Yes!ウサギもやって来ました♪   作:白結雪羽

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短い上にほとんど進展なし


Yes、ナフェさんはやっぱりおっかな――

「馬鹿も極まるといっそ清々しいって本当(マジ)なんだね」

「いッ…!? ちょ、ちょおぉっとナフェさん? 怪我人にはもう少し優しぐぅ!? ですねぇ……!」

「ほう……たいした手際だの」

 

 

 所変わらず、白夜の世界にて。もはや雪原の面影もない土くれの上に五体を投げ出している黒ウサギは、状況を鑑みて来てもらったナフェから軽い手当てを施されていた。

 先の決闘、結果を言うなら黒ウサギの敗けである。いくら黒ウサギの蹴り技が強力であったとしても、いくら白夜叉が全盛期には及ばない実力しか発揮できていなかったとしても、根底にある〝兎〟と〝星〟とではやはり地力が違いすぎたのだ。むしろ白夜叉の本気に生き延びる処か、噛みつく事の出来ている黒ウサギを誉めるべきだろう。

 尤も、無茶に無茶を重ねた結果、全身至る箇所に火傷に両腕と左足を不全に持ち込まれるまでの重傷を負ったのだが。ナフェの従える兎型ビットに搭載された治療機構と持ち前の治癒能力が無ければ大事である。

 

 

「ったく……ほら、終わったよ。今日だけで二回も面倒な…借り二つじゃ済まされないからね」

「なははっ。自己責任とか面倒とかおっしゃる割りに手を貸してくれるナフェさん本当ツンデ――じょ、冗談ですよ冗談! ムーンラビットジョークです♪」

 

 

 

 無言で機械手を振り挙げたナフェを焦って宥める黒ウサギ。とことん懲りない娘である。

 ともあれ、昼間同様に最低限五体を動かせるまで回復した彼女はのそりとその場に上体だけを起こした。服はボロボロ、流れた血も拭いきれてないと絵面は凄惨なままだが。

 

 

「いやぁ、参りました! 流石白ちゃん様、箱庭(せかい)違えど実力に遜色なんてありませんね! 結構本気で挑んだのですが、現在の全力も引き出せないとは……私もまだまだです」

「ははっ、腕一本と片目を持っていっておいてよく言う。全力ではないとは言え私も本気ではあったのだぞ? 星霊の身に二矢報いてみせた己自身をもう少し褒めてはどうだ」

「〝対等な決闘〟という手前、そう甘やかしてはいられないのですよ」

「そうか。……なら、次からはおんしもちゃんと全力で来る事だ。悔いは少しでも残さぬ方が良いだろう?」

 

 

 白夜叉の射抜くような視線に黒ウサギは束の間目を丸くし、やがて苦笑を浮かべた。

 そう彼女の闘いは本気であったが全力とは言えない。なにせまだ彼女の保有する〝秘奥の恩恵(おくのて)〟を切っていなかったのだ。白夜叉にとって今回唯一の不満である。

 

 

「あ、あはは。……正直を言うと、此度の決闘は私自身の地力を再確認する意図もあったのですよ。あまり繋がりの深くない恩恵に頼ってばかりだと自分を誤って認めかねないですし」

「ふむ、気持ちは解らんでもない。だが、何にしろ今手元にあるならば、それは紛れもなくおんし自身が手に出来た恩恵《実力》だろうよ」

「それもそうでございますね……。ま、月の兎の小さな矜持というヤツです♪」

 

 

 そう締め括り、黒ウサギは起こした背を再び地に転がせ、バネのように手で地面を押し軽やかに立ち上がった。もうあられもない恰好以外は問題ないようだった。

 ギフトカードを取り出し、替えの服装を引き出そうとする……が、

 

 

「んん? あれ……あー、白ちゃん様。そのですね、この際なのですがまた一つ折り入ってお願いが出来ちゃいました」

「ん? ――ああ、成る程」

 

 

 このタイミングでお願いと聞いて首を傾げる白夜叉だが、黒ウサギの手元にあるもう一着のややボロボロの衣装(ナフェとのじゃれ合いの際の物)と彼女の困り顔を見てその意図を理解した。

 あられもないと言う通り、黒ウサギの今の装いは八割方肌を露出してしまってる状態である。下の下着は見えてしまっているがなんとか無事、上はもはや上着として機能してるかも怪しい位だった。

 いくら慎みとは縁遠い彼女でも女性としての矜持を完全に放棄してはいない。ある程度身嗜みは調えるし、同性しか居ないこの場でも半裸であり続けるのはなけなしの常識が許容しなかった。

 

 因みに羞恥心は皆無である。

 

 

「ま、決闘に興じてくれた礼だ。替えの衣装くらい此方で用意しよう。あと、その二着も私が仕立て直してやるぞ」

「おー、白ちゃん様太っ腹ですね。感謝感激なのですよ♪」

「んむ、もっと誉めるがいい! ただ、そうだの……ここまでしてやるのだから、私に即物的な見返りがあってもよいとは思わぬか?」

 

 

 ニヤリと怪し気な視線を黒ウサギに――厳密には彼女の肢体に向ける白夜叉。やる事を終え、また遠慮の欠片もなく茶菓子をつまんでいたナフェは心当たりのあるその視線の意図を察し、思わず息を吐いた。

 一方で黒ウサギも、向けられる視線とその行く先を数往復させた後理解した。

 

 

Yesyes(なるほどなるほど)。なはは、此方の白ちゃん様はどうにもとくちゃ――帝釈天様と似たご趣味をお持ちのようで」

「可愛い、美しいは尊く、この世の絶対的至宝、不変の真理だ。おんしは私の知る黒ウサギと比べるとまだ幼さが目立つが……一部に関しては遜色ない。私はロリでデカくても問題ないぞ!」

 

 

 もはや公には見せられない顔で手を艶かしく動かし寄ってくる白夜叉に、さしもの黒ウサギも引き気味――

 

 

「んー、まあ減るものでもないですし。お触りくらいなら構わないのですよー」

「っ、ほ、本当か! あんなことやこーんなことをしても良いのか!?」

「流石に貞操までは認められませんが、抱きしめるなり揉むなりなら幾らでも♪」

 

 

――なんてこともなかった。むしろオープンだった。あまりにもすんなり受け入れるものだからセクハラ発言上等だった白夜叉も戸惑い気味だった。普通拒まれる反応を示されるのだから無理もない。

 

 

 

 

 

 この後、滅茶苦茶まさぐられた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「くぁー……おはようございまふぅ……」

「お、おう。おはようさん」

 

 

 翌朝、夜も更けていた事もあり〝サウザンドアイズ〟の客間を寝床に借りた黒ウサギの寝起きは非常に眠た気なあくびと一緒だった。昨日の時点で黒ウサギの奔放さを実感していた白夜叉は、その無防備且つあどけない姿で私室を訪れた彼女にやや動揺した。机の紙束を横に作業中だった手を止め彼女――彼女達に振り向く。

 うつらうつら、ふらふらと覚束無い足取りの後ろから、あくびを噛み殺すナフェが現れた。昨日とは違い外見相応の人の手で黒ウサギを誘導している。

 

 

「あぁ…もう、自分でちゃんと歩けっての」

「随分とまあ、昨日の様とは大違いだの……」

「コイツ朝は弱いんだって。ずっとこれならまだマシだったくらいね」

「ほう? つまり寝起きならそのエロボディを好きにできると」

「できんじゃなーい? ほら」

「おわっ…!?」

 

 

 まだ半覚醒の黒ウサギを白夜叉の方へ押すナフェ。対して黒ウサギは特に踏ん張るでもなく、そのまま白夜叉の懐へ倒れていった。そして白夜叉は唐突な事に驚きながらも難なく彼女を抱き止め、反射的に押し付けられた柔っこい体を堪能しつつナフェへと半眼を向ける。

 

 

「これ、寝ぼけてるのだからもう少し優しく扱ってやらんか」

「柄でもない甲斐性遣わされて私も疲れてんの。役得付けてあげたんだし別にいいでしょ……ふぁあ」

「それとおんし、昨日の決闘の裏で随分と私のお茶請けを消費してくれたな……。茶のお供にと許しを出しはしたが限度と言うものがあるだろう?」

「んーナフェちゃんむずかしいことわかんなーい」

 

 

 盗人猛々しいとまではいかないが、その太々しい態度に思わずイラっとした白夜叉は何も悪くないだろう。落ち度が自分にもある手前これ以上しつこく言うのも憚られたが。

 

 ナフェは部屋の隅に縦に並べられた座布団を一つ掴んで、戸棚側の柱に背を預けるように腰を下ろした。そしてそのまま、再び寝息を立て始めた黒ウサギを預かったまま渋々と作業に戻った白夜叉を漫然と見つめる。

 

 

「……それ全部アンタの持ち分(仕事)?」

「ん? ああ。これでも私は東側の〝階層支配者(フロアマスター)〟だからな。こなすべき事務はそれこそ山のようにある」

「ふーん……の割りには昨日は暇してたみたいだけど?」

「ふふんっ。書類仕事なら片手間でも充分だし、外回りも予め優先順位を決めて効率を考えれば然程時間もかからん。ひとえに、私が優秀すぎる故だな!」

 

 

 自分で言うかとも思うが、現に白夜叉は取り留めない話をしつつもその両手は恐ろしい速さで書類を捌き続けている。

 その優秀さを己が欲望の為に全振りしている辺りが彼女らしいと言えよう。デキる変態ほど厄介と同時に頼りになるとはよく言ったものだとナフェは感心三割呆れ七割の気持ちだった。

 

 

「ところで、おんしらは今後の予定はもう決まっておるのか?」

「さあ? 私はなその辺関与しないつもりだし。まあ、その惰眠ウサギの事だし行き当たりばったりでしょ」

「ふむ……それなら、ちと頼まれ事をしてはくれんか?」

 

 

 言うや白夜叉は一旦事務の手を止め、ナフェに向き直る。ナフェの表情が途端に心底不機嫌に歪められる。

 

 

「まあまあそう不満そうな顔をするな。頼み事とは言っても軽い偵察みたいなものだ」

「それで譲歩した方とかほざくなら一発ぶん殴るわよ。……で?」

 

 

 脅し文句を吐くナフェだが断固拒否まではせず話を聞こうとはする。これから曲がりなりにも黒ウサギ共々世話を掛けるのだから、その対価を払うのは妥当という帰結である。それにまだ両者事情を明かしたとは言え一日程度の付き合い、信頼を築ける機会ならそれをわざわざ無下にする利点もない。

 

 

「……少々トゲが強いがまさしくツンデレの鑑――」

「気が変わった。蜂の巣にしてあげるからそこに直りやがってください♪」

「ぬおおおっ!? 待て! 室内でその明らかに物騒なものを放とうとするんじゃない!!」

 

 

 突然現れた六機の兎型ビットが光を収束し始める。そして白夜叉の静止も聞かないまま、躊躇なく桃色の光線(レーザー)を総射した――ものの、放たれた光の線は綺麗に白夜叉をギリギリ掠めるか否かという距離で彼女の周りで折れ曲がり他のビット同士に吸収されていった。

 堪らず冷や汗が流れる。そんな白夜叉にナフェは笑顔ながらドスの効いた声音で一言、

 

 

「次は当てっから」

 

 

 ナフェの前で冗談を言うのは間を空けてからにしようと心に決める白夜叉であった。

 

 

 

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