月読調の華麗なる日常   作:黄金馬鹿

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今回で月読調の華麗なる平行世界は最終回です。しっかりとシンフォギア特有のハッピーエンドへ向けて一直線。最短で、最速に、真っ直ぐに、一直線に突き進みます。

前回、切ちゃんが自分を庇った事で錯乱した調ちゃん【IF】。その調ちゃんが本心ではどんな事を思っていたのか。それを今回で明かし、そして和解し、ハッピーエンドへと向かいます。

それでは、どうぞ。


月読調の華麗なる平行世界・後

 はじめは、何の冗談だと思った。

 わたし(調)の前に、死んだはずの切ちゃんが現れた。思わず声を出すのを忘れて、切ちゃんを見ていた。バイザー越しに、わたしと同い年くらいに成長した切ちゃんを。

 でも、違うと思った。あれは切ちゃんじゃない。きっと同じ姿をしただけの、別人だって。そう思った。

 もう心を殺すと誓った。悲しみを味わう事なんてしたくないから、塞ぎこんだ。マムも職員の人も、みんな拒んで。そうして五年以上生きていた。その矢先に、切ちゃんに似た誰かは現れた。

 だけど任務を優先しようと、わたしは三人の前に躍り出た。

 

「調……」

 

 そして聞いた切ちゃんの声は、未だに記憶の奥底にこびり付いている切ちゃんの物と同じだった。

 

「きり、ちゃん……」

 

 思わず殺した心が蘇ってきそうになった。

 でも、それを抑えて堪えて、わたしは任務を全うした。そしてマムと三人の会話を聞いて、あれは平行世界の切ちゃんなんだってようやく理解した。もしかしたら切ちゃんは、わたしを助けるためにこの世界に来たんじゃないかって、そう希望を持ってしまった。

 だけど、マムからこっそりと繋いでもらって通信を聞いて、絶望した。違った。

 

「でも調は助けてを求めてるデス! 助けを求めたからこそ、わたし達の世界の調は何度も助けて、辛い、怖いって! 伸ばしてくれる手を求めているんデス!」

 

 切ちゃんの目に映っているのは、わたしじゃない。

 切ちゃん達の世界に生きているわたしだった。

 羨ましい、憎い、妬ましい。そんな感情が牢獄の中のわたしの心に渦巻いた。

 どうせわたしなんて、どうでもいいんだ。ただ、平行世界のわたしを助けるためにわたしを利用するに過ぎないんだ。切ちゃんも、どうせわたしの事を見てくれない。切ちゃんに似た、赤の他人だって。そう割り切った。割り切れた。

 だから、拒絶した。

 嫉妬心と、憎しみと。でも、平行世界のわたしへの大きな嫉妬で。わたしみたいに暗闇の中ではなく光の下で切ちゃんと笑いあえる平行世界のわたしの記憶に。

 どうしてか、あの三人が来てから流れ込んでくる変な記憶。それが平行世界のわたしの記憶だと理解するのに苦労はいらなかった。でも、だからこそ。だからこそ、あの人達は平行世界のわたしを大切な仲間だと思っていて、その仲間を助けるためにわたしに声をかけたのだと思い込んで、再び心を殺した。確か、水をぶっかけたのもその辺り。

 あの黒いノイズが現れて、あの三人は変な力を使った。でも、関係ない。あれはわたしの獲物だ。わたしが倒さなきゃいけない、切ちゃんとマリアとセレナの仇だ。だから、わたしが殺す。わたしが倒す。

 そうやって、三人の力を借りずに戦うと決めて、戦って。

 二戦目に、それは起きた。

 

「まったく、調はあたしが居ないとダメなんデスから」

 

 そう言って、切ちゃんに似た人は、わたしを庇った。

 でも、どうしても。どうしても切ちゃんに似た人の笑顔は、どうしようもなく切ちゃんだった。声も、笑顔も。全部が切ちゃんで。どうして庇ったのか。どうしてもっと戦わせないのかと怒りを持った矢先、切ちゃんの笑顔は吹き飛んだ。

 血と金属をまき散らしながら吹き飛んだ切ちゃんは、あの時の炭になった死に方とは違う。でも、吹き飛ぶ直前に見た切ちゃんの笑顔と、どうしようもなく同じで。

 

『心配だなぁ……調は、あたしが居ないとダメなんデスから……』

 

 そう言いながら目の前で炭になって死んでいった切ちゃんの笑顔と、同じ。それがわたしの心に直接攻撃をしてこないわけがなかった。

 守られてばかりで、一人じゃ何もできなくて。罵られて馬鹿にされて足手まといだと軽蔑されてもおかしくない行動ばかりを繰り返してきたわたしを、庇った。庇う価値なんて……あの切ちゃんの一番である月読調じゃないのに、こんな救いようのない月読調を庇った。

 そんなつもりはなかった。庇ってもらうなんて、傷つけてしまうなんて。ただ、放っておいてほしかった。

 あの切ちゃんにとっての月読調は、わたしじゃない。わたしを助けるためじゃなくて平行世界のわたしを助けようとしているだけだから。また傷つくのが目に見えていたから。

 でも、現実は違った。切ちゃんはわたしを助けてくれた。こんな救いようのないわたしを。

 そんなわたしにガングニールの人が近寄ってきた。

 絶唱のバックファイアで体が限界な筈なのに。ゆっくりと。確かに自分の足で歩いて。

 

「ち、ちがっ……わ、わた、し……そんなつもり……」

 

 わたしの名を呼んだガングニールの人に対して出た言葉は、情けない言葉だった。

 殴られても仕方ない。怒鳴られても仕方ない。でも、あの人はそんな事をしなかった。仲間を盾にされたのも同義な筈なのに、わたしを怒鳴りつける事も、胸倉を掴んで投げるようなことも。わたしが今日までにやった失礼な行為に対する仕返しの何一つもせずに。声をかけてくれた。

 

「調ちゃんにとって、あの切歌ちゃんは確かに調ちゃんの知る切歌ちゃんじゃないよ。でもね、切歌ちゃんは世界が変わっても、どんな世界でも、調ちゃんの事が大切なんだよ。だから、受け入れてとは言わないよ。でも、信じてあげて。あの切歌ちゃんは、調ちゃんを助けるためにここに来たんだって」

 

 あの切ちゃんは、わたしの知っている切ちゃんじゃない。

 でも、あの切ちゃんの知っている月読調は、わたしじゃない。なのに、切ちゃんに似た人はわたしを守った。死んじゃうかもしれないのに。元の世界の人にその死因を知られる事無く死んじゃうかもしれないのに、その身で庇った。

 あれだけ失礼な事をして、あれだけ拒絶して、あれだけ拒否したわたしの手を掴もうと。わたしを助けたいと願って、その身を犠牲にしようとした。

 

「切歌ちゃんの調ちゃんを思う心だけは、本物だから。それだけは、覚えておいてね」

 

 分からない。

 どうしたらいいのか分からない。

 分からないよ、切ちゃん……

 わたしは、どうしたらいいの? 伸ばされた手を掴む方法なんて、分からないよ……切ちゃんがいないと、何もできないよ……

 助けて。助けてよ……ここは暗くて、寒くて、寂しいよ……

 だから、切ちゃん。

 わたしを助けて……

 

 

****

 

 

「切歌の命に別状はありませんでした。ですが、今回の件はわたし達の楽観視が招いた事態です。なんとお詫びすればいい事か……」

「い、いえ、そんな頭を下げないでください! これは誰のせいでもないですから!!」

 

 帰還してから真っ先にナスターシャ教授はわたしと未来に頭を下げてきた。

 調ちゃんは自力で戻ってからすぐに自室に閉じこもってしまったようで、あれから顔を見ていない。そして切歌ちゃんの方はあれだけ派手に吹き飛んだけど、ダメージ的には大した事はないらしく、明日には目を覚ますだろうとの事。

 傷も派手に血は流したけど、この施設の設備なら傷跡も残さず直せるらしく、目を覚ます頃には大きな傷以外は大体塞がっているし、大きな傷も小さな傷にはなっているだろうって。でも、それをしてしまったのは自分たちの責任だからとナスターシャ教授は頭を下げている。多分、車椅子が無かったら土下座してるんじゃないかと思う程、頭を下げている。

 正直、そこまでされるとこっちが申し訳なくなる。だって、今回の件は誰も悪くない。悪いのはこんな事態にしたカルマノイズだから。

 

「と、とりあえず! 次こそはちゃんとS2CAを叩き込んでしっかりとカルマノイズを撃破します!! 任せてください!!」

「ですが……あなたはもう二度も絶唱を」

「二回の絶唱なんてちょろいですって!! むしろ口と目と耳から血を流さないだけ余裕ですよ余裕!! それに腕も食われてませんから全然余裕のよっちゃんですから!!」

 

 ガングニールの破片が刺さったり、暴走したり、デュランダル握った時に比べればこの程度のバックファイアお茶の子さいさい……あれ? わたし、案外自分の体を大切にしてない……?

 しかもナスターシャ教授、若干引いてない? そ、そうですか……って言いながらなんだか引いてない?

 大丈夫? これ、わたしが頭可哀想な子だって思われてない?

 

「それは元からだから安心して」

「それなら安心……あれ? とうとう未来から直接罵倒された? わたし、サラッと罵倒された?」

「罵倒じゃないよ、馬鹿にしたんだよ」

「未来がいじめるぅ!!」

 

 最近嫁の言葉のトゲが太すぎますです……

 

「そ、それでですが……調の件は、もうどうにもならないかもしれませんね」

 

 ナスターシャ教授は一旦話を区切ると、調ちゃんの話題を出してきた。

 多分、もうこれ以上はどうしようもないだろうってナスターシャ教授は思ってしまったのかもしれない。未来も、若干暗い顔を浮かべている。

 でも、違う。わたしにとっては、違う。

 

「いえ、あと少しです」

「あと少し、ですか?」

「もう一つ。もう一つ切欠があれば、きっと調ちゃんは手を伸ばしてくれます」

 

 今の調ちゃんは、きっと助けを求めている。その言葉を、発し始めた。

 だから、後は調ちゃんに一つ切欠があれば、わたし達は……ううん。切歌ちゃんは調ちゃんの手を掴む事ができる。だから、あと少し。

 

「大丈夫です。きっと、調ちゃんは何とかなります」

 

 だって、とわたしは付け加える。

 

「ここには誰よりも調ちゃんの事を知っていて、大好きな切歌ちゃんが居るんですから」

 

 だから、調ちゃんを助けられないわけがない。

 それに未来が頷いて、ナスターシャ教授が困ったような表情を浮かべた後に一つ笑って、頷いた。

 

「そうですね。あの子を誰よりも分かっているのは私達ではない。切歌でしたね」

「はい! 切歌ちゃんは、調ちゃんの事なら世界一。いや、宇宙一ですから!」

 

 だから、きっと大丈夫。

 へいき、へっちゃら!!

 ――とは言っても。

 流石に絶唱のバックファイアはきっつい。強がって一人で立っていたわたしだけど、その後は結局当てられた部屋に戻ってベッドに倒れてそのまま爆睡。そして起きてから用意されたご飯を大盛で食べて未来と一緒にシャワー浴びて、映画を一本見てからもう一回爆睡。

 そして元気百倍! 昨日より元気!!

 

「響ったら、どこまでも響なんだから」

 

 ……それ、馬鹿にしてます?

 

「褒めてるんだよ」

 

 ならよかった!

 ご飯食べて映画見て寝ればわたしは復活するからね。師匠もそれで十分だって言ってたし!

 うん、体の調子はすこぶるいい! これならカルマノイズ相手でもタイマン張れちゃいそう!!

 

「全く、調子いいんだから」

 

 えへへ。

 でも、復活したのは事実。じゃあ、昨日はできなかった定期連絡でもしに行こうかな。流石に切歌ちゃんが大けがしたのにそれを報告しないのはマズいと思うし。

 それに、わたし達の世界の近況も知っておきたい。もし、あっちにもノイズとカルマノイズが現れているのなら、あっちの援護に行かないといけない。流石に装者が三人。それもマリアさん、翼さん、クリスちゃんっていう頼れる三人がいるとしても、心配な物は心配だから。

 さて、そうと決まればすぐに――

 

『すみません、ノイズが現れました。至急出撃をお願いしたいのですが……』

 

 おおう……

 フラグ建てちゃったかなぁ。っていうか、ナスターシャ教授が昨日の今日だからか流石に申し訳なさそうな声色で報告してきた。何もそんな声出さなくても、言われれば止められても出撃するのに。

 未来と視線を合わせてから頷いて、通信機に声を出す。

 

「了解です。すぐに現場へ急行します!!」

『申し訳ありませんが、お願いします』

 

 さて、お仕事の時間! いっぱい食べて映画見ていっぱい寝たから、今のわたしは昨日のわたしより進化して強い! 負ける気がしないッ!!

 

『ッ……カルマノイズまで二体も出現しています! 無理はせず、危険だと感じたら即撤退してください! これはあなた達の命を預かった私からの命令です!!』

 

 ……わたし、フラグ建てるのが上手いのかなぁ。未来も今までで数回しか見た事ないような凄い目でこっち見てきてるし。

 とほほ。なんで昨日の今日でカルマノイズ……流石に明日は休暇貰おうかなぁ……!!

 

 

****

 

 

 出撃命令を聞いても、わたし(調)は出撃しなかった。

 いや、できなかった。シュルシャガナを握っても、聖詠が思い浮かばない。きっと、わたしの心が揺れているから、シュルシャガナも力を貸してくれない。

 とうとうシュルシャガナにまで見限られてしまった。今までずっと力を貸してくれていたシュルシャガナまで。

 もうわたしには何も残っていない。慌ただしい施設の中をわたしは歩く。

 もうこんなわたし、生きている価値が無い。切ちゃんを失って、マリアを失って、セレナを失って。そして、施設の職員とマムからの信頼まで失って、そしてシュルシャガナの適合者としての資格まで失った。こんなわたし、生きている意味がない。

 そんなわたしが無意識のうちにたどり着いていたのは、メディカルルームだった。

 扉を開けると、そこには点滴のチューブを腕から伸ばして未だに眠っている切ちゃんがいた。わたしのせいでこんなに痛々しい姿になってしまった切ちゃんが。

 近くにあった椅子に座って、そっと切ちゃんの手を握る。せめて、生きている切ちゃんの温かさに触れたかった。

 

「切ちゃん……きりちゃん……っ!」

 

 わたしが変な意地を張ったせいで。

 変に切ちゃんを認めなかったせいで切ちゃんは傷ついた。

 ――本当は分かっていた。切ちゃんは切ちゃんで、平行世界の切ちゃんだとしても、わたしの知っている切ちゃんそのままなんだって。過ごした時は違っても、切ちゃんはどうしようもなく月読調が知っている暁切歌のままなんだって。でも、わたしがそれを頑なに認めず、拒絶した。

 そんな些細な意地のせいで、切ちゃんは傷ついた。

 

「ごめん……ごめん、なさい……!!」

 

 もっと早く切ちゃんと話せていれば。

 もっと早く、切ちゃんが伸ばしてくれた手を握ってくれれば。

 確かにあの時、切ちゃんは死んだ。でも、この切ちゃんはそんなわたしを助けに来てくれたんだ。平行世界を移動すると言う奇跡を成してまで、来てくれたんだ。なのにその奇跡を拒絶して……平行世界を跨いでまで来てくれた切ちゃんとちゃんと話せていたら、こんな事には……!!

 

「……まったく、しらべはほんとうに、あたしがついてないとだめなんですから……」

 

 ベッドの上に涙を落としながら手を握っていると、声が聞こえた。そしてすぐに、頭を撫でられた。

 顔をあげると、そこにはいつの間に目を覚ましたのか分からない切ちゃんが笑っていて、わたしの頭を撫でていた。

 記憶にある切ちゃんの笑顔と変わらない、暖かい笑顔を浮かべた切ちゃんが。

 

「きり、ちゃん……」

「やっと、デレてくれたデス……吊り橋効果、デスかね」

 

 変な事を言いながら、切ちゃんが上半身を起こした。痛々しい姿で、実際に体が痛んだのか切ちゃんの笑顔が少しだけ歪んだけど、切ちゃんはしっかりとこっちに笑顔を向けてくれている。わたしも知っている切ちゃんの笑顔を。

 

「……確かにあたしは、調の知っている暁切歌じゃないデス」

 

 笑顔のままわたしの頭を撫で、切ちゃんは優しい声色で話してくれる。

 

「でも、あたしが調を想う気持ちは、例え世界が違っても。平行世界の調でも、変わらないデス。だって、あたしは調の事が大好きデスから、平行世界の調も笑顔にしたいんデス」

 

 あぁ……そう、だ。

 切ちゃんは、ずっと口にしていた。平行世界のわたしだけじゃなくて、わたしも助けたいんだって。だけど、変に意地を張って、切ちゃんには平行世界のわたしがいるから、このわたしなんてどうでもいいんだなんて決めつけて。奇跡を拒んで、あり得ないもしもで傷つくのが嫌で嫌で。切ちゃんの必死な声を聞かないように耳を塞いで、伸ばされた手を振り払った。

 これ以上傷つきたくなくて、自ら傷をつけてその傷を本当の痛みだと思っていた。

 でも、切ちゃんはそれを丸ごと包んで癒してくれた。

 

「切ちゃん……ごめん、本当に、ごめんなさい……!! わたしが、変な意地を張って……伸ばされた手を振り払い続けて……!!」

「大丈夫デス。あたしは一度や二度、手を振り払われた程度じゃ気にしない程のお気楽デス。それは調も知っているデスよね?」

「……うん」

 

 切ちゃんは一度、わたしの手から手を離した。

 でも、切ちゃんはすぐにわたしに手を差し伸べた。

 

「調。あたしは確かにこの世界の暁切歌じゃないデス。でも、調を助けたいと思う気持ちは。調を想う気持ちは、この世界のあたしと変わらないんデス。だから……」

 

 切ちゃんの笑顔が、わたしの中の切ちゃんの記憶と重なった気がした。

 

「あたしは調を助けに来たんデス。調が助けを求めるのなら、この手を取ってほしいデス。この手を取ったなら、あたしがあんな暗い牢獄の中から調を出してみせますから」

「うん……うん!!」

 

 そして、わたしは差し伸ばされた手を取る方法が、ようやくわかった。

 こっちからも手を伸ばして、伸ばされた手を掴まなきゃダメなんだ。もう居ない人に、死にしがみついていたら何も解決しない。

 こっちの切ちゃんは死んだ。でも、全く同じ魂と心を持った切ちゃんが来てくれた。わたしにこの先生きるための答えを持ってきてくれたんだ。後ろじゃなくて前を向いて手を伸ばすという、当たり前の行為を教えるために。助けてもらうには、助けを求める手を伸ばさないとダメだという事を。

 

「さぁ、調。一緒に戦うデスよ。二つ揃ったザババの刃は無敵なんデスから!!」

 

 わたしは、前を向く。

 前を閉ざす暗闇なんて、いらない。

 だから、今襲ってきてるカルマノイズを倒して、マムに謝って、みんなに謝るんだ。

 マムから差し伸ばされ続けた手を取るために。死んでしまった切ちゃんやマリア、セレナが守ろうとしたこの世界を守るために!!

 

「行こう、切ちゃん!!」

「はいデス!」

 

 

****

 

 

「ぐあっ!?」

「きゃっ!?」

 

 わたしと未来をカルマノイズの攻撃が襲う。

 流石にカルマノイズ二体の攻撃は強烈で、二人だけじゃ手も足も出ないわけじゃないけど、防戦一方になってしまう。わたしも強がってはいたけど、絶唱のバックファイアが体の奥に残っていたのか、さっきから体が十分に動かない。

 これは、本気で撤退を考えないといけないかも。

 イグナイトが使えない強敵との戦闘がこれほど辛いと思ったのは初めてだよ……!!

 

「未来、せめて逃げる分の体力は残しておこう。これは、流石にマズいよ」

「そうだね……せめて、あの二人が来てくれたら……」

 

 うん。もし、切歌ちゃんと調ちゃんが来てくれたら……四人で戦えたのなら、戦況は一気に変わると思う。でも、流石にそんな都合のいい話が……

 

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんデスッ!!」

「これ以上好きにはさせない!!」

 

 ……あったね。そんな都合のいい話。

 

「イガリマ、現着デス!!」

「同じくシュルシャガナ、現着」

 

 見慣れた切歌ちゃんと、ギアの形状は変わらないけどバイザーがなくなってしっかりと目が見えるようになった調ちゃんが、そこには立っていた。

 それを見るだけで分かる。二人はちゃんと和解できた。調ちゃんは、伸ばされた手をしっかりと掴んだんだって。思わずわたしと未来も笑顔になる。そして切歌ちゃんと調ちゃんも、困ったように笑顔を浮かべている。

 二人は残っていたノイズを切り伏せてからカルマノイズを一旦吹き飛ばして距離を取ると、わたしの横に並んだ。

 

「響さん、S2CAをお願いするデス」

「S2CAを……ここで?」

 

 ……意図は分からない。

 でも、切歌ちゃんがそう言うのなら、わたしは信じる。

 

「わかった。じゃあ、手を繋ごう」

 

 わたしが切歌ちゃんと未来と手を繋ぎ、切歌ちゃんが調ちゃんと手を繋ぐ。

 

「えっと……ガングニールの人と、神獣鏡の人。今までごめんなさい。迷惑かけた分、今回は迷惑をかけないように戦います」

「大丈夫。へいき、へっちゃらだから」

「もう謝られるだけの理由もないからね。どうしてもって言うのなら、ここでわたし達と一緒にカルマノイズを倒そう?」

「はい! ここでみんなの仇を取ります!」

 

 切歌ちゃんと和解できただけで、それでいい。それ以上の事はいらないから、一緒に手を繋いで戦おう。

 そう言うと、調ちゃんは笑顔で偽善者め、と呟いた。わたし達三人でその笑顔に対してちょっと笑ってから、前を向く。そして、紡ぐ。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl――』

 

 その時だった。

 わたしの周囲に渦巻くフォニックゲインが、四つじゃなくて七つ(・・)に増えたのは。

 

「こ、これは……?」

 

 未来がその以上に気が付いて声をあげる。

 そして、調ちゃんは――

 

「きり、ちゃん……? マリアに、セレナまで……?」

 

 ――あぁ、そうだ。

 この歌は。三つ増えたこのフォニックゲインは、紛れもない。

 切歌ちゃんと、マリアさんと、セレナちゃんのフォニックゲインだ。

 

『やっと、前を向いたんデスね』

『本当に安心しました』

『だから、私達の全部を託して、逝けるわ』

『調、この世界を……あたし達が守りたかった世界を、守ってほしいデス』

「……うん、約束する。絶対に、この世界を守ってみせるよ」

 

 奇跡、だった。

 幻聴だと人は言うかもしれない。幻覚だと人は笑うかもしれない。

 でも、今。確実に調ちゃんの手の先には、この世界の切歌ちゃんと、マリアさんと、セレナちゃんが居る。三人が、共に歌っている。

 きっと、絶唱を歌いきれば消えてしまう意志。でも、調ちゃんは涙を流しながらも歌う。

 過去を受け入れ、前へ行くために。暗い昨日ではなく、光の明日へ羽ばたくために。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl――』

 

 だから!

 わたしは、奇跡を起こす! 起こしてみせる!!

 無茶で無謀だとしても!! 馬鹿にされようとも!!

 だとしてもと吠え続け、わたし達四人とこの世界を守りたかった三人のフォニックゲインを奇跡に変えてッ!!

 

「S2CA・セプテットバージョン!!」

 

 三人の魂が空へと昇っていく。フォニックゲインだけを残して。

 だから、わたしはそのフォニックゲインを束ねる。七つのフォニックゲインを束ね、それを二人へと向ける!!

 

「ジェネレイトッ!!」

 

 調ちゃんと切歌ちゃんのギアが空へ溶けていく。いや、再構築されて行く。

 これが、わたし達の絶唱……いや、わたし達の起こす奇跡だ!!

 

「エクス、ドラァァァァァァァァァァイブッ!!」

 

 空へと虹が昇っていく。

 わたしが起こした虹の竜巻は、三人の魂の道となって空を駆け、そして空へと昇っていった二人は虹の竜巻の中をゆっくりと降りてくる。

 そして、虹の竜巻が内側から爆ぜ、二人が姿を現す。

 

「……ありがとう。マリア、セレナ……切ちゃん。わたしはこの奇跡で、この世界を守るよ」

「この世界のあたしが守りたかった世界を……共に、調と守るデス」

 

 純白のギアを纏った二人が、姿を現した。

 巨大な鎌を持った切歌ちゃんと、チェーンソーではなく一振りの巨大なハルペーを手にした調ちゃんが。

 

『まさか……エクスドライブモードを起動したのですか……!? この土壇場で!!』

 

 ナスターシャ教授の声が聞こえる。

 エクスドライブモード。それを二人は、この土壇場で起動してみせた。幾つもの奇跡を纏い、その軌跡によってエクスドライブという奇跡の産物を必然に変えた。

 わたしは膝を付きそうな程のバックファイアに耐えながら拳を構え、未来も扇を構える。

 

「さぁ、行こう!!」

「うん!」

「はい!!」

「了解デス!!」

 

 わたしが先導してバンカーを展開して突っ込む。その後ろを切歌ちゃんと調ちゃんが続き、未来が後ろで遠距離支援の準備をする。わたしに対してカルマノイズは触手と爆弾を放ってきたけど、全部が切歌ちゃんの飛ばした鎌の斬撃によって切り裂かれ無効化される。

 切り裂かれた事によって爆発した爆弾の煙を突っ切り、そのまま触手を飛ばすカルマノイズに拳を叩きつけ、宙へと飛ばす。そのカルマノイズにエクスドライブの二人が接近し、空中でカルマノイズを囲む。

 

「これで!」

「一体ッ!!」

 

 そして二人が高速移動をしながら一気にカルマノイズを切り裂き、そのままカルマノイズを一瞬にして炭へと変えた。

 流石切歌ちゃんと調ちゃん。平行世界の同一人物同士でもそのコンビネーションは色あせないね。

 とか思っていると、もう一体のブドウを沢山取り付けたカルマノイズがわたしの方へ爆弾を飛ばしてきた。普通なら避けられない距離だけど……

 

「閃光ッ!」

 

 わたしには未来がいる。

 目の前を紫のビームが通り過ぎ、爆弾が蒸発していく。

 していくんだけど……

 

「あ、あのー、未来さん? 前髪がちょっと無くなったんですけど……」

「……てへっ」

「何故そこでテヘペロ!? でも可愛いから許すッ!!」

 

 可愛いは正義だからね!!

 まぁそんな漫才をしているわけだけど。ここまで余裕なのは理由がある。

 だって……エクスドライブの二人に対してわたし達がこれ以上茶々入れるのは、きっと足手まといになるだけだと思うからね。

 

「後は!」

「任されました!!」

 

 任せた覚えもないけど任せた!

 そう叫びながらバックステップで後ろに下がると、高速で接近していた調ちゃんのハルペーがカルマノイズを串刺しにしてそのまま空へと運んでいく。そして空中でハルペーからカルマノイズを蹴り抜くと、それを切歌ちゃんが拾って空中で滅多切りにしていく。

 そして、更にカルマノイズを上空に打ち上げると二人が囲み、目にも止まらない速さでカルマノイズの周りを旋回しながら切り裂いていき、カルマノイズの体をズタズタにしていく。そしてトドメに二人は空中で武器を合わせる。

 鎌はハルペーに変わり、二振りのハルペーが二人の手に握られる。

 翠のハルペーと、紅のハルペー。それを掲げて交差させ、落ちて行くカルマノイズへと狙いをつける。

 

『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 そして二人が振り下ろしたハルペーはそのまま空気すらも切り裂いてカルマノイズをX字に切り裂いた。

 カルマノイズが炭へと変わっていき、二人は剣を下ろした。

 

「ザババの刃に」

「敵はいないデス」

 

 二人は剣を下ろしてから地面に足を付けた。

 改めてみると二人のエクスドライブは、どこか似ている。調ちゃんが近距離戦闘型としてこっちでは戦っていたからか、二人とも近距離戦闘型としてのエクスドライブを発現させて、結果的にわたし達の世界の調ちゃんとは別の意味で相性がよくなっている。

 でも、この形態も今回限り。ギアを解くか時間が経てば、エクスドライブは無くなってしまう。

 

「……マリア、セレナ、切ちゃん。わたし、世界を守れたよ」

 

 だけど、それでいいんだと思う。

 空を見て手を伸ばす調ちゃんはの目は、この間のように人を殺せるほどキツイものじゃなく、わたし達のよく知る調ちゃんの目だったから。

 

 

****

 

 

 カルマノイズは二体で打ち止めだったらしく、わたし達は元の世界に戻る準備をすぐに済ませると、一日だけ休憩してから元の世界に帰る事にした。

 その際、調ちゃんはちゃんとナスターシャ教授に謝って、これからも自分と一緒に居てほしいと頭を下げたらしい。ナスターシャ教授はそれを拒むわけがなく、こちらこそ調の事をもっと気にかけられなくてすみません、と謝ったとか。こんな言い方なのは、全部切歌ちゃんから又聞きしたから。

 又聞きする事になった理由としては、わたしの方が限界になっちゃったからかな。流石にS2CAを二日連続でぶっ放すのはきついっす……

 まぁそんなワケで、実質わたしの復活のために期間という事でこっちに一日だけ留まる事になった。で、わたしが寝ている間調ちゃんと切歌ちゃんは色々と話し合ったらしく、目を覚ましてから見た調ちゃんは、わたし達の世界の調ちゃんとあまり大差ない顔をしていた。

 そんな調ちゃんの見送りの元、わたし達は元の世界へと帰る。

 

「それじゃあ、切ちゃん。元気でね」

「調も、もう変な拗らせかたしないようにするデスよ」

「あ、あはは……善処するね」

「まったくもう……心配デスから時々様子を見に来るデス! 調はあたしが居ないとダメなんですから!」

「うん、そうだね。でもそれは、切ちゃんもだよね?」

「うっ……そ、それは……そうデスけど……」

 

 潔く認める切歌ちゃんにわたし達も笑ってしまう。

 でも、この二人はそれでいいんだ。互いが互いを支えるから、誰よりも強い。それが切歌ちゃんと調ちゃんだから。

 

「響さんと未来さんも。色々とご迷惑をかけてすみませんでした」

「いやいや、別にいいよ。それよりも、調ちゃん。きっとこれから先大変だろうけど頑張ってね?」

「こっちの世界の響を見かけたら、すぐに帰るように言ってね」

「はい。切ちゃん達が守りたかったこの世界をいつまでも守っていきます。それと、こっちの響さんは……ぜ、善処します」

 

 まぁ、会える確証なんて無いし、そもそもマトモに話ができる状況かもわからないから仕方ないよね。そもそも生きてるかすら……

 ちょっと微妙な空気になってしまったけど、多分わたしだから大丈夫って事でこの微妙な空気を笑い飛ばし、改めてわたし達はギアを纏う。

 

「……それじゃあ」

「元気でね」

「時々遊びに来るデスよ」

「うん。いつでも待ってるから」

 

 それ以上の言葉はいらない。

 わたし達はギャラルホルンの作った道を通って元の世界に帰った。道を通った先に見えた、オロオロと切歌ちゃんを心配しながら待つ、わたし達の世界の調ちゃんを見て笑いながら。




月読調【IF】……心象の変化。暗い過去ではなく明るい未来を見るため、切歌と共に戦うために目を隠すバイザーが無くなった。心の中にカルマノイズへの憎しみは渦巻いているが、切歌と共になら勝てるという確信が調【IF】を憎しみだけの暴走を止めた。

月読調【IF】エクスドライブモード……死んでしまった切歌【IF】、マリア【IF】、セレナ【IF】の魂が紡いだ絶唱と四人の絶唱が奇跡を起こし、シュルシャガナの全てのロックが解除された限定解除モード。正史の月読調とは違い武器がハルペーとなっており、正史の月読調とは別の方面で切歌と共に戦う意志が現れている。

S2CA・セプテットバージョン ジェネレイトエクスドライブ……七人の絶唱を束ねたS2CA。そのフォニックゲインが奇跡を起こすと確信したからこそ紡いだ言葉、ジェネレイトエクスドライブ。それが現実となり、切歌と調【IF】はエクスドライブとなった。


この話を書くことを決めて、まず調ちゃんの内心は最後まで明かさないという事を決め、最後はきりしらのエクスドライブを出すという事を決めて書き始めました。

そんな感じで書き始めたこの話。やはり翳り裂く閃光のように何かオリジナルの敵でも出した方がいいのかと思いましたが、変に要素を加えるよりもシンプルに終わらせないとマジでいつまで経っても終わらないと気が付いたので、特にオリジナル要素はあまり加えず、せいぜい話の展開上必要な物だけに留めておきました。

恐らく調ちゃん【IF】が出るのは今回が最初で最後ですが、もしこの話を楽しめていただけたなら幸いです。付き合ってくださった方々、本当にありがとうございます。

次回からはしっかりといつも通りな感じの話を書くと思いますので!!
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