月読調の華麗なる日常   作:黄金馬鹿

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ちょっと長くなりそうだったので前後編になります。

今回は幼児退行、記憶喪失、人格七変化時空の調ちゃんです。という事は……?


月読調の華麗なる入れ替わり・前

 あの日……頭を打ってから幼児退行したり記憶喪失になったり人格がコロコロ変わるようになったりして以来、皆のわたしに対しての扱いが慎重そのものになった。というか特にクリス先輩、切ちゃん、エルフナインの三人が慎重になった。

 うん、いっつもあの三人が苦労するか入院するかだからね……そりゃ慎重になるよね。変にまた頭を打って幼児退行、記憶喪失、人格迷子のどれかがまた起こったら絶対にあの三人が苦労するわけだし。

 そういう訳で皆がわたしに対して慎重になった。響さんとか翼さんはそこまでしなくても、と言っていたけど切ちゃんとエルフナインの切れ痔になりたいかって言葉とクリス先輩のXDモードを相手にしたいかって言葉を受けてそっと心を入れ替えた。入れ替えてほしくなかった。そこまで慎重にならなくてもわたしは大丈夫なのに……

 

「おい、階段ですっ転ぶなよ」

「分かってますって……」

 

 そして今日はクリス先輩と買い物……の筈だったんだけど。わたし、何だか介護されている老人みたいな扱い受けています。階段を上ったり下りたりする度にクリス先輩が下で待機してわたしは前を歩かされる。そして誰かが来たらクリス先輩がガッチリ手を掴んでわたしに万が一が無いようにする。

 確かにクリス先輩はわたしが頭を打った三回の事件の中、内二回でXDモードのマリアを相手にして入院してるし慎重になるのも仕方ないことには仕方ないんだけど……どうにも違和感が凄い。

 そりゃわたし自身迷惑かけたって自覚もあるから何とも言えないけど……ここまで慎重でそわそわしているクリス先輩を見るのは何というか……もう三回も同じようなことが起こってるから、わたしの頭はそこまでポンコツじゃない。って言ったところで信じられないだろうし、わたし自身信じられない。もしまた魔法少女事変とかが起こったらわたしは元の人格を保ったままハッピーエンドを迎えられるのか不安になってきた。

 まぁそんなこんなありまして。わたしとクリス先輩は結構慎重にだけど、買い物を終わらせた。買いに来たのは服。クリス先輩ってここら辺のセンスはかなり良いから時々頼んでるんだよね。クリス先輩も笑顔だから、こういうのは満更じゃ無いみたいだし。装者の中で一番女の子してるのってクリス先輩なのでは? と思う事も結構ある。

 

「クリス先輩、今日はありがとうございました」

「ん? アタシだって楽しかったし別に礼を言われる程じゃねぇよ」

 

 そして帰りに適当なカフェでお昼を食べる事に。

 午後からはちょっと家で家事をしなきゃだったから朝早めにクリス先輩に付き合ってもらったんだ。そういう訳で今はお昼ご飯を食べるにはちょっと遅いかな? 程度の時間帯。まだカフェにも人はそれなりに入っている。

 パスタを何時もの如く食べるクリス先輩の口を時々拭きながらわたしも自分で頼んだパスタを食べる。うん、美味しい。

 クリス先輩もこれが無かったら……いや、これも魅力の一つなのかな? なんやかんやで美味しく食べているように見えるし……どうなんだろう? 男の人の目線にはなれないからよく分からないかな。

 

「また時間がある時にお出かけしましょうね」

「そうだな。何やかんやでアタシも金がそこそこあるからな……なんやかんやで」

 

 そのなんやかんやって言うのは……まぁ、アレだよ。大怪我したからSONGの方から出された手当と言うか。何だか申し訳ないお金です、はい。

 それに、装者やってると特別手当とか沢山出るからお金、結構持ってるんだよね。アルバイトしなくても趣味に十分過ぎる程使えて、尚且つ一人暮らしが容易に出来る位には。多分、わたし達装者は将来SONGの職員だし、そうするとSONG職員としてのお給料も入るから……

 うん、老後も安心だね。

 

「ふぅ、食った食った」

「口汚れてますよ~」

「おわっぷ」

 

 なんやかんやでこうやって口元を拭かれているクリス先輩可愛い。こういうのが男の人は好きなのかな?

 身長なんてわたしと殆ど変わらないのに、胸はわたしよりも遥かに大きくて、しかも童顔だし……羨ましい。

 

「おい、何でアタシの胸をガン見してんだよ」

「もげないかなと」

「いきなり何つー事言い出すんだお前」

「それかわたしに移植してくれないかなと」

「エルフナインに頼め。エルフナインの胸と交換してもらえ」

「それじゃあ何も変わらないじゃないですか!」

「お前サラッと失礼だよな」

 

 だってエルフナインもわたしと余り変わらないし……本人は元々性別が無かったからまったく気にしていないみたいだし、もしも成長したらあの時のキャロルみたいになる事は確定しているだろうし……どっちにしろエルフナインは敵。っていうか、胸の移植は錬金術師でも出来ないと思うの。

 わたしは去年のクリス先輩達と敵対してから一切大きくならない……っていうか微塵も変わらない自分の体を見下ろして溜め息を吐く。切ちゃんなんて翼さんとサイズは同じなのに身長とか体格とか諸々で十分に大きいのに何でわたしは……

 栄養失調を理由にしたいけどマリアと切ちゃんが育っている以上なんとも……はぁ……

 

「んじゃ、会計済ませちまうか」

 

 わたしが自分の体を見下ろして溜め息を吐いているとクリス先輩が伝票片手に立ち上がった。

 それを見てからわたしも立ち上がろうとしたけど。

 

「お、おぉ!?」

 

 クリス先輩がいきなりバランスを崩した。どうやら立ち上がった時に足が何処かに引っかかったみたい。けど、わたしは顔を上げたばかりで、こちらに倒れこんでくるクリス先輩に反応ができなかった。

 迫ってくるクリス先輩の顔。あ、ちょっと拭き残しがある。なんて妙にスローになった視界の中でわたしは今まで見たことのないクリス先輩の焦り顔を見ながら額への衝撃を感じた。

 

『あだぁ!!?』

 

 …………

 ………………

 ……………………はっ!?

 き、気絶してた……!? まさかクリス先輩から事故とはいえ頭突きをくらうとは……思いっきり頭突きされたからか額が物凄く痛い。っていうか体が重い。

 わたしは前のめりに倒れている自分の体を起こした。

 ……うん?

 前のめりに?

 可笑しいな。わたしってまだ立ち上がってなかったよね? 普通に座ってたところにクリス先輩がヘッドバッドしてきたんだよね? なのにどうして前のめりに倒れていたのかな。というか何だか体……というか胸が重い。

 

「いっつつ……」

「いってぇ……事故ったぁ……」

 

 ……ん? 何かわたしの声可笑しくない? っていうかクリス先輩の声も可笑しくない?

 何だかクリス先輩の方は……低い、のかな? 対してわたしの方は高いというか……何だろう。何処かで聞いたことがあるような無いような。そんな感じの声に聞こえる。っていうか胸が重い。何で。ストーンな体なのになんで重いの。

 

「おい、大丈夫……は?」

 

 わたしが額に手を当てて痛みが引くのを待っているとクリス先輩の声色が変わった。

 疑問を孕んだかのような、見てはいけない物を見たかのような……そんな感じの声。わたしはその声を聞いてようやく引いてきた額の痛みを我慢しながらそっとクリス先輩の方を見た。

 

「大丈夫です……えっ?」

 

 わたしも同じような声を漏らした。

 そっと椅子に座りなおしてから、わたしは持っていた伝票を置きながら改めて対面のクリス先輩を確認する。

 黒い髪の毛をツインテールにした、赤い目の女の子。体型は可哀想ともスレンダーとも言える感じでよく知っている……というか毎日見ている顔と体。対してわたしの方は銀色の髪を二つに纏めて、目の色は分からないけど胸は……わーお、ダイナミック。

 これ何センチあるんだっけ? 凄い、自分の足元すら見えないんじゃないかなこれ。あ、しかも柔らかい。

 けど、これで大体分かった。

 つまり、つまりだ。今までの事がなければ笑い飛ばしていたかもだけど、今のわたしなら……様々なギャグ漫画でしか見たことがないような症状を己で起こしてきたわたしなら分かる。

 

「……なぁ、もしかして」

「わたし達」

『入れ替わってる……?』

 

 つまるところ、君○名は状態。

 勘弁してよ……また切ちゃんが切れ痔になるよ……

 

 

****

 

 

「それでどうしようも無くなったからボクの所に来たと」

 

 それから一時間位後。

 わたしとクリス先輩はもうどうしようも無くなったから病院じゃなくてエルフナインの元を訪れた。だって普通に病院に行ったらそのまま精神病院へ入院案件だし……こういうファンタジーな事はエルフナインでもないと相談できないし……

 という訳で錬金術で何とかしてよ、エルフナインえもん。

 

「何ですかエルフナインえもんって。語呂悪すぎですよ」

 

 あぁ、なんかエルフナインが冷たい……

 まぁ当然だよね。だって前回は切ちゃんに続いてエルフナインも切れ痔になったんだから。

 暫く研究ができなくて溜まりに溜まった書類仕事と研究に顔真っ青にしてたもんね。そりゃあ、また厄介ごと持ち込まれたら冷たくもなるよね。

 なんだかエルフナインがより身近に感じられるようになったけど冷たいのは普通に悲しい。

 

「……はぁ。まぁ、普通の病院じゃこれはどうしようも無いですからね。ボクも精一杯協力します」

 

 けど何やかんや言いながらも優しいエルフナイン大好き。

 エルフナインは適当なノートに何か書きながら、にしても。と会話を続けた。

 

「男勝りな口調の調さんに、クールな口調のクリスさん。何だか違和感が凄いですね」

「自分でもそう思うわ。割とマジで」

「何だか表情も人格寄りになってますからね」

 

 わたし、元々表情には出にくいタイプだけど……思いっきり表情を変えるわたしの顔を見ると違和感が凄い。対して表情筋死んでいるクリス先輩っていうのも違和感が凄い。これ、響さん辺りにドッキリとして仕掛けたら何だか面白いことになりそうな気がする。

 

「漫画じゃテンプレ中のテンプレだが、いざ自分の身に起きてみると何ともなぁ……利点なんて体が軽い程度だ」

「暗にわたしの体がひんそーでちんちくりんって言ってます? 喧嘩売ってます?」

「いや売ってねぇよ。けど、胸なんて大きくてもいい事はねぇんだぞ? 道行く男共の視線は鬱陶しいし」

 

 確かに、ここに来る途中も何だか視線は感じた。主に胸への。

 ちっちゃくて童顔で、でも胸だけは不相応。そのせいか歩くのすら大変だった。だって足元は見えないし胸は歩くだけで揺れるし。大きな重りが体の前面に付いているような物だから歩く時にバランス崩しかけるし。何度前のめりに転びかけたことか。

 

「だろ?」

「でもそれ以上の圧倒的な優越感……!! 時々感じる女性からの恨めしい視線……!! それを感じれる圧倒的な優越感が……!!」

「キャラ崩壊してんぞ」

 

 いつもは恨めしい視線を向ける側だった……でも、それを感じる側に立ってみると、こう……優越感が胸の内からふつふつと。どうだ羨ましいだろってドヤ顔したくなる程度には優越感を感じられた。これが持つ者と持たざる者の違いなのか、なんて思うとより優越感が感じられた。

 いいなぁ……巨乳っていいなぁ……わたしも自分の体で巨乳になりたいなぁ……

 クリス先輩は紛争地で生き残ってきたんだし、わたしよりも食生活は悲惨だったはず……なのにどうしてこんなに大きく。あ、そうだ。それを聞いてみよう。胸を大きくする秘訣を。

 

「ちなみに、胸を大きくする秘訣は」

「紛争地で男共にレ○プされりゃいいんじゃね? アタシはそうだったし」

 

 えっ……

 …………えっ?

 

「いや、冗談だよ。された事ないから。だからアタシの顔でそんな顔すんなって」

 

 で、ですよね。

 普通にその惨状が考えられるのでブラックジョークは止めてください、割とマジで。

 

「悪かったよ、ちょっと調子に乗った。でも、本当に何もしてねぇんだよなぁ……強いて言うなら遺伝じゃねぇの?」

 

 遺伝……遺伝かぁ。

 となるとクリス先輩のお母さんってかなりご立派な物を持ってたんだろうなぁ。わたしは両親不明だから遺伝なのかどうかは分からない。でも日本人だってのは分かる。

 いや、それだけでどうしろって話なんだけどね。

 

「錬金術で体を作り替えられたら楽なんですけどねぇ」

 

 と、エルフナイン。だったら錬金術教えて。

 

「駄目です」

 

 ですよねぇ。

 まぁ、異端技術だし致し方なし。手術で偽物を作るのは嫌だからなぁ……何とかしてこのコンプレックスを解消出来ないかなぁ……

 時々貧乳はステータスだとか言ってる人が居るけど、本人はそう思ってないから。例えるなら、ゲームのガチャで欲しい物は一切出ないけど自分はいらない当たりを数個引いたって感じだから。それで満足しろって言われても無理でしょ? だって目的の物が出てないんだから。

 

「うーん……頭を打ったら人格が入れ変わるなんて事象、ここ最近でも昔でも起こった試しが無いですね……」

「だろうな」

「どうして頭を打っただけでその人の記憶も人格も何もかもが交換されるのか……科学的にも錬金術的にも解明したい所ですけど、今は治す事の方が先決ですし……」

 

 もしもそれを解明して立証して論文書いたらエルフナインは一躍有名人だよ。間違いない。

 でも、エルフナインに相談したのはちょっと間違いだったかな? エルフナインって良くも悪くも頭が固い方だから、こういうのを科学的にだったり錬金術的にだったりで解明しようとするって少し考えば分かったことだし。

 

「……頭を打った時に脳みそが交換されたとかありませんでした?」

「されてたらとっくに死んでるわ」

「それに、あのカフェもスプラッタになってる」

 

 時々とんでもない事いいだすよね、エルフナインって。

 違いますかぁ、なんて呑気な事を言いながらボールペンのノックする部分を額に当てて考えるエルフナイン。何だか様になっていて可愛い。

 でも、エルフナインは分からないらしく、時々変な声を出したり唸ったり。わたし達もこれは駄目かもしれないと溜め息を吐いた。

 

「これは暫く様子を見ましょう。時間経過で治るかもしれませんし」

 

 あー、やっぱりそうなる?

 ここで悶々としてても何ともならないし、これを今すぐどうにかしないと死んじゃうって事もないから、時間経過を試してみるのも一個の手だよね。漫画でも時間経過で治ったりする場合もあった気がするし。

 わたしとクリス先輩はまた顔を見合わせて溜め息を吐いた。少なくとも今日はこのままみたいです。

 

「ボクの方でも色々な方面からアプローチしてみま……あ、通信です。ちょっと待ってください」

 

 時間経過で治るのが一番かなぁ……それだったら治るまでは家で引き籠ってれば大事にはならないだろうし……

 

「え? 切歌さんが通り魔にお尻を刺されたんですか? 分かりました、すぐに医務室に向かいます」

 

 切ちゃんェ……

 

「これは調さんが頭を打った時に切歌さんが切れ痔になる因果関係も調べなければならないかもしれません……」

 

 そんな因果関係調べなくてもいいよ、エルフナイン。




後編はなるべく近い内に。っていうか調ちゃんの自虐だったり渇望だったりを省いたら文の量が半分以下になりそうだなって、あとがきを書いている最中に思った。けど反省も公開もしていない。

そしてサラッと画面外で尻を刺される切ちゃん。ノルマ達成。

ちなみに今回入れ替わりの対象をクリス先輩にした理由ですが……スマホのアプリで装者+エルフナインをぶち込んだルーレットをして抽選しました。セレナだけ確率を十分の一にしました。その結果クリス先輩が出ました。Twitterで貼ったあのルーレットの画像です。

次回は後編。オチが投げっぱなしジャーマンにならないように頑張ります。
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