月読調の華麗なる日常   作:黄金馬鹿

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いやー、長い事お待たせしました。今年度初投稿です。

今年度から自分も学生という身分から無理矢理蹴り飛ばされて社会人一年生となったわけですが、この生活に慣れるの中々大変で……どれだけ学生の遊びに使える時間が多かった事か。

入った会社は中々いい所で、この調子なら繁忙期以外は普通に定時帰りできそうな雰囲気ですし、頑張れそうではあります。更新頻度もできる限り上げていきたいなーとは思えますし。

というか、寧ろ学生時代のようなクソみたいなやべー生活習慣が改善されて健康面でかなりいい方向に進んでいると言うか……w

あっ、大賞は三次選考落ちしました。畜生。


月読調の華麗なる平行世界の先輩

 今日のクリス先輩は、なんだか変だ。

 何が変って……もう色々と変だ。一から十まで変だ。

 

「どうしたの、月読さん」

 

 まず言葉遣い。クリス先輩は敬語なんて使おうと思って簡単に使える人じゃないし、それ以前にわたしの事を月読さん、なんて呼ばない。オイ、とかお前、とか、アレの片割れとか、頑なに苗字だろうと名前を呼ぼうとはしない。だから、この時点で怪しい。

 姿こそクリス先輩そのままだけど、目付きなんかもあの人は基本的に吊り上がっているというか、ちょっと性格がやんちゃに見える感じの目付きというか、そんな感じだけど今のクリス先輩は垂れ下がっている。まるで可愛さ全振りのお嬢様にしか見えない。

 

「……本当にわたしの知ってるクリス先輩ですか?」

「えっ!? ほ、本物だよ!? 本当に雪音クリスだよ?」

「いや、わたしの知ってるクリス先輩はそんな喋り方しません。もっとガサツで乱暴です」

「が、ガサツで乱暴…………やっぱりこっちのわたしってそんな感じなんだ……」

 

 しかもなんだかしおらしくって若干おどおどしているけど、実はそんな感じじゃなくて。

 ……うん。間違いない。一見すれば調子が悪いクリス先輩に見えない事もないし、今着ている制服も同じだけど、確実にこのクリス先輩はアレだ。

 響さんから軽くだけど話を聞いた、あのクリス先輩。

 

「とりあえず、わたしや他の装者には正体をバラしたらどうですか、平行世界の影護所属のクリス先輩?」

「やっぱりバレた……そりゃそうだよ……」

 

 正体を言い当ててみたら、白状した。

 やっぱりこのクリス先輩はわたし達の世界のSONG所属のクリス先輩じゃなくて、シャロンが居る世界で影護って機関に所属している平行世界のクリス先輩だ。

 響さんからそこのクリス先輩はわたし達の知るクリス先輩と性格が百八十度違うって聞いてたけど、こうやって見ると確かにわたし達の知っているクリス先輩とは性格が百八十度近く違う。いつものクリス先輩はもっとガサツで乱暴だしね。優しい所は勿論あるし、可愛い所も勿論あるよ? でもそこには少なくともギャップがある訳で……

 

「で、どうして平行世界のクリス先輩がここに居るんですか?」

「そこら辺はこう、深い事情が……ある訳じゃないけど、けどあんまり軽く説明できない理由があって……とりあえずほわんほわん雪音~って感じで回想に行くね?」

 

 ほわんほわん……? どういうことですかソレ。

 

「ノリ、かな? ちゃんと説明するから」

 

 はぁ……そうですか……?

 

 

****

 

 

 わたしこと雪音クリスと影護所属でわたしの仲間の翼は、とある日に影護の任務とはまた別に、プライベートな時間を使って変装をして街中に繰り出していた。

 本当にプライベートでお出かけしただけだから、影護であることを意識したりはしていないんだけど、それでも職業柄どうしても人込みの中に繰り出すのは結構勇気がいるんだけど、何かあった時のために影護の人が近くに居るし、わたし達のバイタルとかに何か問題があれば即座に回収される手筈になってるから問題ない。

 もっとも、そうなる前にシンフォギアを纏うけどね。

 

「いやー、やっぱこうやって外に堂々と出るのは気持ちがいいよな、クリス!」

「うん、翼。にしても、本当にいいのかな……あっちの世界のわたし達の格好で外を出歩くなんて……」

「あっちの世界のオレ達がこの格好でブラついても特に問題なかったから大丈夫だろ! 精々オレ達のそっくりさん程度に終わるって」

「そうかなぁ……」

 

 でも、わたし達ってどうやってもギアを纏うと顔を出しちゃうから、わたし達の顔を知っている人ってそこそこ居るんだよね。だから、プライベートの時も細心の注意を……って感じなんだけど、平行世界のわたし達は変装なんてせずとも外に出て普通に過ごしていたらしいって話を聞いて、なら平行世界のわたし達の格好をして外に出たら安心なんじゃないかって。

 そう言う事で、わたしはあっちの世界のわたしが着ていた服と似たものを何とか購入して、翼もあっちの翼が着ていた服を購入して、髪型もあっちのわたし達に似せてから外をぶらついている。

 翼は髪を短くしているから、あっちの翼の真似を完全にできているわけじゃないけど、わたしの方は二つ結びにするだけだったから結構簡単にできた。できたけど、あっちのわたしとはちょっと服のセンスが違うせいで若干落ち着かない……

 もうちょっと大人しい感じというか、ゆるーい感じの服が好きなんだけどなぁ……

 

「おっ、あっちで新作のヘッドフォンが! 行くぞクリス!」

「ちょっと、翼!?」

 

 って感じに思いながら翼とデート中なんだけど、翼が新しいヘッドフォンが売ってるのを見て駆けだしちゃった。

 それを放っておくわけにもいかないし、わたしも翼について行った……訳なんだけど。

 

「クリスちゃん! あっちに美味しそうなお店が!」

「おい引っ張んじゃねぇ! 危ないだろうが!!」

 

 丁度思いっきり駆けだしたわたしの前に、なんかどこかで見たことがある顔が出てきて。

 

『あっ』

 

 どうも、なんて言おうと思った時にはすでに遅し。わたしとどこかで見たことある顔こと、どうして何もないのにこの世界に居るのか分からない平行世界のわたしとエンゲージと同時にごっつんこ。そのままわたしは頭が痛むのを感じながら倒れたんだけど……

 目が覚めると、わたしは。

 

「あっ、目が覚めた! 大丈夫、クリスちゃん。思いっきり誰かと頭を打ち合わせてたけど……」

 

 なんかガングニールの人に介抱されていた。

 

「えっ…………あの、大丈夫、だけど……」

「ほんと!? よかったぁ、クリスちゃんに何かあったらって思うと気が気じゃなくって……」

 

 心配してくれるのはありがたかったけど、その前に周囲を見渡すと、平行世界のわたしらしき人物と翼はどこにも居ない。この人は誰かと好きに敵対する人じゃないから一応信用はできるけど、でも翼が居ないのは不安。

 という事で、早々に自分の事を明かした。

 わたしは影護のわたしで、そっちの雪音クリスじゃないって。そう言うと、ガングニールの人はなんか急に顔を青くした。

 

「……そ、そー言えば、なんかどこかで見たことある人が誰かを背負ってどこかに走っていったような……」

 

 それ間違いなく翼と平行世界のわたしだね。

 なんか取り返しのつかない事になってるー、なんて思いながらガングニールの人を、わたしも丁度そっちのわたしの変装をしていたから仕方ないよ、なんて言って慰めていると、懐の通信機が震えた。名前を口にしながら出てみれば、どうやら通信をかけてきたのは翼みたいだった。

 

『クリスか! お前今どこだ!?』

「さっき翼がわたしを置いてヘッドフォン売り場に走っていった場所のすぐそばだけど」

『やっぱりか! 実はなんだけどな……』

『おいここどこだよ!? なんでアタシ気が付いたら他所様の潜水艦にお邪魔してるんだ!? アタシここから外に出れるんだよな!?』

『それに関しては暫く浮上する予定はないから何とも……』

『はぁぁ!!? ざっけんじゃねぇぞ!!』

 

 あっ、ふーん。

 

「……翼、十年近い付き合いのわたしと平行世界のわたしを間違えて連れて帰っちゃったんだ」

『うっ……だ、だって服装も髪型も同じだったし、オレもクリスが怪我したって思ったら焦って……ごめん』

 

 やだ、しおらしい翼可愛い。きゅんって来たから許しちゃう。

 でも、わたしが許したところで事態は好転しない。現に平行世界のわたしは現在進行形で影護の本部である潜水艦にお邪魔しちゃってるみたいだし、わたしもガングニールの人があわあわしているのをチョークスリーパーで何とか落ち着かせている状態だし。なんか思いっきり腕叩かれてるけど、なんでだろ。

 

『クリスさん、聞こえますか? 九皐です』

「九皐さん。この状況、どうしましょう?」

『既に本部は太平洋沖へ向けて出港していまして、少なくとも陸に戻れるのは一週間以上は先の見通しなんです』

「あらま」

『あらまってお前軽いな!? こちとら一週間以上潜水艦生活スタートさせられかけてんだぞ!?』

「そう言われても、どうしようもないし……」

『うっ……そりゃそうだが……』

『という事で、クリスさん。あなたは一度二課の方へと向かってください。こちらから話は既に通しておきましたから、暫くは影護ではなくSONGの雪音クリスとして身分を偽ってください』

「それはいいですけど……」

『それと、こちらとしてもSONGとはあまり深く接触していませんでしたからね。いつか接触しなければとは思っていたので、そのまま許されるのなら平行世界へと向かって菓子折りの一つと挨拶の一つをお願いします』

「分かりました」

『いいのかよ!? そんな軽くていいのかよ!? いや、こっちは多分来る物拒まずだろうけどさ!』

『その前にクリス! オレを置いて平行世界なんて遠い場所に行く気かよ!!?』

「わたしを間違って置いて行った翼の事なんて、もう知らないっ」

『がっ!!? あ、ぁ、ぁぁぁ…………』

『おいどうした平行世界のセンパイ!? 真っ白になってんぞ!? なんか体崩れかけてるけど大丈夫か!!?』

 

 許したとは言ったけど、気にしていないとは言っていないからね?

 という事で、わたしはチョークで締め落としちゃったガングニールの人を叩き起こしてから事情を話して二課に一度顔を見せてからそう言う事があったからちょっと独自で動きますね、とだけ言っておいて、適当な菓子折りを買ってガングニールの人と一緒に平行世界に向かったのでした。

 で、平行世界についたわたしは早速SONGの司令……つまりは師匠と出会って。

 

「お、おい、なんか初対面で泣き付かれたんだが……俺はここからどうしたらいいんだ……?」

「ここは大人しくされるがまま、というのが一番でしょう。そちらの雪音の事は、私も知らぬ存ぜぬで一杯、というわけではありませんので」

 

 平行世界の同一人物だけど、まさか師匠と会えるなんて思っても居なかったから、ついつい泣いちゃって、そのまま抱き着いてしまった。あっちからしたら初対面の女の子が急に泣いて抱き着いてくる、なんて意味わからない状況だったんだろうけど、それでもちょっとうろたえただけで受け入れてくれた平行世界の師匠には感謝しかない。

 で、結構長い事泣いていたわたしがようやく落ち着いて、師匠に事のあらましを伝えて入れ替わっちゃったことを納得してもらってから、ついでに菓子折りを渡して簡単な挨拶を終えたんだけど。

 

「で、だ。これから君はどうする気だ?」

「どうするも何も……戻って野宿か二課の中で適当な部屋で寝泊まりするとしか……」

「それはいかんな、雪音。そうだ、この際だからこういう時でなければやれない事をやる、というのはどうだ?」

「こういう時じゃないとできない事?」

「例えば、そうだな……こっちの雪音と入れ替わって生活してみる、なんてどうだろうか?」

 

 その時はそんなご冗談を、と笑ったんだけど、なんか気が付いたらその方向で話が固まっていて、気が付いたら何故かSONG本部の中に置いてあった学校の制服を貸し出されて、なんか気が付いたらSONGの中で一週間ほど寝泊まりする事が決まって、なんか気が付いたらあまりわたしの素性がばれないように気を付けてって言われて、気が付いたら本部から送り出されてこうやって学校に……

 と、言うのが、今日こうやって月読さんと出会うまでの回想。

 納得できた?

 

「とりあえず、こちらのお馬鹿さんとそちらのお馬鹿さんによる奇跡的なニアミスによって起こったよく分からない奇跡という事だけは納得できました」

 

 つまりはそう言う事。

 

 

****

 

 

 どうしてクリス先輩が平行世界のクリス先輩と入れ替わっているのかは納得できた。というか、そう言われるとあぁそうですか、としか言えないし、話を聞いた後に翼さんに連絡を取ってみたら笑いながらビックリしただろう? なんて言われたからせめて装者には教えておいてよ……と溜め息を吐いた。

 で、横にはお昼休みの今、のほほんとお昼ご飯を食べている平行世界のクリス先輩……えっと、これだと長いし呼びにくいし、どうしよう……まぁ、ヘイクリ先輩でいいかな。もしくはアナクリ先輩。で、そんな風にのほほんとしているアナクリ先輩の後ろから、クリス先輩の同級生らしい人達が影に隠れてコソコソと見ている。どうやら、朝一番から雰囲気が違うクリス先輩を不審に思っているらしい。

 

「こっちのわたしって、こんな風に誰かから見られながら毎日過ごしてるの?」

「いや、土日挟んだら人格変わってたら誰だって不審に思いますって」

「確かに言われてみると……でもわたし、そんなに演技できないし……」

「キレると怖いって聞きましたけど」

「そ、そんな、わたし、あんまり怒った事ないから」

「響さんを素手で締め落としたって聞きましたけど」

「人一人締め落とすなんて簡単でしょ? こう、キュって」

 

 そのキュッ、で響さんみたいな人を締め落とせる人なんてこの世界ではごく少数だと思うんですけど……

 そう言えばこのクリス先輩は平行世界の弦十郎さんに長年師事してもらったから体術も相当できるんだっけ。そう思えば響さんをキュッって落とすのも可能……なのかもしれない。わたしはこのクリス先輩と手合わせなんてしたことないから、アナクリ先輩がどれだけ強いのかは分からないしね。

 でも平行世界の装者ってもれなく全員なんかわたし達数人分位は戦える気がするし、わたしよりも遥かに強いかもね。

 

「やっぱり無理があったと思う。こうやって平行世界のわたしに変装して学生生活なんて……」

「まぁ、確かにそうかもしれませんけど……楽しくなかったり苦痛だったら、早退しても大丈夫なんですよ? そこら辺はSONGが帳尻合わせるでしょうし」

 

 リディアンは未だに元二課であるSONGの息がちょっとかかってるからね。アナクリ先輩が早退した程度なら簡単に帳尻合わせて二人に迷惑が掛からないようにする事は容易いとは思うけど。

 でも、アナクリ先輩はその言葉を聞いても頷かない。

 理由は分かるけどね?

 

「……普通の生活、楽しいですか?」

「……うん。影護の生活も楽しいけど、やっぱり普通の女の子の生活もいいなって」

 

 わたしもアナクリ先輩側だったから、その気持ちはよく分かる。というか、装者の内半分は今のアナクリ先輩の気持ちはわかると思う。

 ダルイ、メンドクサイなんて言いながらもやっぱりこういう戦いが無い普通の日常って言うのはとても貴重で、とても暖かくて、とても楽しいのはわたし達みたいな裏で生きてきた人間が一番知っている。だから、一時的とは言え手にする事ができた普通を自ら手放すのは、したくないんだと思う。

 

「まぁ、後の事はこっちのクリス先輩に任せて楽しんだらどうですか? あの人、なんやかんやで面倒見いいですし、察して口裏合わせるくらいの事はしてくれますよ」

「こっちから問題を起こしておいて後始末まで任せるのは申し訳ない気が……」

「自分に気を使ってもいい事なんて起きませんよ?」

「自分という名の限りなく他人に近い存在だと思うんだけど」

 

 それは否定しません。

 

「じゃあ、そろそろ時間なのでわたしは戻りますね。また後で合流しますか?」

「そっちが大丈夫なら、それで。一人だとちょっと不安だから」

「分かりました。全く、弦十郎さんも翼さんも、せめて一言位話してくれてれば……」

 

 あの叔父と姪コンビの悪戯大成功、と言わんばかりの笑顔を思い浮かべて若干イラッとしたけど、したところで仕方がないので普通にわたしはアナクリ先輩と別れて教室に戻りました。

 えっ? 切ちゃんはどうしたのかって? 今日は切ちゃん、翼さんと一緒に定期検診中だからお休みだよ。なんか今日ある小テストを回避できて喜んでたけど……次の授業で一人だけやらされるの分かってそう言ってたのかな。ちなみにわたしは半分も解けませんでした。ヤマが外れたのが悪い。

 

 

****

 

 

 帰りにアナクリ先輩を拾ったわたしは響さん、未来さんも誘ってどこかに行こうと思ったけど、二人とも弓美さん達とどこかへ行っちゃったから、仕方なく二人で街中をぶらぶら。

 

「アナクリ先輩、どこか行きたい場所ありますか?」

「あ、アナクリってわたし……?」

「アナザークリス先輩という事で。で、どうですか?」

「行きたい場所、かぁ……特にないかな。わたし、いつも翼に引っ張られてたし、翼と一緒ならどこでも満足だったから」

 

 ……なんだろう、このアナクリ先輩から微妙に感じる響さんと未来さんみたいな雰囲気。

 いや、アナクリ先輩は平行世界の翼さん……もうアナつばさんでいいや。アナつばさんとずっと一緒でわたし達ザババコンビみたいな感じだからと思えば納得はいくけど。

 わたしと切ちゃんはあの二人みたいにガチじゃないけどね? 普通の親友だけどね?

 

「うーん……それなら、あそこ行きますか? 装者ならほぼ例外なく大好きな場所」

「そんな場所あるの?」

「はい。多分、アナクリ先輩も気に入りますよ」

 

 という事で、ちょっと歩いて到着したのは学生の暇潰しに味方にしてわたし達装者が十割近く好きであろう施設。

 

「装者が例外なく好きな場所って、カラオケだったんだ……」

 

 そう、カラオケ。

 装者は全員大なり小なり歌が好きっていうのが共通しているから、カラオケに来たら基本的にテンション上がるし楽しめるんだよね。わたしも切ちゃんも例外じゃないし、他の装者も、果てにはプロをやってるマリアや翼さんもカラオケは大好きだからね。

 という事で。

 

「さ、どうぞ。何か歌っちゃってください」

「何かって……わたし、こっちの世界の歌、あんまり知らないんだけど……」

「基本的には大体同じだと思いますよ? 装者が歌手をやってたりするとその曲があったりなかったりって程度で」

「あっ、ホントだ。知ってる曲名もちらほらある」

 

 これは結構平行世界に遊びに行く響さんが実証済みだし、わたしもセレナと一緒にカラオケに来たときにセレナが普通に曲を入れて歌ってたから知っている。基本的に平行世界って装者が居るか居ないかとかの違いしかないから、こういう裏が関わらない部分っていうのはあんまり変わらない事が多いんだよね。

 で、アナクリ先輩が入れたのは……?

 

「君の肩に悲しみぃがぁ……雪のように積もる夜にはぁ。心の底から誰かをぉ。愛する事ができぃるはずぅ。孤独で、君の空っぽの、そのグラスを満たさないでぇ。誰もがぁぁぁ、泣いてるぅ」

 

 えっ、渋っ!!?

 

「構成員の人が歌ってるのを聞いて気になっちゃって、ついついそのまま」

 

 な、なるほど。しっかし、渋い所行ってるなぁ……

 

「誰もがあぁぁぁぁ、うぉぉおおぉぉおぅ、愛するぅ。人の前を、気づかずにぃ、通り過ぎてゆくぅ」

 

 まさかの選曲に驚いたけどわたしも時々そうやって凄い昔の曲を知るとき、普通にあるから何とも言えないや。弦十郎さんとか藤尭さんが歌ってるのを聞いてついつい、とかあるし。

 じゃあわたしは何となくビビッと来たこの曲で。

 

「放て! 心に刻んだ夢を、未来さえ置き去りにして! 限界など知らない、意味ない、この力が! 光り散らすその先に遥かな想いを!」

「うわっ、すごい。なんか……なんて言うんだろう。違和感がないと言うか」

 

 それは多分これを歌ってる人の声色にわたしが似せているからか、アナクリ先輩が原曲を知らないからのどっちかだと思う。多分後者? これ弓美さんが口ずさんでいたアニソンを調べて聞いてみたらちょっとハマったやつだし。

 ちょっと振り付けしつつビシッと歌いきりました。

 で、次はクリス先輩の版。えっと、入ってる曲は……うわっ、これも懐かしい。

 

「大都会にぃ、僕はもう一人で。投げ捨てられた、空き缶のようだぁ。互いの全てを、知り尽くすまでがぁ。愛ならばいっそ永久に眠ろうか……! 世界が終わるまでは!! 離れる事もない!!」

「なんでアナクリ先輩はそんなに懐メロばっかり……」

「実はあの潜水艦の中って案外最近のトレンド曲とか聞く機会がなくって……自然と持ち歌が昔の曲に」

 

 あー、そういう裏事情が。でも、それ、よく分かります。

 わたしもF.I.S時代は、研究所に居る時は研究員の人が教えてくれた歌くらいしか知らなかったし、そこから飛び出したフィーネ時代も知っている曲と言えばマリアの曲か、不服だけどウェル博士が上機嫌になると口ずさんでた曲くらいで。

 本格的に歌を聞きだしたのって、リディアンに入学してからだからね。

 だからアナクリ先輩がこんな風に昔の歌しか歌えない理由も、よく分かる。だとすると……

 

「あとはあっちの翼さんの曲を歌える程度ですか?」

「え? 翼の歌……? 翼、特に曲を作ったりとかはしてないけど……」

 

 あれ? そうすると後は身内の歌くらいしか聞かないんじゃって思ってたけど……あっ、もしかして。

 

「そっちの翼さんは歌手としてデビューしてないんですか?」

「してないよ。わたし達は裏の人間なんだから、そんな風に表に出るなんてできっこないよ」

「なるほど……」

 

 言われてみると納得した。

 マリアの場合は、国土割譲の要求だとか、フィーネの事を知らせるだとか、色んな要因が重なって歌手デビューに至ったけど、それが必要なかったらわたし達みたいに裏でコソコソが基本だっただろうからね。こっちの翼さんみたいに、歌手デビューしないといけない理由が無いんならしないよね。

 

「その口ぶりだと、もしかしてこっちの翼は歌手デビューを?」

「してますよ。しかも、国民的です」

「す、凄い……やっぱり平行世界でも翼は凄いや」

 

 その証拠にとちょっと歌うのを止めて自動的に流れてくる映像だとかを見てみれば、そこには新曲の公開&配信の挨拶をする翼さんが。それを見てアナクリ先輩は思わずといった感じで声を出している。

 それなら、この後は翼さんのCDが売ってるところに連れて行くのもいいかもしれない。平行世界に来るなんて経験、滅多にできないからね。

 じゃあ、その前にここはわたしが翼さんの曲を……

 

「あれ? 月読さん、携帯鳴ってるよ?」

 

 と思って端末を操作していたら、わたしの携帯が震えてた。

 誰からだろう? えっと…………本部から?

 本部からこうやって急に連絡が来るって事は、明らかに緊急事態!

 

「はい、もしもし」

『調くんか。すまないが、そこから少し離れた場所でアルカノイズが出現した。原因の錬金術師は現在は本部内に居た切歌くんと翼が追跡中だが、アルカノイズの方にまで手が回りそうにない。大至急、排除を頼めないか?』

「大丈夫です、すぐに向かいます。響さんや未来さんは?」

『二人にも既に連絡済みだ。現地で合流する事になるだろう』

「分かりました。じゃあ、すぐに向かいます」

 

 やっぱりここ最近、こういう突発的な錬金術師による襲撃がちょっと問題。

 相手側はソロだから止めることができないのが本当になぁ……でも、やられたからには対処しなきゃいけないのがわたし達装者の使命。すぐに外に出るために携帯を仕舞ってアナクリ先輩の方を見ると、アナクリ先輩はいつの間にか自分の荷物をちゃっかりと纏めて外に出ようとしていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「ノイズが出たって、ちょっと聞こえたから。ノイズが出たんなら、わたし達の出番でしょ?」

 

 どうやら、通話がちょっと聞こえてたみたい。

 もしかしたらノイズって単語にのみ敏感なのかもしれないけど。でも、間違ってはいないからそれに頷いて、わたしもとっとと荷物を纏めて立つ。多分、こういう時は待っててというよりも一緒に行った方がいざこざも少なくなるし、本人も満足するからね。

 もう一度軽く通話してアナクリ先輩も一緒に行く事を伝えると、本部からは本人がそれでいいんなら頼みたいと了承を貰った。ここら辺柔軟なのが本当にSONGの良い所だよね。

 という事でお金を払って外に出て、アルカノイズが出た方向へと走ればそこには逃げ惑う人とアルカノイズが。

 

「行きますよ、アナクリ先輩」

「うん。わたしは後ろから援護するから」

「じゃあわたしが前で相手の気を引きます」

 

 アナクリ先輩と軽い作戦会議を数秒で終わらせてから、ギアを手に握る。

 

「various shul shagana tron」

「killter ichaival tron」

 

 ギアがカッと光って纏わりついてパンパンパンと弾けて変身完了。

 よし、行こう!

 

「綺羅綺羅の刃で、半分コの廃棄物(ガーベッジ)! 予習したの、殺戮方法ッ!」

 

 とうっ、と飛び出してヨーヨーを投げ飛ばし、百輪廻をばら撒いてから着地してアルカノイズの中心でなるべく近づけないように回転しつつヨーヨーをぶん回しながら戦っていると、後ろからはガトリングじゃなくてビームによる狙撃弾の援護がやってくる。

 なるほど、これがクリス先輩とアナクリ先輩の基本的な立ち回りの違い。クリス先輩は狙い撃つんじゃなくてばら撒いて牽制するのが基本的な立ち回りだけど、アナクリ先輩はばら撒くんじゃなくて一撃必中で相手を倒すのが基本的な立ち回り。多分、前衛を完全に信じ切る事でできる立ち回り。

 だったら、その期待に沿う動きをしないと!

 

「開放!!」

「全開!!」

『イっちゃえ! ハートの全部でぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 とか思ってたらなんか目の前のノイズが八割程消し飛びました。

 あーこれはいつもの夫婦のお二方ですね。火力とさっきの声で分かります。

 

「調ちゃん、お待たせ!」

「加勢するよ!」

 

 現在進行形で歌っているので頷いて、わたしはヨーヨーを両手にちょっと下がりながら攻撃後の後隙か何かを見つけたのか分からないけど迫ってきていたアルカノイズを撃退する。

 

「Let's sing……重なる、歌が。どんな高い壁も、伐り刻んで未来を創る」

 

 こういう時、会話に混ざれないのってちょっと寂しいよね。

 

「あの……なんか、他の方でも戦いが起こってるみたいだけど、そっちは?」

「あっちはあっちでマリアさんが行ってるみたいだし、三人もいれば大丈夫って言ってたから、こっちの被害をこれ以上広げないようにしてくれって!」

「なるほど……信頼、してるんだね」

「そりゃあ勿論! あっ、クリスちゃんの事も勿論信頼してるからね! じゃあ、四人でやろうか!」

 

 という事で、アルカノイズに四人も装者が戦闘を挑めばどうなるかなんて、言う必要もないと思う。

 十分ちょっと全滅しなかっただけ、褒めてあげるべきじゃないかな。褒めた所で喜ぶような存在じゃないけどね、アルカノイズなんて。わたしも歌を歌い終わっちゃって普通に戦ってたし。

 で、アルカノイズの駆除を終わらせたわたし達は武器を収めて本部からの指示を待つ。あっちが戦闘終了ならそのまま解散なんだけど、そうじゃなかったら援護に行かなきゃだめだしね。

 

「さて、次のお仕事は……」

「否……されども嘆きすら、断罪の力に変え!」

 

 と思ってヘッドセットからの師事を聞こうとした途端、遠くの方から歌が聞こえてきた。

 この歌は……翼さんだ。っていう事は。

 

『四人とも、どうやら三人がちょこまかと逃げ回る錬金術師相手に苦戦しているようだ。近くまで戦闘がもつれこんでいるため、至急援護に向かって確保を急いでほしい』

「了解です、師匠! じゃあ、みんなで行こっか!」

「死惨血河の幾許を、築き敗れれば! 命の火を外道から、護る事があああああああ!!」

「……ねぇ、こっちの翼ってあんな物騒な歌を毎回歌ってるの……?」

「え? まぁ、アレが普通じゃないですか? わたし達の歌が物騒なのって今さらというか、響さん以外は基本物騒か電波ですし」

「えぇ……」

「剣よ、道を斬り拓け!! 剣よおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 うわぁ、青い炎が空まで……今日の翼さん、気合入ってるなぁ。

 

 

****

 

 

 どうやらあの日の翼さんは今までずっと欲しかった激レアで高価な売り切れている状態が通常のバイクパーツを奇襲によって壊されたらしくて、相当キレてたらしい。民間人に被害は出なかったし、強いて言うなら錬金術師を捕らえた後、思いっきりお尻に向かって剣を突き刺してマスターソード引き抜きごっこをしようとしていたのをマリアが羽交い絞めして止めたくらいで。

 で、その後は特に何事も無く、強いて言うならアナクリ先輩がみんなと一言二言挨拶して、暫くは厄介になります程度のコトを言った位かな? その日はすぐに別れたし、その後は響さんとかマリアとか翼さんとかと一緒に出掛けたらしいけど、詳しい事はよく分からない。

 けど、アナクリ先輩は帰る時、結構いい笑顔で帰っていったのは確かだよ。翼さんのCDを大量に持ってね。

 で、戻ってきたわたし達のクリス先輩はだけど……

 

「……なんつーか、アレだな。人って、無限の可能性があるんだな」

 

 どうやら、アナつばさんがこっちの翼さんとはかなり違っていた事に驚いて、人には無限の可能性がある事を改めて思い知ったとか。

 

「でもやっぱあのセンパイの方が安心するわ。なんつーか……実家のような安心感と言うか」

「実家なのは間違ってませんよね。自分の世界(実家)

「流石に広義すぎんだろそれ。間違ってねぇけどさ」

 

 ちなみに戻ってきたクリス先輩は、真っ先に甘いものを食べに行きました。

 潜水艦の中、娯楽もお菓子も少なくてちょっと辛かったんだって。まぁ、仕方ないよね。

 

 

****

 

 

「ほらほら翼! あっちの翼のCDだよ! 一緒に聞こうよ!」

「や、やめろクリス! なんかこう、自分の声で知らない歌を歌われるとなんか知らないが気色悪いんだ!! やめろ、そのイヤホンをこっちに近づけるな!!」

「じゃあこの歌を覚えて歌ってほしいな!」

「ぐ、ぬっ……! ごめん無理!!」

「あっ、翼ぁ!」




今回はリハビリがてらIFクリスちゃんの話を書きました。旬に乗り遅れた気がしないでもないですが、気にしない気にしない。また笑ってはいけないみたいなオールスター系をやる時は影護の事とか一切考えずに参加させるかもね。

で、更新していない間卒業旅行に行ったり実家帰ったりコロナ死滅しろって思いっきりボヤいたり初任給でまず予約する物を調ちゃんのえちえちコスのタペストリーに決めたりとか色々とありましたが……

シンフォギアライブ2020!! チケット当選しました!!

AXZの頃、当たりませんでしたと嘆いていた自分ですが、今回は無事当選しました!! 一枚だけ一席だけ応募したんですが、見事バチコリと当選!! ラストのライブを現地で見れるという幸運を授かる事ができました!!

もしかしたらラストじゃないかもしれませんし、OVAとか劇場版とか色々と展開するかもしれませんが、それでも区切りになる事は間違いありません。そのライブに参加できることがもう嬉しくて嬉しくて……当選を見た瞬間思いっきり叫びました。近所迷惑になりました。ごめんなさい。もう年甲斐も無くあんなに叫びません。でも一回だけだから許して。

という事で今回の怪文書もここまで。次回はなるべく早くに更新したいと思っています。
もしかしたら次回はメンインブラック3のパロみたいなものになるカモ。最近MIBを3まで一気見したので……

使用楽曲コード:02035391,02599660,50048015,72923741,72988126

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