パヴァリア光明結社っていう組織が何だか怪しい動きをしているみたいだけど今のところわたし達の生活に変化なし。最近あった事と言えば船上博物館で一悶着あったけど、それだけ。
なので今日もわたしは体力作りのためにランニング。本当はギアを纏って訓練したいんだけどLiNKERがもう数える程度しかないし訓練用のLiNKERはあまり適合係数を上げてくれないからちょっとした大技も結構辛い。だから、わたし達用のLiNKERが出来上がるまではこうやって今までやってきた事で少しでもシンフォギアでの戦いに応用できるようにしないといけない。
そういう理由があってのランニングだけど今日は切ちゃんが朝から用事があるらしくてランニングはわたし一人。なんでも久々に帰ってきたマリアと朝から映画を見に行くらしい。わたしも誘われたけど今日は昼から響さんと遊びに行く予定だから断った。
わたしのランニングは他人から見られると楽しているって思われがち。ローラースケートでやってるからそう思われるのも仕方ないけど、案外これって疲れる。スピードの調節や曲がるためのブレーキとか結構足に負担がかかるからいい訓練になる。特にわたしの移動方法って電鋸を足に取り付けて滑るか双月カルマで少しシュールに飛ぶ程度だからこういうランニングは案外役に立っている。数キロも走れば息は上がり始めて足は結構痛い。でもギアを纏って大技を使った時なんてこれ以上が普通だからまだまだ問題ない。常にXDモードみたいになれたらもう少し負担も減るんだろうけど……
「適合係数もっと上がらないかなぁ……」
ぼんやりしながらただひたすらにランニング。
今日の夜ご飯は何にしようかな……マリアも今日は一緒だし何時もよりも一人分多めに作らないといけないよね。でも、今日はわたしも響さんと用事があるし少し手抜きになっちゃうかもだけどご飯にザバーっとかけるものとかを用意して……あっ!?
「わわっ!?」
い、いけない。バランスを崩した。早くどうにかしないと……あ、進行方向にそれなりに大きな石が。
これは、うん。詰んだ。
わたしはどうする事も出来ずにそのままローラースケートで石を踏んで更にバランスを崩して転倒。しかも、運が悪いことに後頭部から硬いアスファルトに激突。
「いったぁ!!?」
わたしらしくない大声を出した所でわたしの意識はプッツリと途絶えた。
でも、途絶える前に思ってた事がある。
今度からヘルメットをちゃんと用意しよう。
****
「失礼します!!」
お昼過ぎ。お昼ご飯も食べて満腹で元気いっぱいだったわたし、立花響はエルフナインちゃんから嫌な知らせを携帯で聞いて未来と一緒にSONGの本部の指令室へとやってきた。指令室に入ってすぐに見えたのは師匠や藤尭さん、それから何故か一人前面の巨大モニターを見ている友里さん達、わたし達が何時もお世話になっている大人の人達とエルフナインちゃん。それから凄く複雑な表情をしているクリスちゃん。
電話を受けたとき、エルフナインちゃんは他の皆にも連絡するって言ってたけど、まだクリスちゃんしか来ていないみたい。クリスちゃんがどうしてこんな表情をしているのか分からないけど取り敢えずエルフナインちゃんに今の状況を聞いてみることにした。
「エルフナインちゃん! 調ちゃんが運が悪いことにローラースケートでランニング中に石を踏んで頭を打って流血沙汰になったけどすぐに意識を取り戻して色々と厄介な事になったって本当!?」
「あ、響さん。何でそんな説明口調なのか分かりませんけど大体合ってますよ」
よかった。わたしが聞いて記憶したことはあまり間違っていなかったようだ。それに、意識を取り戻しているって事は案外怪我の方も大したこと無いだろうし。
でも、驚いた~。お昼ご飯食べて調ちゃんとの買い物のために出かけようと思った所に調ちゃんが頭打って流血なんて聞いたから思わず大声出しちゃったし。未来も驚いてた。主にわたしの声で。
「それで、調ちゃんは?」
「え、えっと、それが……」
「まぁ、見りゃ早いんじゃないか? このバカも見れば嫌にでもこんな表情になる」
へ? それってどういう事?
クリスちゃんの何とも言えない表情には何か理由があるのかな? 大体四六時中しかめっ面だから何時も通りちょっとイラついているだけなのかと。
「誰が四六時中しかめっ面だオイ」
あれ? 口に出てた?
「お前の考えてる事なんざ顔見りゃ分かる。けど、あまり否定は出来ねぇな」
いや、そこは否定しようよ? わたしも結構酷いこと考えたな、なんて思っちゃったし。
「そりゃお前の前でだけだし」
え? 酷くない?
さり気無くディスられたけどそれは何時ものことだからもう気にしない。だってそれがクリスちゃんの照れ隠しだしね!!
「はぁ!? テメっ、誰が照れ隠しなんて!!」
「はーい、落ち着こうかクリス~?」
なんかクリスちゃんが騒ぎ始めたけど取り敢えず今は調ちゃんの方が先決。頭を打っての異常だしちょっとはこっちも気を引き締めて向かわないと……わたしの予想だと記憶喪失とかそこら辺のありきたりな感じの異常だけど、どうかな、エルフナインちゃん。
え、何でそんな微妙な表情してるの? もしかして違う? もっと深刻? 見てくれれば分かる? ならいったん見てみるけど……あ、友里さんの膝の上に座ってるんだ。じゃあちょっと見に……えっ?
「膝の上?」
「はい」
「あの調ちゃんが?」
「そうです」
「マリアさんが膝の上に座るか聞いても絶対に恥ずかしがって行かないであろう調ちゃんが?」
「はい。普段クールで時々可愛らしい所がある調さんがです」
え、本当に何があったの……?
でも、取り敢えずは調ちゃんの様子を見に行かないと何も始まらない。友里さんもそんなわたしの様子に気が付いたのか口に立てた指をあてて静かに、と軽く警告してからわたしを手で招いた。
それに甘んじて未来と一緒にそーっと友里さんの膝の上を覗き込んでみる。するとそこには。
「あ、ホントに調ちゃんだ……」
「寝てるのかな?」
目を閉じた状態で友里さんの伸ばした手にもたれかかっている調ちゃんが居た。入院着に着替えているって事は病院じゃなくてこっちに運ばれてきたのかな? でも、調ちゃんがこうやって膝の上で寝てる姿なんて初めて見たよ……それに、心なしか何時もよりも目尻が下がっているというか……雰囲気が柔らかくなってる? 寝ている状態を見ただけじゃやっぱり全部わからないけどそれでも調ちゃんが何かしら変化しているっていうのはわたしにも分かる。
未来もその意見には同意のようで頷いた。でも、やっぱり何がどうなっているのか詳しいことは分からないようでわたし達は顔を見合わせて首を傾げた。
「んぅ……」
「あ、起こしちゃったかな?」
「そうかも」
そうこうしている内に調ちゃんが小さく声を漏らした。起こしちゃったかもしれない、と口にした頃には調ちゃんは目を擦っていた。
数秒ほどそうして調ちゃんは目を擦って、開いた目をこっちに向けてきた。
うん、やっぱり何時もと違う。何時もみたいに切歌ちゃんとは正反対なちょっと吊り上がってるけど可愛らしさがある目じゃなくて切歌ちゃんみたいに垂れている。そのせいか何時もよりもとっつきやすい、というか柔らかい雰囲気を感じる。
「あ、響さんと未来さんだぁ」
調ちゃんはこっちに視線を向けた後にそう口にした。
満面の笑みで。
「ふぉっ!?」
思わず変な声が出た。
調ちゃんがここまで笑顔になる時なんて見たことないんだけど……切歌ちゃんと一緒にいるのを見た時もここまでの笑顔は浮かべてなかったよ!? そんな激レアな笑顔をこんな簡単に浮かべるとは!
明らかに何処か可笑しい調ちゃんは友里さんの膝の上から降りるとそのままわたしに抱き着いてきた。ふぁっつ!?
「えへへ~。響さんだぁ」
「ふぁっ!? へぁ!? ふぁっつ!? ほわい!!?」
ちょっ!? あの調ちゃんが!? わたしに!? 抱き着いてきて!? 頬をスリスリって!!?
何時ものクールな様子は何処に置いて来ちゃったの調ちゃん!? 何だか子供っぽくなっちゃいました!? もう思考回路全部がショート寸前というか混乱という混乱でもう滅茶苦茶だよ!! んでもって未来が目からハイライト消しちゃってるぅ!?
あかん、これ未来から後で何かされるやつぅ……もう最近貞操を守り抜くだけでも結構ギリギリなのにそこにプラスで嫉妬心とか混ざったらわたしはどうやって未来を対処すればいいんだろう……助けて師匠。
「未来さ~ん」
「わっ!?」
とか思ってたらいつの間にか調ちゃんはわたしから離れてそのまま未来の方へ。な、何だったんだろう……性格が百八十度変わったっていうのが正しいのかな……ヘイ、エルフナインちゃん! 説明よろ!!
「え、えっと……簡単に言ってしまえば調さんは頭を思いっきり打って一時的な幼児退行をしてしまった物だと思われます」
「幼児退行?」
「はい。記憶はそのままなんですけど、性格と言うか精神年齢と言うか、そこら辺が無邪気な子供になっているというか」
なるほど、さっぱり分からん! 略してさぱらん!!
「中身だけ子供になったと思ってください」
よし大体わかった!!
取り敢えず今の調ちゃんは未来に満面の笑みで抱き着いている。なんやかんやで調ちゃんって切歌ちゃんとかマリアさんへの好感度は振り切れてるってのは分かってたけどわたし達にもあんなに心を許してくれてたのかなって思うと結構嬉しいかも。最初は偽善者とか言われたりしてたしなぁ。あの頃が最早懐かしい。
取り敢えず友里さんが持ってきてくれたパイプ椅子に腰を下ろして落ち着く事にする。この調ちゃん、どうやったら元に戻るかな。もしも調ちゃんが元に戻ったら調ちゃんが羞恥心で倒れかねないし。
「よいしょっと」
とか思ってたらナチュラルに膝の上に乗ってきたんだけど。何この可愛い生き物。
調ちゃんって小柄だから膝の上にすっぽりと収まるというか膝の上で抱きしめるには丁度いいサイズと言うか。とか思ってたら未来の視線がヤバい。
「えへへ、響さん暖かい」
「やばいお持ち帰りしたい」
「冗談でもやめとけ。マリアかこいつの片割れにぶっ殺されるぞ。あとお前の嫁」
「うん、大丈夫だよクリスちゃん。多分この後に貞操を懸けたレースが待ってるから」
クリスちゃんがちょっと引いた顔でそうか。と呟いた。もう未来の目からはとっくにハイライトが消え去っている。なんでこうなっちゃったんだろうなぁ……ちょっと前までは未来ってこんな感じじゃ……あれ? よくよく思い返したらツヴァイウイングのライブでわたしが怪我した辺りからあんなんかも……シンフォギア無いのによく貞操無事だったなわたし。
取り敢えずこれ以上は未来が暴走しそうだから調ちゃんを持ち上げてクリスちゃんにくっ付ける。いきなりの事にクリスちゃんはびっくりして固まってたからくっ付けるのは容易だった。なんか「あたしにそんな趣味はねぇ!」とか叫んでるけどこれ以上は本当にわたしの貞操がここで散らされそうだから勘弁してほしい。
やっぱり師匠みたいに人間を超越した力を手に入れるべきかなぁ。なんて思ってると指令室のドアが独りでに開いて外から見慣れた二人がやってきた。
「調! 調は何処デス!?」
「早く病院へ移送する手続きを! 万が一にも後遺症が残らないように最善を尽くすのよ!!」
まぁ切歌ちゃんとマリアさんだよね。切歌ちゃんは普通に心配しているから狼狽えてるっていうのは分かるけどマリアさん……あんた一番狼狽えてません?
「あ、あの、マリアさん? 調ちゃんなら」
「狼狽えるな!! 狼狽えるなァッ!!」
あ、これわたしにも分かる。めんどくさいやつ。
「おいマリア。お前が一番狼狽えて」
「狼狽えるんじゃぁない!! 早く調を病院に運ぶのよ!! 運ぶのよォ!!」
「よぉし挨拶無用のガトリングかドンパチ感謝祭かミサイルサーファーでかっ飛ぶか選べ。すぐに現実に思考回路を戻してやる」
「邪魔するってなら容赦はしないわ!!」
「よっしゃスーパー懺悔タイムだな」
話を聞かないマリアさんにキレたのかクリスちゃんが片手で調ちゃんを抱きしめながらもう片方の手でイチイバルのペンダントを握りしめている。対してマリアさんは……うん、目がグルグル状態でアガートラーム握りしめている。いや師匠、笑ってないで止めないとマズいですよ!? この指令室でミサイルと鉛玉と短剣が飛び交うカオスが生まれますよぉ!?
「切ちゃん? マリア?」
「あ、調デス!!」
「何ですって!? どこに!?」
「いやあたしが抱えてるっての」
もう面倒になったのかクリスちゃんがそっと調ちゃんを前に押し出す。調ちゃんはあまり状況が呑み込めていないのか首を傾げていたけどすぐに目の前に切歌ちゃんとマリアさんが居るって気が付いたのか満面の笑みでまずは切歌ちゃんの前に歩いていき、そのまま切歌ちゃんに抱き着いた。
突然の抱擁に切歌ちゃんはまず首を傾げて状況を理解して自分に抱き着いているのが誰かを把握して顔を茹蛸みたいに真っ赤にした。
「デデデデデデデェェェェェェェス!!?」
「狼狽えるな!!」
「切ちゃんあったかーい」
「し、しらべぇ!? こ、こんな真昼間から何事デス!?」
「狼狽えるな!!」
「ちょ、ちょっと誰か説明して欲しいデス!」
「狼狽えるなァ!!」
「うっせぇんだよマリアァ!! killter ichaival tron!!」
あ、クリスちゃんがキレてギアを纏った。それですぐにハンドガンを取り出してマリアさんの頭をぶん殴った。うっわ痛そう。
「いっだぁ!!?」
マリアさんはそんな歌姫らしくない声をあげながら頭を抑えて蹲った。クリスちゃんは「ちょっと頭冷やせ」って呟くとそのままギアを解除。わたしの隣に椅子を置くとその椅子に腕を組んで座った。強調される胸、グッドです。あ、何でもないんで笑顔でこっち見ないで本気で怖い。
「ぐっ……でも助かったわ。おかげで私も冷静になれた」
「ったく……」
だけど素直にお礼を言われたからか分からないけどクリスちゃんは顔を赤くしながらそっぽをむいた。かわいいでやんの……ごめんなさいそっとギアを握らないで。
取り敢えずクリスちゃんには両手を合わせて謝って、視線をマリアさんに戻す。頭を殴られてようやく元に戻ったマリアさんだけどやっぱりギアを纏った状態で殴られたからか相当痛いようで蹲った状態で立てていない。わたしもあれ貰ったら暫くは痛みが引かないだろうし仕方がないよね。だってマリアさんが素で痛いって言うレベルだし。
とか思ってたら切歌ちゃんから離れた調ちゃんがとことことマリアさんの方へ。えっと、放置された切歌ちゃんは……おおう、顔真っ赤でフリーズ。取り敢えずわたしが目を覚まさせよう。
もしもーし、起きてるー?
「マリアマリア」
「な、何かしら調?」
あーこりゃ再起動には暫くかかるね。って思ってたら何時の間にか調ちゃんがマリアさんと接触していた。あの状態の調ちゃん、中々に破壊力高いからまたマリアさん壊れちゃったりとか……考えられるなぁ。
切歌ちゃんを担いで他の場所で安置しておこうと思い取り敢えず切歌ちゃんの腰に手を回した所で再びあちらに進展が。
「よしよし」
調ちゃんがマリアさんの頭を、正確には殴られた部分を撫でていた。
撫でられているマリアさんは硬直。何が起こっているのか分からない様子。
「痛いの痛いのとんでけー」
「調……」
あー、定番ですよねそれ。特に小さい子に関しては。
「どう? 治った?」
そして満面の笑み。って、これ本当に大丈夫? さっきまで錯乱しまくってたマリアさんだよ? また錯乱して何かやらかさない? いや、やらかす。
「……えぇ、治ったわ」
およ? 案外大丈夫?
そりゃそうだよね。マリアさんってこの中で一番年上だし何やかんやでわたし達を引っ張ってくれる人だしこういう時こそ一番冷静になって……
「だから」
なって……なって?
なってるんだよね? なのになんでそっと調ちゃんを小脇に抱えているのかな? なんか目が怪しいですよマリアさん!? クリスちゃん、荒事用意!! わたしも荒事用意!!
「調は私がお持ち帰りしてこのまま立派に育て上げて見せる!!」
「いや落ち着いてくださいマリアさん!? 調ちゃんはもう立派に育ってますよ!?」
「この子を一人前のレディとして私が育て上げて見せる!!」
「あーもう聞いちゃいないんですけど!?」
「あー、その気持ちわかります」
「なんでわかっちゃうの未来!?」
「光源氏計画ですね!」
「あたしにすら分かるから言わせてもらう! ぜってぇ間違ってる!!」
と、取り敢えず今言える事はマリアさんの中の母性的な何かが爆発してお姉さんからお母さんにジョブチェンジを果たしたって事! いや、よくわからないけどそう言う事! なんだかわたしの私生活は未来の光源氏計画の遂行によって成り立っているとか嫌な想像が容易に出来たけど気にしない! 既にそれも完遂してあとはわたしを篭絡するだけにしか思えないけど気にしない!
「邪魔するというのなら容赦しないわ!! Seilien coffin airget-lamh tron!!」
「げぇ!? アガートラーム出しちゃったよこの人!?」
「ってか何でLiNKERも無いのにギアを纏えてやがんだ!?」
そういえば!!
してその答えは!?
「そう、これこそが愛ッ!!」
「何故そこで愛ッ!!?」
言ってる事、全然わかりません!!
「おい馬鹿! マリアを眠らせてあいつを元に戻すぞ!」
「合点承知!!」
取り敢えずクリスちゃんの言葉に頷く。
そうしないとマリアさんの暴走が延々と続くし!
「師匠! 手伝ってくださ……あれ、いない?」
取り敢えず師匠にも救援を、と思ったけど師匠がいない。一体どこへ……?
「司令なら調さんを元に戻す切欠を探すために映画を借りに行きましたよ?」
「映画は教科書じゃないって言いたいけどわたしも映画見てどうにかしてるから何とも言えない!! ってかむしろ正論にしか聞こえない!!」
「よし、ここにはあたししか常識人がいねぇな!!」
少なくともクリスちゃんはこっち側!
っと、そんな事は置いておいてマリアさんの対処しなきゃ。未来、退避して……って、もうしてるんですねはい。エルフナインちゃんも。
二人とも行動が早いなぁ。気が付いたら藤尭さんと友里さんまでいないし。
よし、ここはいっちょやりますか!
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
「killter ichaival tron」
ペンダントを握って歌を歌って拳握ってバーン! はい変身完了!!
「先手必勝!」
とか思ってたらマリアさんが短剣を大量に召喚して投擲してきた! まぁ、避けれるんだけどね。わたしですもの。
取り敢えず当たるか当たらないかくらいの所で避けて一気に近づいて調ちゃんを奪わないと……あっ、切歌ちゃん担いでいるの忘れてた。しかも切歌ちゃんのお尻がマリアさんの方向いていてわたしがギリギリで避けたから……
「アッーーー!!?」
「切歌ちゃああああああああん!!?」
「何やってんだアホォ!!?」
切歌ちゃんのお尻に立派な短剣がブスッと刺さってる! 結構シャレにならないくらいの大けがになってる!! 痔になるとかそんなレベルじゃなくてウォシュレットする度に激痛が走る体になっちゃってるっていうかもう病院に即搬送しないと一人でトイレに座って用を足す事すら出来なくなるレベルの大けがになっちゃってる!!
「あ、あたしのお尻は、鞘じゃない、デス……」
「しっかりして切歌ちゃん! 今抜剣してあげるから!」
「いやよせ! 出血が増すぞ!!」
「でも何とかしないと! 切歌ちゃんのお尻が絶唱顔してるんだよ!?」
「少なくとも今抜いたらその短剣で汚いしグロい幻朧ノ鳴剣・真打することになるぞ!!」
ちょっと言葉で遊んだら結構クリスちゃんがノリノリだった件。
でも、そうだよね……ここでこの短剣を抜いたら切歌ちゃんのお尻が絶唱顔から絶唱した後の奏さんレベルになっちゃう……ど、どうしたら。
そうだ! こういう時映画だと焼いて傷口を……それ治療じゃなかった! えっと……えっと……そうだ!
「エルフナインちゃん、パス!!」
「えぇ!?」
取り敢えずこういう時はエルフナインちゃんにパスするに限る! お尻が絶唱顔してる切歌ちゃんをエルフナインちゃんに投げつけてわたしはマリアさんの方を!
「み、未来さん! 運ぶの手伝ってください!」
「うん……ちなみに切歌ちゃん、刺さってるのって前の穴? 後ろの穴?」
「う、後ろ……」
「じゃあまだ処○だね!」
「未来さん、その口閉じて早く運びますよ」
「あっはい」
視界の端で切歌ちゃんを担いだエルフナインちゃんと未来が駆け抜けていくのを見てわたしは今にも攻撃して来そうなマリアさんに意識を集中させる。
相手は一人。しかも人を一人抱えているから十分には動けない。そしてこっちはわたしとクリスちゃん。前衛後衛揃ってる。負ける気がしない!
戦いにおいて一番重要な物が数の暴力だって事、マリアさんの体に刻み込む!!
「わたしの目的のために地に伏しなさい、立花響ィ!!」
マリアさんが左手を掲げる。そして現れるのはビーム砲。
あれは、マリア・カデン粒子砲!! 流石にビームはクリスちゃんの銃弾じゃ相殺は無理……っていうか室内はビーム厳禁ですよ!
でも、こういう時のために練習してきたアレがある!!
「師匠が結構前にクリスちゃんの前でやった畳替えし的なアレ室内バージョンッ!!」
「いやなげぇよ!?」
地面を蹴って床を盾代わりに畳替えし! なんか副産物として色々吹っ飛んでるけど気にしない!!
「私の前にその程度の板ァ!!」
あれ? なんか一瞬で目の前に造った壁にヒビが……あぁ、光が逆流して……
「あばーっ!!?」
「馬鹿が吹っ飛んだ!?」
放物線を描いて吹っ飛んでいくわたしが最後に見たのは、マリアさんが破壊した床の破片が思いっきり調ちゃんの頭にぶつかっているところだった。
「ぎゃふん!?」
そんな調ちゃんの珍しい悲鳴を聞きながらわたしはそっともう一度銀色の光の中へ飲み込まれた。
あぁ、ビームって暖かい……
****
結論から言おう。あのマリアさんの暴走は結構甚大な被害をもたらした。
本部の床と壁が完全に破壊された。あと前面の巨大モニターがわたし型に穴が空いたから買い替えになったみたい。これは師匠が子供にはそういうやんちゃも必要だって事で笑顔で建て替えてくれた。いやぁ、流石師匠。マジで感服ッス。
で、あとは人的被害。これがある意味で一番ひどい。
まずわたし。全身火傷で入院してまっす。そりゃ全身でビームを受け止めたらこうなるよね、うん。けど軽い火傷だからまだマシ。切歌ちゃんに比べれば。
で、一番修羅場った切歌ちゃん。お尻は全治二か月レベル。暫くはトイレに行く度に痛いだろうけど我慢してねとの事。何もしてないのに一番被害が大きいって……うん。不幸だったって事で。マリアさんは切歌ちゃんに土下座してた。
次に調ちゃん。頭にもう一度タンコブ作った結果元に戻りました。多分調ちゃんが一番被害が少ないんじゃないかな……
最後にクリスちゃんとマリアさん。
あの二人、わたしが気絶した後もバトってたらしくてクリスちゃんは全身に切り傷&火傷。マリアさんは焦げてる。うん、焦げてる。発見当時はアフロだったみたいだから多分ミサイルを貰ったんだと思う。クリスちゃんは……多分切り刻まれた後にビームだろうね。で、二人とも仲良くミイラになりました。
「何だか大変だったみたいですね……」
「全くだ……最終的にマリアはXDモードになるわそこに抜剣までするわ……」
「え、マジ?」
「あたしの絶唱を受け止めて再配置して無理矢理吸収してXDモードとか聞いてねぇっての……」
「わ、わたしが頭を打って幼児退行しなければ……」
「いや、それは切欠で原因はマリアなんだが……まぁ、お前はこれから気を付けろ。そんだけでいいから」
そう、これは不幸な事故。調ちゃんは全く悪くない、十割くらいマリアさんが悪い不幸な事故だ。
ってことで退院後は焼き肉を奢ってもらえることになったので今は回復のために寝るとする。一応ナースコールは握っておいて未来が弱っているわたしを襲いに来たらすぐにボタンを押せるようにしよう……
****
暫く経って。
「切歌ちゃん、絶唱で受け止めるなんて無茶を!!」
なんやかんやあって切歌ちゃんがものっそいビームを絶唱で受け止めた。その結果切歌ちゃんは絶唱顔になって……あれ、目からしか血が流れてない。
そ、それで倒れてる。どうしてこんな無茶を……
「響さん……お誕生日は、重ねていく事が大切なのデス……わたしは、本当の誕生日を知らないから……」
切歌ちゃん……っ!?
倒れてる切歌ちゃんの下から血が流れて……うそ、まさか背中か後頭部に酷い怪我を!?
「あと……」
しゃ、しゃべったら駄目だよ切歌ちゃん!
「絶唱したら、お尻が悪化した、デス……がくっ」
き、切歌ちゃあああああああああああん!! まさかこの血、全部お尻から流れてる物だって言うの切歌ちゃああああああああああああああん!!
「え? お尻……え?」
このままじゃ切歌ちゃんのお尻が……でも、今のわたしにボラ○ノールは……そうだ!
「サンジェルマンさん、ボラ○ノールを!」
「え、ボラ○……え?」
「早くしないと切歌ちゃんのお尻が! 短剣が刺さったから発症した切れ痔がようやく治りかけてきた切歌ちゃんのお尻がぁ!!」
「お前ら裏で何があったんだ!?」
「だから早くボラ○ノールを!!」
「常備している訳がないだろうが!!?」
「ここにあるワケだ」
「ありがとうプレラーティさん!」
「え? プレラーティ? いや、流石に幻覚……」
「待ってて切歌ちゃん。今すぐにボラ○ノールを注入してあげるから!!」
「いやいや待て待て!! そういうのは家でやれ!! その子の色んな物のためにもォ!!」
切歌ちゃんのお尻の完治は伸びました。
調ちゃんがメイン……ではなくビッキー……でもなくマリアさん……の築いた物を全部切歌ちゃんが持っていく話でした。正直すまんかった。最初は切歌ちゃんと調ちゃんが頭ごっつんこで治る筈やったんや……切歌ちゃんファンの方は許してクレメンス。
え? 普通尻に短剣が刺さったらもっとひどい事になる? まぁ、ギャグなので多少はね?
次回、「月読調の華麗なるお助け計画」。グレ響出します。なお次回の内容(ry