Yes!ウサギもやって来ました♪   作:白結雪羽

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捗る時にちまちまやってお話にあまり進展なし
亀にも劣る足並みですよこれは…


Yes、白ちゃん様は頼もしいのです

 

 

「ふむ…」

 

 

 音もなく黒ウサギと女性店員との間に降り立った白夜叉は、目の前の自分より頭一つ分背が離れているかどうかのレインコートの少女(黒ウサギ)を観て、思案する。

 彼女が表にこうして出てきたのは黒ウサギの尋常ならざる威圧感を感知したからに他ならないが、今こうして相対してみると微塵も敵意や害意といったものが感じられない。そもそも箱庭を席巻する大手商業コミュニティたる〝サウザンドアイズ〟に支店とは言え喧嘩を吹っ掛けてくる命知らずはこの箱庭には早々居ない。日々を生き抜くのに必死な最下層であれど、また賊であれ利を求める相手は弁えているのだ。

 そこで気掛かりなのは先程呟かれた『棚ぼた』というワード。軽い言葉ながらその意味する所は、白夜叉自身がこの場に現れた事が相手の目的、もしくはそれに準じた成果と言うことであろう。

 

 この考えはあながち間違いでもない。黒ウサギは話の進展が望めない女性店員に代わる人物を探知、あわよくば誘き出す為に威圧感を放ったのだ。これに誘われる程の者なら多少話も通じる余地、これまた運が良ければ白夜叉とのコネクションになり得ると。

 まあこうして白夜叉当人が釣れてしまったのは予想外であったようだが。

 

 

「ほほう……白ちゃ――じゃなくて、白夜王――でもなくて、〝サウザンドアイズ〟の幹部〝白夜叉〟様で相違ないですか?」

 

 

 一応初対面、黒ウサギは目の前の少女が自身の知る白夜叉に当たる者なのか問う。連続訂正のお陰でなんとも締まらないが。

 

 

「(ほう? 私の昔の名を知っている、か……)如何にも。私が白夜叉様だよ、童」

「なはは、そう警戒しないで……って言うのも無理な相談でしょうか。私としてもちょおーっとばかし強引なやり方に奔ってしまったと自覚しております」

「そうだの。私でなければ問答無用で処されても文句は言えなかったぞ?」

「そこは、ほら? 〝サウザンドアイズ〟の方々は堅実怪しさ胡散臭さ寛大さがアイデンティティな人達が大半と聞きますし? そこを信頼した迄で御座います♪」

「……不逞の身で随分な言い種だな」

 

 

 黒ウサギのお馴染み煽り文句に流石にムッとする白夜叉。現状どちらの立場が危ういかなど明白、もっと言うなら自身の経歴をおおよそ把握してるだろうに実に物怖じのへったくれもない立ち居振舞いであった。

 対していつもの癖がでた黒ウサギはと言うと、実は内心冷や冷やしていた。

 

 

(あ、あれぇ…? 私が知ってる白ちゃん様とだいぶ違いますね。正に『我強者!』って雰囲気マシマシなんですけど!? いや向こうの白ちゃん様も怒らせたらヤバイんですけどね!)

 

 

 彼女の知る白夜叉は、簡単に言うなら気弱な小動物系なのだ。それ故会う度におちょくって困らせたりと散々困らせていたりしたのだ。それがまさか、今相対する白夜叉は不遜とした堂々たる態度で正反対の印象を与えている。

 そして最後に、黒ウサギの知る白夜叉は嗜虐心を誘う振舞いとは対照的に〝正真正銘箱庭最強の存在〟だったりする。

 そんな相手にちょっかい掛ける黒ウサギも黒ウサギだが、要するに、同等の実力を持っているかもしれない相手の性格が違っている事実にややひよっていた。

 

 なら煽るなと言いたい。

 

 

「まあよい……貴様は私に用があるらしいな? ここで立ち話もなんだ、私の部屋まで通そうじゃないか」

「オーナー!?」

「おーさすが白ちゃん様。どこかのマニュアルオバケさんと違って柔軟な対応、誠に痛み入りますです♪」

 

 

 あまりにも順調に白夜叉との面談の機会に漕ぎ着けた黒ウサギ。一行に解かれる気配のない警戒心を白夜叉からヒシヒシと感じつつ、鼻唄混じりに嬉々として彼女の後へ続――こうとしたが、行く手を女性店員に塞がれてしまった。当然の事だがその顔に浮かぶ表情は険しい。

 

 しかし、そんな彼女を白夜叉は諭すように制した。

 

 

「おんしはそのまま店番に就いといてくれ。なに、事の責任は私が持つし、こやつに下手な真似はさせんよ」

「っ、しかし…!」

「しかしも駄菓子ないのですよ。先程見せた私のつぶらな瞳をお忘れですか? とても時と場所も選ばずに蛮行を働くような目に見えないでしょう! 仮にその様な誤解をされてしまっていては、私の矮小なガラスのハートは粉々なのですよ……」

 

 

 ヨヨヨと誤魔化す気もない嘘泣きを見せつける黒ウサギ。この状況に煽り性能はこれまた抜群だ。女性店員の竹箒を握る手にも思わず力が入る。白夜叉がこの場に居なければ堪らずその手の物を差し向けていた事だろ。

 だが逆に考えて、白夜叉がいるからこそ彼女は後一歩の所で内心踏み留まった。得体の知れないレインコート女(黒ウサギ)を誇りあるコミュニティの敷居へ跨がせるなど毛頭あり得ない話だが、彼女の上司への信頼はそれなりに……否、相当厚い。人格に少々難あるとは言え実力は箱庭のトップクラス故にだ。

 

 結局睨みを利かせるのは止めずとも、静かに黒ウサギへと道を譲った。

 

 

「おろ? 思ったより早く折れましたね」

「……オーナー自らが招くのであれば一応の客人として見なしただけです。貴女を認めた訳ではありません」

「都合の良い解釈、感謝なのです♪ それにままご安心を、箱庭の中枢に誓って荒事は起こしません。私はただ『お話』に伺っただけですので」

「呵々、その言葉だけには精々期待しとくかの?」

 

 

 凄みのある視線に黒ウサギは胡散臭い笑みを以て返す。

 

 このやり取りを黙りと静観していたナフェはただ一言、

 

 

『あほくさ』

 

 

そう誰にも届かない呟きを吐き捨てていた。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 和の赴きを漂わす〝サウザンドアイズ〟の支店内、その更に奥へと黒ウサギ達が通されたのは、小池のせせらぎがより清閑とした雰囲気を醸す中庭の望める茶の間であった。

 ここが白夜叉の私室らしいが、案内されるや黒ウサギはある種関心を覚えていた。と言うのも、彼女は元の箱庭でも殆ど同じ場所に構えられたこの場所を訪れた事がある。間取りも、そしてよくお邪魔していた部屋も同じなのだ。

 今のところ時代と人物の性格以外に目立った差異は少ない。

 

 

「相変わらず素敵な佇まいですねぇ」

「相変わらず、か。私は貴様の様な胡散臭い輩を此処まで通した覚えはないんだがの」

「なはは、何をおっしゃいますかー。白ちゃん様のお知り合いなんて大半の方が胡散臭さ全開じゃないですか♪」

「……減らない口だな」

 

 

 黒ウサギの馴れ馴れしさの籠った感想に訝しむ白夜叉。挙げ句交友関係にまで無遠慮な言葉を投げられる始末であったが、その点についてはやや否定しにくいものでもあった。彼女の知り合いにはその実変わり者がそこそこいるのだ。

 

 改めて、目の前で口は失礼だが行儀よく正座をする人物を観察する。彼女の口ぶりはあまりにも白夜叉の方を知った様なものが多い。ただ対して白夜叉には彼女の様な言動を執る者に心当たりがなかった。次に自身の交友関係内から何らかの目的で派遣されてきた者とも考えたが、白夜叉にここまで気安く接するよう仕向ける輩ならまずだいたい本人が顔を出している。例外がいるとするなら、彼女を一方的にライバル視して時偶嫌がらせもしてくる嘗ての同類(魔王)〝クイーンハロウィン〟が居るものの、こうして直接人を寄越した前例が無い故憶測の域を出ない。

 

 要するに何も分からず終いで、今も警戒したまま相手の出方から判断するしかない。

 

 

「して、何用があって〝サウザンドアイズ〟を――延いては私の元を訪ねてきた? 今更ただ買い物やら商談の為とは言うまい?」

「うーんそうですねー……っと。その前に改めて自己紹介しませんか? 私、白ちゃん様とは御会いするのは初めてですし?」

「の割りには随分と馴れ馴れしく呼んでくれるな」

 

 

 黒ウサギの提案は特別断るものでもなかった。素性を隠す身で自らそれを明かすと進んできたのだから、白夜叉にとって願ってもない事だ。ただそれを機に何かしら危険な行動を執られるかも分からない為、警戒は尚解かない。

 

 

「成り行きで隠してたとは言え、こういざ顔出しと言うのは中々に照れ……るものでもないですね。はぁー、フードって正直鬱陶しかったです」

 

 

 レインコートのフードのみならず、レインコートその物を颯爽と脱ぎ捨てる黒ウサギ。貸したナフェから怒りのオーラを感じたが敢えて無視し、白夜叉と対面する。フードで無理に押さえられていたウサ耳をひょこひょこ動かし、その顔には胡散臭い微笑みを浮かべながら。

 

 

「なっ…」

 

 

 晒された黒ウサギの素顔に白夜叉は驚愕する。対し黒ウサギは微笑みを悪戯が成功した子供のように屈託ないものに変えた。

 

 白夜叉が驚いたのも無理はない。何せフードの奥から出てきた顔が彼女もよく知った人物のものだったのだから。

 今一度確認するが、ここは黒ウサギが居た箱庭とは別の、平行世界(パラレルワールド)とも称される世界に存在する一つの箱庭。平行世界とは得てして、人物建造物文化社会事象等々、似たり寄ったり、または同様のものが存在する傾向を見せる。

 

 なれば、〝元の箱庭〟と〝此方の箱庭〟に白夜叉と言う人物が存在するように、〝黒ウサギ〟と言う人物が居てもおかしい話ではないだろう。

 

 

「おー、なんともテンプレな驚き方。流石皆の心のオアシスこと白ちゃん様、反応もお手本その物ですねー」

「黒、ウサギ…? いや、しかし、あやつは今……それにその背格好、性格まで……」

「っとと、白ちゃん様。自己紹介すると言いました手前おおまかな説明は私からさせて頂きますので、そう無駄に深く考え込まなくてもいいのですよ?」

 

 

 予想外の顔合わせだったか大変狼狽する白夜叉。その反応を見るに此方の世界にもちゃんと〝黒ウサギ〟が存在するのだと半ば確証を得られた。

 黒ウサギ(ゲス)のたのしまがまた一つ増えた瞬間である。

 

 

「さてさて……っと、その前に一つだけ。私は〝黒ウサギ〟に化けた何某とかではなく。正真正銘、歴とした黒ウサギでございます。まあ白ちゃん様なら月の兎の気配くらいは判別付きそうですけども?」

「あやつとはそれなりの付き合いだ。(まご)う筈もない。……確かに、改めて感じてみれば黒ウサギと似た雰囲気……いや、私の黒ウサギレーダーが本人と判定している、か」

『(なんでしょう黒ウサギレーダーって…?/なんだその胡散臭い機能…)』

 

 

 黒ウサギレーダーとやらは兎も角、目の前の黒ウサギの言葉が少なくとも悪意による虚偽の類いではないとは納得したのか、白夜叉の警戒が幾分か薄れる。しかしその表情はまだやや難しいものだった。

 

 

「しかしおんしの言葉は中々に解せんぞ。黒ウサギではないが黒ウサギとは……姉妹(きょうだい)でも居ったのか? その様な話、聞いたこともないが……」

「なはは、まあお手頃な勘違いと言った所ですかね? まま、この辺はコレカラです。いやーでも、白ちゃん様とは言え流石に物分かりには限界がありますかー。いえ結構なのですよ? お話が通るだけでも私の白ちゃん様への株は相変わらずですし? 何も恥ずかしがる事はありません! 星霊様にも理解の及ばない事の一つや万もありましょう」

「……その顔で煽られるのはちと慣れそうにないな」

 

 

 真面目は長くは保たないようで。再び煽り口調を混ぜ始めた黒ウサギに思わず口許が引き釣った白夜叉を誰が責められようか。

 

 

 これより小一時間、黒ウサギによる『ストレス耐久素性説明タイム』が始まる。そしてそれによりナフェと白夜叉の心労が一層貯まる事は火を見るよりも明らかだろう。

 

 




黒ウサギに関してなら多少ギャグ補正入っても問題なさそうな白夜叉(偏見
話を進めるには都合が良い
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