ようこそ朝霧海斗のいる教室へ 作:お豆腐
正直すぐに打ち切るだろうなと思っていたんですが皆さんのおかげで続けられています!感想をくれた方、誤字を指摘してくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、本当にありがとうございました!!!
「有栖!」
「お……父様?…お父様!!」
有栖は坂柳のおっさんに抱き着くとわんわんと泣き始めた。
身近な人間が来たことで緊張が解けたんだろう。
俺は坂柳邸に来て初めてあいつの年相応な姿を見たと思う。
車を降りてから有栖を連れてまっすぐにおっさんの書斎に来たが、おっさんの反応を見るに事前に知っていたようだ。
有栖は使用人にどこかに連れていかれた。
「海斗君、娘を・・・・有栖を助けてくれてありがとう!!」
おっさんは目の端に涙を浮かべながら頭を下げてきた。
「やめてくれ。別にあいつを助けたわけじゃない。たまたまだ」
「たとえそうでもお礼を言わせてくれ。本当にありがとう!」
親と言うのは子どものことになるとこうなるものなのだろうか。もしも有栖が俺で、おっさんがオヤジだったら俺は確実に殺されてただろうな。
「しかし海斗君。なぜすぐに屋敷に戻ってきたんだい?」
おっさんは目の端の涙を手で拭うと落ち着きを取り戻したようだ。
「さすがにあの場にいたら事情聴取されるからな。とはいっても監視カメラに映ってる有栖からそのうちここに警察が辿り着くだろうが。俺は戸籍を調べられたらやばいからな」
「なるほど」
「おっさんにとって迷惑なら今日にでも出て行く」
「何をいってるんだ。海斗君、君は恩人だ」
「……そうか。部屋に戻る」
「海斗くん、気が向いたらでいい。有栖に会いに行ってあげてほしい」
「ま、気が向いたらな」
「ふう、面白かったぜ『湯煙りショットガン 』」
部屋に戻った俺は有栖にもらった金で買った小説を読み漁っていた。
有栖と言えばあいつはどうしたんだろうか。
おっさんに有栖に会いに行けと言われたが……
ふと時計を見るとその短針は夜中の9時を指していた。
まあ、あれだけのことがあったんだ。明日行ってやるか。
「よし、風呂に行くか」
俺は読み終えた小説をテーブルに置き、風呂に向かった。
「ん?」
風呂に向かう途中、見慣れた背中を見かけた。
「相変わらず冴えない背中だな、有栖」
「……海斗、君」
「お前も風呂か?」
「……」
「まあいいや、じゃあな」
「あの海斗君、今お時間よろしいですか?」
「ちょっと待て、今予定を確認する」
俺はポケットからスマホを取り出し、スケジュールアプリを開いた。もちろんこのスマホはおっさんにもらったものだ。
「なにも、書かれていないようですが?」
「お前、ボケる前に突っ込むなよ」
「……」
「わかったよ。で、なんだ?」
「海斗君のお部屋でもいいですか?」
「お前の家なんだからどこでもいいぞ」
俺は有栖の後に続き歩いた。ふと目に入ったその後ろ姿にはやはり元気がない。
「まあ座れよ」
「はい」
有栖はベッドに腰を下ろした。
「海斗君。今日はその、情けないところをお見せして申し訳ありません」
「銃なんて突きつけられたら誰だって取り乱す。それが普通だ。むしろ取り乱さないやつなんて異常だ」
「海斗君は取り乱していないようでしたが?」
「……あの銃、おもちゃだと思ってたんだよ。だから取り乱さなかっただけだ」
「……そう、ですか」
「……」
「……」
「それだけなら俺は風呂にいくぞ」
そう言い俺は再び風呂に向かおうとした。
「海斗君!」
「……なんだ?」
「あなたはいったい何者ですか?」
「難しい質問だな」
「私はチェスで負けることなんて滅多にないです。ましてや昨日今日ルールを覚えた人に負けるなんてことは……それに今日のことだって海斗君はあれが本物の銃だとわかっていたはずです。海斗君、あなたは……」
有栖から向けられた視線には疑念、興味、恐怖、いろんな感情が入り乱れていてた。
「悪いが俺は読書だけしか趣味が無いようなどこにでもいる人間だ」
「…しかし」
「話がそれだけなら俺は風呂に行くぞ」
俺は今度こそ風呂に向かうため部屋を出ようとした。しかしドアに手をかけた時再び有栖の声が響いた。
「海斗君!」
「なんだ、まだなんかようか?」
「せめて一つだけ、教えていただけませんか?」
「俺に答えられることならな」
「どうすれば海斗君みたいに強くなれますか?」
「……」
「……」
「絶望、挫折、屈辱」
「……え?」
「自分をどん底に突き落とすくらいの絶望、挫折、屈辱を味わい尽くすことだ」
「……味わい、尽くす?」
「生まれてから死ぬまで常に勝ち続ける奴なんていない。いつか必ず負けるはずだ。そのときに味わったものは二度と味わいたくないと思うだろう。それが成長する糧になるはずだ。じゃあ俺は今度こそ風呂に行くぞ」
「……はい。海斗君、ありがとうございます」
部屋を出るときに見えた有栖の顔には少しだけ元気が戻っているような気がした。
「で、なんでこいつは俺のベッドで寝てるんだ?」
風呂から戻ると俺のベッドで有栖が寝息を立てていた。
「……さてどうしたもんか」
不幸中の幸いは明かりをつけたまま寝てくれていることか。俺は暗いところでは寝れないから。
「床で寝るか」
俺は自分の背中を床に預け目を閉じた。
「……海斗君?」
「なんだよ起きてたのか?」
「いえ、今起きました」
「なんで俺のベッドで寝てたんだよ」
「申し訳ありません。なんだか海斗君のにおい、すごく安心できて」
「俺昨日そのベッドでオナニーしたんだが?」
「…………」
まただ、また有栖が冷めた視線を向けてきやがる。
「冗談だ」
「海斗君ならありえそうですけどね」
「調子戻ったみたいだな」
「はい。海斗君とお話しして元気が出ました」
「そうか」
「それでは寝ますね」
そういうと有栖は再び布団をかぶった。
「いや、だからなんで俺のベッドで寝るんだよ」
「これはもともと私の家のベッドですから海斗君のものではありませんよ?」
「お前本当にいい性格してんな」
「ありがとうございます」
「いやほめてねーよ。ったく」
俺は再び目を閉じた。
「……海斗君?」
20分ほど過ぎたころ有栖がまた話しかけてきた。が、こんなことを続けてたら寝れなくなりそうだからな。ここはあえて無視をしてみよう。
「……海斗君、本当にありがとうございます。海斗君が来てくれて本当に毎日が楽しいです。今日も助けてもらって……どうしてでしょう海斗君と一緒にいるとすごく安心するんです。」
「…………」
「なんて聞いてませんよね。おやすみなさい」
さて寝るか。