月読調の華麗なる日常   作:黄金馬鹿

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予想以上に好評で震えている……好評で逆に心配になってくるぅ。特に話をちゃんと纏めきれているのかとか、キャラの描写とか……

さてさて、今回は中編です。

前回は調ちゃんが暴走しきって終わりましたが今回は……

一応言っておきますと、この話はちゃんとハッピーエンドで終わりますので大丈夫です。ジブンウソツカナイ。


月読調の華麗なる平行世界・中

「カルマノイズ……底が見えないとは思っていましたが、まさか数人がかりでの絶唱をしないと倒せないとは……」

「一応、絶唱しなくても追い詰めれば倒せますけど……」

「調ちゃん一人じゃ、多分……」

 

 わたし達は戻った足でそのままナスターシャ教授の所に顔を出した。

 その際にS2CAについてを聞かれたけど、これはわたしのガングニールの特性を生かしたもので調ちゃんだけでは絶対に不可能という事だけ伝えると、ナスターシャ教授は興味深そうにしていたけど、同時に残念だと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 S2CAは絶唱を束ねて放つ、エクスドライブやイグナイトを除けばシンフォギアの最大火力。それを欲しいと思ってしまうのは仕方のない事だと思う。特に、カルマノイズに苛まれている今は。

 

「しかし、あのエクスドライブを使うか絶唱を叩き込むしか対処法が無いとは……やはり、カルマノイズはそう簡単に倒せそうにないですね」

「でも、次は倒します。調ちゃんと協力さえできれば、確実に倒せそうですけど……」

 

 そう。調ちゃんと切歌ちゃんのユニゾンで周りの敵を蹴散らして、わたしと未来でS2CAを叩き込む。それが一番確実にカルマノイズを叩く方法だと思う。

 だけど、調ちゃんが協力してくれるか分からない。歩み寄って手は伸ばすけど、それを掴んでくれるかが……

 

「調にはキツく言っておきます。ですが、カルマノイズを目にしたあの子は……」

「仇、ですもんね……」

 

 でも、調ちゃんがあそこまで取り乱した理由が分かるからこそ、何も言えない。

 カルマノイズは、この世界のマリアさんとセレナちゃんと、そして切歌ちゃんの仇だ。暴走……ではないけど、それでも心の奥底にあるカルマノイズへの恨み辛みが爆発してしまったのは何もおかしい事じゃないし、仕方のない事だと思う。

 それに、今回の戦いでこの平行世界の問題を解決する糸口は見えた。

 それは切歌ちゃんと調ちゃんの和解。というよりも調ちゃんの中に燻っている当時から燃やしている復讐心を解消して切歌ちゃんの言葉で説得する事。そしてそれをしてからカルマノイズを倒すこと。これが、この問題の解決。

 

「最悪の場合、わたし達だけでカルマノイズは何とかします。ですから、今は調ちゃんのメンタルの方を何とかしたいんです」

「調には、あんな表情似合わないデス。あんな、怒り狂った顔と言葉なんて……」

「それは同感です。まだ十六歳の子供にあんな顔、させるべきではない」

 

 でも、それも仕方のない事だと思う。

 調ちゃんの顔は。カルマノイズを目の前にした時の顔は、かつて見た奏さんがノイズへ向ける憎悪の顔と似ていた。翼さんを奪ったノイズへの怒りと憎しみから成った顔。

 あの時はみんなで何とか奏さんの心をほぐした。でも、今回は多分、切歌ちゃんにしかそれはできない。

 だから、切歌ちゃんに託す。今回ばかりは、わたしじゃなくて切歌ちゃんの手を繋ぐ方が効果的だと思うから。

 

「じゃあ、あたしは調の所に行ってくるデス」

「……拒絶されるかもしれませんよ?」

「大丈夫デス。だって、あたしは調の事が大好きで、調もあたしの事が大好きデスから」

 

 笑顔でそう言う切歌ちゃんと共にわたし達もナスターシャ教授に一つ礼をして一緒に調ちゃんの部屋へと向かう。

 相変わらず暗い独房が調ちゃんの部屋。部屋とも呼べない程だけど……でも、それを部屋だと調ちゃんは言っている。

 

「……調も、こんな所嫌な筈デス。だって、調は寂しい、暗い、助けてって……ずっと、言ってたんデス」

 

 切歌ちゃんの持った鍵が独房の鍵を開ける。

 そして重い扉を開けると、そこにはやっぱり布団を被ったまま部屋の隅で蹲っている調ちゃんが居た。こちらをそれだけで殺せそうな程鋭い目付きで睨みつけながら。

 精神の同調。それがわたし達の世界の調ちゃんと、この調ちゃんとで起きている。わたしはそのせいで命の危機すらあった。ずっと助けて、手を握って、一人にしないでと思い続けていた平行世界のわたし。言葉では否定するけど、でもこうして平行世界に異常が出ている以上、この調ちゃんもそう思っているはず。助けて。一人は嫌だと。思っているはずだから。

 

「調、さっきはお疲れ様デス!」

 

 そんな調ちゃんに切歌ちゃんはいつも通りの声色で話しかける。

 でも調ちゃんは何も言わない。言い返さない。ただこちらを睨みつけてくるだけ。だけど、切歌ちゃんはそれを気に留めない。気にしない。気に留めず気にしないようにしながら歩み寄っていく。

 

「あたし達の世界はノイズはもう出てこないから、ちょっと緊張しちゃったデスよ! でも、やっぱり調が居てくれると心強いデス!」

 

 そう、これは切歌ちゃんの本心。まぎれもない本心。笑顔も、声色も。全部が全部本音を語っている。

 でも調ちゃんは何も答えない。流石の切歌ちゃんの目も若干泳いでしまった。

 

「そ、そう……いえば! こっちのマムもなんやかんやで優しいデスな! あたし達の世界のマムも、普段は厳しかったけど優しかったんデスよ!」

 

 今更だけど、調ちゃんにわたし達は平行世界の装者だという事は既に伝えてある。切歌ちゃんも、平行世界の切歌ちゃんなんだってことも。

 でも、調ちゃんは何も言い返さなかったらしい。ナスターシャ教授が言っていた事だから、わたし達が確認したと言うわけではないんだけど、それでも調ちゃんは何も言い返さなかったらしい。切歌ちゃんが紛れもない本人だと言っても。

 

「こ、こんな所に居たら頭の中も心の中も真っ暗なままデス! ちょっとあたし達と一緒にお散歩でもどうデスか?」

「……」

「……あ、あのー」

「……不快」

「へ?」

 

 切歌ちゃんがヘルプを出すかのようにこちらへ視線を投げ飛ばした直後だった。

 調ちゃんは不意に立ち上がって、目付きを変えないまま切歌ちゃんに掴みかかった。思わずわたし達が引きはがそうとしたけど、それを切歌ちゃんが手で制した。

 

「し、調。ちょっと苦しいデスよ」

「うるさい。うるさい、うるさいうるさいうるさいッ!!」

 

 初めて調ちゃんがわたし達に対して声を荒げた。わたし達三人が一歩退いてしまう程の、憎しみに包まれたとしか言えない声はあの調ちゃんから出た物だとは到底思いたくはない物だった。

 

「切ちゃんはもう死んだ! なのに切ちゃんの顔と声でさっきからずっと……望んでもないのにずっと!!」

「た、確かにそうデスけど……でも、平行世界の調も調デス。放っておくわけには……」

「本心ではそんな事微塵も思ってない癖に!! それに、ただの同情と哀れみでわたしに話しかけるな!! 不快にも程がある!!」

 

 切歌ちゃんが突き飛ばされてしまい、わたしと未来で切歌ちゃんを受け止める。

 息を荒げながらこっちを睨む調ちゃんは、今にもこっちを刺し殺しに来そうな程だった。

 

「切ちゃんの顔と声でこっちに声をかけるな!! 同情と哀れみの目線でこっちを見るな!! お前らの事なんか知らない!! 知りたくもない!! お前はわたしの知ってる切ちゃんじゃないし、そこのお前もガングニールなんて持っているけどマリアじゃない!!」

 

 叫びながら、調ちゃんが切歌ちゃんごとわたし達を部屋から押し出す。その細い腕のどこにそんな力が、とは思ったけど、それでもわたしの力には及ばない。

 だけど、それを受け止め続ける気概がなかった。同情や哀れみを感じていなかったと言ったら嘘だし、わたしのガングニールはマリアさんの物だ。この世界には居ないマリアさんの。それを見てマリアさんを思い出さないわけがないし、調ちゃんにとってはもう死人である切歌ちゃんが成長して目の前に現れるという事が、喜びを感じさせるだけで終わらせないのは奏さんの例で知っていた。

 なのにズケズケと調ちゃんのパーソナルスペースに入ってしまったのは、わたしの落ち度だ。ちょっとへこむ。

 だから、抵抗はしない。切歌ちゃんも、未来も。

 

「もう二度とわたしに顔を見せるな!! もう二度と……もう二度と来るなッ!!」

 

 叫びながら、わたし達を部屋の外へと追い出した調ちゃんは、そのまま独房の扉を乱暴に閉じて内側から鍵をかけた。

 奏さんの時には感じなかった、圧倒的な拒絶。手を差し伸べる余裕すらないソレに、どうしたらいいのか。さっきまで思い浮かべていた計画が全部飛んでしまった。

 

「……泣いていたデス」

「へ?」

 

 だけど、切歌ちゃんが口を開いた。

 

「調、泣いてたデス」

 

 泣いていた。

 そう言われて思い返すと、確かに調ちゃんの目尻には少しだけ水滴があったようななかったような……

 

「きっと、口では拒絶しているけど、きっと心では思ってるんデスよ。助けてほしいって。ここから出してほしいって」

「切歌ちゃん……」

「……あたしはまたここに来るデス。でも、響さんと未来さんは来なくても平気デス。何とか調をここから出してみせるデス」

 

 そう言われると、止める気なんて起きない。

 きっと、ここは切歌ちゃんに全部任せた方がいい。わたし達が余計な口を挟むのはナンセンスだ。だから、切歌ちゃんに後は頼んだよ、とだけ告げる。切歌ちゃんが大きく頷き、とりあえずは経過を見ようと思った矢先、調ちゃんからの「うるさいッ!!」という叫び声と、内側から扉が蹴られた音でわたし達を三人が同時に飛び上がったのは言うまでもない。

 

 

****

 

 

 大体平行世界に来てから二日が経った。

 その間、わたしと未来は交代でだったり同時に元の世界に戻って近況を報告したり、必要な情報を交換していたりするんだけど、やっぱりあの調ちゃんはかなりの難敵で、マリアさんですらどうしたらいいのかアドバイスができなかった。マリアさんはセレナちゃんの死を何とか割り切れた人だから……多分、まだ死を割り切れていない調ちゃんに対してどんなことを言えばいいのか分からなかったんだと思う。

 そしてわたし達の世界の調ちゃんは、やっぱり容体が安定しないようで、ずっと眠っている。ほぼ常にうなされていて、助けて、暗い、誰かってずっと言っているらしい。

 でも、平行世界の調ちゃんは切歌ちゃんに心を許してくれていない。それどころか、この間はどこから持ってきたのか分からない水をぶっかけられていた。一応、何かあった時のために切歌ちゃんが部屋に入るところが見える位置にいるんだけど、水の音が聞こえた時は何事かと思ったよ。

 そんな感じで手荒い歓迎を受けても切歌ちゃんは笑っていた。笑って調ちゃんと接しようとしていた。上手くいかないと分かっていても切歌ちゃんはずっと手を伸ばしていた。そんな日の事だった。

 

『ノイズが現れました。至急、対処の方をお願いします』

「分かりました。未来、行こう」

「うん」

 

 平行世界に戻ってきたばかりのわたしと未来への出動要請。もちろん断る事はせず、未来と一緒に現場へ向かう。

 道中で切歌ちゃんと合流したけど、調ちゃんは真っ先に行ってしまったらしく、先に現着しているとか。急いでわたし達も現場へと向かった。

 その先では既に調ちゃんがチェーンソーを片手に戦っていた。ずっと一人で戦ってきたからか、その戦い方は洗練されていると言えたけど、同時に少し危なっかしいと思わせるような戦い方だった。

 見ていられないという訳じゃない。でも、このまま見ておくのは性に合わないというのはあるし、何よりも任務として承ったんだからやらなきゃいけない。首からぶら下げたガングニールを握り歌う。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Zeios igalima raizen tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 聖詠。同時に一瞬で服が格納されて代わりにギアが展開される。

 拳を握って調子を確かめてから、比喩でもない一番槍としてわたしがバンカーを展開し、歌いながらノイズの中に突っ込む。その後を切歌ちゃんが続き、未来が空中からビームの雨をお見舞いする。けど、調ちゃんはそんなわたし達から距離を取りながら戦う。あくまでも非干渉を貫こうとしている。

 切歌ちゃんに歌いながら目線を合わせると、切歌ちゃんは調ちゃんの方へ行くと目線で合図してきた。なら、行かせるしかない。

 バンカーを展開して構える。

 

「燕撃槍ッ!!」

 

 そして放ったエネルギーが調ちゃんの所までの道を作り、切歌ちゃんがその道を埋めるように迫ってくるノイズを切り裂きながら調ちゃんの方へと向かう。

 

「調、援護するデスよ!!」

「……」

 

 鎌を振り回しながら調ちゃんの元へと辿り着いた切歌ちゃんだったけど、調ちゃんはそれを無視する。分かっていた事ではあるけど、やっぱり切歌ちゃんの表情はどこか暗い。重ねてきた時間が違う同一人物だからこうなるのは分かってはいるけど、でも調ちゃんからここまで歓迎されてないオーラを出されてしまっている以上、やっぱり辛いんだと思う。わたしも、平行世界の未来とかからこんな事されたらご飯が喉を通らな……通ら……通るんだろうけど、食べる量は減ると思う。タブン。

 

「響……」

 

 なんか読心でもしたのか、また未来が可哀想な物を見る目で見てきたけど気にしない。気にしないったら気にしないんだ!! だって可哀想な物を見る目で見ても最後はわたしと一緒に居てくれるのが未来だから!!

 

「とりあえず、未来! 早くノイズを片付けるよ!!」

「うん! 切歌ちゃん、そっちはお願い!」

「大丈夫デス! だってあたしと調は無敵デスから!」

「……チッ」

「し、舌打ち……」

 

 や、やっぱりこっちの調ちゃんは中々の堅物だなぁ……あはは……

 でも、この程度のノイズだけならコンビネーションが取れなくても全然戦え……っ!?

 

『皆さん、注意してください! 今、そこにカルマノイズの反応が――』

「いえ、もう遅いです。目の前に……カルマノイズが」

「それも……二体ッ!」

 

 思わず息を呑んだ理由。

 それは、カルマノイズが二体も目の前に現れたからだ。タダでさえ強いカルマノイズが二体。流石に二体ものカルマノイズを相手するのは久しぶりだ。初めて二体以上のカルマノイズを相手したのは奏さんの世界でだけど、それでも二体のカルマノイズを一度に相手するのは骨が折れるどころの話じゃない。S2CAを二体に効率よく叩き込むか、二回使うか……誰かをエクスドライブモードにして戦うか。その三択になる。

 一番最後は現実的じゃない。だから、S2CAを叩き込むぐらいしか、勝算はない。囲んで殴れば倒せない事もないんだけど……大抵そういう時ってその状況に合った心象変化ギアが必要になってるから、S2CAを使うのが一番現実的だ。

 

「切歌ちゃん、調ちゃん! なんとかここでカルマノイズを――」

「死ネェェェェェェェェェェッ!!」

 

 わたしが一応の指示を出してS2CAを使うだけの隙を作ってもらおうとした矢先。調ちゃんが叫びながらカルマノイズの元へと飛び込んだ。やっぱり、あの調ちゃんはカルマノイズを見ると飛び道具になっちゃう……!

 ここでカルマノイズ二体と調ちゃんを戦わせちゃだめだ。いくら戦闘センスがあったところで単体の性能と数の差でシンフォギア装者は勝てない……!! しかもカルマノイズ二体組は六人の装者を倒せるほどのポテンシャルを持っているから、とてもじゃないけどエクスドライブじゃない装者じゃ相手にならない!

 

「未来、ここで一発S2CAツインブレイクを!」

「駄目だよ! 周りにノイズもいるし、何より今カルマノイズに向かって撃ったら調ちゃんを巻き込む!」

「だったら、周りのノイズをS2CAで消し飛ばしてからカルマノイズに!」

「そんな事したら響の体が持たない!!」

 

 くっ……確かに、わたしはまだガングニールと神獣鏡のバックファイアを受け止めれるほど、S2CAツインブレイクType-Mには慣れていない。一番慣れているのは翼さんとクリスちゃんとのS2CAトライバーストだけど、ここには翼さんもクリスちゃんもいないから……それに、ツインブレイクじゃ威力的にカルマノイズ二体を同時に消し飛ばせるかすら怪しい。

 八方塞がり、という訳じゃない。ここでカルマノイズを一旦見逃すという手も十分にあるけど、次にノイズが現れる場所が市街地のド真ん中とかだったら、犠牲者が出てしまう。

 そんな悲しみの連鎖……ここで断ち切らないと!

 

「だったら、無理矢理ノイズを蹴散らしてカルマノイズに直接トライバーストを叩き込む! 切歌ちゃん! 絶唱直後に調ちゃんの回収だけお願い!!」

「了解デス! 調が危険デスから、とっととノイズを蹴散らすデス!」

 

 すぐに切歌ちゃんと合流して三人で背中を合わせ、わざとわたし達を囲ませる。普通なら絶望的な状況ではあるけど、瞬間的に火力を叩き出して残りの敵を一掃するなら、囲まれていた方が逆に手数が減る場合もある!

 

「行くよッ! 星流撃槍ッ!!」

「ハッ! 阿rアJぃんッ!!」

「煉獄ッ!!」

 

 わたし達の攻撃がノイズを一気に蹴散らしていく。包囲していたから、三人で一気に分散して三方向に突っ込んでなるべくの範囲攻撃でノイズを一掃する。その作戦はなんとか成功して爆発や煙、そしてビームの跡には少数のノイズが残るだけになった。

 この数なら、S2CAができる! すぐに三人でまた集まり、即座に手を繋ぐ。

 

『Gatrandis babel ziggurot edenal――』

 

 わたし達を中心に虹色のフォニックゲインが渦巻く。やっぱりS2CAは今のわたしには負担が大きい……でも、これを決めないとカルマノイズは倒せない。だからこの程度、へいきへっちゃら!!

 

『Emustolinzen fine el――』

「ぐ、あぁ!!?」

 

 そう思った矢先。調ちゃんがカルマノイズに競り負けて吹き飛ばされた。

 しまった、流石の調ちゃんもカルマノイズを相手にしたら負けるに決まっている……! なのに放っておくなんて……!!

 どうしたら……! 今手を離すとS2CAは……!!

 

「くっ、この……がっ!?」

 

 そう思った矢先、カルマノイズの触手みたいなものが調ちゃんの首に巻きついて、そのまま宙づりにされてしまった。あれじゃあ歌も歌えないし絶唱もできない……! これじゃあ嬲り殺しにされちゃう……!

 

「っ……もう、我慢ならんデス!!」

 

 そう思った矢先、切歌ちゃんが手を離して調ちゃんの方へと走っていった。

 でも、これで調ちゃんの安全は確保できるし、こっちは早くS2CAを……!

 

「でりゃっ!!」

「っ……げほっ!!?」

 

 切歌ちゃんの鎌が調ちゃんの喉を締め付けていた触手を切り裂いて、そのままノイズ達を吹き飛ばしながら肩のアーマーから伸びたワイヤーでノイズを拘束する。よし、これなら時間稼ぎができるはず!!

 今のうちにこっちもS2CAを……!!

 

「調、だいじょうぶ――」

「うるさい!! 余計なお世話をするな!!」

 

 だけど、調ちゃんは助けた切歌ちゃんを跳ねのけて、チェーンソーを手にもう一度走り出した。

 その直後だった。カルマノイズの拘束が一瞬にして破壊され、ブドウ型のカルマノイズが全身のブドウのような物を大量に発射したのは。

 

「あっ……」

 

 その先には、一直線に駆けていく調ちゃん。

 思わずわたしと未来が手を離して走ろうとした時だった。

 

「まったく、調はあたしが居ないとダメなんデスから」

 

 そう言いながら、調ちゃんが走るのをまるで予期していたかのように横から調ちゃんを突き飛ばした切歌ちゃんがいた。防御は間に合わないと、鎌すら手放して両手で調ちゃんを真横に押し出した切歌ちゃんは笑顔で横へと飛んでいく調ちゃんを見ていた。

 そんな切歌ちゃんを見た調ちゃんは、手を伸ばしていたんだと思う。咄嗟の反射だったのか、それとも切歌ちゃんの思いが通じたのか……それはわからないけど、ただ調ちゃんは切歌ちゃんに手を伸ばしていた。

 直後、ブドウの爆発が切歌ちゃんを飲み込み、切歌ちゃんの小さな体が空を舞った。

 アーマーはボロボロになって砕け散り、ところどころが裂けたインナーからは血が舞っている。

 

『っ……Emustolronzen fine el zizzl!!』

 

 でも今は! この拳を切歌ちゃんの代わりに叩き込むしかできない!!

 

「S2CAツインブレイクType-Mッ!! これでぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 今から接近する時間はない!! このまま遠距離でS2CAを叩き込むッ!!

 

「とど、けぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ドッキングさせたバンカーを備えた右手を思いっきり引き、その場で殴り抜く。

 直後に発生した虹色の竜巻がわたしの目の前を一気に蹂躙しながら進んでいく。だけど、直接それを叩き込めなかった分、威力は減衰してしまい、結局カルマノイズを完全に粉砕しきる事はできなかった。

 二発目のS2CAの失敗。一週間というスパンを置いたけども、S2CAのバックファイアはわたしの体を蝕んでいく。ギアが強制的に解除され、膝を付いてしまうけど、カルマノイズは体の八割を消し飛ばしたのにも関わらず生き残り、そして消えていった。

 

「響! 今すぐ施設に……」

「わたしよりも、切歌ちゃんを!! わたしは暫くしたら自力で戻れるから……だから、切歌ちゃんをメディカルルームに!!」

「わ、わかった!!」

 

 未来がギアが解除されて、全身から血を流す切歌ちゃんを抱えて全速で施設の方へ戻っていくのを見てから、わたしは突き飛ばされた調ちゃんの方へと向かう。

 戦意が喪失してしまったのか、ギアが解除されて自分の体を抱きしめながら座り込む調ちゃんに対する怒りはない。でも、言いたい事はあった。

 

「調ちゃん」

 

 立ち上がって近づいて、わたしが声をかけると調ちゃんは全身を一度震わせた。

 

「ち、ちがっ……わ、わた、し……そんなつもり……」

 

 もしあれで庇う事が当たり前。それが普通だって言わんばかりの態度をしていたら流石のわたしも怒った。でも、調ちゃんはそんな事していないし口にしていない。自分のやったことに後悔している。だから、わたしは怒らない。自分で自分を責めているのだから、それ以上の責めをわたしはしない。

 

「調ちゃんにとって、あの切歌ちゃんは確かに調ちゃんの知る切歌ちゃんじゃないよ。でもね、切歌ちゃんは世界が変わっても、どんな世界でも、調ちゃんの事が大切なんだよ。だから、受け入れてとは言わないよ。でも、信じてあげて。あの切歌ちゃんは、調ちゃんを助けるためにここに来たんだって」

「きり、ちゃんが……」

「わたし達の事は信じなくてもいい。体のいいコマだと思ってもいい。囮にしてもらっても構わない。でもね、切歌ちゃんだけは信じてあげて。それが、今の調ちゃんのためにも……切歌ちゃんのためにもなるから」

 

 わたしは背中を向ける。

 きっと、この言葉で調ちゃんは変わってくれる。そう信じているから。調ちゃんの根は、どうしようもなく切歌ちゃん思いのいい子なんだって、わたしは知っているから。

 

「手を繋ぐにはね、互いが手を差し出さなきゃダメなんだよ。でも、少しでも。一センチでも、一ミリでも、それ以下でも、手を伸ばせば切歌ちゃんはその手を掴んでくれる。調ちゃんは、伸ばされた手をどうしたい?」

「……で、でも……あの切ちゃんはわたしの知っている切ちゃんじゃない……切ちゃんは、あのノイズに……」

「だとしても、だよ。わたし達は、調ちゃんを助けに来たんだ。叶うはずのなかった奇跡を起こしに来たんだよ。もう二度と会えないと思った切歌ちゃんと、別の時間を歩んだとしても調ちゃんの事を、この世界の調ちゃんも助けたいと思う切歌ちゃんと会えたんだ。それを偽りだと、幻影だと言うのならそれでもいいと思う」

 

 だとしても。

 

「切歌ちゃんの調ちゃんを思う心だけは、本物だから。それだけは、覚えておいてね」

 

 未来が平行世界のわたしを助けたように。

 わたしが平行世界のシャロンちゃんを助けたように。

 切歌ちゃんも、平行世界の調ちゃんを助けたいんだ。そこに打算なんてない。ただ、調ちゃんを助けたい。この一心で切歌ちゃんはここまで来たんだ。

 切欠はわたし達の世界の調ちゃんでも、今はこの世界の調ちゃんを助けたいと思っている。そうやってわたし達は平行世界で歌ってきたんだ。正義を信じて、手を繋いできたんだ。

 

「……」

 

 きっと、今まで調ちゃんの中では切歌ちゃんは、同じ顔と声を持った完全な別人だと割り切っていたんだと思う。

 でも、そんな切歌ちゃんが笑顔で調ちゃんを助けた。身代わりになった。

 それに調ちゃんは揺れた。発破もかけた。後は、調ちゃん次第。




もうちょっとしっかりとストーリーを構成できて、もっとしっかりと文章にできたらと、自分の力不足を痛感しております……

とりあえず今回は特に解説事項はありません。
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