装甲悪鬼村正 外編“遺廻騎”   作:我楽娯兵

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「村正……可能な範囲でいい。現在状況を説明してくれ」

 

 光の群れの中を駆翔ける真紅の鎧武者。その仕手は鎧に向かい問う。

 

 《……えぇと……》

 

 俺の並外れた不合理な問いに鎧は入社三日目の社員に会社の全容を話せと言われ困惑しているような様子で、躊躇がちにポツリポツリと話し出す。

 

 《今、私達は時間的に移動させられている。……それは間違いないと思う。ただ私達の意識に混乱が生じていないということは、内的時間は正常に保たれているということ。内的時間と外的時間が乖離しているのね……この宇宙における私と貴方の時間的座標が、通常の規則から逸脱した変移をしている……って表現が正しいのかしら》

 

「……」

 

 非常に高等的で一般人なら必要とされない単語が多く使われ説明された。

 この時点で俺が理解度は七割五分。――強引に解釈を進め、単純化した。

 

「要するに。俺たちは四次元的に吹っ飛ばされたという事か」

 

 《……おおむね、そうなんだと思う》

 

 時間旅行だ。机の引き出しから行く過去未来ではなく、摩訶不思議な機械で未来行くアメリカ産の車でもなく、電子理レンジが元になり電話をかければ記憶が過去に飛ぶという事でもない。

 俺達は生身で、装甲した状態で時間と言う流れを飛ばされている。

 途轍もない時間の先に行き着くのか、それとも巻き戻るのか。

 金神を斃せぬまま、それでは困る。

 本来の時間に、やり残したことは多くあるのに。

 不安に苛まれる俺は思いつきもしない帰り方を探す、しかし村正は少々不安な事を口走る。

 

 《でも、これ普通の時間移動でいいのよね?》

 

「……どういうことだ」

 

 《金神のことだから、ね。今までの力の行使の仕方、その威力脅威。この攻撃がただの時間歪曲だと思えないの》

 

 一粒落された不安は村正の心鉄に芽吹き、花を咲かせるだけの状況であった。

 周囲を流れる光の流れ。明滅する色鮮やかな歴史と言う羅列。それを見ているからこそ村正は思ったのだろう。

 

 《これ、私たちの世界、よね?》

 

「俺たちの世界ではないと?」

 

 《仮説なんだけどね。金神の膨大な力って、世界線を超えさせるだけの力があるんじゃないの?》

 

「世界線?」

 

 《簡単に言うならパラレルワールド。私たちの世界に似た全く別の世界に私たちって飛ばされてるんじゃないのかってこと》

 

「大事ではないのか」

 

 世界が変わる。四次元的に吹っ飛ばされ強制的な時間旅行ということではない。

 平行世界(パラレルワールド)。世界そのものが変わってしまう。

 

 《で、でも大丈夫よ。多分、これって最初に私の言ったただの時間移動だから》

 

「……ほんとうか?」

 

 《ほ、ほんとうよ。私の仮説が正しいんだったら変に未来に往ったりとかしないし、修正力が働いて本来の時間点に戻る筈だから、大丈夫よ御堂。気を確かに持ちましょう》

 

「……その捲くし立てる言い方をされると、な」

 

 不安しか募らない。

 喉元まで出た言葉であったがぐっとそれを飲み込み、前を臨む。

 流星の如く流れる時か歴史かの光流。俺はそれの変化に僅かながら気づきだした。

 

「村正、減速していないか?」

 

 《ほんとうね。――御堂、あれッ!》

 

 視界の先に現れる強烈な光。出口、二人揃ってそれを思う。

 合当理(がったり)を噴かせ騎航の足を速めた。

 行き着いた先は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日に照らされ茜色に染まる海。雲は空に広がる紫と夕焼の茜を吸い上げなんともいえぬ美しい色を作り出していた。島々を彩る緑の色彩、木々にいたるすべてが息をしている。

 ――そして空を翔る七人の破壊者たちが。

 白銀の一人を追うように後に続く者たち。その飛びかたには稚拙さが目立つ。

 

「おらあああああっ!!」

 

 白の機体を駆る青年は声を上げ、白銀へと斬りかかった。

 新しく手に入れた力、その力を行使し仲間を守らんと力を振るった。

 片手に握る剣『雪片弐型』を横振りに切りつけが、白銀『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は背に生えた煌びやかな翼を振り、羽を撒き散らした。

 その翼羽は純粋なエネルギーで構成されており、一本一本、一つ一つがすべて爆発物と相違なかった。

 弾ける翼。撓む空気が波となり青年を襲い狂う。

 常人であるならばその身を八つ裂きにされ、藻屑となり散り果てている。

 しかし青年の纏う鎧、『インフィニット・ストラトス(IS)』は言うなれば最強の盾であり、最強の矛であった。絶対的な守りを誇り、尚且つ強力な武力を兼ね備えている()()

 そのような兵器をまだ認識も儘ならない子供に貸し与え装着を許す世間はまさに狂っている。

 ともいえないのがこの世界。

 青年の特性を思えばこそのこの事態とISの所有であった。

 青年の追撃を振り払う白銀、その横腹より赤き軌跡。

 長いポニーテールがよく似合う少女。青年と同じ年頃であり同じようにISを装着していた。

 

「一夏っ!!」

 

 青年の不利を察して助けに入ったのだろう、両手に握る刀を振るう。

 人間の腕ほどの身幅のある刀。常人では振るうことすら満足に出来ない代物を得物として振るっていた。それ力こそISの恩恵であり、今少年少女たちが中へ飛翔しているのもその力の一片であった。

 地上より注がれる砲撃。オッドアイの少女の支援。

 肩に装着された長身のレールカノン。通常のよりも一砲多く、そして高威力であった。

 

「今だ!」

 

 オッドアイの少女が行進(マーチ)の合図を叫んだ。

 銃弾の疾風と群青の驟雨が白銀に振る。

 中性的な顔立ちの少女、両手には短機関銃(サブマシンガン)を握りISに格納された無数の銃火器が何時いつでも飛び出せる態勢にある。

 蒼い雫を従えた長金髪(ロングブロンド)の少女、狙撃銃の標準は常に白銀を捕らえて離さなかった。

 

「一夏、ダメ長くは続かないッ!」

 

「一夏さん。お急ぎを!」

 

 少女達は叫んだ。この力は脆弱であると承知していたからだ。

 一人では駄目、二人でも。続けざまに三人目が続く。

 

「やああああああああああ!」

 

 猿叫びを上げ白銀へと突撃を掛ける少女。

 ツインテールの少女であった。両手に握る大きな青龍刀を振り回し白銀に襲い掛かっていた。

 逃げの一手であった白銀はその名に相応しい声と共に攻撃へと転じる。

 美しい福音は何処かに、描き出すはゲーテの地獄。

 翼の一振りで海が啼き。翼の舞い散りが少女達の気迫を削る取る。

 余りにもつくりの違う武力、少女たちの力は所詮()()()()()()()()()()力であり手心が加えられている。対する白銀の力は紛うことなき殺しの力――広域をその爆発力と共に捩じ伏せる武力。

 力の差は数段どころの話ではなく、桁の違いを如実に表していた。

 勝てる見込みなど万に一つもない。

 

「La♪」

 

 美しい声と共に福音の煌びやかな翼は頭上の一点に集約される。

 広範囲攻撃に回されていたエネルギーがただ一点に集まり、纏まり絡み合い結集される。それは破壊的力の塊、今終焉を迎えようとしている星の煌きと変わりはなかった。

 星星の光はその体を弾けさせた数万年前の死の光と同様に、この光はその死を明確に表した視覚の暴力であった。

 

「みんな避けろッ!」

 

 キュウィイ、と奇妙な音が鳴りその光は放たれた。

 避け様のない武力の放流が辺り一帯に放たれる。身に降り注ぐ破壊、ISの『絶対防御』があるにしても身をこわばらせるには充分すぎる輝きがそこには宿っていた。

 腕で青年は顔を防いだ。

 

「……っ?」

 

 だがその身に襲う力はなく、衝撃の一つ、微風の一つもなかった。

 代わりにと言っては何だが目に映ったのは想像もしえなかった何かだった。

 

「I、S……?」

 

 そこにあったのは真っ赤な。

 ――赤い、紅い鎧武者の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《……抜けたわ。ここは……?》

 

「……海上、のようだな」

 

 そこは夕日の眩しい海の上であった。

 有名な写真家が撮った一枚といっても疑いはしないような風景がそこには広がっている。

 美しい島々、静謐なる――

 

「村正、状況の分析を」

 

 《……ええとあれは、なぁにかしら?》

 

 妙なニュアンスで唸った村正はそれらを見比べた。

 空に飛翔する七人の者たち。俺は僅かながら臨戦態勢へと体を移行させた。

 天を飛翔する者たちといえば武者、劔冑(つるぎ)しか景明の(なか)ではあり得なかったからだ。

 

 《え? あれ劔冑(つるぎ)?》

 

 村正が困惑した金打声(こえ)でいう。

 

「村正、どうした?」

 

 たどたどしく答える村正。

 

 《あの空に飛んでるの、多分。劔冑(つるぎ)じゃない……かも》

 

「なに? どういうことだ」

 

 《どういうことも何もこっちが訊きたいわ? 私の探査機能(はだ)が捉えた限りだと劔冑(つるぎ)とは全くの別物。空を飛ぶなにかよ》

 

 村正はしっかりと言った。

 ――劔冑(つるぎ)とは別の飛翔物。

 よくよく見ればその見目形は劔冑(つるぎ)とは全く別物である事はひと目でわかった。

 体を露出するように作られた装甲、顔を丸出しにしており防御とはなんぞやと云った様子。そしてどういう原理がそれらに追随するかのように浮遊するパーツたち。

 カラーリングや造詣などを見ればそれらの肩に相当する部分である事は分かった。

 そして何より劔冑(つるぎ)とは一線を画すことがあり――

 それは彼らは宙に静止していた。

 劔冑(つるぎ)合当理(がったり)によって騎航()ぶ。合当理(がったり)は空を翔る装置である。

 それ故に爆発的推進力しか得られない。前に進む装置に飛行船のような宙に止まる芸当を望むのはお門違いだ。

 一部劔冑(つるぎ)はそれに該当しないのだが、彼らはそれを行っている。

 

「彼らは劔冑(つるぎ)とは別種の飛行装置で航行している。そういいたいのか」

 

 《おそらく。御堂は早くこの場から離脱するのよ》

 

「触らぬ神に祟りなしだな」

 

 触る神には祟りあり、現に俺たちは神のたたりでこの様な事象に遭遇しているのだから。

 この空域を離脱す使用とすると微かな、衣服の擦れるようなほんの微かな音が聞えた。

 

 《なにこれ、金打声なの?》

 

「どうした」

 

 《たぶん、あの機のどれかから。劔冑とは勝手が違うから手応えが》

 

 手こずっている様子の村正は相手の金打声とどうにか繋げた。

 それは青年の声、白い機体を繰る少年の言葉であった。

 

 《そこの赤い機体、ここは危険だ。逃げろッ!!》

 

 必死の言葉。それも状況から鑑みて無理からぬ事。

 みなどういう心境か武装している。年端もいかぬ少年少女たちがだ。

 彼らを見ているとどこぞやの少年を思い出させる。

 

「当方に交戦の意図はない。繰り返す、当方に交戦の意図はない」

 

 何度も繰り返し言うが、返答は返ってこない。

 こちらの声が届いてない? 当然かもしれない、機体の種が違えば通信の手段も異なる可能性はある。

 ならば分かりやすく敵意がないことを示すしかない。

 

「村正この場を急ぎ離脱するぞ」

 

 《諒解》

 

 機体を旋回させ急ぎその場を離れる。

 騎航(あし)の調子は問題ない、金神の攻撃の影響は現れていない様子であった。

 高度の確保は充分。村正の性能が確かならこのまま数十キロ飛ぶのも三十分と掛からないだろう。

 兎にも角にも今は現在位置が知りたかった。この座標は元の場所、富士山頂付近の空域でいいのか、それとも自転乃至は地盤的変動により大和より大きくずれた場所にいるかもしれない。

 

 《御堂! 二○○度上方(ひのどからひつじのかみ)。不明機接近》

 

「……!?」

 

 息を呑んだ。

 充分な距離、充分な速力は確保していた筈だったが、村正の警戒信号によりそれを視認した。

 白亜の、白銀のそれがそこにいた。

 ぴったりと付いて来るそれは徐々に速度を上げ、真横へと併走し見つめ合うように此方を覗き込んできた。

 

「あ、」

 

 ゆっくりと差し伸べられた手が村正の装甲(はだ)を撫で、そして頬へと添えられた。

 まるで子を宥める母親の手のように、やさしく包み込むような手付きで頬を撫でた。

 ふいに浮かぶ幻想が重なり合う。

 

「……光……」

 

 愛しい妹、愛しい娘、愛しい人。

 ともに歩いたあの帰り道。統様への苦労の言葉を考え、夕餉の献立を考えたあの平穏を。

 尊いかけがえのないあの日常に。

 いまでこそ思う憧憬に現実が蝕まれ、それへと手は伸びていく。

 光、湊斗光、俺の妹、俺の、俺の愛しい――

 

 《御堂!》

 

 現実は常に非情であり、夢幻を冷徹に突きつけてくる。

 白銀のそれの手を払い除け、距離を大きく開ける。

 

「Laaa……」

 

 頭部の装着物越しからでも理解できた敵意。

 白銀は天空の一点に向かい速度を上げ飛んでいく。

 引力の影響を受けていない。そうすぐに分かる騎航の仕方であった。

 

「村正、やつは一体なにで飛行している」

 

 《合当理(がったり)以外の何かでは在るようね。こちらの戦法が全く通用しないかもしれない》

 

「可能な限り戦闘を避けつつ撤退する方法は」

 

 《零ではないでしょうけど。――向こうはやる気のようね》

 

 白銀の羽が煌き破壊の雨粒を周囲一帯に振り撒き、轟音と衝撃を伴い空気をたわませる。

 充分な速度を得ていたことが幸いし何とか効果範囲を振り切ることが出来たが、この広範囲を爆破する性能、そしてその一つ一つの規模。被弾しただけでもぞっとしない。

 

「やるしかないか」

 

 肩に携えた野太刀『虎徹』を振り抜き担ぐ。

 

 《あれは慣性の影響も受けていないかもしれない。剣の接触の寸前で避けられる可能性もあるわ》

 

「急ターン、急ブレーキもあり得るか。承知した」

 

 高度優勢はこちらにあり。

 反転し、対敵する。

 敵の武装、無手。しかしながら先程の爆撃、遠距離主体の攻撃をしてくる。

 攻撃の出所はおそらくあの煌びやかな翼。単なる翼ではなかろう。純粋なるエネルギー体、飛行装置にも攻撃にも使える正体不明の装置。

 武者の術理は通じず、宙を舞う雪花の如く兇刃をすり抜ける可能性がある。

 決して勝機がない。

 地の重力(しんり)に縛られる武者にとってこれほどの不利があるだろうか。

 武者同士の戦いであればなかろう。しかし村正(三世)村正(二世)の戦いではある筈の定法は存在せず、このような()()()の相手との戦いとなる。

 それを経験している俺には()()()に転ずる。

 

「……―――!」

 

 没入(ダイブ)し、体に掛かるGを神経で感じ取り強く『虎徹』の柄を握る。

 振り向きざまに白銀は羽をこちらに向けて制射してくる。

 弾丸、そう思えばこの状況なんという事はない。武者となる前、大戦中フィリピンの密林で銃弾に震えたあの頃とよく似ている。それだけのこと。

 

「はぁあ!!」

 

 微かに陰義(しのぎ)を乗せた野太刀の袈裟懸からの一斬。

 並みの武者であればその迫力と威力に振るえ、騎航の遅れを生じさせるだけのモノであり切先に鋼を捉えるだけの確率はあった。

 しかし相手は武者ではない。

 得物を劔冑としない未知の何か。顔が隠れ全く表情は読めない。

 というより気配を感じない。

 

「村正、あれの仕手は気絶でもしているのか?」

 

 《うーん、生命反応はある。でも意識が……じれったいわね、何かが邪魔をしてる》

 

「何かとは、何だ」

 

 《何かの障壁のような。通信もスキャンも全部邪魔されてる。気をつけて物理的にも邪魔されるかも》

 

「承知した。では、参る」

 

 地上へと没入していた兜の角を天空へと向け、空を仰ぐ。

 速力は得た、天空へと舞い戻る。

 最中背より撃ちこまれる砲火の嵐。

 

 《右足部に被弾! え、噓》

 

「どうした?」

 

 《全然損傷がない。あれで攻撃なの?》

 

「程度のほどは」

 

 《松明を押し当てられたぐらい。見た目の割りにあの攻撃こっちには威力が全くないわ》

 

 猛獣に襲われたかと思ったが、猛獣は一皮向けば子猫とさほど変わらなかった。

 余りの威力のなさに気が抜けそうになるが踏み止まる。

 相手は合当理(がったり)も、しかも慣性の影響を受けずに飛行しているのだ。

 これが単なるじゃれ合いで影より一撃を、陰義による攻撃を狙っているとも思われる。

 気を抜くには早すぎる。

 ほんの僅かに息を吸い腹の奥へと送り込む、腹部に力を込め、丹田へと落ち込んだ空気を錬る。

 回る、廻る、体に散っていた力が全身に徐々に。

 そして腹の一点へと結集し荒れ狂う暴力へと変貌を遂げ体外へと飛び出さんとのたうつ。

 刃を戻し、白銀の鍔背に狙いを定める。

 回る力は鞘へと流れ、稲妻となり力の片鱗を周囲に撒く。

 

「吉野御流合戦礼法“飛蝗(ひこう)”が崩し 電磁擲刀――“(かしり)”」

 

 瞬間、鞘に戻っていた刃は外へと向かい()()出された。

 

「L――」

 

 やにわにの出来事に白銀も対応が遅れた。

 遅れるだろう。こういった場面で使う事のない技だ。

 電磁反発による投擲の刺突。鞘には想像を絶する電圧が加えられ、生身であれば感電死は避けられない。

 風を割き、空を貫き、脇差は白銀のヘットセットを破壊し、白銀の翼を散らす。

 合当理(がったり)を噴き宙にて脇差を手元へと戻す。

 振り向きざま対敵主を見る。

 

「LaLa」

 

 やはりあの光の翼が揚力の元であったのか。かき消された事により空中でふらふらと体を揺らしていた。

 バランスを戻す暇を与えず、すぐに反転する。

 視界を埋める白銀の背、瞬時に詰め寄り背に張り付いた金属部分に腕を差し込んだ。

 厚みを考えれば心の臓ごと貫きかねなかったが加減はする。金属部位だけ、なかみをごっそり抉り取る。

 

「ん、これは?」

 

 《なに、かしらこれ》

 

 手に収まっていたのは光り輝く何かであった。

 破損の影響で火花を散らす部分とは明らかに違う光具合。重要な部位である事は確かであった。

 海へと棄て、白銀を見た。

 群青の水面に向け堕ちていく様をしっかと捉えた。追っ手は、背後に六機。

 強く『虎徹』を握り、背後へと騎航(はし)った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤色の武者は背を向け逃げていく。

 

「何なんだよあれ。どこのISだ」

 

 一夏は愚痴っぽくいいその武者を追う。あまりの出来事に理解が中途半端にしか追いついてこない。

 唐突に現れたISが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃墜し逃げている。

 状況としては簡潔であるが。自体としては重大だ。

 撃墜しておいて所属も言わず、何もなし。それはおかしいだろう。

 挙句、逃亡。ド素人でも分かる。

 あいつは何か抱えている。

 

 《そこのIS、止まれ。高度を下げ着陸しろ。さもないと撃墜もこちらは考えている》

 

 軍属のラウラ。

 常套句のように綺麗な警告を発し赤いISを静止した。

 微かに顔がこちらを向き、そして体が地上へと向いた。

 

「一夏、追うぞ」

 

 ファースト幼馴染の箒が横へと付き先導する。

 同じ色の、赤い機体。しかし色身が全く違う、箒の赤が明るい赤なら武者の赤は――血の赤だ。

 そう、血で染め上げられたようなどす黒い、とにかく黒々とした赤だ。

 地上へと武者が降りた、その周囲を囲むように俺たちも着陸する。

 恐ろしく禍々しい。一発目で浮かんだ感想がそれであった。

 鬼のようなその面の眼は炯々と輝き睨んでいた。刀が腰に二本、肩の上に大太刀が一本。

 

(他の武装は収納しているのか。てかPICで止まらずに直に着陸したのか?)

 

 ISの着陸にはISの基本システム『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー(PIC)』で空中に浮遊・加減速・静止が出来るのだ。画期的な半重力システムだが。

 

「ISを除装しろ。これは命令だ」

 

 ラウラは命令口調で鎧武者に言う。

 やや間があって。両手を挙げて――

 

「え」

 

 ――ISが弾けた。

 

 それだけではない。彼のすぐ横でまるで組み立てパズルのように一つの形に組みあがっていく。

 そしてそこに出来上がったのは赤黒い真っ赤な蜘蛛。

 並の大きさではない。金属で出来た蜘蛛がそこに居座り、隣には着用者がいた。

 

「抵抗の意図はない。こちらも状況を知りたい」

 

 暗そうな男が一人いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




知りません。

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