少し前に話は遡る。
「坊っちゃん、これを持ってくだせー。」
竜は桐崎家に移動中、車の中で俺に拳銃を渡す。
「護身用です。
いざの時はこれで。」
だが護身用と言えど、使用するのは本物な訳で。
だからこそ、思うことがやはりある。
人の命を左右するだけの重さが掌から伝わる。
「・・・なあ、殺す覚悟は必要だと思うか?」
「いざの時が来ないようにあっしらが全力で守ります!」
1本取られたな。
なあ、おまえらはどうしてここまで・・・。
「そりゃあ、今までほとんど迷惑しかかけれなかったあっしらに、とうとう役に立てるときが来たからでさあ。」
「え、声に──」
「だから、やっと坊っちゃんのために何か出来るかと思うと・・・!」
「よせ、泣くなよ竜。」
そうか、こいつらは俺が小さい時からずっといる奴等がほとんどで、こいつらなりに俺のこと想ってくれてたのか。
竜だって親では無いけど、親のようにいつだって面倒見てくれたんだよな・・・。
「だから、がんばっでぐだぜー。」
「・・・ああ。」
泣き崩れる竜の肩に手を置く。
俺も気付けば──。
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「TT-33か。」
「ああ、そうだ。やっぱ詳しいな。」
「だが、撃てるか?貴様に。」
即座に鶫の足下を狙って撃つ。
これは見せつけと挑発だ。
「次は、当てるぞ。」
だが鶫とまともに戦ったところで、負けは十中八九。
いや、十中十みたいなもんだ。
勝つ為の方法は考えていたが、前と似た戦法に近いため胸を張れるものでもないが。
「本気になってくれて嬉しいぞ、一条楽。」
「・・・ここに来た時から、常に本気だ!」
「なっ、待て!」
そして前科同様に逃走した。
銃を突き出した時から決めていたため、流石の鶫も反応が遅れる。
正直これが通用しなければ負け確だったので助かった。
角を曲がり死角に入り適当に走る。
「貴様!
逃げるが勝ちとでも言う気か!?
そんな奴にお嬢など!」
「ここで逃げずに終わらせるよりましだ!」
一目散に走る。
ここでどれだけ逃げられるかが勝負の鍵だからだ。
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「終わりだ一条楽。」
「・・・・・・。」
状況としては詰んでいた。
鶫に追いつかれ、後ろには壁があり俺は張り付いていた。
鶫との距離約20m程で、撃たれれば即死だ。
やはり鶫との鬼ごっこにはだいぶ無理があった。
でももういい。
これは賭けであって、俺が死ぬのなら負けたということだ。
「最後に言い残すことはあるか。
級友として情けはかけてやろう。」
「そうだな、精一杯はやったかな。
まだ諦めてはないけどな。
でも、ここで俺の人生が終わんなら後悔ばっかだぜ。まだ死にたくねえ。」
「そうか・・・。」
その後鶫が何か言いかけたその時、騒がしい足音が響いて来た。
「なんだ?」
「(勝った。)」
「何?」
「坊ちゃん!伏せて!」
そこに現れたのは、俺が今回最も頼りにしていた佐々木竜之介だった。
鶫は俺に向かって撃ちながら竜の額を狙って左手にも銃を構え二刀流になる。
驚きからなのか少し遅いタイミングで鶫から放たれた銃弾を、俺は言われた通りに回避し、竜は弾を刀で割っていた。
その切れる音は戦いの合図になり、鶫も俺を無視して戦い始める。
「坊ちゃん!
ここは任せてくだせー!」
「ああ!
すげーいいタイミングだったぞ竜!」
「まさか、このために・・・!」
今更気づいたところでもう遅いわけだ。
「これが貴様の答え・・・。」
「ああ、そうだ!
みんなの優しさに全力で甘えてでも、仲間に背中押されながらでも、決めたことは引っ込めねえ!
それが最低限の男の面ってやつだ!」
感情が高ぶり、自分の発言なんかを気にしていられないため、なかなか恥ずかしいことを言っていることに気付かない俺だった。
だが、走り始めてふと思う。
確かに色々俺も頭使ったり体に鞭打って生き延びたが、鶫であればきっと俺を殺せただろう・・・。
俺は鶫に「生かされている」のかも知れないという可能性が頭をよぎった。
でも、ここで俺を生かす理由なんてないだろうに。
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千棘の部屋を捜索し始めて数分、一向に見つからずに慌て始めていた。
「おい小僧。」
そんなときの後ろからの声に背筋が凍り、足の動きが止まる。わかっている、「あいつ」だ。
俺を小僧と蔑称で呼ぶのは、「あの男」しかいない。
振り返りたくないがそうするしかないし、従わなければ即死だ。
正直さっきの鶫は予想外であり、本来竜はこの男にぶつける予定だった。
その竜がいない今、ここを自力で乗り越えるしかない。
動きが速くなる心臓とじわりと感じる汗を隠しながら、ゆっくりと大体の距離感を視野で掴み、内ポケットに手を入れる。
そして振り返りざまに素早く銃を出す。
そこにいるのは、白いスーツを身にまとった金髪で博識そうな眼鏡をかけた白人、ビーハイブの幹部『クロード』だった。
「ほう、死にたいようだな。」
「俺は・・・そんなつもりはない。あいつに会って話をつけるまでは。」
「お嬢を傷つけた男と話すことなどないだろう。」
「それはおまえが決めていいことじゃねえだろ。」
「お嬢が話すことなどないと言ったらどうするのだ。」
「引き上げる。それだけだ。」
「だが、敵の陣地にわざわざ乗り込んで来た貴様を逃す訳がないだろう。」
「嘘つけよ、千棘と会う前に殺す気だろ。」
「そうだな、貴様のルールに従う義務も必要もないからな。」
ここまでは流石に思っていた通りだ。
クロードは馬鹿なりにあいつのために尽くし、馬鹿なりに見守ってきた訳だ。
少し違うとしても、俺と竜のような関係性に近いことは間違いなく、あいつも大切に想われてきたのだろう。
だからそんなあいつを心から傷つけた俺を死んでも許す気はないだろう。
その点は子供のような価値観であるが、そうクロードに伝えたとしても口では分からないだろうし、聞きもしないはずだし、状況は恐らく酷くなるだけだ。
だから、俺は組を巻き込んででも戦いを挑む他に無いのだろう。
「余裕そうだな。」
「貴様などいつでも殺せる。」
「だ、だが殺して良いのか?
一人の人間を殺したとなればお前らも立場は危ういはずだ。」
クロードの眉毛がピクリと反応する。
それを俺は見逃さず、そこで一気にこちらのペースに持ち込んでしまうために畳み掛ける。
「警察の、一部の人間は、この騒動の要因と俺がここに来ていることを知っているし証拠も残している。
・・・存在を消しても無駄だ。すぐに判明するぜ。」
「殺さずとも貴様を屠る方法などいくらでもある。図に乗るなよ、小僧。」
それで良かった。俺の生が保証されるのであればまだチャンスはある。同じことを何度もしてしまうのは迂闊ではあるものの、それに縋るしかない自分に無力感を覚える。
だが、拘っても欲張っても選んでもいられない。
「・・・来いよ。」
精一杯の挑発行為だ。この言葉がはっきり口から出たかすら定かでない。
揺れる体に同調するかのように音が大きくなっていく心臓。
クロードの形相に一気に背筋が凍る。
最初10mほどあった距離は一気に詰められ、気付けば腹を蹴られていた。
「ぐっが・・・。」
「痛いか?だがお嬢が受けた痛みがこの程度で済んでいると思っているか?」
「な、なんのことか、シラン・・・クセニ。」
「だが、貴様に傷つけられたことは事実だ。」
そして、今度は横に回られ肩を蹴られる。
「がぁ・・・!」
「骨にヒビが入ったかもしれんな。
まあ、気にする事はない。もう貴様は生きて集英組に帰ることはないのだからな。」
壁に当たり、蹲ることしかできない俺だった。
「さて、これより貴様を連行する。」
サラッと告げられる社会的な俺の死刑宣告。
カツカツと音を立てる靴の音。だが、その音は途中で止まる。
そしてその直後、クロードに目掛け銃弾が迫った。
一気に静まる空気。
そこに銃を持って立っていたのは、『鶫誠士郎』だった。
「一条楽、貴様の想い確かめさせてもらったぞ。」
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「ほぅ、親であり師である私を狙うということの意味はわかっているのか?誠士郎。」
「はい、わかっているつもりです。
私はお嬢のためであればあなたを敵にすることも躊躇わない。」
「おまえには、もう一度教育が必要なようだな。」
「私は負けるつもりもありません。だって───」
そして、鶫の隣にいる男が口を開く。
「この佐々木竜之介がいるからな。」
「りゅ・・・う・・・。」
「坊ちゃん、今助けます。」
「いいだろう。二人まとめて来い。」
3人とも武器を手に取る。
竜から「先に行け」とアイコンタクトが送られて来た。
全く無茶を言うものだ。2度も全力で殴られたこの俺にもう一度立ち上がれと言うのだから。
その証拠に、俺にもう二人共気は向けていなかった。
放っておいても立てるだろう?と言われている気分だ。
まじでスパルタ過ぎるこいつらは、少し人の扱いを学ぶべきなんじゃないだろうか。
そんなくだらないことを考えているうちに気力は少し回復した。
開戦を告げる銃声が俺のスタートだ。
刃を振るい、響く金属音と止まない銃撃戦に足が震えるが俺は走る。
後ろを振り返れば、負けない意志で闘う二人の目が映った。
それが俺に走る力をくれた。
───────────────────────
「開けてくれ、千棘!」
唯一鍵のかかった部屋を発見する。
ここが千棘の部屋だとなんとなく確信し、精一杯の声で叫ぶ。
そしてゆっくりドアが開き、俺の前に目を腫らした千棘が立っていた。
「楽、なんで・・・。」
その問いの答えなんてひとつ
「おまえとここで終わらせねーためだ。
仲直りがしたくて、ここまで来た。悪いかよ。」
「でも、どうやって・・・。」
「それは後でいい。とにかくこの争いを鎮めるぞ。」
「え、でも──」
「いいから来い。」
俺はベランダへ駆ける。
だが駆け抜けるという表現は正しくない。
途中から千棘にどこに行くのか聴かれ、その後は千棘に担がれた訳だ。
やはり弱ってもゴリラであったこの子は。
そしてあっという間に到着し、俺ら千棘から降りて下を見つめる。
下ではまだ争いは続いていた。
中々残虐なものであった。千棘は目を思い切り背け顔を手で覆った。
だが、ここで千棘には一仕事してもらわねばならない。
俺は思い切り息を吸い込む。
争っている全員の手が止まる。
俺と千棘は叫んだ。止めろと。そして続ける。
「千棘は俺の大事な友達だ!
その家のもんを傷つけるのは許さねー!」
「みんなも止めて!
楽の家族に手を出さないで!私のお客さんだよ!」
「嫌かもしれないしその気持ちはわかる!
わかるけど!ここは引いてくれ!
頼む、俺の我儘を聞いてくれ!」
「私も同じ!
私はみんなに傷ついて欲しくないし、楽と敵対なんてしたくない!
すごく我儘だけどお願い!みんな止めて!」
「頼む!」「お願い!」「「言うことを聞いて!!」くれー!!」
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後日談。
簡単に言うと、無事俺らは家に帰還した。
俺達の叫びの後、かけつけた親父と千棘の親父さんの力で争いは終わりの方向へ向かったのだ。
そして、今日は待ちに待った文化祭である。
千棘とはあの日以降仲直りし、他にも事はあったが千棘も積極的に準備に参加していた。まるで俺と喧嘩していて楽しめなかった日々を取り戻していくかのように。
全ては順調のように思われた。
だが・・・。
「え?小野寺が怪我!?」
「そう、小咲ちゃん足捻って上手く歩けないみたい。どうなるんだろう演劇・・・。あと30分で始まるよ。」
「小野寺今どこにいるんだ?」
「ここの反対側。すっごく落ち込んでる。
いっぱい練習してきたのに・・・。」
「先生は呼んだか?」
「今来ると思う・・・。」
「あちゃー、こりゃ捻挫だね。
代役の橘は?」
「風邪引いて寝込んでます。」
「そっか、そりゃ参ったなー。
・・・とりあえず先生は対応考えるから準備続けてて。以上解散。」
そしてみんなが配置に戻り始めた頃、先生は俺の肩を叩く。
「ジュリエットのそばにいてやんな。
無理させんなよ。」
なんて声をかけるべか千棘と悩んでいたとき、壁によし掛かりへたり込む小野寺は顔を伏せたまま喋った。
「どうしよう、今日までみんなで頑張ってきたのに・・・。
私のせいで中止になっちゃう!」
どうやら小野寺のフォローをしようとしていた俺は間違いだったようだ。こんなときでもみんなのことで頭がいっぱいなんだ・・・。
少しの間そうしていた小野寺は唐突に顔をあげる。
「ねぇ、千棘ちゃんは?」
「え?」
「千棘ちゃん、代わりに出てくれない!?」
「え!?私!?」
「ごめんね、でも急には無理だよね・・・。」
「い、いや私出るよ!
小咲ちゃんとみんなで繋いできた演劇は絶対潰さない!」
「でも、千棘おまえ台詞は──」
「そんなの今から覚えればいいじゃない!
台本貸して!」
「え?小野寺──」
「うん、ありがとう千棘ちゃん。
一条君、千棘ちゃんをお願いね。」
「・・・わかった、任せろ!」
10分足らずで台詞を詰め込み、5分で慌ただしく千棘はジュリエットに着替える。
そして穏やかににっこりとした笑顔と共に劇はスタートを切った。
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「みんなそんじゃ、お疲れー!」
「「お疲れー!!」」
橘がいきなりもう1人の恋人(妹)役として乱入してきたり、ナレーションを務めた集のアドリブにより鶫が告白させられそうになったり、千棘が台詞を忘れたりとあったが劇は大成功だった。
「台詞どうやって覚えたの!?」「すごい!私感動した!」
そんな千棘を褒めちぎる台詞がクラス中に飛び交う中、
「ニセの恋人だったのか本当に!?」
・・・まあ、そういうことだ。
俺達はクラスのみんなに桐崎千棘と一条楽はニセの恋人であったことを報告した。
そして、俺達は別れたのだ。
少し思うところはあったが自然のことであった。
あんな騒動があり、一件落着した後俺と千棘はやはり本当のことを話すべきだと決めたのだ。
千棘にもう恋人はやめようと言い出したときの顔は、今となっては印象深かった。
そしてクラスは少し落ち着き始め、各々買ってきた沢山の学祭の食べ物を食べ始めた。
そんな中、眼鏡をかけた小咲といつも行動を共にしている少女、宮本るりは無表情なのかムッとしているのかよくわからない顔で俺の元へやってきた。
「これ、小咲のところに。」
「え?宮本が持っていけばいいんじゃ──痛!なんで・・・わかったよ。」
「よろしく。」
脇腹って刺激されると中々痛いよな・・・。
でもそんなことより、宮本は俺の想いを知っているのかと疑ってしまう。
そんなにわかりやすかったんだろうか。
その疑問はとりあえず置いておいて、小野寺にどういうタイミングで話しかけようか。
流石に女子と話してる中に入るのは・・・。
「よお、お疲れ小野寺。」
「あ、お疲れ様一条君。」
「足、具合はどうだ?」
「うん、冷やしてたから結構良くなった。
でも本当に氷水は冷たかったなぁ。
でも1回痛みを乗り越えると感覚が麻痺してよくわからなくなるんだよね。」
「へぇー、そうなんだ。
捻挫も知識に変えるなんてすげーな。」
「それあんまり嬉しくないよー。」
話してた女子はいなくなったから良いものの、チラチラ見る男子がいるから落ち着かないんだよな・・・。
「てか、そういや小野寺ってなんでジュリエット役をやろうと思ったんだ?」
急な質問に悩んだ素振りを見せる。
そして、声を周りに聞こえないよう小さくして話してくれた。
「うーん、変わりたかったからかな。」
「変わりたかった?」
「うん、別にジュリエットに拘ってた訳じゃないけどあのステージに立てたら何か変われたんじゃないかなって。」
小野寺は何に悩んでいたのかはわからない。
でも恐らく現状に満足していない口ぶりだった。
やっぱりみんなが大事とは言えど、小野寺だって折角ならあの舞台に立ちたかったんだろう。
同情の心がうずく。なんとかできないだろうか。
折角ここまで頑張ってきた小野寺の練習を無駄にはしたくない。好きな女の子だから尚更そうだ。
「なあ、終わったらこっそり屋上に行かないか?
解散しても鍵閉まるまでには時間あるだろ?」
「え?どうして?」
「衣装着て来てくれないか?モチベを上げたいしさ。」
「・・・わかった、ありがとう一条君。」
「それは、終わってから聴く。」
小野寺は喜の表情をしていた。やはりドキドキしてしまった・・・。
やっぱりこの笑顔が好きだと心からそう思えた。
そして約束の時間が近づいていった。
だが、行く途中で思わぬ人と遭遇した。
「あれ?楽どこかに行くの?」
「千棘・・・。」
「何よその顔はー。
でも衣装なんて来てどうしたの?まさかファンなんて出来てないよね?」
「最後のはいらないわ!
・・・小野寺のとこ。」
「へ、へぇーそうなんだ。
告白とか?」
「あ、いやでもそういうことは特に・・・。
いや駄目だな。そろそろ、想い伝えなきゃな。」
「そ、そうよ!
なんてったって楽はこの私を・・・振ったんだから。」
「だよな、俺も覚悟を決めなきゃな。」
実はまだ、あの日の夜の全ては終わっていなかったのだ。
───────────────────────
仲直り後もベランダにて話は続いた。
「なあ、もうニセの恋人は辞めにしよう。」
「え?どうして?」
「どうしてもこうしても、もう俺らが争うことはないんだ。根本が解決したんだから全て良しだろ。」
「そっか・・・。」
「でも、俺達はこれからも友達だ。よろしく頼むぜ千棘。って千棘?」
「でも、でも・・・。」
「どうしたんだよ?なんか問題あったか?」
「そうじゃ、ないんだけど。」
「珍しくはっきりしないな。」
「だって・・・。」
よくわからない。千棘らしくもないはっきりしない物言いが気になる。
俺は余計なことを言わず、千棘の応えを待つことにした。
「だって、楽と恋人・・・恋人でいたい。」
「え?それって・・・!」
「わ、私楽が・・・好き・・・なの。」
突然の暴露に俺の心臓は高鳴っていく。女性として意識していたのだと確信するが受け入れることはできない。
「あ、いや私何を言って!」
「待て逃げんなよ!こんなカミングアウトされて逃げられたら明日以降どんだけ気まずいんだよ。」
「そ、そそそそうね。」
「返事、するぜ。」
「・・・うん。」
お互いに顔が赤い。いや、俺はわからんが耳まで熱くなっているのはわかった。
一呼吸おき、俺は覚悟を決めた。今日は何度も覚悟を決めている気がするが。
「ありがとう。正直おまえは見た目は可愛いから結構ドキドキした。
けど、俺には好きな人がいるんだ。」
「そ、そっか。それは誰か聴いてもいいの?」
「んまあおまえだから隠すのは辞めるか。小野寺だよ。」
「そう・・・。」
「でも、これからも友達でいてくれるか?」
「・・・うん。」
「ありがとな、千棘。
・・・そろそろ行くぜ。」
「うん、また明日ね。」
千棘がどんな思いで友達でいてくれることを承諾したのかはわからない。だが、千棘はここに居たいという願いだけは察することができた。
───────────────────────
「じゃあ、行ってくる。」
「頑張って、楽。」
「ああ。勿論。」
今まであの夜の話をお互いにすることはなかった。俺が夢だったのではと少し疑うほどに。
だがそれでも千棘の態度ですぐにわかった。けれどその話題は避けていた。
でも、今千棘からその話題を口にしたということは千棘も変わろうとしているのだろう。真意はわからない。だがそう思えた。
屋上に着くと小野寺は先に待機していた。
「待たせた、小野寺。寒くないか?」
「ううん、大丈夫。夕日、綺麗だね。」
「いい舞台が整ったな。良かったぜ。
・・・てか恥ずかしいな改まると!」
「私も結構恥ずかしいよ!」
何をするのか悟っている小野寺は、俺の始めの台詞に素早く反応してくれた。
少しぎこちなさはあるものの、台詞はポンポン頭に湧いてくる。練習の成果はやはりきちんとここにあった。
「いけないジュリエット、もうお別れの──」
「一条君。ありがとう。」
「・・・喜んで頂けて光栄です、小野寺。」
「すごく嬉しいよ。」
顔が紅に染まり、泣きそうな笑顔の小野寺。
ここだと、思った。
今しかない。いや今だ。
最悪失敗しても台詞で誤魔化せると考えてしまう自分の弱気さに、心に乾いた笑いが出そうだが今なら台詞に合わせてかっこいいことも言える。
・・・いや違う。
千棘は自分で自分なりの言葉を選んで想いを伝えてくれたんだ。あのときの鶫も、集も、そして橘なんてここで会ってからずっとだ。
俺もあいつらに負けていられない。
自分の想いをかっこ悪くても誠実に伝えよう。
俺は片膝を着いた。ここまでは台本通り。
小野寺はどんな反応をするんだろうかと思考がよぎる。
そして、一条楽の想いは言葉になる。
読んでいただきありがとうございました。
この小説は常に楽視点ですが、別視点の番外編を書くかも知れません(モチベ次第)。