Yes!ウサギもやって来ました♪   作:白結雪羽

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白夜叉の戦闘スタイルわがんない


Yes、闘いは箱庭の花形なのです!!

 それは一瞬の出来事だった。白夜叉の金色の双眸が妖しく細められたのと同時に、世界は即座に塗り潰された。

 徐々にヒンヤリと冷たさを伝えてくる()()から徐に腰を上げ、黒ウサギは変貌した茶の間を見渡す。いや、そこはもう茶の間というにはあまりにも広大で、壮大で、神々しかった。

 天に頂くは沈まぬ太陽、大地を巡るは白銀の雪原、それを囲う連峰と側に控える澄みきった湖――極限の〝白夜の世界〟がそこには広がっていた。

 白夜叉の所有するギフトゲームを行う為の〝ゲーム盤〟である。

 

 

「んー、いつ拝見しても綺麗な(ゲーム盤)ですねー」

「ん、その反応を見るにそちらの私も確りと〝白夜〟を体現しているのだな」

「同じ白ちゃん様ですから当然と言えば当然ですかねー。まあ、あちらは此処とは別にとんでもない奥の手を持ってるんですけども」

「ほう、そいつは気になるのう?」

「奥の手だけあって詳しくは私の口からは説明しませんけど、取り敢えずお盆ちゃんと一緒に巻き込まれた時はですね……本気で死ぬかと思いました」

 

 

 元の箱庭での白夜叉との間で起こったとある一件を思い出し、遠い目で白い太陽を仰ぎ見る黒ウサギ。今までの好戦的様子からは想像しにくい哀愁漂う様であった。

 因みに彼女の言う隠し球は向こうの白夜叉の箱庭最強を体現したゲーム盤のことだ。余程の緊急時か本気で怒らせでもしない限りは切らない奥の手で、黒ウサギが体験してしまった原因は主に後者のせい(自業自得)である。

 

 

「……まあ、その、なんだ。私もそれなりに寛大な方と自負はしておるが、限度はあるとだけ言っておこう」

「うえー白ちゃん様いけずなのですぅ……ま、此方の貴女とはとても気が合いそうなので案外上手くやっていけそうですけどもね?」

「くく、だな」

 

 

 二人は軽口を交わしながら対峙する。白夜叉は昂然として、黒ウサギは悠然とちょっとした柔軟運動で体の調子を確かめつつ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 彼女達がこれから何を行うのか。先の話の終いにそれとなく交わしたやり取り――〝決闘〟だ。世間話なんて平和なものはなかった。

 黒ウサギは元々戦闘狂(バトルジャンキー)の嫌いがあって、白夜叉は特別好戦的な訳ではないものの箱庭最強格の一端として刺激を欲する(たち)がある。総括するなら両名共に日常に刺激的出来事を求めていた訳で、こうして交戦する利害が一致したのも何ら不思議ではなかった。

 因みにナフェは黒ウサギに因る強制加入を懸念して白夜叉の自室の方に残って、茶菓子をつまみながら借りた遠見用のギフトで観賞している。

 

 

「長話はこの後でも沢山する訳ですし、そろそろ始めましょうか!」

「はは、まあそう急くでない。際限無しにやり合っては落とし所を見失いそうだしな。ある程度様式に則らせるぞ?」

 

 

 言うや白夜叉は柏手を一つ鳴らした。すると虚空に一枚の羊皮紙――〝契約書類(ギアスロール)〟が出現した。

 

 

『ギフトゲーム名〝白夜と月の兎の決闘〟

・ルール説明

 -ゲーム開始の合図はこの契約書類が消滅しきった瞬間。

 -参加者のどちらかが背中を地面に接させた時点で決着。

 

宣誓 上記のルールに則り、〝白夜叉〟〝黒ウサギ〟の両名はギフトゲームを行います。』

 

 

 目の前に浮く羊皮紙の文面を流し読みした黒ウサギは、不満そうに唇を尖らせて白夜叉を見る。

 

 

「むぅ……ちょっと温くないですか? この決着方法では戦法も偏ってしまいそうですし、満足いけそうにないですよ」

「ふふん、逆に考えてみるといい。直ちに背を地面に投げ出す醜態を晒すような輩が私の相手を務まると思うか?」

「…………ほう、ほうほう? ふーん? そうですかそうですか、いいですよその挑発買わざるは黒ウサギの名折れというもの。白ちゃん様こそ仏門に下って全力が出せないからと言い訳するなら今のうちですよ?」

「ぬかせ。100ちょっとしか生きとらん小娘に後れを取る星霊ではないわ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべ合う中、湧き上がる絶大な闘志が空間をも揺るがす。中途半端な実力者が同じ場に介そうものなら意識をあっという間に持っていかれそうな位の重圧。仮に遠くから直接視認しなくても身体が震えてしまいそうだ。

 〝契約書類〟が少しずつ、粒子となって消えていく。両者の間にもう言葉はない。後は己の力と技をぶつけ合うのみ。

 

 

 

 

 

 ──〝契約書類〟が完全に消滅したその刹那、雪原が爆ぜた。

 (あか)い線が数多の軌跡を描き、地を踊る。その都度敷き詰められた雪は大いに巻き上げられ、剥き出しになった大地に深い傷跡が刻まれる。

 

 

「ッストォー、っと」

 

 

 気付けば宙に躍り出ていた黒ウサギが神速の勢いで蹴りを放つ。虚空を振り抜いたその一蹴……と見せかけた刹那の連撃は不可視の衝撃波を無数に生み出し、傷だらけの大地に(クレーター)を空けた。

 

 僅か10秒にも満たない怒濤の攻め。黒ウサギがやったことは今の通り、目にも留まらぬ速さでいどうしながらの終始蹴りによる衝撃波を浴びせるという単純なものであったが、その威力は見ての通りである。生半可な相手では何も認識出来ぬまま脱落しても不思議ではない。

 

 しかしながら、黒ウサギの対戦相手はその生半可な者には到底数えられない強者だ。

 

 

「――っぶない!」

 

 

 砂塵と雪が辺りに立ち込める中、それらを除けるように突如として膨大な熱波が吹き荒れた。さらにそれは遮られる視界を一新したに限らず、黒ウサギを呑み込まんと意思を持つかの如く彼女へと肉薄してくる。

 ただ暑いだけの奔流ではない。それは恒星の輝きの副産物、俗に〝紅炎(プロミネンス)〟と呼ばれる代物だ。

 此方は実際の一万度に昇る程超高温には()()()()()ものの、それでも地表を瞬く間に焼き付くすには充分な熱量を誇っていた。

 

 黒ウサギは熱波から瞬時に距離を稼ぐ為に後方へと跳ぶ。だが、それだけでは状況打破にならない。それならばと、

 

 

「退避ッ、なのですよ!」

 

 

 跳ぶ際に高度を稼ぎ、最頂点で空を蹴る。そのまま地面へ急転直下の蹴りを突き刺した。地殻を砕く破壊力は衝撃の反動で地面をめくり、巻き上げ黒ウサギを隠す。同時に熱波を前以て受ける防壁の役割を果たすこととなった。

 されど熱波の威力も絶大。地殻の壁は数秒と保たず黒ウサギが居た一帯を焦土に変えた。

 

 

「ふむ、中々に過激な初手を見せてくれたの……ちとヒヤッとしたぞ」

「白ちゃん様に言われたくないのですよ。危うくコンガリ焼き兎になってしまう所じゃなかったですかっ」

 

 

 お互いの攻撃の余波が治まり、白夜叉と黒ウサギは晴れた視界で改めて対峙する。お互いに大した破壊の一波に曝された割りに怪我は殆ど見られなかった。

 

 

「しっかし、私の自慢の足技を一歩も動かずに防ぎきるとは流石ですねー」

「呵々、この白夜叉にかかれば当然の事よ」

 

 

 黒ウサギの賞賛に謙遜もなく胸を張る白夜叉。

 ただ、一方その内面は全くの逆。冷や汗ダラダラで動揺を隠せてしなかった。

 

 

(しょ、初撃見極め用の囮を出しとってよかった。アレを初見無傷で受けきるのは私でもちと厳しいぞ……)

 

 

 一連のタネは非常に簡単だ。黒ウサギが出るより前に白夜叉が蜃気楼の囮を配置し後ろに退がろうとしたのである。ただし、囮を出した直後に退がる間もなく黒ウサギが神速の連撃を噛まし始めたので、慌てて身を守る方向に移ったのだった。

 一歩間違えれは大打撃だった訳である。尤も、それでなおあの攻撃を防ぎきった白夜叉の実力はやはり本物であろう。

 

 

「借り物の神格武具は返却中ですし、私の持ち技これ(蹴り)くらいしかないんですけどねぇ、どうしましょうか。バリエーションはあるとはいえ小手先の技に過ぎませんし」

「ハッ、安心せい。その小手先の技とやらから()()()まで余すところなく私が引き出させてやるさ」

「あらまなんともお熱い台詞。でしたら、今度はちゃーんと白ちゃん様ご本人で私の全てを受け止めてくださいね?」

「う……気付いておったか」

「似合わないことするからです♪」

 

 

 黒ウサギの言葉が終わると同時に白夜叉は袖から取り出した鉄扇を右こめかみの前に掲げる。その次の瞬間に白夜叉の体が霞み、その場に暴風が巻き起こった。

 

 

「ぬぅ…ッ!?」

「あははっ♪」

 

 

 咄嗟に蹴りを防ぐも衝撃は殺しきれず大きく後退する白夜叉。考える暇はない。そのままの姿勢で即座に背後へ鉄扇を振りかぶる。そこへ黒ウサギの真っ赤な閃光を放つ襲脚が振るわれ、衝突する。

 今度は後退こそしなかったが、あまりにも重すぎる一撃に小さな体がやや地面に沈んだ。それから先は黒ウサギの連打を白夜叉が捌き、防ぎ、時に鉄扇や腕を切り返す応酬となった。

 

 

「さっきのは――純粋な火かっ?」

「所謂〝属性付与(エンチャント)〟と呼ばれるギフトでございます! 木に火を着けるや鉄に電気を通す程度のこけおどしに過ぎない技です!」

「っと! 確かに神格級や伝承由来の輩にはそう言えるかもッ、しれんが。それを加味にしてもおんしのそれは上等なものであろう!?」

Yes(それはもう)! 私の友人からお情けで譲り渡された品ですから! いつか泣きを見させてやると私怨も込み込みのいりょくなのですよ!!」

「……そ、そうなのか」

 

 

 攻撃の()を止めないまま悠長に言葉を交わす二人。だけども彼女らを中心に辺りは元の壮大な美しさなど微塵も感じさせない有り様だった。

 黒ウサギの脅威的蹴りが属性付与も相俟って天変地異の如く自然級の嵐となり、白夜叉が太陽の炎熱を荒れ狂わせ時に神格級以上の純粋な力を振るう。もはや一通り見渡して無事な箇所の方が少ない。

 

 

「くはッ♪」

「ぐっ! 本当に生粋かおんしは!」

 

 

 中段蹴りを威力を極力流すように受け止め距離をとる白夜叉。それを許す黒ウサギではないが、灼熱の奔流を放つことで接近を阻止しようとする。

 しかし戦いに熱が入り言動もいよいよ戦闘狂(バトルジャンキー)のソレになり始めた彼女。なんと身を焼く壁など眼中にないかのように、その身を焦がしながら突き抜けてきた。

 両者もう無傷とは言えない状況であるが、以上の戦闘傾向もあって一見すると黒ウサギの方が酷い状態である。

 

 

「まずはー、右ッ!」

 

 

 それでも攻めの姿勢に関しては黒ウサギの方に分があった。

 彼女の蹴り一つ一つを受け止め続けるのはさしもの白夜叉でも厳しいものがある。故に途中から受け流すか躱すようにしていたのだが、今の無謀な突撃で僅かに不意を突かれてしまった。

 咄嗟に盾にした右腕全体に途徹もない衝撃が炸裂する。

 

 

「あはっ、白ちゃん様さっすが頑丈でございますねー♪ でも…暫くその腕は使えませんね?」

「そのようだな……よくまあやってくれたよ若いの(小娘)

 

 

 ダランと力なく垂れ下がる右腕を一瞥し、白夜叉は獰猛に笑って返す。此方も此方で闘争心に更に火が着いてしまったようだ。

 

 二つの小柄な姿に似合わない威圧感が更に膨れ上がる。

 

 

「延長戦からの第二ラウンド、参りましょうか! 遅れをとらないでくださいよ!?」

「呵ッ、おんしこそな!」

 

 

 彼女達の闘いは、ここらからさらに熾烈を極めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんな様子を遠見のギフトで見ていたナフェは白夜叉の茶菓子(せんべい)を噛りつつ一言、

 

 

「あほくさ」

 

 

あの場に居合わせなくてよかったと心底思うのだった。

 

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