今回、短編としてまとめようとしたのですが、短編どころか中編サイズとなり、前・中・後の三つに話を分けさせて頂くことになりました。文字数は三万三千文字と、今までの話で恐らく最多……どの世界線の話よりもブッチギリで長い話になっているうえ、完全にシリアスです。ギャグを期待していたかた、時間が無いから最新話を適当に……と見に来てくださった方。本当に申し訳ありません。この話は完全に自分の自己満足です。
既に全編書き終えて後は投稿を待つだけの状態となっております。三日間、同じ時間に連続更新を行い、全三日での完結予定です。
なるべくシンフォギアXDのイベントストーリーにあってもおかしくないような話の構成にしたつもりです。楽しんで見ていただけたら幸いです
それでは、月読調の華麗なる平行世界改め、シンフォギアXDanotherストーリー『翳る月、照らす暁』をどうぞ。
夢の中のわたしは、救われていなかった。
セレナがネフィリムを静めるために一人絶唱して瓦礫の中に消えて、マリアが突然現れたカルマノイズに。そして、切ちゃんまでもがわたしを庇って消えてしまった。それから七年近い時間、わたしは一人だった。マムは居てくれたけど、マムの直接とは言えない接し方はわたしを癒してくれたけど、ただそれ以上にマリアとセレナを同時に失って、そして自分の半身とも言える切ちゃんを失ったわたしの心は壊れていった。
苦しい、助けて。マリア、セレナ、切ちゃん。誰か、わたしに笑顔を向けて。わたしを助けて。そう心の中で叫んでも叫んでも、誰もわたしを助けてくれなくて。太陽に照らされない月は、暗闇の中誰の目に付くこともなくただ浮いているだけ。闇夜を照らす事すらできず、ただ暗い空の中でただ一人浮いているだけ。そして、自身の力で狂っていく。
叫んだ言葉は闇の中に消えていく。癇癪を起こしてマムに掴みかかって、職員の人に八つ当たりして。
わたしは、誰も信じられなくなった。誰も助けてくれないから、世界を信じられなくなった。
奇跡を拒んで、現実を否定して、ただ後ろだけを向いて、闇だけを見て。
いつしかわたしは、F.I.Sの都合にいいコマになって動き、それ以外の日々を光の刺さない独房のような部屋で暮らすようになっていた。それが一番わたしの心を傷つけないんだって。それがこの世界を見ない方法なんだって、信じ切ってしまったから。
誰か、誰かわたしを助けて。
あんな暗い所で一人蹲っているわたしに、誰か光を。少しでもいいから、光を。繋ぐべき手を――
****
「響くん、シャロンくんに続き、次は調くんがそうなってしまったか……」
「はいデス……この間から目を覚まさなくって……それで、寂しい、暗い、助けてって言って、辛そうなんデス」
わたしは切歌ちゃんのその言葉を聞いて、ただ現実を受け入れる事しかできなかった。
かつてわたしは、平行世界のわたしの孤独と憎しみとトラウマを共有した結果、日常生活にすら支障をきたすようになって、最後はガングニールの浸食の苦痛までリンクして命の危機すら迎えた。そしてシャロンちゃんも、融合症例としての苦しみがリンクしていた……んだと思う。
そして、調ちゃん。調ちゃんの苦しみは、恐らく平行世界のわたしに似ている。
多分、F.I.Sに居たマリアさん達三人の誰かがそうなってもおかしくない事だったんだと思う。もしマリアさんが自分を導いてくれたナスターシャ教授を殺されていたら。切歌ちゃんが調ちゃんを失っていたら。そして、わたし達がいなかったら。きっと誰も救いの手は差し伸べなかったと思う。差し伸べられなかったんだと思う。
その結果が、今の調ちゃん。
「師匠」
わたしの言葉に師匠は頷いてくれた。
この件を放っておくなんてできない。それはわたし達、調ちゃんを抜いて未来を入れた六人の装者の共通見解だ。何があっても、調ちゃんを助けないといけない。
「分かった。ならば、すぐにギャラルホルンで平行世界へと向かってもらう」
そして、それを師匠は嫌な顔を一切せずに助けてくれる。
前例のあることだからこそ、早めの処理をしないといけない。だからこそ、師匠は頷いてくれる。
「ならば今回は……」
「あたしが行くデス。調の危機に待っているだけなんてできないデス」
「わたしも行きます。一応、前の被害者ですし……なにより、調ちゃんを助けたいのはわたしも同じです」
「だったら、わたしも。わたしの神獣鏡なら聖遺物相手の問題は大抵解決できます」
異論はなかった。
調ちゃんの一番の理解者とも言える切歌ちゃん。そして、最初の被害者でもあり前回も動いたわたし。そして、万が一調ちゃんが融合症例化していた場合、力業で解決できる未来。この三人が行く事になって、マリアさん、翼さん、クリスちゃんは万が一こちらでノイズが出現した場合の戦力になった。
出発は迅速に。わたし達はすぐさまギアを纏って必要な分のLiNKERを持ち、平行世界へと向かった。
平行世界への穴を抜けて辿り着いたのは、いつもの公園……ではなく、前にセレナちゃんの世界に降り立った時と同じような林の中だった。
「ここが調を苦しませている世界、デスか……」
思わず切歌ちゃんが呟いていた。
間違ってはいない。間違ってはいないけど、そういう言い方は多分いけないんだと思う。だって、もしかしたらこの世界と同じような状況になっていたのはわたし達の世界なのかもしれないんだから。それを切歌ちゃんもすぐに理解して、一言謝ってから口を閉じた。
今回ばかりは切歌ちゃんのいつものお気楽な雰囲気は形を潜めている。それにつられてわたしと未来もあまり口を挟めていない。
多分、今回の立役者は切歌ちゃんになる。だから、わたし達はあくまでもそれをサポートする役回りになると何となく悟った。だから、切歌ちゃんの言葉に気にしていないよとだけ告げて、わたし達はギアを纏ったまま歩く。多分、この世界はまだノイズが出現する世界だから、油断はできない。
少なくとも、こっちの世界の二課かF.I.Sに事情を説明して協力をしてもらうまでは。
「そこの三人、止まってください」
そう思った矢先だった。
わたし達は聞き覚えのある声を聞いた。すぐに武器を構える……事はせず、声をかけてきた人物をその目で目視するまでこちらは会話での解決を望むという意志表示のために武器は構えず待つ。
和平の使者は……なんだっけ? そんな感じのやつの実践のために。
「響……」
サラッと未来から可哀想な子を見る目で見られたけど気にしない! 気にしないからね!!
……ごほん。で、暫く待っていると、わたし達に声をかけてきた子は目の前から現れた。現れたのは勿論……
「調ちゃん……」
調ちゃんだった。
シュルシャガナを纏ってこちらへヨーヨー……ではなく物騒なチェーンソーのような物を向ける調ちゃんのギアは、今まで見たことのない攻撃的な形状をしていた。
基本的な形状はあまり変わらない。だけど、目元は未来のバイザーみたいな物で隠されていて、口元だけを見ても恐らく調ちゃんは完全な無表情。それを手助けするかの如くバイザーは調ちゃんの僅かな目元の表情を隠している。
多分、イガリマのメカニカルギアをそのままシュルシャガナカラーにして武器をチェーンソーに変えてバイザーを装備したと言ったら分かると思う。メカニカルギアのあの攻撃的な特徴をそのまま心象だけで発現させた。それが、この世界の調ちゃんのギア。
「調……どうして……」
それを理解したからこそ、切歌ちゃんの声はどこか悲しそうだった。
どうしてそうなってしまったのか。それが容易に想像できてしまって。
「きり、ちゃん……?」
そして、調ちゃんは暫く会っていなかったんだと思う切歌ちゃんを見て驚愕の声をあげた。多分、F.I.Sの方でフォニックゲインを観測して来てみれば、死人がビックリドッキリの復活を遂げている。こっちの調ちゃんからしたら恐怖以外の何物でもないと思う。
だけど、調ちゃんは一度驚愕の声を上げただけで表情は変わっていない。バイザーの下の表情は見えないけど、調ちゃんはチェーンソーをこちらに向けている。
「……F.I.S管理外のシンフォギア。どこでそれを見つけたのか分かりませんが、同行を願います。もし抵抗するようならこの場で殺害してでも連れていきます」
調ちゃんの声は、まるで機械音声のようだった。
感情という感情を全て殺して、与えられた任務だけを果たすために動いている機械。それがこの世界の調ちゃんのように思えた。わたし達はそれに反抗するわけもなく、調ちゃんにチェーンソーを突き付けられながら両手をあげてギアを解除して連行に従った。
ついた先は、これまたやっぱりセレナちゃんの時と同じような外見をした研究所だった。多分、ここもF.I.Sの研究施設。と、いう事は……
「月、欠けてるね」
「うん。多分、こっちの世界のわたし達が」
多分、遥か彼方、星となったかの日が冗談で済まない状態になってるだろうね。具体的には月の欠片と一緒にパーン。
あっはっは。どうして平行世界のわたし達、影薄くなっちゃうん? なんか平行世界のわたしがマトモに生きてるのって多分、わたしがグレてた世界くらいじゃない? ってかそれ以外でほぼ死んでそうなわたしって一体……やっぱ呪われてたのかな……
「マムの元へ案内します。抵抗しないように」
私語は許してくれたけど、勝手な行動は許してくれない。私語許してくれた時点で結構優しいとは思うけど、お願いだからチェーンソーでつんつん背中を突かないで、めちゃんこ怖いです……!
それからわたし達は施設を連れまわされて、指令室みたいな場所へ連れていかれた。
「ご苦労様です、調。部屋に戻っても構いませんよ」
「了解」
そこに居た、やっぱり車椅子に座っているナスターシャ教授は、調ちゃんにそう告げた。
調ちゃんはその言葉に一切の質問を返さず、ギアを解除した。そして解除したがゆえに見えた調ちゃんの素顔を見て、また驚愕した。
何に驚愕したかって言えば、目。グレたわたしの比じゃない程の闇を孕んだ目は、わたし達を一瞬とは言え絶句させた。多分、あの目を作り出すまでに感じた絶望は、わたし達には想像もできない程。
未来ですら口元を抑えているんだから……うん、ごめん。こういう引き合いに未来出すのはちょっと冗談じゃないってのは理解してるからそっと顔を掴まないで。アイアンクローしないであだだだだだ!!?
「……敵地の真ん中で随分と気楽ですね」
「敵地?」
「あなた達はどこの組織の回し者ですか? シンフォギアの研究をしていたのはF.I.Sと日本の一部の組織のみだったと記憶していますが」
そこまで聞いてようやく理解した。
ナスターシャ教授は、わたし達をどこかの非合法組織で作られたシンフォギアを纏う非合法装者だと思っているんだ。
「そのガングニールとイガリマ……もう一つのギアは神獣鏡ですね? それはどこから入手したのかと聞いているのです」
そうだった。このガングニール、元はマリアさんの物だったし、切歌ちゃんのは元々F.I.Sの物だったし、未来のギアもわたし達の世界だとメイドインウェル博士だったし。全部F.I.Sが既知のギアなんだ。
でも、これを黙っていても良い事は起きないから、要らない事まで話しそうなわたし達じゃなくてしっかり者の未来がここに居る理由をかいつまんで説明した。
「平行世界に、その世界の装者、ですか。何ともまぁ幼稚な嘘を……」
「でも、ここにあたしが居るのが何よりの証拠デス」
ナスターシャ教授は困ったように口を開いたけど、切歌ちゃんの言葉を聞いて黙った。
やっぱり。こっちの世界で切歌ちゃんはもう……
だったら。
「わたしも。立花響という名前も、調べてくれれば出てくると思います。ルナアタックで死んだか、まだ存命のシンフォギア装者だって」
まだ死んでいるのか生きているのかは定かじゃないけど、少なくともここには死人が一人成長して現れているし、わたしに至っては死者もしくは別組織の装者だ。それがよく分からない装者と一緒に来ているんだから、少なくとも平行世界の事を信じてはくれるはず。
あ、でもまだ信じ切れてないみたい……だったら、この言葉で!
「それもこれも全部ギャラルホルンっていう聖遺物の仕業なんです!!」
「なんですって、それは本当ですか!? まさかそんな力を持つ聖遺物が……」
前もこれでゴリ推したからね!!
「えぇ……」
「なんかここの会話だけ切り取ると可哀想な人同士の会話な気が……」
気にしない気にしない。気にしたらハゲるよ?
「うら若き乙女になんて事言うんデスか!?」
「……えぇ、わかりました、信じましょう。その言葉遣いも、間違いなく切歌の物です」
そんなこんなでこっちで漫才している内にナスターシャ教授の方で何とか話はまとまったらしく、わたし達は平行世界の装者として信じられることになった。まぁ、切歌ちゃんっていう死人がここに居るんだし、そこに聖遺物の力が合わさればそうとしか思ないからね。
まさか聖遺物でも死人を蘇らせるなんて芸当、できないだろうし。
……できないよね? なんかこれから先、死人を蘇らせる聖遺物が本当に出てきそうな予感が……
「では、改めて聞きます。あなた達の目的は? まさか、平行世界の旅行というわけではないでしょう」
それを聞いて、わたし達はこの世界に来た理由を説明した。
勿論、調ちゃんを助けると言うのもそうだけど、恐らくこの世界にはカルマノイズが出現している。多分、それを何とかしないとこの世界とわたし達の世界のあれやこれは解決しない。それを伝えると、ナスターシャ教授は顔を顰めた。多分、カルマノイズについて思い当たる節があったんだと思う。
「黒いノイズ……カルマノイズですか。あれを倒せるのですか?」
「はい。わたし達はアレを何度か倒しています」
無事に、とは言えないけどね。やっぱり絶唱とS2CAは必須になる相手だから……それに、奏さんの世界ではエクスドライブまで使って勝った相手だから、どっちにしろ絶対に勝てるとか、わたし達に任せて、とか無責任な事は言えない。
「ですが、そちらの世界にも調が……それに、マリアが生きているのですね」
そう呟くナスターシャ教授の目には、涙が浮かんでいるように見えた。
「……ここからは少し不幸語りになりますが、あなた達にはきっと、調の過去が必要となるでしょう。故に少しばかり語らせていただきます」
そう告げたナスターシャ教授から語られた過去は、セレナちゃんの世界の歴史とあまり変わっていなくて。でも、たった一人になってしまった調ちゃんが歪んでしまうには十分な過去だった。
多分、これは誰も悪くない。ただ、行き違いとスレ違いが起こしてしまった小さな傷が膿んでしまった。そんな話。調ちゃんを照らしてくれる切歌ちゃんがいなくて、間違った方向へ進もうとしたら正してくれたマリアさんがいなくて。だからナスターシャ教授もまごついてしまって、そして調ちゃんは歪んで、歪んで。あんな機械みたいになってしまった。
「もう、調には私たちの言葉は通じていません。あの子は、もう何年も前から……」
「でも調は助けてを求めてるデス! 助けを求めたからこそ、わたし達の世界の調は何度も助けて、辛い、怖いって! 伸ばしてくれる手を求めているんデス! こっちの世界の調の代わりに!」
でも、調ちゃんは確かに助けを求めている。
平行世界のわたしと同じように、無意識下に助けを求めているからこそ、わたし達の世界の調ちゃんにも影響が出た。だからこそ、わたし達が助けに来たんだ。
手を繋ぎに来たんだ。
「……わかりました。では、あなた達には調の部屋を開けるためのカギを渡します。それから、こちらの世界で暮らすための住居も用意しましょう。なので、どうか。私の手が至らなかったばかりに歪めてしまったあの子を、助けてください」
「お任せデス!」
「ついでに、もしノイズが出現したら一緒に戦います!!」
「それは助かります。ノイズ出現の際は是非、力をお借りします」
でも、わたしにはナスターシャ教授の言葉が変に思えた。
カギを渡す。その言葉がどうしても引っかかった。
なんで、私室に入るだけでカギが必要なんだろう。まさかカギをかけて閉じ込めているわけでもないし。
そんな考えは、実際に調ちゃんの部屋を見てすぐに壊された。
****
「調の部屋……って聞いたんデスけど」
「ここって……」
「独房、だよね……」
そう。調ちゃんの部屋と言われたのは、独房だった。厳重な鉄製であろう扉には大きなカギがかかっていて、一応内側からも開けられるようにはなっているけど、外側からはカギが無いと開かない。そんな変わった独房。
その武骨な扉には、驚くほど質素で機械的な文字で『月読調』と書かれていた。
まさかこんな独房に。そんな思いをしながらも、切歌ちゃんがカギを開けて、ノックをしてから扉を開けた。そして、部屋の中を見てまた驚愕した。
暗かった。
窓もなく、電球もなく。本も棚もなくてテレビもなくて、ただベッドとユニットバスらしき小部屋が一つあるだけの、生活感なんて無い……いや、生活ができるのかすら不安な程の部屋。そんな闇の部屋の隅に、調ちゃんは居た。
毛布を頭から被って、丸まって座って。ただ時間が過ぎるのを待っているだけとしか言えない様子の調ちゃんは、わたし達に気が付いても毛布をはがず、そのまま声を出した。
「……何の用」
「あ、あたしは調とお話しに来たんデスよ!」
「そ、そうそう! ほら、ちょっと世間話でもってね?」
声からして歓迎されていないのが分かった。
ううん、多分歓迎や拒絶も正解じゃない。多分、どうでもいいと思っているか、会話する事を分かっていない。そんな無機質な声。
今日ほどサンジェルマンさんとかからお気楽と言われ続けてきて良かったと思った。多分この空気、翼さん辺りが吸ったら黙ると思う。っていうか絶対黙る。師匠辺りでも黙殺できるレベルの空気だと思う。
でも、そんな空気を調ちゃんが作っているんだと思うとゾッとする。調ちゃんは、あんな小さな体でどこまで闇を……
「……帰って」
「え?」
「帰って。あなたの姿は、見ていると不快になる」
普通の……ううん。わたし達の世界の調ちゃんなら絶対に言わないであろう言葉。それを調ちゃんは、こっちを睨みながら言ってきた。自分の体を覆う様にした布団の間から見える調ちゃんの目は、あの時。偽善者とわたしに棘を吐いた時よりも遥かにキツくて。
ううん、多分、キャロルちゃんやサンジェルマンさんが向けてきた敵意の視線なんかよりも遥かにキレそうな、正しく目線だけで人を殺せそうな目線だった。
わたしも未来も。そして切歌ちゃんも、そんな調ちゃんを見て思わず一歩退いてしまった。退く気なんてないのに。手を繋がなきゃ駄目なのに。
「……響、切歌ちゃん。一旦出よう」
思わず唾を飲んだところで未来が声をかけてきた。
ここから一旦出よう。それはつまり、一旦調ちゃんを諦めるという事。
「み、未来? でも……」
そんな事をしたら根本的な解決にはならないと言いたかった。でも、切歌ちゃんは何も言わずにそっと部屋の中から出ていった。
思わず声を荒げそうになった。でも、切歌ちゃんがそうするのならと、わたしもそれに従った。
「……もう来ないで」
そんな調ちゃんの声を聞いてから、未来じゃなくて切歌ちゃんが牢獄の扉を閉じた。
本当ならこんな扉を壊して調ちゃんを外に出したかった。でも、それを二人がしないのなら、それは得策じゃない。今までの経験からそう学んだからこそ、わたしも黙る。暗い雰囲気のまま、ナスターシャ教授から貸し出すと言われた住居……というよりも施設内の部屋へと向かう。
「調、一体どうして……」
「分からないけど、多分……あれは、響の時よりももっと酷い状態だと思う」
わたしの時。
陽だまりが側に居ないから歪んで、そしてやさぐれて。復讐のためにガングニールの力を使っていたわたし。全部が終わってからはそれも無くなったとは聞いたけど。聞いたけど……それよりも酷い状態って……
「響の場合は、まだ目的があった。ノイズに復讐するっていう目的が。でも、今の調ちゃんにはそれが無い。本当に無気力で、自発的に何もしない。心を殺して悲しみすら消して機械のように動いているから……だから、あんな目ができるんだと思う」
未来が言っているのは、つまり。
廃人。それに近い物に調ちゃんはなっているという事なんだと思う。
わたしの場合は、多分まだ救いがあった。でも、今の調ちゃんにはない。だから、それを作らないといけない。それすらせずに近づいたら、また拒絶されるだけだから。
「……でも、会話ができたのならその内心を開いてくれるはずデス!」
「うん。うん、そうだね! きっと、会話ができるのなら!!」
「もう……二人そろってお気楽なんだから」
だとしても、会話ができる。つまりは言葉で心を通わす事ができるんだから、間違っても居ないハズ!
お気楽お気楽言われる身だからこそ、当たって砕けろの精神で――
『館内放送で失礼します。ここより二時の方向にある繁華街でノイズの発生を感知しました。装者は直ちに出撃の方をお願いします』
「ノイズ……っ!」
「もしかしたら、カルマノイズがいるかも!!」
「だったらとっとと細切れにして世界の危機からどうにかするデスよ!!」
でも、まずはノイズを何とかしないと!
調ちゃんの事は気になるけど、カルマノイズがいるかもだしノイズの方に集中しないと!!
****
「ハアァァァァ!! 撃槍裂破ァ!! 続き、猛虎翔脚ッ!!」
「相変わらずバ火力デスなぁ……」
ノイズの数は、あまり多くはない。それこそ、三人なら簡単に倒せる程度の数。
それに、ノイズより格上とも言えるアルカ・ノイズ相手に無双できるわたし達のギアなら今更この程度のノイズ相手に苦戦なんてしない。それは切歌ちゃんも未来も同じで、出力だけなら最弱とも言える未来のギアでもノイズは簡単に一掃できる。
そして。
「……ノイズ一個小隊殲滅」
調ちゃんの方も。
調ちゃんはわざとわたし達から距離を取って戦っている。重そうなチェーンソーを軽々と振るって、近接攻撃だけで戦っている。目にはバイザーがあって、前が見えているのか見えていないのか分からないけど、それでも調ちゃんは戦っている。
でも、わたし達は知っている。シュルシャガナの本来の戦い方は近接格闘じゃなくて、支援が得意なギアで、クリスちゃんとはまた違った、完全な遠距離じゃなくて遠、中距離戦闘を得意とするギアだってこと。だから、こうやって近距離戦闘をしている調ちゃんを見ると、どうしても不安になってしまう。しかも、ツインテールを使わずに戦っている調ちゃんは。
「調ちゃん、一人じゃ危険だからこっちに来たほう、が……」
「……」
未来が時々隙を見つけてはこっちに合流するように言うけど、調ちゃんは振り向くことすらせずにノイズを殲滅している。危なっかしさはあるけど、それでもしっかりと頭の中で戦略を練っている動きだから立ち回れているように見えう。
でも、あのままじゃ万が一が……
「響さん! 前デス!!」
「へ? うわぁ!!?」
とか思っていると、切歌ちゃんの悲鳴にも似た声。
思わず攻撃の手を止めてしまったけど、止めて正解だった。だって、わたしの目の前にはあのカルマノイズが居たのだから。
「カルマノイズ!!」
「こんな時に出てくるなんて!!」
『カルマノイズが出ましたか! 倒せますか!?』
「何とか! 切り札はあります!!」
イグナイトが使えない現状、わたし達に残された切り札はユニゾンじゃなくてS2CAだけ。絶唱もいいんだけど、わたしを介さずに絶唱したらその分、ダメージが蓄積されちゃう。
だから、S2CAを直撃させるしかない。エクスドライブが使えたらそれで済む話ではあるんだけども、ね。
「わたしが周りのノイズを足止めするから、響と切歌ちゃんはカルマノイズの隙を作って!」
「わかった! 怯んだ隙に、S2CAをトライバーストで叩き込む!!」
まぁ、この三人だとトライバーストしか使えないんだけどネ!! だって練習してないし!
とりあえず、カルマノイズが現れた以上、ここでどうにかしなきゃ。じゃないと、被害がもっと出てしまう!
「切歌ちゃん、イグナイト無しでユニゾンいける!?」
「やってみるデス!」
三人でのユニゾンは無理だけど、それでも切歌ちゃんとのユニゾンなら問題ない。だから、二人で息を合わせて二つのフォニックゲインを一つにユニゾンさせる。
そして聞こえてくる、わたしのソロでも、切歌ちゃんのソロでもない曲。わたし達のユニゾン曲、必愛デュオシャウト。よし、ユニゾンできた!!
『うおおぉぉぉぉぉぉ!!』
吠え、そして二人で突っ込む。
ユニゾンしたわたし達なら、イグナイトにも匹敵する地力を出せる! ファウストローブを使った錬金術師だって一対一なら倒せるこのユニゾンなら、カルマノイズだって!!
「極めし八極! その拳
踏み込んでカルマノイズの攻撃を避け、そのままバンカーを展開。そのままカルマノイズに叩き込んで一気にカルマノイズを吹き飛ばす。普通のノイズなら簡単にはじけ飛んでいる威力だけど、カルマノイズはこれに耐えて見せる。ナスターシャ教授は絶唱並みの一撃を……!? とか言っているけど、ごめんなさい! 今それどころじゃないです!
拳を叩き込んだわたしの上を切歌ちゃんが飛び越えてバーニアで加速。そのままカルマノイズに斬りかかるけど、やっぱりそう簡単にいかないのがカルマノイズ。吹き飛びながらも切歌ちゃんを迎撃して、切歌ちゃんが吹き飛んでくる。でも、それを受け止めてから切歌ちゃんの手を握って振り回す。
「やられたらやり返す!」
「倍返しデスッ!!」
そして何度か振り回してから切歌ちゃんの手を離し、そのままカルマノイズの方へとぶん投げる。切歌ちゃんはそのまま空中でバーニアを使って加速。そのままカルマノイズに一回攻撃を当て、そのまま肩のユニットから延ばしたロープでカルマノイズを拘束と同時に急停止。そしてUターンを決めて一気にこっちへと飛びながらもう一度斬撃を浴びせ、わたしが突っ込んできた切歌ちゃんをキャッチ。それと同時にわたしが飛び出し、遅れて切歌ちゃんが追従する。
よし、タイミングは完璧! いける!!
「必愛ッ!」
「デュオシャウトッ!!」
わたしが突撃し、それを切歌ちゃんがバーニアで押して通常以上の推進力をもってカルマノイズに拳を叩き込んで一気にカルマノイズを吹き飛ばす。
よし、今ならいける!!
「フォーメーションS2CA、セット!!」
わたしの叫びと同時に未来がこっちへ飛んできてわたしと手を繋ぐ。そして切歌ちゃんも手を繋ぎ、準備は完了。今、カルマノイズは逃げる事も戦うことも出来ない弱った状態になっている。時間をかければ回復されるし、このまま普通に殴ってもカルマノイズは平気で耐えるけど、S2CAなら消し飛ばせる!!
『Gatrandis babel――』
「うああぁぁぁぁァァァァァッ!!」
これから絶唱を……とも思った矢先だった。
わたし達の横を、調ちゃんが駆け抜けていったのは。思わず絶唱を歌うのを止めてしまいそうになってしまった。けど、調ちゃんがカルマノイズに単身立ち向かいに行ってしまったのはマズい。だって……
「調!!」
それを切歌ちゃんが放っておけるわけがない。
手を離して切歌ちゃんが飛び出してしまう。結果、わたしと未来だけが取り残される。けど、やるしかない。トライバーストじゃないと威力が欠乏する可能性があるけど、それでも二人でのS2CA……それも、未来とのS2CAなら失敗はしない。
わたし達は切歌ちゃんを信じて歌う。
『ziggurat edenal Emustolinzen fine el baral zizzl――』
「お前がッ! お前がッ!! お前がぁぁぁぁ!!」
「調、止めるデス!!」
調ちゃんが、今までで見たことのない程の形相をしながらカルマノイズに対してチェーンソーを振るっている。でも、カルマノイズにそれは効かず、しかも調ちゃんが立っているのはわたしがS2CAを抱えた状態で突っ込む予定だった場所。
このままじゃ調ちゃんまでS2CAの余波を受けてしまう。流石にそこまでコントロールできないわけじゃないけど、やっぱりできる限り離れてもらわないと万が一がある。だから、切歌ちゃんに調ちゃんを引きはがしてもらうしかない。
調ちゃんを羽交い絞めにして引っ張る切歌ちゃん。でも、調ちゃんの力が凄いのか、時々羽交い絞めが解かれそうになる。
「マリアをッ! セレナをッ! 切ちゃんをッ!! お前が殺したんだ!! お前さえ居なければ!! お前さえッ!!」
「調っ……お願いだから、いったんおちついて……」
「離せぇぇぇぇぇぇ!!」
『調、一旦引きなさい! 今のあなたは……』
「殺すッ!! 殺シテヤルゥゥゥゥゥッ!!」
獣。そう称するしかできない程の豹変。それを真近で見ている切歌ちゃんの顔は、とても居たたまれない。
一瞬、わたしがこのままカルマノイズをやっつけてもいいのかという疑問が胸に浮かんでしまった。もしこのままカルマノイズを倒して、調ちゃんに何か悪影響が出てしまったらと。
でも、今、わたしの手は未来が握っている。大丈夫だと強く握ってくれている。だから、それを無為にはできない。
やるしかない。やるんだ!!
『Emustolronzen fine el zizzl――』
瞬間、わたしの周囲に虹色のフォニックゲインが吹き荒れる。
二人分の絶唱エネルギー! これを束ねて、指向性を持たせる!!
「スパーブソングッ!」
「コンビネーションアーツッ!」
『セット、ハーモニクスッ!』
二人で握った手をカルマノイズへ向け、そして未来が手を離したのを確認してから両手のバンカーをドッキング。左腕を抜いてから構える。
「S2CA・ツインブレイク! Type-
「まずっ……! ごめんデス、調ッ!!」
切歌ちゃんが調ちゃんを羽交い絞めしたまま思いっきり後ろに飛んで射線から逃れる。それを見た瞬間、わたしは一気に駆けだす。
きっと、ツインブレイクでも倒せる筈ッ!!
「これがわたし達の絶唱――ッ!?」
倒せると、そう思った。
でも、時間をかけてしまったせいか。カルマノイズを優先してしまった結果かは分からないけど、残っていたノイズがカルマノイズを守る肉壁となって立ちはだかる。
今さら軌道変更はできない。でもせめて余波をぶつけようと、無理無理にノイズの中心を掻き分けてできるだけ奥の方に居るノイズにS2CAを叩き込んだ。
虹色の竜巻が起こる最中、わたしはカルマノイズに視線を向けるけど、カルマノイズは体の一部を欠損しただけで倒し切れていない。S2CAの風圧に耐えながらも黒い靄に包まれてそのまま消えてしまった。結果、S2CAの後には何も残らず、わたしが中心で膝を付くだけに終わった。
「響、カルマノイズは!?」
「ごめん、逃した……」
多分トライバーストだったら、とは言わない。
でも、逃してしまったのは事実。それに、いくらS2CAのバックファイアをある程度は軽減できるとは言っても絶唱は絶唱。しかも、未来とのS2CAは一度も練習していなかったのもあって疲労が凄い。体に響く疲れと痛みのせいで立ち上がるのすら億劫な状態。ギアを解除して未来に肩を貸してもらってから立ち上がる。
幸いにもS2CAで残存していたノイズは全部吹き飛んだらしく、ギアを解除しても特に問題はなかった。
でも、問題があるとしたら。
「……帰還する」
調ちゃんだ。
調ちゃんは釈然としないと言いたげな顔で切歌ちゃんの羽交い絞めから脱出すると、そのままギアを解いて歩いていった。でも、その際に小さく「今度こそ……」と呟いていたのをわたしは聞き逃さなかった。
切歌ちゃんも立ち上がり、調ちゃんの歩いていった方を見るけど、追う事はなかった。
多分、追っても何を言えばいいのか、分からないから。今は、次に話す内容を決めるために調ちゃんの背中を見つめるしかなかった。
あとがきでは若干のオリジナル設定の解説をば。
月読調【IF】……レセプターチルドレン唯一の適合者。立花響【IF】よりもシュルシャガナが激しく変化しており、特に近接武器であるチェーンソー、目を隠すバイザーが本来の月読調とは決定的な相違点となっている。その他にも足のローラーが存在せず、移動は徒歩で行う等、多少の変化が存在する。
S2CA・ツインブレイク Type-M……響と未来のS2CA。神獣鏡の特性上、聖遺物に対する威力は高いが、その反面ノイズに与えるダメージは通常のS2CAよりも劣る。そして響への負担はかなり大きい。
というわけで前編でした。
グレビッキーと同じようにノイズ……それもカルマノイズに恨みを持つ調ちゃん【IF】。でも、本当は憎しみよりも、もっとしてもらいたい事が……
では次回、月読調の華麗なる平行世界・中でお会いしましょう
P.S シトナイガチャ計六十連爆死しました。金鯖すら出なかったので十連一回で星5確定するシンフォギアXDは良ゲー(違