〝フォレス・ガロ〟の不正を明るみにする為、黒ウサギとナフェがお粗末な茶番劇を決行してから早くも一週間が経過した。あれから二人は逃亡を許さないように常時離れ離れに身を置く事となり、妥協案として就寝前にガルドの部下の監視を付けつつ扉越しの会話のみの安否確認だけは許可されていた。黒ウサギの戦闘力を目の当たりにしてはいないとは言え、相当の実力者であることはすでに知らしめている。人質の安否と言う盾を失い逆鱗に触れ暴れられては堪ったものじゃないという判断のものだ。
尤も、ガルドの部下をいくら監視に付けようと何も悟らせぬまま鎮圧し二人で脱出する事など双方にとって造作もない事なのだが。
一週間も大人しく二人が従っているのは、偏に黒ウサギの気紛れに因るものなのだった。お陰ナフェのストレスは貯まる一方である。
「ねえねえちょっとー、いつまでこんなクッッッソつまんない御遊戯続けるつもり? 薄汚い部屋に監禁されてる身にもなれってのー」
『ま、まあまあ後少しの辛抱ですからっ。もう少しお付き合いくださいな♪』
「はあーあ、軽ぅく口約束なんてするんじゃなかったー」
相も変わらず外側施錠の地下部屋に閉じ込められてるナフェ。黒ウサギに通信機で現状への愚痴を溢しつつ、暇つぶしに作った立方体型の機械パズルをバラシては組んで気分を紛らわせていた。短気な割に律儀である。
「……ん、」
ふと彼女のいる部屋に近づく気配を感じた。一応とばかりに予め部屋の外に飛ばしていた小指の第一関節にも満たないサイズの端末を介して姿を確認する。
時刻はお昼時。基本彼女の元を訪れるのは定期的に様子を見に来たり食事を持ってきたりするガルドの部下か、就寝前に安否の確認を建前上しにくる複数の監視付きの黒ウサギくらいだ。そして今回は考えるまでもなく前者であった。
ナフェは怪しまれぬようパズルをしまい、フードを目深にかぶり直して部屋の隅っこ。もはやここ一週間の定位置としている場所で体育座りをして膝に顔をうずめた。短期の割に実に律儀だ。
施錠を解かれ開かれた扉の奥からガルドの部下が灯りをナフェの元に向ける。それにナフェはもはや目もくれず震える演技をするばかり。ここ一週間で
変わらない様子を確認した部下の男は、無言でその日の昼食の入った紙袋を彼女の方へと放り、再び外から鍵を掛け部屋から離れていった。
「…………本当、何やってるんだろ私」
『やっほー
与えられた昼食をチマチマと消費し終えた頃。再び黒ウサギからの通信が繋がってきた。ご丁寧なあいさつ付きで。
「うん、やっぱり我慢はよくないわね。喜んでよねクソウサギ、今からアンタに会いニ行ッテあげルッ……!!」
『ひえーおっかないですー……じゃなくてですね!何やら此方面白い事になりそうなのですよっ』
機械の腕を取り出し屋敷を吹き飛ばさんと怒気を放つナフェ。しかしながら黒ウサギの跳ねた語調が気になり、一旦
通信機越しでも分かる楽しそうな声音。黒ウサギがその感情を露わにしているという事は、
正直ナフェとしてはどちらにしても構わない。少なくともこの不満な現状さえ変わってくれさえすればよかった。
「アンタ、首元緩めときなさい。見えないから」
『さっすがナフェさん! なんだかんだ好奇心には勝てないんですねーグエェ…!?』
そう、決して。
◆◇◆
時は少し遡る。
その日、黒ウサギはガルドの付き人という体で箱庭二一〇五三八〇外門内壁・ペリドット通りの噴水広場へと繰り出していた。なんでも新しい人材を見つけたとかなんとかとの事らしい。が、彼女的には大して期待も関心もなかった。
一週間、外面的には感情を押し殺し〝フォレス・ガロ〟に身を置いている彼女だったが、ガルドは取り合えず新しいフリーの人材をただ引き入れたかっただけらしく、大きな活動らしい活動をさせなかったのである。そこはギフト保有者、どこか遠出でもして成果をあげてこいとでも言われるのかと内心その辺だけは期待してたが故の反動である。
先程ナフェから〝つまらない御遊戯〟との愚痴を聞かされ、なんとか嗜めていた斯く言う彼女もそろそろ飽きが回ってきているのだった。
(監視と見極めも兼ねているのでしょうけど、一週間も虎のお守ばかりと言うのも厳しいのですよ…。もっとこう、野心があるのであれば強気な行動バンバン起こしてはくれないものでしょうか)
仮に強気な行動をバンバン起こしでもしていたら、その分の粗から〝フォレス・ガロ〟の後ろ暗い事実がもっと早くに露見していたかもしれない。ガルドがこうもつまらない活動をするのは後ろ暗い事実の露見を多少なり警戒もしているからでもあるのだ。
因みに、この一週間で黒ウサギやナフェが退屈ばかりを募らせていたかと言えばそうでもない。ちゃんとガルドのしでかしてきた〝不正〟の調査も行っており、それも既に言い逃れ出来ないレベルで証拠も秘かに押さえている。
簡潔に言うなら、ガルドはコミュニティを成長させるにあたり周辺のコミュニティから人質を取る形で脅迫をしていたのだ。つまり、黒ウサギへと仕掛けた手と同じである。しかし彼女たちとは少し違う点も存在する。なんとガルド、人質を既に一人残らず始末して、最早存在しない彼らを山車に今尚参加のコミュニティを引き留めているのだ。
修羅神仏人外魔境集う無茶苦茶な箱庭と言えどしてはいけない御法度も存在する。ルールに則らない殺し、略奪──これらも例に漏れずであった。
(加えて従わせてるコミュニティを介してのゲームの報酬を横領改竄。まあまあ絵に描いた様な小悪党の大盤振る舞いですねぇ。これ、白ちゃんが気にするまでもなく勝手にボロ出してその内破綻してましたよきっと)
フードの隙間から前を歩くガルドに視線を向ける。黒ウサギを引き入れ(たと勘違いし)新たな人材を引き抜けるからなのかとても上機嫌そうだ。無駄に整えた身なりが哀れにすら思えてきていた、思うだけだが。
(ま、今回の犠牲者さんを囮にしていい夢の感想でも聞いてあげましょうかねぇ)
少々撤回、彼女がガルド程度を哀れに思う事すらなかった。元より面白そうだからと茶番を企てて迄乗った案件、同情するなどと言う殊勝な心持はこの序に期待するだけ無駄であった。
そんなこんな、ガルドが色々と垂れていた高説を完全に無視して嗜好に耽っていた黒ウサギ(一週間頑なに素顔も見せず会話も最小限だった)。ふと、ガルドの視線が動いたのを察知し同じ方へと首を向けた。目線の先ははコミュニティ〝六本傷〟の経営するカフェ。そのテラスに今さっき着いたのだろう、店員にメニューを渡されている齢10程の少年一人、続いて齢14・5程の少女二人と猫一匹のグループへと至っていた。
その中で黒ウサギは緑髪の少年にだけ覚えがあった。
(おっとっとー? これはこれは……少々面白い展開に漕ぎつけたのかもしれないのですよ♪)
ジン=ラッセル──此方の世界の〝黒ウサギ〟が所属するコミュニティ〝