心に少々もやもやとしたものが残ります。
確かに英雄譚としては面白かったのかもしれませんが、それが身近な横島さんがモチーフでその主役である横島さんが救われないなんて……悲しすぎます。
お話であるはずなのに、現実の横島さんとは性格が違うはずなのに、なぜか姿が重なって見えてしまいます。
現実の横島さんはあのような振舞をされてますが、本当は優しい方です。
お兄様があんなに信頼されてます。悪い人であるはずがありません。
このお話の横島さんと現実の横島さんの優しさが、重なって見えてしまうのでしょうか?
ここで中編が終了、さらに後編があるという事は、ここからまた、前編のように可笑しくも楽しい日々を過ごす横島さんが見れたらいいのに。
ハッピーエンドを望んでいますが、後編を見るのがちょっと怖い感じがします。
しばらくは、横島さんの映像の後編を見る事に躊躇してしまいました。