『……チッ』
わたしとクリス先輩のわざとらしい舌打ちがヤケにカップルの多い広場に溶けて消えていく。その音を聞いたカップルはもれなくわたしとクリス先輩の側をコソコソと離れていき、遠目で見てるカップルはわたし達の醸し出す空気に何も言わずに距離を取っている。
今日は偉大なるキリストの誕生日、クリスマス。うぃーうぃっしゅあめりくりすます、とか子供の頃は歌ってはしゃいで……ごめん嘘。そんな余裕なかった。
まぁそんな訳で今日はクリスマス。俗に言うリア充の祭典。リア充は今日という日を楽しみ尽くして非リア充はそれを涙を噛み締め来年こそはと夢を見るか何かしら自傷行為に走るか。
わたしとクリス先輩は後者だった。
「……なぁ、ちょいとばかりここに居る人間全員病院送りにしてもアタシ等悪くねぇよなぁ?」
「……クリスパイセン、殺傷は起こさないってここに来る前に決めましたよね」
なんてわたしはクールぶるけど、本当はこの場にいる全員に対して禁断の遊びを仕掛けて殺戮ショーの始まりをやらかしたい所なんだけど、それはここに来る前にエルフナインから止められた。
はい、ここで質問。わたし達はどうしてクリスマスにこんな地獄兄弟みたいな事してるのでしょうか。
答え、フラレたから。答えたやつ後で死刑。
「まさかよぉ、センパイとマリアが付き合ってるとか思わねぇじゃん? あんだけアタシに雪音雪音って構ってきてたのに本命はマリアとか」
「わたしもまさか切ちゃんを藤尭さんに寝取られるとか予想だにしてませんでしたよ。まだ付き合ってないみたいですけど……藤尭さんにあらぬ罪吹っ掛けて通報してやろうかな……」
わたし達は本命である人に見事にフラレて玉砕した二人組。クリス先輩は翼さんに、わたしは切ちゃんにフラレた。
その詳細は語った通り。はー、ほんと人生クソゲー。
クリスマスの予定を切ちゃんに聞いたら藤尭さんとのデートを約束できたんデスよ! とか笑顔で言われたらもう何も言えないじゃん。多分その時のわたし能面みたいな表情だったよ。
イヴの日のクリスマスパーティは端の方でわたしとクリス先輩で感情が殺された人みたいな顔してたから即同士だと見抜けたよね。で、即お通夜ムードからの翌日、慰め合うためにデートするって事になって……これだよ。
「響さんも未来さんとデート……エルフナインはそういうの興味ないからで一蹴……」
「あー、世界滅びねぇかなぁ。今ならキャロルに協力する気満々だってのによぉ」
「奇遇ですね、わたしもです。世界解剖してリア充滅殺する方法を探したいです」
あー、世界滅びないかなぁ……!!
……いや、まぁさ。わたし達が一切合切生産性のない恋愛してたのは認めるよ? 普通なら成熟しない恋だったのは分かるよ?
でもそれとこれとは話が別なんだよ。ん? そこのリア充、あそこの子達可哀想だって?
うるせぇぶっ殺すぞ。
おっと口調がクリス先輩に。
「君達、ちょっといいかな」
『はい?』
マジな殺意を乗せて怨念を飛ばしてたらなんか急に声をかけられた。ナンパかな? よし殺そうと思ってその方を向いたらそこに居たのはチャラ男じゃなくて警察官だった。
……まだ補導時間じゃないんだけど?
「ちょっとここでまるで人でも殺そうとする程の殺意をぶつける人が居るって通報があってね。悪いけどちょっとついてきてもらえないかな?」
……チっ。通報した奴見つけたら万回殺す。
でも、これはエルフナインが予期していた事。わたし達の惨状を見たエルフナインが気が済むまでやってくださいって呆れた顔でわたしとクリス先輩に調査命令を出してくれたんだよね。
場所は未定。とりあえず怪しい所のパトロールって感じで。だから、今のわたし達は犯罪行為さえ犯さなきゃ警官にしょっぴかれる事なんてできないし、その権力以上の権力を持っている。
という訳でわたし達はSONGの社員証……なのかな? を見せつける。
「悪いが任務中だ」
「分からないなら上の人に聞いてみてください」
相手も国家権力だけどこっちも国家権力。しかもこっちの国家権力は政府直属。ほら控えろ。
警官は暫く困ったように視線を左右にやってから無線機で何か聞き始めた。で、暫くすると驚いたと言わんばかりの顔をして無線機を腰に戻した。
「す、すみませんでした。特に問題は無いようです」
「……まぁそっちも仕事だしな。もうちょい目立たないように自重する」
「知らなくて当然ですし」
……まぁこの人もこの時間に勤務してるってことは独り身なんだろうし。そんなに当たり散らす事はせずに勘弁してあげよう。もしこれで男女ペアとかで来てたら思いっきり厭味ったらしく色々と言ったんだろうけど。
そんな訳でクリボッチ警官を見送ってからわたし達は改めて道行くカップルに怨念と殺意を飛ばす作業に入った。
はぁ……リア充滅びないかなぁ……
「……なぁ、調」
とか何とか思ってたらクリス先輩が珍しくわたしの事を名前で呼んだ。多分、クリス先輩がわたしの事を名前で呼んだの、この間の誕生日とかLINE上くらいじゃないかな?
それで、なんですか? 武力行使は認めませんよ。
「いや、そのな……? さっきからずっと折れかけてた心を蛮勇で固めてここまで来たけど……もう、キツイわ……」
そう言うクリス先輩の目は、もう今にも決壊しそうだった。
「ちょっ、言ったじゃないですか! 弱音は一切無しだって!」
「でもさ……やっぱつれぇわ……傷口に塩塗られてる気分なんだわ……」
クリス先輩が泣きだしてしまう。そんな、泣かれましても……泣きたいのはこっちも同じなのに!
ほら、みんなクリス先輩の事見てますから一旦落ち着きましょう? ね?
そんな事を口走りながらわたしはクリス先輩を半分抱えるように手を貸しながら根を張ると決めた場所から退散して人気のない場所に。
元々、これはただの恨み辛みで始めた事じゃない。失恋の悲しみから逃げるためという悲しい現実から逃げたいがために免罪符のようにわたし達が勝手に作り出した恨み辛みを使った逃げ。
わたしは数年来の恋に破れ、クリス先輩もやっとできた自分の好きになった人との恋が結ばれなかった。その辛さはとてもじゃないけど笑って誤魔化せるものじゃない。だから、八つ当たりという大義名分で気を晴らしていた。
それをエルフナインは分かってるから、わざわざ面倒な手順を踏んでくれた。これで少しでもわたし達の気が晴れるのならと。
でも気が晴れるわけがない。ただ恨み辛みとこの世への不満が募りに募って今にも泣きそうになっている。クリス先輩に至ってはもう泣いている。
「もうアタシ自身も自分の感情が分かんねぇんだよ……センパイを祝いたいのにそれを認めたくなくて……」
「わたしも分かります。分かりますから……」
……どうしてこんな世界的におめでたい日にわたし達は泣いているんだろう。
全部、わたし達のせいだ。現状に満足してそれ以上に踏み込む事を怖がってただひたすらに現状維持を繰り返した結果がこの始末。最早何度後悔しても遅すぎる。
世界の時間は、流れていくだけで戻す事なんてできないから。
それに……女の子が好きになってるわたし達はもう、普通の恋愛なんてできない。男の人と付き合うなんて、考えられないから。
「ははは……つい数年前まではクリスマスなんてくだらない、恋人なんて知ったことかだったのに、今じゃそれに踊らされちまってるよ……」
「わたしも、この間までそんな事を考えられない程忙しかったのに……」
けど、それは言い訳。
わたし達二人はどうしようもなく悲しくて、涙を流すしかなかった。
この世の無情にではなく、今更実感した失恋の苦痛の大きさに。
そうしてわたし達はわんわん泣き続けて、誰も来ないことをいい事に二人で抱き合ってそのまま泣きじゃくって、気が付けば涙なんて枯れるほどに泣いていた。
どちらからともなく抱きしめあっていた手を離して目を擦り、真っ赤な目で声を荒らげる。
「あーくそっ!! 泣きまくったら腹減った!! おい調、どっかの店でケーキと酒買ってアタシん家で飲むぞ!!」
「とことん付き合いますよ!! 法律違反なんて知ったことじゃありませんし!!」
人間、悲しみが一定を超えて泣きまくると変な方向に吹っ切れるというのがよく分かった。
適当な店でホールケーキを買って、ついでにターキーとかチキンも一緒に買って、合鍵も持ってるし今日は居ない事をいい事にマリアの部屋に侵入してマリアが時々飲んでる酒をありったけ確保してお金だけ置いていって、わたし達はクリス先輩の部屋で思いっきりどんちゃん騒ぎしまくった。
お酒が入って最早無礼講。意識が半分飛んだわたし達は何がおかしいのか笑いまくって笑いまくって、ついでに泣いて怒って物理的に跳ねまくって。わたしの記憶は気が付けばプッツリと途絶えていた。
それを自覚したのは、クリス先輩のベッドの上で意識を覚醒させた直後に感じた頭痛に耐えている最中だった。
肌寒い冬の季節の朝はとても冷えたから、目を閉じながら布団を引き上げて頭まで布団を被って、そしてようやく頭痛がある程度引いた辺りで目を開いて上半身を起こした。
「さっむい……」
どうやら酔っ払ったわたしは髪は解いてから寝てくれたようで、変な癖になっているという事はなかった。
でも、上半身を起こした際に外気に触れた肌に痛いまでの冷たい空気がぶつかって思わず震えながら自分の体を抱くようにして両手で自分の二の腕を少し擦った。
外気に直接触れている、自分の二の腕を。
「……あれ?」
おかしい。わたしは半袖の服なんて着ていなかった筈。なのに何で二の腕が露出を……?
……って、わたし服着てない!? 下着すら着てないし思いっきり全裸だ!?
え、なんで? フィーネの最後っ屁? 酔うと全裸になる習性でも植えつけていったの? あの露出狂そんな迷惑な習性を植え付けたの?
と、とりあえず落ち着こう……なんか下半身辺りがシットリしてるけど漏らしてるとかじゃないし……
「うわぁ……服脱ぎ散らかしてる……」
あーあ、なにしてんの酔ってるわたし。
とりあえず下着だけでも着ないと……あれ?
……なんか、明らかにサイズの合わない、というかクリス先輩の物らしきブラが落ちてるし、それとセットのパンツまで……
……え゛っ。
「んっ……さみぃ……」
わたしがその事実に固まっていると、クリス先輩が起きて上半身を起こした。何も衣類を身につけていない状態で。
……こ、これ、もしかしてだけど。なんかすっごい記憶が蘇ってきたんだけど……この記憶、もしかして……
「あっ……その、昨日は、なんつーか……激しかったな」
あ、あははは……
マジですか。つまる所これって朝チュンですよね……? わたし、酔った勢いでクリス先輩と……?
あぁ、確かに……確かにヤッたよ……恋人が居ないんなら恋人がいない同士で恋人になっちゃえばいいじゃんって言ってじゃあ恋人になっちゃおうかってなって、そのままじゃあ恋人っぽいことを……って一通りヤッた……
「そ、その、さ。アタシも調も酔ってたんだし、別に気にしなくてもいいぞ。別に女同士だし、特に何かなくなったとかじゃないし……」
と、クリス先輩は昨日の事を思い出しながらなのか真っ赤な顔をして言ってきた。
……あっ、だめだ。このクリス先輩見てるとなんて言うんだろう……庇護欲? 違う、独占欲? みたいな物が沸々と湧いてくる。
昨日のアレでわたしは予想以上にクリス先輩の事を、なんというか……愛してしまったみたい。
今じゃ切ちゃんよりも、いつもよりも弱々しくて女っぽい所を見せてくれたクリス先輩にわたしは惹かれてしまってる。わたしの思っているよりも。
「……クリス先輩」
「な、なんだ?」
わたしは服も下着も着ないままに起き上がったクリス先輩の上に覆いかぶさるようにベッドの上を両手両足で移動して、上半身を寝かせることでしか逃げることができなかったクリス先輩をそのまま押し倒した。
「今からもう一回しましょう」
「は、はぁ!? お、おま、昨日のは酔った勢いなんだし……」
「嫌なら押し退けてください。押し退けなかったら、そのまましますよ」
わたしの言葉にクリス先輩は何も言わず、ただされるがまま。
その後がどうなったかは……クリス先輩の部屋で少し遅れた性夜が改めて始まったのでした。
クリスマスなのに一日遅れてすまない。代わりにクリしらやったから許して。
自分、前書きで書いた通り今タイにいるので恐らくこれが今年最後の更新となります。帰ってくるのが元旦なので書けるとしたら1/2日以降になります。
今回はあんまり後書きがありませんがこんな感じで。でわでわ