ようこそ朝霧海斗のいる教室へ   作:お豆腐

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1話だけ投稿して随分と間が空いてしまいました。
コメントで間違いを指摘してくださった方、そしてお話を読んでくださった方々、本当にありがとうございます!


第2話 杖の少女との邂逅

禁止区域を出るといかにも金持ちが乗っていそうな黒光りの車があり、坂柳のおっさんに促され俺は車に乗り込んだ。

 

「で、あんたの経営する学校とやらに向かうんだろう?まだ詳しい話は聞いていないが」

俺の問いかけに対し坂柳のおっさんは愉快そうに笑った。

「いや、向かっているのは私の家だよ。今は春休みだからね。君には入学式までの間、私の家で暮らしてもらうよ」

「……待て、入学式だと?」

「そうだよ」

とんでもないことをあっけらかんと言うおっさんだ。

「俺は来年度から憐桜学園でも3年だぞ。いくらなんでも」

「大丈夫だよ。君は若々しい」

「まあ、確かに俺はイケメンだが」

「いや、そんなことは言ってないんだけど……。それに君は自分の正確な年齢がわかるかい?」

「…………」

確かに俺は自分の年齢も誕生日も知らない。物心ついた頃にはあの禁止区域で、あの親父に育てられていた。いや教育か。

「それから私の運営する学校のことだったね。公平を期すためにも詳しいことは言えないよ。ただ一言で言うなら生徒を実力で図る学校だ」

「実力で図る、か」

「退屈しないのは保証するよ。その中で本気を出すのも、実力を隠すのも君次第だ。それから君の個人情報のことだが」

そう言い坂柳のおっさんは俺にクリアファイルをさしだしてきた。

そこには俺の名前で全く身に覚えのない経歴が綴られている。

「安心したまえ。うちの学校には君が今まで見てきたような資産家の跡取りが居るわけではない。情報量も限られている。君の経歴が怪しまれることはないよ」

「そうか、最後にひとつだけ聞きたい」

「家につくまでの間だけだよ?」

禁止区域を出て車に乗ってからすでに二時間が過ぎようとしていた。

「あんたの目的はなんだ?」

「ん?」

「まさかとは思うが慈善事業でこんなことをしてる訳じゃないんだろう?親父がらみか?」

「…………どうやら時間切れのようだね」

「なに?」

「ようこそ我が家へ」

俺は車窓から外を眺めた。二階堂ほどではない。だが間違いなく資産家の家だ。そう思えるほどに立派な屋敷がそこにはあった。

「まあいい。『退屈』から抜け出せるなら理由はかまわない」

「……そうか。それでは行こうか。有栖に声をかけてくれ」

おっさんは使用人に声をかけると歩を進めた。俺もそれについていく。屋敷にはいるとおっさんの書斎らしき部屋に連れていかれた。

「もう少しで来ると思うから君も座って待ってるといい。」

おっさんに促されるまま俺は高そうな椅子に腰を掛けた。話の流れから察するに誰かがここに来るようだ。その時扉をノックする音がした。

『お父様、有栖です』

「入りなさい」

扉が開くと杖をついた少女が入ってきた。少女はその視線をほんの少し俺に向けるとおっさんの方に歩いて行った。しかし金持ちというのは必ず顔が整って生まれるのか。いやその仮説が正しければ俺は間違いなく超絶金持ちの家に生まれているはずか。

「朝霧君、娘の有栖だ。有栖、しばらく家で預かることになった朝霧海斗君だ」

おっさんが互いに互いを紹介した。すると先ほど一瞬だけこちらに向けた視線を今度は正面から向けて少女は頭を下げた。

「坂柳有栖と申します。よろしくお願いしますね、朝霧君」

「ああ」

「有栖は来月から君と同じ一年生だよ」

まじか、どう考えてもこいつと同じ学年なんて無理だろう。いやこいつの見た目が幼すぎるだけか。

「有栖、朝霧君を空いている客室に案内してあげなさい」

「はい。お父様。朝霧君、こちらへ」

そういい少女は杖を使いながら歩き始めたので俺も後をついていった。

 

 

 

長い廊下を歩いていると少女は足を止めてこちらに体を向けた。その視線は俺の瞳をとらえていた。

「朝霧君は優しいんですね」

「俺は地元じゃ優しくないことで有名だ。幼稚園の時からあだ名はジ〇イアンだ」

そういうと少女は杖を持っていないほうの手を口に当てて、クスクスと笑い出した。

「私の歩幅に合わせてくれているのでしょう?」

「とんだ勘違いだな。目的の部屋を知っていれば俺はお前を置いてマッパで部屋に向かっているところだ」

「どうして裸なのですか?」

「いや、特に意味はないが」

「それに同情しないのですね、私を見て」

「同情することなんてないだろ。先天的か後天的か知らんが、お前は体に不自由を抱えている。俺は健康体でいる。それだけだ」

「……そのように言われたのは初めてです。ここが朝霧君のお部屋です」

案内された部屋にはベッドなどが置かれていた。確かに客人が一日を過ごすのには不自由はなさそうだが、約一月もいるとなると手持ち無沙汰になるのは目に見えている。

「おい有栖」

「おや、いきなり名前で呼ぶのですか?」

「この家にはお前以外にも『坂柳』がいるんだろう?嫌なら別の呼び方にするが」

「いえ、有栖でかまいません。では私も海斗君と。それでどうしましたか?」

「さすがにこの部屋に何日もいたら暇だ。思いつく暇つぶしとしたら奇声を上げるか金縛りごっこをするかぐらいしかない」

「とても気になる暇つぶしですね。何かほしいものがありますか?」

「本とかあれば嬉しいんだが」

「本ですか。私の部屋にあるものでしたらお貸ししましょうか?」

「頼む」

「ではこちらです」

 

 

「どうぞ入ってください」

有栖に促され俺は部屋へと足を踏み入れた。最大限の注意を払って周囲を警戒する。しかし部屋の中には予想していたものはいなかった。どうやら金持ちは皆が皆チーターを飼っているわけではないらしい。

「好きなものを持って行ってください」

有栖の部屋の本棚には結構な数の小説があった。本が好きとはいえ世の中にはまだ読んだことのない本が五万とある。そう思うだけで俺の好奇心と読書欲、知識欲は駆り立てられる。

「本がお好きなんですか?」

「意外か?」

「そうですね。まだ半信半疑です」

「俺は三度の飯より本が好きだ。これとこれとこれと……あとこれを借りていってもいいか?」

「ええ、どうぞ」

俺は有栖の部屋を後にすると、自室に戻って時間も忘れて本にのめりこんだ。まあ俺の部屋ではないんだが。

 

 

次の日、俺は昨日読んだ本を返すため有栖の部屋を訪れた。

「海斗君?どうしましたか?」

「昨日借りた本を返しに来たんだが」

「もう読んだんですか?」

有栖は驚いた表情をして俺を見てきた。あまり驚いたりはしないタイプだと思っていたんだがな。

「本当に信じていなかったのか?」

「え、ええ」

「今日も借りていっていいか?」

「どうぞ」

俺は有栖の本棚から物色を始めた。有栖はどうやらミステリーが好きらしい。

「ん?」

その中で俺は一冊の本を見つけた。俺はまさに雷に打たれたような衝撃を受ける。

「こ、これはなんだ!?」

「あ、それはミステリーの巨匠大久保ブーデの未発表作『育成方針殺人事件』ですよ」

ちょ、超読みてぇーーーーーーーーーー!あの大久保ブーデに未発表作なんてあったのかよ!?

「借りてもいいか!?」

俺はすごい剣幕で有栖に尋ねたが、どうやら若干引いてるようだった。

「ほ、本当に本がお好きなんですね。ですがそれは借り物ですので……」

くそっ!いやここで引いてなるものか!あの大久保ブーデの未発表作だぞ!?こんな機会二度とないはずだ!

「では海斗君、これで勝負しませんか?」

そういう有栖の手にはチェスのキングの駒が握られていた。その口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

「チェスか?」

「そうです、ルールはご存知ですか?」

「当たり前だ。王の命令は絶対に聞かなければいけないやつだろ?」

「…………それは王様ゲームです」

「ちょっとしたミステイクだったか。あれだろ?馬鹿には見えないやつだろ?」

「…………それは『裸の王様』のことでしょうか?……知らないんですね?」

「ああ」

「ではルールブックをお渡しします。明日勝負しましょう。もしも勝つか、いい勝負ができたらその本をお貸しします」

「いい勝負か、また曖昧な条件だな」

「楽しみにしていますよ、海斗君」

ここに死んでも負けられない勝負がある。

 

 




坂柳学園長のキャラほとんど覚えてないです(笑)
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