月読調の華麗なる日常   作:黄金馬鹿

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今回はネタ提供で受け取ったネタの一つ、アイドル時空の調ちゃんで逃走中をするというやつです。

調ちゃん視点じゃなくてテレビを見ている装者視点にしたらー、とかありましたが、普通に調ちゃん視点でやらせていただきました。流石にテレビを見ている視点だと他の出演者の視点がめんどくさくて……

という事でどうぞ!


月読調の華麗なる逃走中

 今日はとある番組の収録。

 最近、普通のアイドルとしての仕事が少なくなっている気がしないでもないけど、それも有名税と思って受け入れている今日この頃。でも、今まではお茶の間で見ている事しかできなかった番組に参加できるというのは凄い嬉しいし名誉な事だと思う。

 そんなわたしは今日、安全のために両肘両膝にプロテクターと手のひらを擦り剥かないための指空きグローブ、それからカメラの付いたヘルメットを装着して動きやすい格好で収録場所に立っている。

 隣に立つのは数十人の芸能人さんと、翼さんとマリア、それから最近はアイドルとして徐々に有名になってきてしまったクリス先輩。最近はラジオだけじゃなくて雑誌の写真撮影とか、真っ当なアイドルっぽい事をしている。

 本人曰く。

 

「なんかあの忍者に地盤固められてたっつーか……気が付いたら後戻りできなくなったっつーか……確実に年末のアレのせいでアイドルとして認知されたと言うか……」

 

 との事。

 まぁ、分かりますよ、その気持ち。でもクリス先輩が出るのって基本的にラジオの収録と、雑誌の撮影。それから枠があれば有名な番組にわたし、もしくは翼さんとセットって感じだから、お仕事の頻度は少なめ。

 ちなみに今回の番組はクリス先輩が出れるのなら出てみたいって要望を受けて緒川さんが枠を取ってくれたとか。

 そんなクリス先輩も出れるのなら出てみたいと思う程の番組。そしてわたしもちょっと気合を入れてバラドルと言われようがちょっとマジで挑む番組は。

 

「まさかアタシが逃走中に出れるなんてな……! ぜってぇ賞金確保してやる……!!」

「ハンターなんかに捕まってやらない……!」

 

 そう、逃走中。

 ハンターから制限時間内、逃げ切れる事ができれば六十万円近くの賞金が確保できるというあの番組。わたしは普通にお仕事としてオファーが来たから、そしてクリス先輩はお金が貰えるからという理由で参加。

 わたしが日本に来てからの短いスパンでもそこそこの回数開催されている逃走中だけど、その参加者の一員になれたのは素直に嬉しい。ハンターの俊敏性は確かに凄い物があるけど、緒川さん程じゃない。絶対に逃げきってみせる!!

 そんな風に覚悟を決めるわたし達の隣には結構リラックスした感じの翼さんとマリアが。どうやら二人はあんまり緊張していないらしい。

 そんなこんなしている間に収録はスタート。さぁ、振り切るよ……!

 と思っていたところで急に参加者の一人の、支給された携帯に着信が。び、ビックリしたぁ……

 

「えっと、読みますよ! これより逃走中を開始する! 六十秒後、三体のハンターが放出され、制限時間百分のゲームがスタートする!」

 

 うん、全部聞いていた通り。

 そして後ろでエアーが放出される音が響いて、振り向けばそこには檻の中に格納されたハンターが三人。よくスーツであんなに速く動けるなぁと思ったけど……緒川さんも動いているし、一定以上鍛えた人には服なんてどうでもいいんだろうなぁ。

 とりあえず、開幕は!

 

「逃げなきゃ!」

「こんなのと鬼ごっこしてられるか!」

「流石に百分は厳しいな……隠れるところを探さねば!」

「後ろを見ない! 全力疾走よ!!」

 

 前へ向かって全力疾走! とりあえずどこでもいい。隠れる場所を探さないと! 

 いくら鍛えているとは言っても百分間も全力疾走なんて無理だし、本家本元の人には適わないハズ。だからまずは適当な場所に向かって走る!

 

「うわあの子達はっやっ!?」

 

 後ろからそんな声が聞こえたけど気にしない! カメラマンさんが大変そうだけど勘弁してね!

 隠れる場所は……って、そうこうしている間にハンターが!? 一分って短い。

 一応、室外よりも室内の方がいいよね。遮蔽物が多いから最悪の場合はパルクールして逃げる事もできるし。この日のために緒川さんと風鳴司令、それから響さんとシミュレーターや学校、それ以外にも街中や山の中でパルクールの練習してきたからね。まぁ、前々からそれっぽい事はできてたから、途中から減量目的だったけど……

 にしても。

 

「雰囲気怖い……テレビで見るよりも緊張感が凄いよ……」

 

 室内の壁の曲がり角で待機しつつボヤく。

 出る前は余裕余裕とか思ってたけど、出てみると予想以上に雰囲気が……

 

 ――♪♪♪♪――

 

「わっ、着信!? いきなり何!?」

 

 とか言ってたら急に着信が!?

 一体何が……えっと、確保情報?

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、確保!? マ、マリアぁ!!?」

 

 あの歌姫なにやってんの!?

 とか思ってたらまた着信来たんだけど!? えっと、今度は……

 

「か、風鳴翼、確保!? あの馬鹿何してんの!?」

 

 あの防人も何してんの!? 仮にも装者でしょ!? まだ開始してから二分経ってないのに身内二人が脱落したんだけど!? 

 ……こ、これ大丈夫かなぁ。色々と。

 

 

****

 

 

 ふっ。私は歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴよ? 所詮日本のバラエティ番組。ハンターなんて言っても素人の集まり。故に、装者であるこの私を捕まえるなんて不可能!

 

「余裕そうですね?」

 

 と、カメラマンが。

 そりゃそうよ。だって所詮はバラエティ番組だもの。この程度の些事……なんて言うわけもなく、ここはお茶を濁すために。

 

「普段から鍛えているもの。走り込みだってしているし問題はないわ」

 

 そう、装者としての厳しい特訓を経ている私に脱落の二文字なんてあり得ない! 

 でも、万が一という事もあるわ。室外で構えているのもいいけど、一応遮蔽物に身を隠しておきましょうか。本気になれば絶対に見つからない遮蔽物に身を隠して百分間、なんて事も余裕なのだけど、それをやると番組的にも面白くないわ。

 視聴者の事も考えて演じる。これも歌姫の厳しい所ね。

 とりあえずどこに身を隠そうかし……っ!

 

「見られたわ」

 

 とか思っていたらハンターとかち合ったわ。しかも真正面から見られたからには追ってくる。

 でも何も心配はいらないわ。私は全力疾走。ハンターに捕まるわけがない。

 どれ、ちょっと後ろを向いて悔しがるハンターの顔でも……!?

 

「ちょっ!? なんかクッソ速いんだけど!? こんなに速いものなの!!?」

 

 普通に追いつかれてる!? そんな馬鹿な! だって私はあんなに厳しい特訓を経て今ここに……あっ。

 ……そういえば、最近はステージばっかりで走り込みなんてしてなかったわね。全力疾走だって久しくしていなかったし、速力が訓練していた時期よりも落ちているのは当たり前。

 つまり。

 

「ちゃんと走っておけばよかったぁぁぁ!!」

 

 あぁ! 背中に! 背中にぃ!!

 

 

****

 

 

 常在戦場。例えバラエティだとしても私に一切の油断はない。

 マリアなんかは最近怠けていたからな。ハンターから逃げられなくてもおかしくはないが、私はしっかりと常日頃から鍛えているし走ってきた。特に走る速度に関しては立花のような規格外を除けば装者一だろう。

 捕まる気なぞない。前回の格付けのように情けない姿ばかりを晒す防人ではないと知れ。

 

「初参加の身ではあるが、賞金はしっかりと持ち帰らせてもらう。今度こそ月読と雪音には敗北の奢りではなく勝利の奢りをしてやりたいからな」

 

 あの格付けチェックの後、私には完全にギャグキャラのイメージが付いてしまった。

 格付けチェック全敗。それに加えて月読が投稿した奢りの一幕。そのせいで私は後輩に劣る戦績を叩き出した上に後輩に賭けで負けて焼き肉を奢った情けない先輩というイメージまで付いてしまった。これは断じて許されることではない!

 だからこそ、今日の逃走中で六十万の賞金を持ち帰り、月読と雪音に賞金で美味い飯を食わせる! そして私も敗北の味ではなく勝利の味を噛みしめる! 更に残った賞金はバイクのパーツとメンテナンスに!

 完璧だ。我ながら完璧な未来設計だ。

 これには月読も雪音も、そしてファンの皆も翼先輩きゃー素敵と……おっと。

 

「くっ、見られてしまったか!」

 

 見られないために狭い路地に入ったはいいが、まさか同じ道をハンターが辿ってくるとは! 我が不幸ながら嘆きたいものだ。

 だが、私の俊足、そう簡単には捕らえられぬと知れ!

 カメラマンよ、すまぬが置いていくぞ! これには私の先輩としての面目がかかっているのでな!

 

「私とて鍛えている! ハンターとてそう追いつけはせぬぞ!!」

 

 よし、引き剥がせている! これならば月読や雪音でも十分に撒ける程度だな。

 緒川さんに走るフォームから足運びまで、全てを監修された半忍者とも言える身だ。インストラクター程度には少し荷が重かったか。

 どれ、そこの曲がり角を曲がって完全に撒いて……

 

「あっ……」

 

 ……えっと。

 その。

 どうして曲がり角を曲がったら目の前にハンターが?

 目と目が合う~とでも歌えばいいか? 駄目? そう……

 

「ど、どうも……ちょっとそこを通らせてもらっても……」

 

 あっ、肩叩かれた。

 確保ですか、はい、そうですか。

 そうですか……

 ……ん? あのハンター、どこかで見たことがあるような。

 

 

****

 

 

 まぁ、アタシは分かってたよ。あの二人は絶対出オチするって。

 実はアタシ、センパイが逃げる一部始終は見ていた。だからハンターの速さをその目で見たが、あれなら十分に逃げられる。この日のためにあの馬鹿とオッサンとニンジャに頭下げてパルクールの指導と走る姿勢の矯正を頼んだ甲斐があったってもんだ。むしろあの馬鹿の全力の方が速かった。

 アタシはこの金を貰ってパパとママの仏壇をもうちょっと豪華にする予定なんだ。SONGからの初任給と、アタシがテレビに出て稼いだ金。この二つの金を使ってパパとママに、立派に装者と芸能人擬きを両立してるって伝えるためにな。

 だからっ!

 

「見つかったが、捕まってやるかよ!!」

 

 こんな所で脱落してやるかってんだ!

 この路地に行き止まりが無い事は知っている! だから数個路地を曲がったところで……あっ、この壁這い上がって裏へ行っちまえ! この裏もどうせ路地だ!

 よし、撒いた!

 流石に速かったな……

 

「へへっ、どんなもんだ……って言っても結構心臓バックバクだ。やっぱテレビで見るのと現物見るのじゃちげーわ……」

 

 失敗したら即アウトだからな。練習の時なんかよりも更に疲れやがる。

 カメラマンからはパルクール的な動きも面白い事になるからドンドンやってくれって許可得ているし、暫くはこの調子でカメラマンを気にする事なくパルクールだな。

 ただ、今はまだ近くにハンターが居る。しかもセンパイが捕まったから二体は確実に居る。あんまり外に出て姿を晒したら補足されてこっちの体力が持たないって可能性だって十分にあるからな。それに、この路地は細いからあんまりハンターと遭遇戦なんてしたくねぇ。

 もうちょっと経ったら室内に入ってアイツと合流でもしてみるか。逃走中っつったらミッションだからな。一人じゃできないって可能性も十分にあるし、アタシとアイツなら二人一緒でも十分に逃げられる。だからここは……

 

「きゃあああああああ!!?」

「こっちに何か居るぞー!!」

「逃げろぉ!!」

 

 とか思ったらミッション開始っぽいな。

 どれ、テレビ映えするためにちょっと顔見せておくか。えっと……

 

「うわっ、恐竜いんだけど。マジかぁ……アレに近づきたくはねぇなぁ……」

 

 作りモンだけどヤケにリアルだからあんま近づきたくねぇわあれ。普通にこえー。

 でも、ああいうのって参加者が直接近づくって事は無いから逃げるふりして距離を取りつつ室内に入るか。近くにハンターも居ねぇみたいだし、今が逃げ時だ。

 

――♪♪♪♪――

 

「って徐に着信音しやがった!? 頼むから静かにしてくれっての!」

 

 けど、これはミッション発生の証拠だよな。とりあえずメールは確認しねぇとな。どれどれ?

 

「三機のドローンが出現した。ドローンは逃走者を見つけるとハンターに位置情報を転送するだぁ? うっわマジかよ……流石にドローンに見つかったらダリィな……」

 

 逃げれるっちゃ逃げれるが、ドローンも追ってくるんならいつか確実に捕まっちまう。

 どこかドローンが入ってこれないような場所で隠れておくってのもありだが、どうやら手形認証をするとドローンは解除されるみたいだな。

 どこぞの馬鹿二人が既に消えちまってるが、これ大丈夫か? 一応ついて来てるスタッフにこれ一人で全部やっても大丈夫かだけ聞いておくか。

 

「あの、これって一人だけで三つクリアしても大丈夫なやつですか?」

「一人で三つの装置を止める事はできますよ」

「……よしっ。ちょっとアイツの先輩らしく、カッコいいトコ見せつけるとするか……!!」

 

 さてっと。いつもは前座なアタシ様だが、今日はカッコよくヒーロー見参するとすっか!

 

 

****

 

 

 馬鹿二人が捕まってから暫く経ってミッションが来た。

 ミッションは、今わたしの目の前を飛んでいるドローンを止めるための物。一応ドローンのカメラには写っていないけど、徐々にこっちに近づいて来てる。

 柱を影にしているから音でどっちから来るかを予測して隠れる事はできるけど……厳しいなぁ。っていうか、この建物の三階に見えるんだよねぇ。今わたしの目の前を飛んでいるドローンと同じ色をした認証装置が。何とかして抜け出してから上の階に上がらないと。

 ハンターは、居ない。ドローンが……行った! 今!

 

「おっしゃドローンあっち行きやがった……っておまっ!?」

 

 と思って柱の陰から飛び出したら、丁度建物に入ってきたクリス先輩とかち合った。ビックリしたけど足は止めずに階段を駆け上りながらクリス先輩と言葉を交わす。

 

「クリス先輩!? クリス先輩も動いてたんですか!?」

「そりゃアタシの危機でもあるからな! とりあえず二人で行って様子見するぞ!」

「はい!」

 

 階段を駆け上がって目的の装置がある部屋に。

 部屋に突入。そのまま少し先に入っていたわたしが認証装置に手を当てるけど、何も起こらない。

 あれ?

 

「おいよく見ろ! これ三人同時じゃないとダメなやつだ!」

 

 と言われて見てみたら、ホントだ。三人同時に認証しないと止まらないって書いてある。

 くっ、こういう時に青色と白色が残っていたら呼びつけて認証を手伝わせたのに! クリス先輩はそういう事か……って腰に手を当てて唸ってるし。

 とりあえず今はこの装置、どうにかしないと。あと一人用意して……って思ったら来た!?

 確かあの人は、男性アイドルユニットに所属している人! もしかして同じ建物の隠れてたのかな? でも好都合!

 

「えっ、もしかして終わった?」

「いや、これ三人じゃないと動かないんです!」

「丁度いい所に来てくれた! ここ、ここタッチで!」

「あ、うん!」

 

 タイミングいい事に来てくれたからホントに良かった。とりあえず三人タッチで無事クリア! 色と対応しているドローンが停止して落下していくのを見て一安心……したんだけど装置を止めてくれた人が走り出した。

 えっ、なんで? 別に止めたんだから走らなくても。

 

「見られちゃったから! 来ちゃうよ!」

 

 あ、そういう事!

 

「やっべ、逃げるぞ!」

「はい!」

 

 別にあの人を責める気は無い。だって捕まるかもしれないのに来てくれたって事なんだから寧ろ感謝するべき。

 二人して三階から二階の階段へと飛び降りて、そのままもう一度同じ要領で二階から一階へと飛び降りて着地。上であの人が目を見開いてこっちを見ているけどそんな事気にせず一目散に次の装置を探しに二人で走る。

 っていうか。

 

「クリス先輩もパルクールできたんですか!?」

「今日に備えて習った!」

「わたしと同じですね!」

 

 とりあえず走りながら次の装置を探していると、一人の芸能人の方が装置の前で立ち往生していた。あの人は確か、普通に芸人の人だった気がする。

 わたし達に気が付いてこっちこっち! って手を振ってるし、わたしがまごついている間に結構時間も経っちゃっていたから急いで装置を止めるために走る。

 

「うわ二人ともすっごい速いじゃん!」

「今日のために鍛えましたから!」

「よしこれで二つ目ぇ!」

 

 喋りながらも二つ目タッチ。一旦一息吐こうと思って後ろを振り向いた瞬間、そこには黒いタキシードが。

 やっば、ハンター!

 

「ってぇ!? 見られてた!?」

「散ッ!」

「はいッ!」

 

 驚いている所悪いんだけど、わたし達は目線で左右に分かれて走ることを合図してから同時に左右へと飛び出した。これが装者ならではの連携! で、走り始めたわけだけど、ハンターはわたしを追ってきた。でも、大丈夫! 何とか撒ける速さ!

 街中パルクールをしながらハンターを撒くために延々と走る。けど、気配がある程度遠くなった辺りで適当な障害物の影に滑り込んで乱れた息を整えていると、丁度ハンターがわたしの走った後を追ってきた。口を押えて乱れた息を隠している間にハンターはわたしを見失ったようでどこかへと歩いて行った。

 あっぶなー……

 暫く待っているとカメラマンさんが追い付いてわたしにカメラを向けてきた。

 

「逃げ切った上にミッションもやりました。いえーい」

 

 わたしはどこぞの情けない先輩達とは違うからね。できる女だから。

 でも、暫くはここで息を整えようかな……流石に三階から飛び降りて走ってパルクールしたから疲れたよ……

 大体五分くらいはそのまま何も無く、その間にドローンも他の方が何とか止めてくれたみたいで無事ミッション達成の報告が入った。

 よかった~……これで残り一個が止まってなかったら悔しいもん。

 で、まだ待っていると電話が鳴った。相手は……クリス先輩?

 

「はいもしもし」

『おっ。逃げれたみたいだな』

「まぁ、何とか。流石に疲れましたけど」

『ハンター、クッソ速いもんな。まぁ暫くは息整えておこうぜ』

「そうですね。ちょっと座り込んで回復してます……」

 

 どうやら逃げ切れたかの確認だけしたかったみたい。

 この位置は息と気配を殺せば多分ハンターだろうと見つけれられない……というかわたしが小さいからいい感じに隠れられているから見つからないけど、流石にここでずっと引き籠ってるのは面白くないから途中で動かないと。

 暫く待っていると携帯が何度も鳴って色んな人が確保されてった。あっ、響さんが好きな特撮の主演俳優の人も捕まっちゃった。番組終わったらわたしの分もサインを貰う約束してたけど、あまり凹んでないといいなぁ。

 

「……とにもかくにも逃げないと。賞金、持って帰るって約束したし」

 

 切ちゃんに今日は帰ったら高い肉ですき焼きパーティーだって伝えてあるし。

 絶対に生き残ってお肉を切ちゃんと食べるんだ……!!

 と思っていたらカメラマンさんから誰に? と聞かれたから答える事に。

 

「わたしが今住んでる部屋でルームシェアしてる子です。賞金を持って帰ったら一緒に高い肉と高い野菜ですき焼きしようって約束したんです」

 

 残ったお金はいいテレビを買ったり、いい家具を買ったり、一緒に遊ぶゲームとか本を買ったり。あと、切ちゃんがHDD内臓のブルーレイディスクレコーダーが欲しいって言ってたからそれも買わないと。

 あ、でもテレビの代わりにいい冷蔵庫を買ったり……!?

 

「って見つかった!?」

 

 嘘でしょ!? なんでここが見つかっ……?

 ん? ちょっと待ってあのハンター。見覚えあるんだけど。というかあの走り方であの異常な速力、完全にあの人だよね!? あの髪型、その気配の殺し方、完全にあの人だよね!?

 緒川さんだよねあのハンター!!? カメラに映らないようにニッコニコしているから流石に分かるよ!? 

 やばいこれは無理!! わたしの逃走中、ハード過ぎない!?

 

「やばいやばいやばい!!」

 

 通用するか分からないけど路地曲がって、そこの角曲がって、その壁乗り越えてからその段差飛び越えて、そのアクリル璧も乗り越えてからスライディングで身を隠す! ここまでやれば……!

 …………よし、来ない! 流石にこのパルクールに追いつくには忍者しないといけないから来れないよね。

 

「はぁ……はぁ……き、肝が冷えた……」

 

 でも、次緒川ハンターに会ったら逃げ切れるか分からない。

 とりあえず適当な場所で引き籠ろう……お外怖い……

 

 

****

 

 

 なんであの忍者ハンターやってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 いや、逃げたけど! 逃げたけども!

 間違いねぇ。あの忍者、普通のハンターじゃアタシらが余裕で逃げるだけだから自分も参加してアタシらを捕まえに来やがった! ニッコニコして隠れてるはずのアタシに突撃してきたから流石に分かったわ! 肝も冷えたけどな!

 建物の中に引き籠ってるけど、次あの忍者と遭遇したら逃げられる気がしねぇ……なんだあの装者絶対殺すマン。

 

「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……あ? ミッション? 賞金が百円上がるけどハンター一人……やんねぇよ! リスクとリターンが合ってねぇんだよ!!」

 

 やってられっかンなミッション! アタシはここで引き籠る! 誰かが引き上げようと知った事か! あの忍者がそこら辺徘徊してる逃走中になんか出られるかってんだ!

 

「一応周囲のクリアだけはして……」

「忍者怖い忍者怖い……わっ!?」

「うおっ!? ってビックリした……お前か……」

 

 一応クリアリングだけしておこうと思ったら丁度アイツとかち合った。忍者怖い忍者怖いってうわ言のように呟いてたからコイツも忍者を見たんだろうな……まぁ、無事ならよかった。

 

「く、クリス先輩! 忍者が! 忍者が!」

「分かってる! アタシもわかっ……」

 

 ……わ、分かってる。

 分かってるから、な? 後ろ向け? そうだ、後ろを向くんだ。

 ほら、そこに居るだろ? アタシ等を確保するために遣わされたハンター型忍者が!!

 

『きゃあああああああああああ!!?』

 

 もうやだこの逃走中ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

 

****

 

 

 忍者怖い忍者怖い……なんであの人わたしとクリス先輩が隠れている場所を的確に察知して襲ってくるの……残り五十分になったけど、二十分程度の間に三回はかち合ったよ……

 ニッコニコして追ってくるグラサンタキシードとかそれ恐怖映像でしかないよ……あの人、絶対にわたし達が逃げ惑う所を見て楽しんでるよ。あの人本当はドSだよ間違いない。

 でも、大丈夫。緒川さんはしっかり撒いた。それに体力も回復できたから、あと一回や二回は確実に逃げられる……ん?

 携帯が鳴った。さっき、結局賞金アップのミッションは誰もやらなかったから賞金もハンターも増えなかったって来たばかりなのに。誰か捕まったのかな?

 あ、違う。新たなミッション? もう……?

 えっと、ミッション内容は……

 

「選ばれた三人が図書館棟に存在する復活カードを持って行って牢獄に捕まった人を復活させることができる? なお、図書館内には恐竜とハンター二体が存在しているって……」

 

 かなり厳しい条件だよね、これ。リターンが無いリスクを冒してまで助けに行くかって……これで捕まってもリスクなしならまだしも、捕まったらゲームオーバー。やるにはかなり勇気がいるよ。

 で、選ばれた三人って言うのは……えっと、最初のミッションを一緒にやったアイドルの人と、今回参加しているプロアスリートの人。それから……

 

「月読調……って、わたし!?」

 

 なんでわたしが……いや、間違いない。確実にあの二人がわたしならって推した! わたしならこういうの断れないからって!

 うん、確かに断れないよ。頼りにされた以上は。

 それに忍者ハンター以外からなら逃げれる自信もあるし。それなら、行ってもいい……かな? 室内だからパルクールできずに苦しい戦いにはなるけど。

 ……よし、行こう!

 決めたからには全力ダッシュ! 図書館と牢獄は、確かあっち! ハンターは、目視した範囲内ではいない! よし、最速で最短に真っ直ぐに一直線に! 牢獄が見えた!

 

「おぉ、月読! 一番に来てくれたか!」

「調! 無理はしなくていいから頼んだわ!!」

「頑張れ調ちゃん!」

「応援してるよ!」

「うるさいそこのポンコツ歌姫! あと声援ありがとうございます! 行ってきます!」

『ポンコツ歌姫ってどういうことだ!!』

 

 事実でしょ!

 とりあえず走ってきた勢いのまま図書館にエントリー! 階段を駆け上がっていざ図書館に!

 上がって、復活カードは……左右には無い。なら、真正面の開いた空間! あそこに置いてあるはず! 恐竜がいるけど、恐竜を盾にしたらある程度は動き回れる。やれる。やれる気しかしない!

 真っ直ぐ行って突撃。そして発見、確保! やった! 後は帰るだ……は?

 え? ちょ、は?

 

「うっそでしょ!?」

 

 嘘だよねこの光景!?

 冗談って言ってよ!?

 タキシードとグラサン装備の風鳴司令(真顔)と響さん(真顔)が居るとか冗談だよねこれ!!? 外には忍者、ここには二種類の人類の最終防衛ラインとかどうなってんのこれ!? しかも見つかったし!

 やっばい逃げろ!! すっごい速いよこの二人ぃ!!

 とにかく走って走って、階段を半ば転げ落ちてそのまま外に出てゴールイン!! あっぶなっ!!? なにあのトラップ危なすぎでしょ!? 風鳴司令と響さん呼んでくるとか何考えてんの!? わたしとクリス先輩以外だったら絶対捕まってるよ!?

 

「えっ、うそ! もう帰ってきた!?」

「すっげぇ! しかも復活カード持ってる!」

 

 息を切らして膝に手を当てて呼吸を整えていると、牢獄からは歓声が。

 あ、そうだった。復活カード持ってきたんだった。あの二人のインパクト強すぎて忘れてたよ……

 

「やるじゃないか、月読!」

「流石よ、調!」

 

 んでもってあの二人はどっちかが復活できると確信してオーバーリアクションしてるし。

 とりあえずカメラに向かってやりました、とガッツポーズ。それからもう一度息を整えて改めて牢獄の前に立つ。翼さんとマリアはウッキウキだ。

 

「えっと、待ってください。復活カード渡すの、今二択で迷ってるんですよ」

 

 沸く牢獄内を見ながらわたしは復活カードを片手に考える。

 どっちにしようかな……迷うけど……

 決めた! ここは後からを考えて!

 

「翼さん!」

「あぁ!」

「の、横にいる俳優さんで!!」

「なぁっ!!?」

「えっ、俺? マジで!? いいの!?」

 

 わたしが復活カードを渡したのは翼さんの隣に立っていた、結構前に捕まった、特撮の主演をやっていた俳優さん。選んだ理由は、後でサイン貰いやすくなるだろうし、という理由と、特撮の主演をやっていたくらいだからきっと逃げ切ってくれるはずという理由。あと、共演するにあたってこの人の演じた特撮をちょっと見たんだけど、カッコ良かったから。普通にファンです。

 で、復活カードを渡して俳優さんを外に出すと、周りは拍手しているけど、翼さんとマリアはすっごい恨めしそうな目でこっち見てる。

 

「月読! どうして私じゃないんだ!」

「私か翼の二択じゃなかったの!?」

「誰もそんな事言ってないけど。わたしはそっちの歌手の人か、この人か迷ってただけで……」

「月読の人でなし! お前なら、お前なら私を復活させてくれると信じていたのだぞ!」

「クリスは絶対に私達を選ばないから調を選んだのに!!」

「だって絶対出オチするじゃん。二人とも」

 

 主に忍者ハンターの手によって。

 わたしの言葉の矢がぶっ刺さって二人がダウンした。哀れ。

 とりあえず復活した俳優さんにわたしは後でサインだけお願いします、とだけ伝えると笑顔でいいよ、と答えてくれたからわたしハッピー。でもあまり一緒に行動していると忍者が出てくるから二手に別れてわたしは避難。

 えっと、隠れる場所は……近くの建物の中でいいかな。確かこの中からだと牢獄が見えたはずだし。

 建物の中に入って牢獄の方を見ていると、残り二人の選ばれた人も入っていったけど、一人は中で捕まっちゃったみたい。でも、もう一人のアイドルの人は無事脱出したらしく、そのままわたしが悩んでいた方の歌手の人を復活させたみたい。あの人、あの二人相手に逃げたんだ……すごっ。

 とりあえずこれでミッション達成。疲れたー……と思って数分。復活した歌手の人は無事捕まっていた。

 まぁ、こればっかりは運だしね。仕方ないよ。わたしだって今、解放した人が捕まっても仕方ないで済ませるし。

 

「ふぅ……とにかく、今は潜伏しよう」

 

 忍者ハンターがここを嗅ぎつけなきゃいいけど……

 ……あっ、下から足音。さて、逃げよっと。

 

 

****

 

 

 残り二十分になった。

 逃げる自信はあったけど、実際にこんな時間まで逃げられるとは思ってなかったから正直びっくりしてる。けど、その中で残ったのはわたしとクリス先輩。それから他三人。五人も残っているって思えばいいのか、五人しか残っていないと思えばいいのか。

 自首は、勿論しない。そんな事したらわたしを鍛えてくれた三人に顔向けが……

 ……いや、あの三人がわたしの努力を水の泡にしようとしているんだから自首してもいいんじゃ。

 いや、しないしない。テレビを見ているであろうわたしのファンの人に顔向けできないし、子供が見たらこの人卑怯って指さすかもしれないから。絶対しないよ。自主はしない。

 

――♪♪♪♪――

 

 と思っていたら着信が来た。

 多分、時間的に最後のミッション。これをクリアしたら逃走成功までは秒読みレベル。成功させて撮れ高確保してから緒川さんから逃げきって賞金六十万円を確保する! 絶対に!

 で、ミッション内容は……

 

「エリア外にハンター十体が出現した。このハンターの侵入を阻止するには正門を阻止しなければならない。残り五分になるまでに正門を閉じろ……よし、やろう。流石にハンター十体は逃げきれない」

 

 それに、正門を閉めるだけ。ぴゅっと行ってすぐ閉じれば何も問題はない。

 よし、行く!

 後ろを振り向かない、全力疾走……って、今あの建物から出てきたのって。

 

「クリス先輩!? またですか!?」

「またお前か!? ブッキング率たけぇなおい!」

「ですね! クリス先輩もミッションですか!?」

「ったりめぇだ! とっとと行ってとっとと終わらせるぞ!」

「はい!」

 

 けど、全力疾走するとスタミナが持たないからちょっと小走りみたいな感じで走る。

 で、暫く走るとハンターの気配もなく正門にたどり着いた……けど。

 正門の前には大きなコンテナと、生肉が四つ置いてあった。で、その生肉の上には看板があって、肉で恐竜を誘導してコンテナに入れないと正門は閉じないって書いてある。

 まぁ、逃走中だもん。この程度のコトは予想してたよ。

 クリス先輩と目を合わせて頷いて、肉を一個ずつ手に取る。

 

「アタシはあっち行くからお前はあっちな!」

「クリス先輩、残り二十分ですから気を付けて!」

「お前もな! ヘマすんじゃねぇぞ!」

 

 正門の先の道は二手に分かれている。この道を真っ直ぐ行って路地を少し曲がれば確実に恐竜は居る。

 そんな確信と共に向かえば、居た。恐竜は建物の中に居て、その横にはなんか白衣を着た人が。あの人、どこかで見た事ある俳優さんな気が……まぁいいや。

 

「おぉ、君! すまない、ティラノの誘導を手伝ってくれないか!」

「そ、そのつもりですけど……こんな風で大丈夫ですか?」

「もっと近づけて! そうだ、君ならできる!」

 

 とりあえず恐竜の鼻先で肉をちらつかせて後退していくと、恐竜もついて来る。

 これなら案外簡単かも。そうそう、こっち、こっち来て。じゃないとわたしの六十万がパーになっちゃうからね……って、恐竜の後ろにハンターいるじゃん! こっちガン見してるし逃げないと!

 生肉抱えて走って、あっちこっち。とりあえず撒きながらハンターを恐竜から引き剥がしてからもう一度恐竜の元へと戻ると、そこにはまたもやあの男性アイドルさんが。そう言えばこの人もミッションほぼ常連だよね。

 

「あ、確か調ちゃんだっけ! 一緒にやろ!」

「はい! やりましょう!」

 

 という事で一緒に恐竜を誘導し始めて……すぐにまたハンターが来て散会して、撒いたのを確認してからもう一度集まって誘導した頃には時間が残り六分。つまりハンター十体まで残り一分になっていた。

 急がないと……! コンテナもすぐそこだし!

 こっちこっち! 速く、速く……!

 

「後はこのコンテナに肉を投げ込んでくれ!」

「投げ込む!? えっと、こう!?」

 

 そしてコンテナ前で指示をされたからコンテナの中に肉を投げ込むと、無事恐竜はコンテナの中に。そして正門はそれに反応して一人で閉まって、それとほぼ同時に十人のハンターが正門に現れた。

 あっぶな……もうちょっと遅れてたらこれとバッタリ遭遇戦しなきゃいけない所だった……っていうかなんかハンターの中に見慣れた真顔の赤髪……奏さんが混ざってるのは気のせいじゃないよね。あの人面白半分で混ざってきたよね、絶対。

 まぁいいや。とにかくこれでミッション達成! 後は逃げるだけ!

 とりあえず距離を取ってメールを確認すると、もうさっきのアイドルの人以外にはわたしとクリス先輩しか残ってないみたいだった。

 一応適当な場所に隠れて残り五分、やり過ごさないと。

 そう思って心臓がバックバクな状態で待っていると、視界の端に見慣れた銀髪が。

 

「あ、クリス先輩!」

「ん? あ、お前もこっち来てたのか!」

 

 やっぱりクリス先輩。こっちに逃げてきたんだ。

 呼び止めるとクリス先輩もこっちに気が付いて走り寄ってきた。

 

「やったな! ここまで来たら後は逃げるだけだ!」

「はい! 残り時間は……あと二分! やれますよ、これ!」

「あぁ!」

 

 あと二分なら三体に囲まれでもしない限り……?

 ……ん? あれ? あっちから走ってくるのって。

 

「ちょ、クリス先輩! 後ろ後ろ!」

「え? ……うっわマジかよ!!?」

 

 忍者だ! 忍者が全速力で走ってきた!!

 ここから二分間忍者と鬼ごっこ!? 冗談でしょ!? ここまで来て!? 何度わたし達の安息を邪魔するのあの人は!?

 ヤバイ逃げないと!! とりあえずクリス先輩と一緒に全力で走るけど、緒川さんが徐々に徐々に追いついてくる。あの人、徐々に距離を詰めて楽しむつもりだ!!

 

「クリス先輩、二手に!」

「いや、ここ路地だから二手になんて別れられねぇよ! 死ぬときゃ一蓮托生になっちまった!」

「どっちかが捕まったらどっちかもジエンドって事ですか笑えません!!」

 

 でも逃げないと!

 狭い路地をあっちこっち。更にパルクールで逃げるけど緒川さんはわたし達以上の速さでそれを追ってくる。今が間違いなく一生のうち一番長い二分間だよ!!

 とりあえずそこの建物入ってその道を……って!?

 

「い、行き止まり!?」

「こんな所でドン詰まりかよ!!?」

 

 嘘でしょ、あと少しなのに!?

 振り向くとそこには真顔で迫ってくる緒川さんが。

 つ、詰んだ……!?

 

「こんな夢半ばでぇ!!?」

「アタシなんも悪い事してねぇだろぉ!!?」

 

 思わず二人で抱き合いながら叫んで緒川さんの手を一瞬でも長く避けられるように壁に体をくっ付ける。

 そして緒川さんの手が伸びてきたその瞬間――

 ――緒川さんの手が止まった。

 同時に、緒川さんがその場で直立不動のまま俯いた。

 ……えっ?

 

「……な、なにが」

 

 二人で抱き合って呆然としていると、緒川さんの後ろのスタッフさんが自分の腕を指さした。

 え? 腕って……あっ、携帯!

 急いで携帯を手に取って確認してみると、表示されていたタイマーはゼロだけを指していた。

 

「こ、これって……」

「逃げ切った……?」

 

 ……に、逃げ切れた? この忍者から……?

 ほ、ホントに!? 六十万手に入れられたの!?

 

「やったー!!」

「生き残れたぁ!!」

 

 また二人で抱き合ってピョンピョン飛び跳ねてからスタッフさんの指示で牢獄前に案内された。

 そこには既に一緒にミッションを三つもクリアしたアイドルの人が待っていて、六十万円の現金が透明な箱に入れられた状態で三つ、用意されていた。

 

「やったよマリア!」

「六十万はアタシらのモンだぜ、センパイ!」

 

 二人でマリアと翼さんを煽りながら牢獄前に来て、三人一緒に透明なケースを開けて六十万を手に取った。

 うわっ、こんな量のお札初めて握った……! 諭吉さんが六十人だよ、六十人! もしF.I.S時代のわたしが見たら卒倒するレベルだよ!

 実際に手に取ってみると凄い重量感……! 普段はATMにギャラが入っているから手に取る事なんてないんだけど、六十万を手に取ってみると凄い気持ちいい……! これで頬を叩かれたいって人の気持ち、今なら分かるよ……!!

 あ、カメラさんからコメントしてって急かされてる。急がないと。

 

「無事六十万円取りました!」

「パパ、ママ! アタシやったぜ!!」

「切ちゃん、今日はすき焼きだよ!!」

 

 これにて逃走中終了!

 生き残れてよかったぁ~……

 

――♪♪♪♪――

 

 ……へ?

 着信? でもこれ、わたしが持ってる携帯からじゃない。牢獄の人の携帯から?

 

「え? なに急に!? えっと……これよりボーナスミッションを始める!? 指名された三人が図書館内にある千円札計百枚を好きなだけ取って戻ってきたら、その取ってきた分だけ賞金を山分け!?」

「つまり十万円山分けできるって事!?」

 

 あっ……

 ……あの中から、お札を取って戻ってくるんだ。

 人類最強が居る図書館から。

 既にカメラは牢獄内を映しているからわたしとクリス先輩がちょっとフェードアウトしてこそこそ会話。

 

「なぁ、お前何でそんな察した顔してんだ?」

「あの中、風鳴司令と響さんが居たんですよ」

「何その魔境。ってかあの人よくそんな魔境から逃げられたな……」

「奇跡的に見つからずに走り抜けたみたいです」

 

 ちなみにこれは恐竜誘導中に聞いた事。

 でも、ホントに奇跡だよね。あの二人から逃げ切るなんて凄腕の錬金術師でも無理だと思うのに。

 そんな事を駄弁りながら待っていると図書館の中に入る人は決まったらしい。プロアスリートの人と、翼さんとマリア。あぁ、うん、終わったね。

 

「ふっ、待っていろよ月読、雪音。ここでたんまりと賞金を持って帰ってくる! これが終わったらまた私が高級焼き肉を奢ってやるから待っていろ!」

「私もまたザギンでシースーを奢ってあげるわ。しかも今度は調も一緒よ! 何せ今から私達は賞金を大量に確保してくるのだから!」

 

 あーあー、もうそんなにフラグ建てちゃって。

 そんなこんなでフラグ建てた二人とプロアスリートの人、計三人が同時に図書館内に侵入していった……けど。

 

「あんなの無理だろ……!!」

「どうしろって言うのよ……!!」

 

 三十秒くらいで翼さんとマリアが戻ってきた。

 まぁ……ね? あの二人だし。

 でもプロアスリートの人は善戦しているらしく、一旦戻ってきたけど山分けするには足りないって思ったのかすぐに図書館の中に戻っていってから時間ギリギリで戻ってきた。

 しかして、取ってきた札の数は?

 

「ご、五千円……」

 

 と、苦笑しながら発表してました。

 

「いや、小学二年生のお年玉じゃねぇんだからさ!?」

 

 芸人さんのそんなツッコミがちょっとツボったのは秘密。

 で、わたしとクリス先輩は両手両足を地面に付いて凹む二人の元へ向かってそっと肩を叩いた。二人は慰められると思ったのか半分泣きながら顔を上げたけど……

 そんな慰め、すると思う?

 

『高級焼き肉と銀座の寿司、待ってるから』

「……え、えっと」

「……しょ、賞金、持って帰れなかったし」

『へぇ、嘘吐くんだ』

「……払わせて、いただきます」

「……奢らせて、いただきます」

 

 と、いう事でわたしの逃走中は翼さんとマリアからの焼き肉と寿司の奢りもプラスされるという破格の終わりを迎えたのでした。ちなみにマリアと翼さんは三百円、賞金を山分けしてもらってた。やったね!

 

 

****

 

 

 あの逃走中の収録が終わって、放送がされてからわたしとクリス先輩、それから翼さんとマリアはとある所で食事をしていた。

 それは勿論。

 

「あ、このお肉美味しいですよ、クリス先輩」

「マジ? んじゃ一切れ……おっ、マジでうめぇ! んじゃアタシのも一つやるよ」

「いいんですか? ……あっ、美味しいです!」

 

 そう、高級焼肉。

 あの時、翼さんとマリアは賞金で焼き肉と寿司を奢るって言ってくれたからね。遠慮なく食べてるよ。

 勿論SNSには写真を撮ってアップ。翼さんの奢りで高級焼き肉です! って文面と共に投稿したら沢山草を生やしたリプが飛んできたよ。

 ほんと、人の金で食べる焼き肉って美味しい!

 

「……な、なぁ、月読、雪音。そろそろ腹いっぱいなんじゃないか?」

「え? まだまだですけど?」

「いやー、センパイ。奢ってもらっちまってわりぃっすね! でもセンパイはあの時しっかりと奢るって言ったんでお言葉に甘えさせてもらいますわ!」

「……そ、そうか」

 

 ちなみにわたしの賞金は既に新しいテレビと、新しい最新の冷蔵庫。それから欲しかったゲームと本を買って、切ちゃんの欲しかったブルーレイレコーダー。それから残ったお金でわたしの調理器具の新調とベースの道具を新しく幾つか買ってみたりした。

 それからクリス先輩は仏壇をちょっと豪華にしてから、残ったお金で家具を新調して、ちょっと余ったお金で最近は食べ歩きをしているとか。

 翼さんとマリアの賞金? 美味しいです。

 

「……また、財布に冬が」

「私も半分払うわ、翼……」

「マリア……! ならば私も寿司の時は半分払おう……」

「ありがとう……! でも、痛み分けにしかならないのよね……」

 

 ちなみに逃走中の評判だけど、翼さんとマリアが出オチした事でポンコツ歌姫の名が広まった。そしてわたしとクリス先輩のパルクール移動がちょっと話題になった。けど流石無人島から生還したアイドルとか、身体能力お化けアイドルとか、名誉バラドルとか言われてるのは納得いかない。

 あと、あれかな。わたしとクリス先輩がよく一緒に行動していた上に最後は抱き合っちゃったものだから、わたしとクリス先輩で百合疑惑が。緒川さんは百合営業できるから問題なしって言ってるけど……いや、わたしの性癖、ノーマルです。

 でも彩さん達パスパレメンバーも事務所から百合営業してみない? とか言われてるっぽいし。結構メジャーなのかなぁ? でもしたいかしたくないかと言われればしたくないです。そこ、貧乳ロリとロリ巨乳の百合とか言った奴。表出てこい。切り刻む。

 で、緒川さん、風鳴司令、響さんのハンター組は面白そうだったから参加したそうな。覚えておけよ。特に緒川さん。今度地味な嫌がらせで仕返ししてやる。座る椅子にブーブークッション仕掛けてやる。

 まぁ、そんな所。

 そんなこんなでわたしの逃走中は大成功でしたとさ。




という事で今回の元ネタは2019年1月5日に放送された逃走中でした。恐竜が出てくる一時間ちょっとのやつですね。

安定のポンコツ出オチ歌姫共は置いておき頑張った調ちゃんとクリス先輩。でも二人の身体能力的にハンターも振り切れそうだよなぁと思った結果、忍者ハンターを設置しました。アイエエエ!!?
そして図書館内には師弟コンビ。最早殺しにかかっているまである。

そんなこんなで好き勝手しました逃走中でした。そしてなんか翼さんとマリアさんが調ちゃんとクリス先輩に焼き肉と寿司奢るのが最早オチになりかけている。多分次のアイドル時空はまた翼さんとマリアさんが焼き肉と寿司奢る事になる。

ではまた次回、お会いしましょう!
あ、初期イグナイト調ちゃん完凸しました。やったね
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