月読調の華麗なる日常   作:黄金馬鹿

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今回は月読調の華麗なる平行世界の続編的な話です。なので上中下後日談を見てない方は置いてけぼりになる感じの話になります。

無事、切ちゃんの説得によって前を向いて手を伸ばす事を知った調【IF】の世界に何者かの魔の手が。果たして調【IF】は自分の世界を守り切る事ができるのか。

そんなシンフォギアXD風のあらすじを乗っけてからの、本編です。どうぞ。


月読調の華麗なる片割れ

 SONG。それは日本にある聖遺物を扱う組織、特殊災害対策二課という組織とわたし達の組織、F.I.Sが統合し、その他聖遺物を研究している機関が多数集まって国連に認められる事でできあがった国連が運営する聖遺物及びノイズによる新たな特殊災害対策組織。正式名称はSquad of Nexus Guardians。

 それが、F.I.S唯一のシンフォギア装者であるわたし、月読調と何か月もかけて日本とは正反対の場所から徒歩で日本に舞い戻ってきた立花響先輩、風鳴翼先輩、雪音クリス先輩の計四人の装者を内包する、世界で唯一認められた正規のシンフォギアを扱う組織。わたしが新たに身をやつす事になった組織だ。

 三人が戻ってきてからまぁ色々とあったわけだけど……そこら辺は割愛。響先輩が乱痴気騒ぎに巻き込まれただけだからね。

 そんな感じで戻ってきた三人だけど、三人は学校が色々とマズいという事でSONGが結成されてから暫くは勉強に励むことになって、わたしが大々的にSONGのシンフォギア装者として動くことになった。わたしはまだ動けない三人に変わってこの世界を守りたいから学校には行かず、マムの家庭教師だけでいいって言ったら渋々……ほんっとうに渋々だけど了承されたから三人が動けない間の実働隊として動いている。

 そんなわたしだけど……実は結構大忙し。

 何せソロモンの杖はルナアタックの後に保管されていたんだけど、紛失。そのせいで世界各地で出てくるノイズはその発生頻度が増し、わたしは世界各地をあっちこっち。ノイズが出てこなくなればもう少し楽になるんだろうけど……そのためにソロモンの杖をわたし達は探し求めている。

 

「……ここも違う。マム、風鳴司令、指示を」

『ではこのまま退却を』

『後始末は俺達に任せてくれ』

「了解。即座に帰還します」

 

 そして今日もソロモンの杖らしき聖遺物を研究していたらしい違法研究所を制圧したんだけど、ここも外れ。研究所は情報通りかなり嫌な所で、人体実験は当たり前、聖遺物の力を使った紛争ビジネスにも手を出していて、とてもじゃないけど優しいあの三人には任せられない、汚い仕事だった。

 わたしが居る部屋には何人もの研究者がわたしに叩かれて伸びているけど、部屋の奥には既に息絶えてしまった人達……聖遺物を埋め込まれたり聖遺物の力の犠牲になったり、単純に解剖されたり……

 肌色よりも赤色の方が占める色が多い。そうとしか言いようがない地獄がそこにはあった。

 心を殺せばまだこの光景の中でも平常心を保っていられる。そうする術をわたしは身に付けてしまったから。でも、他の人たちは違う。絶対に心に傷を負ってしまう。

 そうして心を殺していたからこそ、激情に身を任せて研究者達を皆殺しにする、なんて真似もしなかった。でも、きっとここを出ればわたしはどうしようもない怒りに支配されて八つ当たりの一つでもすると思う。

 わたしは唯一生き残っていた女の子を抱えて入ってきた黒服の人たちに後を任せて部屋を出る。

 

「……もう大丈夫だからね」

 

 意識を保っているけど衰弱している女の子……名前は、シャロンか。まだ小さなシャロンを安心させるために声を掛けながらわたしは研究所を出て待っていた医療班の人たちにシャロンの身柄を預けた。

 

「お疲れ様です。このヘリに乗って退却の方を」

「はい。それと、この子の事、お願いします」

「任せてください。私達の力の全てでこの子を救ってみせます」

 

 それなら安心かな。

 ギアを解除してわたしはヘリに乗り込む。とりあえず自由行動できる時になったらシャロンのお見舞いにでも行こうかな。待機所までは暫く暇だし、ちょっとだけ仮眠でも……

 

「ノイズだ!!」

「総員、至急退避! 被害者の安全の確保を最優先しろ! 月読さん、お願いできますか!?」

「っ……任せてください。即座に鏖殺します」

 

 この現場で一番偉い人の言葉を聞いてわたしは即座にヘリから降りてギアペンダントを握り締めた。

 また誰かを助けるために、力を貸して。シュルシャガナ。

 

「various shul shagana tron……!!」

 

 シュルシャガナの聖詠を唄い、わたしはもう一度シュルシャガナを纏う。

 直後、わたしの目の前にノイズが現れ、職員の人たちがわたしを見てから安堵の表情を浮かべて後ろへと走っていく。シャロンを乗せたヘリはいの一番に離陸して空を舞っている。これならシャロンは安心……っ!?

 空をノイズが飛んでる!? 確か響先輩達から一度だけ聞いたことがある、あの超巨大飛行型ノイズ……!? なんであんなものも……!!

 

「くっ……ヘリはすぐに逃げて!」

 

 シンフォギアの標準機能である通信機能でヘリに呼びかけてからすぐにわたしはチェーンソーを片手に跳躍。アームドギアの先端からブースターを展開して火を吹かせて普段の何倍もの跳躍力を得てから飛行型ノイズの上を取る。

 そのままチェーンソーを足のアームドギアとドッキング。チェーンソーが巨大な丸鋸に変化した。

 これで!

 

「はぁぁ!!」

 

 丸鋸を使った急降下キックで飛行型ノイズを一撃で四散させる。

 けど、結構無茶な技をしたからか少しだけ体がキツい。わたしの適合率はあの日、エクスドライブを経てから上がった。それでもわたしの適合率は平行世界に帰った切ちゃんよりも下。神獣鏡の適合者である未来さんよりも。

 だからたった一回の大技でわたしの体はバックファイアによる自傷が走る。

 それでも。だとしても、まだ倒れるわけにはいかない。ここにいるノイズを全部駆除するまで、倒れるわけには。

 この世界を守るため、また切ちゃんと会った時に胸を張って頑張れたと言うため……このノイズによって死んでしまかもしれない誰かを守るために!

 

「ひいいぃぃぃ!!? だ、誰かぁぁ!! 助けてくれぇぇぇぇ!!」

「っ!? 職員は退避したはずなのに……まさか、一般人!?」

 

 今日、わたしは何度驚いたらいいんだろう。でも、そんなどうでもいい事は後で考えるとして、今は聞こえた声の方向へとノイズを切り裂きながら走っていく。

 そしてようやく、ノイズに包囲されているその人を発見する事ができた。

 あの人は……どこかで見たことが……? あ、思い出した!

 

「まさか、ウェル博士……!?」

「へっ? ……き、君は確かシュルシャガナの!?」

 

 ここで突然のウェル博士!?

 どうしてこんな所に……いや、話はあと!

 

「すぐに退避してください! ここはわたしが引き受けます!」

「あ、ありがたい! 君は命の恩人だぁ!!」

 

 例えこの人がF.I.Sから逃げてどこかで油を売っていた人なのだとしても、今のわたしにはこの人を助けるだけの理由がある。というかノイズ殲滅のついでに助ける。

 だからわたしが切り開いた道をウェル博士に突っ走ってもらって誰かに回収してもらってから、わたしはすぐにこのノイズ達を排除しないと。わたしがチェーンソーを改めて構えると同時にウェル博士がわたしの方に走ってきて、そのままわたしとすれ違いになり……

 

「えぇ、命の恩人ですよ。この世界の、ね」

「……え?」

 

 ウェル博士の言葉に疑問を抱き、振り返ろうとした直前に何かが首に押し付けられた。押し付けられたソレを押しのけるだけの時間すら与えられず、わたしが急いで首に当てられたそれを振り払った時にはわたしの体に異常が走っていた。

 

「一体何を……うぐっ!!?」

「ふっふっふふ……アハハハハハハ!! 所詮シンフォギア装者と言えどただの子供!! まさかあの時の人形がこうも生き生きとしているのは驚いたが……やってやったりしてやったりぃ!!」

 

 か、体が、いう事を……!?

 ち、違う、これは……LiNKER無しでギアを纏った時と同じ……いや、それ以上の、負荷が……!!

 このままじゃ、ギアが、解除、され……いしき、も……

 

「これで聖遺物一個確保っとぉ! さて、後はこの研究所の聖遺物もパクって……後はネフィリムの起動だぁ!!」

 

 ごめ、ん……たすけて、きりちゃ……

 

 

****

 

 

 目が覚めると、わたしは何処か分からない場所に居た。

 ここは……どこ? 外で……周りには土とか木ばかりで、前にあるのは……建造物? なんなんだろう、あの建造物は……

 

「ようやくお目覚めですか。あの頃は言われなくても起きていたのに……本当に、随分と変わりましたね。当時を知る者としては嬉しい限りですよ?」

「ウェル、博士……!!」

「ご明察ゥ!! 僕こそがこの世界の救世主にして英雄となる男! ドクタァァァァァ! ウェルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 あ、相っ変わらず頭のネジが外れたような言動してる……

 っていうかここは一体……? どこかの建物の中? それとも、洞窟の中? 少なくともどこかの研究室とかじゃない。それに、特に縛られても無いし体を障られた痕跡も……

 あの人、一体なんでわたしを攫ったの……? どこかの国に売りつけるなら縛り上げるだろうし、手を出したいのならとっくに……!?

 

「おやおや、やっと気が付きましたか」

 

 ぎ、ギアが! シュルシャガナがない!?

 

「あなたの大切な大切なギアはここですよ。こ、こ」

 

 そう言うウェル博士の手元には、確かにわたしのシュルシャガナと……他にもギアが?

 なんでギアが他にも……シンフォギアは二課とF.I.Sしか作ってない筈だから、紛失したアガートラ―ム、ガングニール、イガリマ以外は存在しない筈……

 いや、もしかして! あの残りの三つのギアって!

 

「そう、あなたの大切なギア。ガングニールとアガートラーム。そして、イガリマもねぇ!!」

「か、返して! そのギアは、それは切ちゃん達の!!」

「故人に所有物もへったくれもあった物ですか! むしろ僕に利用されることに感謝している事でしょう。この世界を救う英雄となる僕を手助けできたことにねぇ!」

 

 そ、んな事!!

 

「……おっと、そういえば説明していませんでしたね。僕が今から何をしようかを」

 

 どうにかしてウェル博士からギアを取り戻さないと……

 あれは切ちゃん達のギア。今までのわたしはそれを気にしていなかったけど……今は違う。せめて切ちゃん達がこの世に残した物はしっかりと、それを正しく使ってくれる人に受け継がないといけないのに。

 あんな人に任せてなんて……

 

「出てこい、ネフィリム」

 

 ウェル博士の言葉に従って何かが出てきた。

 あれは……黒い、怪物……?

 いや、違う! あれは!

 

「見覚えがあるでしょう? コイツ……完全聖遺物ネフィリムに関しては、特に。あなたがお人形のようになった切欠ですからねぇ」

 

 ネフィリム……!?

 どうして、こんな所に……いや、違う。どうしてまたネフィリムが起動しているの!?

 あれはセレナの絶唱で待機状態に戻った筈なのに。あれを再起動できるのなんて聖遺物に詳しい研究者位しか……ってウェル博士、まさか!?

 

「そう、ネフィリムこそが今回の計画、フロンティア計画の鍵。この世界を救う計画の要なのですよ!」

「ネフィリムで、世界を救う……?」

「そう。このフロンティアは! ネフィリムを動力源とする事により起動する! 神獣鏡の力によってこの遺跡は目を覚まし、そして僕が制御するネフィリムによって起動し、この僕が人類を新天地へと誘う!!」

 

 ……え、えっと。

 これ、狂言回し?

 いや、そうじゃなくて!

 

「どうしてそれが世界を救うなんて事に」

「おや、知らないのですか? 先のルナアタックで砕かれた月の一部。それは月機能を不全とさせ、遠くない未来に月はこの地球に落下しようとしている」

 

 つ、月が!?

 そんな事、ニュースなんかじゃ言ってなかった……いや、言えるわけがない、か。

 そんな事を報道してしまったら、全世界でパニックが起こる。もし月が地球に落下したら地球は人が住めない土地に変わってしまうかもしれない……

 月を砕くなんて人類には不可能……それこそ完全聖遺物の力でも使わない限りは。

 でも、このフロンティア計画はそれを防ぐ計画で……新天地へ、誘う? この遺跡が? 一体どうやって……

 ……まさか!?

 

「そう! この遺跡こそが人類の新たなる新天地なのですよ!」

 

 ウェル博士の言葉を無視して遺跡の外へと出る。

 遺跡の外は、海。だけど、この遺跡は……土地は、空に浮いていた。確かにここならあまり多くはないけど、人が暮らすには十分な土地もあるし、緑もある。

 

「っ……! けど、これだけじゃ世界を救うなんて、できない! 全人類を救うだなんて!」

「おや、誰が全人類を救うと言いましたか?」

「えっ……?」

 

 だって、この計画は、人を救うための……

 ……いや、もしかして。

 そうだとしたら、ウェル博士の言葉は。

 

「……まさか、救う人を厳選して、他を見捨てるつもり!? そして自分がその人達を救った英雄になろうと!!」

「正解正解大正解ぃ!! そう、これこそが僕のフロンティア計画!」

 

 世界を救うために戦うのならまだしも、それをダシに自分の野望を叶えようだなんて……!

 

「それに、この世界には僕の妨げとなる存在はもういない。この通り」

 

 ウェル博士は憎い顔を更に憎い笑顔に変えると、懐からまた何か……!?

 あれは、まさか……!?

 

「天羽々斬とイチイバル。これがここにある理由、あなたなら分かりますよね?」

 

 そんな、あの二人のギアが、どうして!?

 わたしのギアならまだしも、あの二人のギアが……!!

 

「カルマノイズ、でしたか。あなたが眠っているうちに現れたのですよ。そして、そこで僕はカルマノイズとの戦いに疲弊した装者達をネフィリムに襲わせ、これを奪った。なに、殺してはいませんよ」

 

 カルマノイズが、また現れた……!?

 確かに、カルマノイズは装者三人がかりでやっと倒せるような強敵。いくら響先輩達でも、あの時来てくれた響さん達よりも戦力的にはまだ劣っているから、それに加えてネフィリムの相手までしたら、いくら響先輩達みたいな半分不死身のような人でも……!!

 

「神獣鏡の出力がネックでしたが、それも何とか突破した。邪魔する装者ももうこの世界には居ない。カルマノイズだろうと例えネフィリムを止める事は不可能! あなたには僕が今ここで英雄となった事を証言する生き証人となってもらいますよ」

 

 そんな……

 どうしたら……一体どうしたら、この状況を……

 ……そうだ、シュルシャガナを。シュルシャガナさえ取り戻してここを脱出したら、平行世界に助けを求めに行ける! 響さん達に助けを求められる!

 響さん達なら、切ちゃん達ならきっとこの状況も!!

 

「おっと。何か企んでそうですね。ならばそれは先んじて潰すゥ!!」

 

 そう思った直後。ウェル博士の手にいつの間にか握られていた杖が光り、わたしの周りにノイズが大量に現れた。

 ノイズを召喚する杖……って言うことは、あの杖って!

 

「そう、ソロモンの杖は僕の手元にある! 装者も居なくなったこの世界に最早僕の夢を止められるものは居ないッ!!」

「ソロモンの杖まで……」

「さぁ、後はお食事タイムだネフィリムゥ!! シンフォギアを食らい完全体になっちまいなよ!!」

 

 そう叫びながらウェル博士はシンフォギアをネフィリムに投げて……

 ――また、なの?

 また、わたしは見てるだけで……

 目の前で全部終わって、わたしだけがのうのうと生き残って……!!

 ……嫌だ。そんなの、嫌だ!!

 今走れば、きっと間に合う! ノイズの間を走って、あそこまで辿り着けば、きっと間に合う!!

 

「ノイズなんて……今さら、ノイズなんてぇ!!」

「なっ!? ノイズに向かって走り出した!? 正気か!?」

 

 確かにこの行動は狂気だけど、それ以上に正気の沙汰!!

 こうでもしないと、全部あのいけ好かない男の思い通りになっちゃう! 切ちゃんとこの世界を守るって約束したんだから、絶対に守る!

 だから!

 

「この程度の危険、なんてッ!!」

 

 お願い、届いて……!!

 

 ――全く、調はあたしが居ないとダメなんデスから――

 

 ……え?

 切、ちゃん……?

 

「幻姿・阿rアJぃん!!」

 

 切ちゃんの声が、聞こえた気がした。

 その瞬間に、わたしの周りに砂埃が舞って、ノイズ達が一瞬で斬り裂かれた。

 い、今の攻撃って……まさか!

 

「当てるっ!!」

 

 後ろを向いて攻撃の主を確認しようとした瞬間、後ろから紫色のビームが飛んできて、ネフィリムの体を焼くとそのままネフィリムを吹き飛ばした。

 何が起こったのか分からないけど、今がチャンス! 開いた道を走って、わたしのシュルシャガナと、それからイガリマ、ガングニール、アガートラーム、イチイバル、天羽々斬を回収する。

 よかった、間に合った……!

 

「なっ、お、お前は!? い、いやあり得ない! そんなまさか! 死人が蘇るなどと!!」

 

 ウェル博士の声が聞こえる。

 やっぱり、そうだ。ここに来てくれたのは!

 

「調がピンチなら、あたしは例えどこだろうと。フロンティアだろうと、平行世界だろうと、助けに来てみせるデス!!」

「やっぱり、切ちゃん!!」

「遅れてごめんなさいデス、調! でも、ここからはあたし達も戦うデスよ!」

 

 わたしの後ろからノイズ達を斬り裂いてくれたのは、やっぱり切ちゃん。前に会った時とギアの形状が変わってるけど、何となく分かる。あの姿の切ちゃんは、前の切ちゃんよりも遥かに強い。

 そしてその後ろには。

 

「こっちの世界のわたしまで利用して、こっちの響を困らせるなんて……! 絶対に許さない!」

 

 バイザーを開いてウェル博士を睨む未来さんまでもが。

 間違いない、あの未来さんもわたしが知っている、平行世界の未来さん。神獣鏡の正規装者の!

 

「しかも神獣鏡、だとぉ!? 馬鹿な、神獣鏡はあの時、融合症例との戦いで消えた筈! ……いや、待てよ? まさか君達は、F.I.Sのレポートにあった平行世界の!!」

「その通りッ!!」

 

 きっとこの後来るのは響さん……そう思った。

 けど、聞こえた声は違った。どこかで聞いたことがあるような、無いような。でも、懐かしさを感じるこの声。凛々しさを感じるこの声は。

 ……まさか。来てくれたのは響さんじゃなくて!

 

「例え月の落下があろうとも! 最低な英雄の打算があろうとも! この世界には、歌があるッ!! この場に槍と歌を携える者が居ないのならば、その代わりに私が歌う!! この、マリア・カデンツァヴナ・イヴと銀腕・アガートラームがッ!!」

 

 マリア……マリアだ! 切ちゃんの世界で生き抜いて、戦い抜いてきた、アガートラームを纏うマリアだ!

 

「調、あなたからしたら久しぶりなのよね。色々と話したい事があるけれど、今は我慢よ。そして、今までの状況に危機を抱いていたのなら、安心しなさい。例えこの世界の装者が倒れようと、絶望する必要はない! 何故ならここには私達が居る! 歌がある! ならばこの場において敗北はあり得ない!!」

「うん、マリア!!」

「ちっ、亡者共が群雀のように!! だがこの現状、よく考えればチャンス以外の何物でもない! 行け、ネフィリムッ! 更に多くのシンフォギアを食らうのだ!!」

 

 っ、ネフィリムが!

 いくらマリア達でも、ネフィリムが相手だと……!

 

「ドクター・ウェル、忘れたのかしら? こちらには聖遺物への哲学兵装があることを!!」

「ネフィリムの相手は、わたしが! 閃光ッ!!」

 

 いや、そんな事はない! ネフィリムが相手でも、神獣鏡なら。聖遺物に対する絶対的アドバンテージを持つ神獣鏡がこの場にあるのなら、ウェル博士の全ての武器を使われても!

 

「ノイズが無数とネフィリムが一体。確かに、戦力差は絶望的。そんな状況だからこそ、立花響の言葉を借りるわ。そう、状況は絶望的。これ以上の援軍は無し。だとしてもッ!! この場にはそれを打開するための歌がある!! 神の義手と、女神の刃! そして未来を映す鏡があるのならば!!」

「偉そうな御託をぐだぐだとぉ!!」

「行くわよ、切歌、調! 小日向未来の援護をしつつ全てのノイズを殲滅、そしてドクター・ウェルからこのフロンティアとソロモンの杖を取り戻し、世界を救うわよ!!」

「あたし達三人が揃えば、できない事なんて存在しないデス!」

「うん! 一緒に戦おう!」

 

 切ちゃんからLiNKERを受け取って、聖詠を唄い、シュルシャガナを纏う。

 既に未来さんは一人でネフィリムと戦っている。聖遺物特攻があったとしても、完全聖遺物の相手はシンフォギア装者一人には荷が重い。

 だからこそ、わたし達が援護する。

 わたし達が揃えば、倒せない相手なんて存在しない。マリアと、セレナのアガートラーム。そして、切ちゃんと、わたし。F.I.Sの装者とシンフォギアが、この場には全て揃っている。

 そして、この胸に浮かぶ歌は。

 

「……これが、わたし達三人の歌」

「そうよ。私達だけの歌。勝利の賛歌よ!」

「さぁ、切り刻むデスよ!」

「……うん。うん! 行こう、マリア、切ちゃん!!」

 

 旋律を奏で、三人で走る。

 その目の前にはノイズ達が立ちはだかるけど、それを全て一気に斬り払う。

 ユニゾンじゃないから、出力の上昇は微々たる物。あくまでも三人での合唱だから、数値的にはいつもと変わらない強さ。でも、今のわたしは心っていう埒外の力がある!

 だから、例え完全聖遺物だろうと!

 

「な、なんだこの勢い、フォニックゲインは! これほどのフォニックゲインがたった三人の装者から放たれるだとぉ!?」

「ドクター・ウェル! もう私達はあなたが知る私達ではない! その証をその目に刻み込みなさい!!」

「ヒィッ!? こ、こんな所で負けてたまるかぁ!!」

 

 っ、ウェル博士が外に逃げた!

 でも、ネフィリムがここには居る。それを未来さんに任せておくわけにはいかない。

 だったら!

 

「切ちゃん! ネフィリムを!」

「表に出して喧嘩するデスよ!」

 

 わたしと切ちゃんが左右からネフィリムを挟み、一気に距離を詰めてからチェーンソーと鎌で思いっきりネフィリムを斬り飛ばす。

 

「未来、続きなさい!!」

「はい!」

 

 そして吹き飛んだネフィリムにマリアと未来さんのビームが突き刺さり、ネフィリムの片腕が千切れ飛ぶ。更にネフィリムの体は外に逃げたウェル博士の近くに落下し、ウェル博士はその衝撃で転んで尻もちをついた。

 そこへとわたし達も飛び出し、さっきまでの狭い空間じゃなくて広い場所でチェーンソーを思いっきり構える。

 

「だ、だがこれだけ広ければドデカイビックリドッキリノイズだって出せるんだよォ!!」

 

 けど、ウェル博士は巨大なノイズを出して抵抗。

 全長は、五メートルを超えている。そんなノイズが数体も現れ、空にはそれと同じくらいのサイズのノイズが十体以上は飛んでいる。

 お、多すぎる……! これがソロモンの杖。ノイズの召喚使役を可能にする完全聖遺物……!

 ……いや、でも、多いだけ。

 多いだけなら、やりようは幾らでもある!

 

「調。ここは私達が一撃で蹴散らすわ」

「後詰めはお願いするデス!」

「……二人がそう言うのなら、信じる!」

 

 でも、二人がここは一撃で王手直前まで持って行ってくれる。だったら、私は最後の詰めだけを担当する。

 切ちゃん、マリア、未来さんが絶唱を口ずさみ、その手にフォニックゲインを蓄える。

 絶唱なんて使ったら、確実に後隙ができる。だから、この作戦は確実にわたしがこの後の後詰をできると信じてくれているからの絶唱。それを、無為にするわけにはいかない。

 

「行きなさい、調!!」

「ノイズでモーゼの時間デス!!」

「ネフィリムは、わたしが!!」

 

 マリアと切ちゃん、二人の絶唱によって生まれた白と緑の光が空と地に炸裂。そのまま爆発して全てのノイズを焼却していく。

 そして未来さんの絶唱によって放たれたビームがネフィリムの体を消し飛ばし、心臓だけを残す。

 道は、開いた。

 今度は、わたし自身の力で間に合わせる!!

 

「なっ!? そんな馬鹿な技が!!?」

「そこぉぉぉぉ!!」

「しまっ!?」

 

 ツインテールと腰のユニットからバーニアを吹かせて一気にウェル博士に肉薄。そのままチェーンソーを握ってない手でウェル博士の持つソロモンの杖を力任せに奪取。

 ウェル博士は抵抗したけどシンフォギアの前には無力。勢いあまって転んだウェル博士の首元にそのままチェーンソーを突きつける。

 

「わたし達の、勝ち。ウェル博士、あなたをSONG所属の正規シンフォギア装者として拘束します。抵抗は無駄です」

「ぐっ……! こ、殺せぇ!! どうせなら僕を殺して英雄にしろぉ!!」

「殺しません。あなたは、英雄じゃなく人として裁きます。それが、わたしの信念で、理想だから」

 

 こうして、ウェル博士が起こした騒動は、わたしと、平行世界から来てくれた切ちゃん達のお陰で何とか解決する事ができた。

 

 

****

 

 

 それからの事。

 ウェル博士はそのまま逮捕されて然るべき処罰を受けるとの事。そして、ソロモンの杖を使ってわたしはバビロニアの宝物庫という所を完全に現世から切り離して閉鎖。ノイズが未来永劫、出現しないようにした。

 それから、SONGがフロンティアを調査。そして月の軌道を直すプログラムが存在するのを確認すると、それを使って月の機能を修正。月は地球に落下することなく、これからも今まで通り地球の周りを回り続けるんだって。

 あと、カルマノイズだけど、実はマリア、切ちゃん、未来さんはこっちに来た装者の別動隊で、あっちの世界の翼さん、クリス先輩が戦って殲滅したみたい。響さんはあっちの世界のわたしと一緒に残って、万が一に備えてたとか。

 それと、響先輩達の方だけど、暫く入院で命に別状はないみたい。響先輩の胸に埋まってたガングニールの欠片は消えたから、融合症例じゃなくなったけど、マリアの形見のガングニールを渡したら適合できたから、今まで通りガングニールの正規装者をするんだって。

 ただ、融合症例としての響先輩はどうやら命の危険もあったらしくて……平行世界の皆からその話を聞いた時、わたし達全員、顔を青くして冷や汗を流した。結果的に未来先輩は響先輩の命を救ったみたい。

 最初は響先輩のガングニールの消失に少しだけ残念がってたし、未来先輩もウェル博士に攫われて半分洗脳みたいな事をされて戦ったとはいえ、響先輩からガングニールを奪っちゃった事に後悔してたけど……なんやかんやでガングニールは正規品を使うことになったし、命の危険も去ったし、結果オーライだね。

 で、そういった処理をなるべく短い間に終わらせてから。

 

「それじゃあ、私達は戻るわ」

「調の様子を見に来ただけですっごい事に巻き込まれてしまったデス」

「カルマノイズにフロンティア事変……遊びに行くだけの筈だったんだけどなぁ」

「まぁ、こういう事も偶にはあるだろう」

「アタシ等にゃのほほんのんびりよりもこういう鉄火場の方が似合ってるってこった」

 

 どうやら響さんが大人しく留守番したのは、本当はただこっちに遊びに来ただけだったからみたい。

 響さんはまた今度来るから、今回はこの五人が、って感じ。

 にしても遊びに来たら事件に巻き込まれるって……すごい確率だなぁ。

 

「今度はあたし達の世界の調も連れてくるのも面白いかもデスね」

「へ、平行世界の自分と会うのってなんだか変な感じになるかも……」

 

 ドッペルゲンガーと会ったみたいな感じで。

 でも、なんだか面白そうだねって事で笑いあって、もうそろそろ切ちゃん達は帰らなきゃならない時間になった。

 もっとお話したいし、遊びに行ったりもしたかったけど、あっちの世界に帰らないと処理的にもマズいみたいだから、また今度。

 もうノイズも出てこないから、暫くは平和だろうしね。今度来たときはみんな一緒に遊べると思う。

 

「それじゃあ調。またね、デス!」

「うん、切ちゃん。またね」

 

 そして、切ちゃん達はギアを纏って元の世界へと戻っていった。

 ……よし、わたしももっと頑張らないと! この世界を守るって、約束したからね。

 だから。

 

「見守っててね、切ちゃん」

 

 一個から二個に増えたペンダントを握りしめながら、空を見上げた。

 何となく、空から応援が聞こえた気がして、わたしはちょっとだけスキップをしながら響先輩達のお見舞いに行くために病院へと向かった。

 さぁ、明日からまた世界を守るために特訓しないとね。




と、いう事でどうでしたでしょうか。月読調の華麗なる平行世界はG以前の話であり、GX直前風の話でしたので、今回は順当にGの話をやりました。本当は調【IF】が一人で戦い抜く……みたいに考えてたのですが、やっぱりそんなのじゃなくて誰かと共に戦うのが一番いいと思い、平行世界から切ちゃん、マリア、未来さんが援軍に。

本編と違ってウェル博士がネフィリムの細胞を腕に打ち込んでいない。ネフィリムの成長がビッキーの腕を食った時の大きさで止まっている等、そうした要因がありネフィリムは何とか未来さんの絶唱により撃破。ソロモンの杖は奪還してSONGが管理する事に。そんな感じのお話でした。

以下、簡単に二話の感想etc
きりしら尊い……しかも未熟少女Buttagiri! まで流してくれるなんて大盤振る舞い過ぎて前半はすっごく満足してました。
前半は。
後半のライブが終わった後ォ!! いや、大体はTwitterで色々と呟いたけど、自分は大きなどんでん返しが無い限り、ミラアルクを好きになれる気がしません。というか、パヴァリア残党組も好きになれないと思う。
いくら仲間のために手を汚せると言っても限度がありますし、既にミラアルクはサンジェルマン達が殺した総数を越えているわけですし。
あと、それを止める素振りすらしなかった他二人もですよ。十万も殺すのを黙認する理由があったのかよと。サンジェルマン達ですら長年かけて七万ちょっとですよ? それを三万も超える数を、一日で殺しているのを黙認、容認している時点で……しかも、目的を察する限り、翼さんの精神を追い詰めてなんか仕掛ける事ですし。たった一人を追い詰めるために十万殺してる時点で。
というかそもそも人の命を塵芥と目的遂行のための道具としてしか見ていないようにしか見えないので……それに、一般人を意図的にガードベントして自分で殺す時点でちょっと……
そんな、相手側から殺しという行為を何とも思っていないと感じた二話でした。

それではまた次回、お会いしましょう!
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