装甲悪鬼村正 外編“遺廻騎”   作:我楽娯兵

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暗黒怪人現る

 所々で鳴る機械音。IS学園の地下深くに建設された整備室。

 そこに鎮座するそれを調べ上げ正確な報告を求められている。

 

「遅くまですまない。山田先生」

 

 ビジネススーツのよく似合う美女がそこに現れる。

 この世界では『ブリュンヒルデ』と呼ばれ、世界最強の名を貰い受けた女性であった。

 その目許には微かに隈があり、この数日間寝ていないことを表していた。

 それもその筈であり、検査室の中にある『機体』はIS学園のみならず世界を狂わすだけの威力を誇っていた。

 

「あ、織斑先生。お疲れ様です。ついさっき解析結果がでたところですよ」

 

 受け応えた人物は一見すれば中学生とも見て取れるほど幼く見えた。

 彼女もまた僅かに寝不足があり、操作卓の隣においてあるマグカップには冷め始めたコーヒーが渦を巻いている。僅かにずれた眼鏡を掛けなおし、操作卓を手早く操作し解析結果を表示する。

 

「成分としては、鋼が主成分です。この成分に近いものとしては日本刀ですね、非常に強固な構造です」

 

「骨格のほうは?」

 

「ええー、と」

 

 言い難そうにしている。それもそう、ISとは勝手が違いすぎる。

 

「これの骨格と言っても、分かる部分は腹部だけでした。腹部はラムジェットエンジンのような構造をしており予想される最高速度はマッハ0.3程度だと思われます。奥の部分にCPUと思わしき部分がありますが、それ以外が」

 

「不明か?」

 

「不明、といいますか……」

 

 スキャン画像を見比べるように指を刺す。

 

「これを見て下さい。どう考えてもこれ、組み立てパズルなんですよ」

 

「……」

 

 千冬は何も言わず聞く。

 

「これはCPUと思われる部分を基礎にそれを覆うようにて金属パーツが蜘蛛の形を組み上げているだけ、骨組みも何もないんです。それがこんなに滑らかに自立行動、魂を持ったように動き回る事自体が可笑しいんです」

 

 そういう彼女に千冬は深く息を吐いた。

 《劔冑(つるぎ)

 これの使用者の言を借りるなら、この世界を壊しうるだけの威力を誇る古代兵器。

 心鉄と呼ばれるOSを有した甲鉄の兵器。

 ISのように鋭い(スマート)訳ではない。どちらかと言うのなら泥臭く鉄臭い。

 だがそれ故に遊びがない。だた『捩じ伏せる』力としてここに存在している。

 

「あの男の言う通りであれば、この劔冑は、この世に一騎だけ。幸いだな」

 

「ですね。これが何体もあった場合、今の世界は崩れるでしょうね」

 

「それこそ()()に発展しかねない」

 

 今はIS至上主義。ISを駆る者こそこの世の絶対的な発言権を要す、すなわち女性こそ強い。

 女尊男卑の世界でこれほどの世間を揺るがす事があるだろうか。

 男も乗ることが出来き、そしてISに通用し得る武力を持っているのだ。

 経った数年であるが、男性が抱える女性の憤懣は最高値だ。

 

「公表は……されませんよね」

 

「できんだろう。この様なもの、責付かれてはいるようだがな」

 

 突如として表れ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃破しそして縛に付いた。

 作戦領域で急速接近する機はなく、唐突に現れたのだ。

 まるで空間移動かと思うほどに唐突に。

 無論この世界で最先端にいる束ですらそのような事が出来ないという事はどこの国も着手していない技術、もしくは現象という事になる。

 それ以前に劔冑を製作したのは誰なのか。

 束に掛け合えば知らぬの一点張り、むしろ知りたいとも言っている。

 となれば別の国。いや、束が作れぬものに他人がほいほいと作れない。

 尋問、と言うと耳によくないが事情聴取を行った千冬としては想像もしたくない。

 

「あの男の言う通り、か……」

 

「あの男?」

 

 山田先生は知らされておらず首を捻るばかり。

 仕方がない。部外秘といえどこの件に関しては内部でも情報を絞らねば成らない。

 知るべき人間は学園長とその夫、そしてあれを目撃した当事者たちだけで。

 

「ところでこの機体の名前ってあるんでしょうか?」

 

「劔冑、勢洲右衛門尉村正――というそうだ」

 

「勢州……なんだか古風な名前ですね」

 

「古風なだけならな」

 

 佳かったのだが。

 奇しくも村正。こちらでは妖刀として、そして『あの男』の謳う村正は。

 ――妖甲と云った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おひさー。おはようみんな」

 

 夏休みという長いようで短い長期休暇を終え久しく見ない友人たちの顔を見て僅かながら笑顔を見せる。

 

「おひさー、静寐」

 

「しずちゃんおはよー」

 

 クラスメイトである相川清香と布仏本音は既に登校しており、夏休みの期間に溜まった話を話し合っていた。うら若き情熱に溢れる女子高生、話す話題などには事欠かずたった一日会わぬだけでも一つや二つ、十や二十など倍速で話題が産まれる。

 

「夏休みが終わったってのにまだ暑いねえ」

 

「ウチは実家が盆地だから余計にだよ。本音はなにしてた?」

 

「ん~? かんちゃんと一緒に遊んでた」

 

 おそらく実家へは帰省をしていないのだろう。

 彼女の家は由緒ある家柄らしく仕える人物が四組に居るそうだ。

 ただ本音は言動行動が間延びしており、メイドなど勤まるのか少々疑問が残るのだが。

 

「ねえねえ聞いた? あの五人組、織斑くんの家に突撃したそうよ」

 

「うそ。大胆な行動に出たわね。進展は」

 

「わかってるでしょ?」

 

「ははーん。玉砕粉砕粉微塵ですか、織斑くんも罪な男ですなあ」

 

 今年入っての重大ニュース。

 女性しか使う事の出来ない着装兵器ISを操る事の出来る『男性』。同年代にして男性。

 まさにIS史に措いては途轍もない事だ。

 現在の社会で女性が絶対的地位を確立していて現れた彗星の如き少年だ。

 そしてその少年はこの学園に入学し尚且つ同じクラス。情報に貪欲な女子学生、涎の出る。

 だが今までの付き合いを見ていてわかったのは、その少年『織斑一夏』はあまりにも鈍感なのだ。

 正直、自分自身には釣り合わないと思っているが、あそこまで鈍感な男性は誰とも釣り合いが取れるとも思えない。そんな少年に猛烈突撃(アプローチ)を掛けている五人の女子生徒を少々哀れに思う。

 

「お、噂をすれば織斑くんの登場」

 

「男前だし優しいのは良いんだけどねえ。誰しもだしね」

 

 やはり男と女の問題となればその分け隔てない優しさは玉に瑕だ。

 その優しさを自身だけに注いで欲しいと思うのは人の悲しき性かな、だが彼にそれを求めるのは少々お門が違うのかと思ってしまう。

 待ってましたと言わんばかりに四人が彼に駆け寄り言葉攻めかと思う勢いで話しかけていた。

 全員が全員、高水準の造形(ビジュアル)。凡俗である私たちには敵う者ではなかった。

 

「はー、カッコいい彼氏欲しいなぁ」

 

「ここ女子高だし、織斑くんはあれだしね。残る男子は轡木さんだけだよ」

 

「ダンディーだけどもう人のもんじゃん」

 

 若き劣情は同性しか居ない場所では空気に当てられより増大し匂いという物質として周囲に放たれるものだ。好奇心と劣情感の狭間で生まれるものはいつもどうしようもない行動力のみなのだ。

 

「ねえ、ついさっき聞いたんだけどさ。この時期には良い怪談あるよ?」

 

「怪談? どんな」

 

「学園七不思議ならぬ。IS学園怪人騒ぎ!」

 

「えーどんなどんな」

 

 今まで恋とは無縁の本音もこの話には食いついてくる。

 その話で会話の手綱を握る清香はとこか得意げに話し始めた。

 

「つい最近なんだけど、実家に帰省してない子達がそれに合ったんだって」

 

 やや間を空けて清香はいう。

 

「くろーい雰囲気の暗黒怪人」

 

「暗黒怪人? なにそれ口裂け女と同じ類?」

 

「でもさあ、この科学の塊であるIS学園にそういった怪談があるのがいい具合に雰囲気あると思わない? 科学でも到達できない未知の領域、私たちの知識の及ばない領域から現れる摩訶不思議!」

 

「そんな大げさな」

 

 口ではそういうが、少しながら興味はあった。

 怖いもの見たさというのか実際にそういうものがあるのなら実体は大方の想像は付く。

 どうせ、整備課の試作機なんて落ちだ。

 

「本音? くらーい雰囲気の試作機とか作った?」

 

「人型のものなんて作んないよ?」

 

「んんー? じゃなに? ていうかいつ頃からそんな噂が出てきたの?」

 

「臨海学校が終わったくらいからだったかな。夜中寮に帰るときに急に声を掛けられた子がいたんだって」

 

「怪人に?」

 

「うん、男の人の声で背の高い。この学園って男の人って織斑くんと轡木さんくらいじゃん、別の人が入るにしたって警備に止められるし。怖くなって走って逃げて、振り返りざまにチラッと見たら」

 

 怖がらせる気が透けて見えている目つきでいう。

 

「暗黒怪人だったって」

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 静寐、清香、本音の三人は噂の暗黒怪人捜索を断行していた。

 見つけ出しその本質を暴き立てると意気込んで出てきたが――――

 

「いないね」

 

「いる分けないよね。こんなピーカンの時間帯に」

 

「とうぜんだとおもう~」

 

 三人とも早々に暗黒怪人などという怪異の遭遇を諦めて学園内を散策していた。

 入学してもうすぐ半年となろうかというが今にして思えばあまりこの学園を見て回った事がなかった。

 正直なところ生徒が利用する施設などは限られすぎており、寮、教室棟、アリーナを行き来していればここでの学園生活が済んでしまう。

 部活や設備科など専門的なものに属したものであっても立ち入らないところは多々あり、外縁部にある船着場や人工入り江などは立ち入らない。

 何の施設が集まっているのかすら知らないのが生徒の実情だ。

 

「ホントいろんな場所があるよねこの学園」

 

「ね、こんなに拡張する必要あったのかな?」

 

 不必要な土地拡張。ただ単に私たちが用途を知らないから不必要と思うのかもしれない。

 怪人探しはただの散歩と変わりただ歩き回る放課後。

 入り江から寮。授業棟から実習アリーナへと向かう。

 

「もう夏も終わってもいい時期なのに暑いねー。なんか売店で買ってかない?」

 

「さんせー……」

 

「冷たいものー」

 

 三人が三人汗だくで水分を欲していた。

 アリーナの中には売店があり、学園行事でよく使われる場所だ。

 あらゆるものが取り揃えられており、タバコでさえ売っていた。

 未成年がいる施設でタバコを売るとは何事かと一時期バッシングの対象になったのだが、ここにはさまざまな国の生徒が居る。アジア圏から中東、ヨーロッパからアフリカ。

 そういった多数の地域から来ているという事は国によっての喫煙年齢も変わってくる。

 日本では二十歳からだが、アフリカ圏では年齢そのものが設定されていない。

 そういったものがもともと吸っていて吸う場所と物を求めた結果、出身国と学園側に申請を通せば吸えるのが実体。抑圧ほど苦しいものはない。

 

「何買う?」

 

「わたし麦茶」

 

「じゃあ私はオレンジジュース。本音は?」

 

「ん~……これ!!」

 

 本音の手に取った飲み物は少々難儀なものであった。

 

「それ学園料理部のチャレンジ商品じゃん。“芋サイダー”って」

 

 本音は楽しげに芋サイダーの紙パックを振っていた。

 中から聞える音はまるで油液のような粘着質なねちょねちょという音。

 新境地を開拓しようと雄雄しく切り開いた結果に見事な惨劇となった商品を本音は買おうとしていた。

 

「不味くても私たちのはあげないよ」

 

「いいのわたし“芋サイダー”で」

 

 そういう本音は購入を踏みとどまりそうになかった。麦茶とオレンジジュース、芋サイダーを買いってアリーナの観客席へと向かった。

 観客席には私たち含め二・三人の生徒が観戦して、アリーナ内には貸し出されたISを装着した生徒と、専用機を持つ生徒が自己訓練に励んでいる。

 

「あ、おりむーだ。モッピーもいる」

 

「ほんと、ああいいなあ専用機。私もほしい」

 

 本音のつける独特なネーミングセンスのあだ名。おりむーこと織斑一夏とモッピーこと篠ノ之箒だ。後者のネーミングは何故だか悪意を感じる。

 篠ノ之の纏う赤い鎧。

 血を分ける姉妹より送られた品。天才科学者『篠ノ之束』より送られた天下一品のIS。

 洗練されたフォルム、高機動。対戦している織斑との第二形態移行(セカンド・シフト)をものともしない近接格闘能力。すべてがずば抜けて高い。

 

「臨海研修の事件で活躍かぁ。カッコいいなあ、私もかっこよくズバーって活躍したいよ」

 

「あんたじゃどこぞの企業のテストベットがいいとこだって。私と大して変わらないだから」

 

 静寐、清香のIS適正はBマイナス。殆ど平均値だ。

 この三人組で唯一適正値が高いのは本音。Aマイナスだ。

 

「ねえ。臨海研修の事件、変な噂話(ゴシップ)聞いたんだ」

 

「え? なになに?」

 

「なんでもね。海外のタブロイド誌で乗ってたそうなんだけど。あの事件を解決したの専用機持ちじゃなかったそうなの」

 

「ええ? でも出撃して皆で治めたんでしょ?」

 

「それがね。どこかの国が衛星で監視してたそうなの。それで映ったんだって。変な機体が暴走ISを撃墜する姿が」

 

「まさか。そんなことなんてないよ。だいたいそんなことがあったならその機体が取り沙汰される筈よ?」

 

「なんでも途中から姿を晦ましたそうなの」

 

「そんなことあるのー? ねえ本音はどう思う」

 

「うえー……。芋サイダーねちょねちょして美味しくなーい」

 

 紙パックの芋サイダーに悶絶する本音の姿に笑いが漏れた。

 

 

 

 

 

 

「結局嘘なんじゃない? 暗黒怪人」

 

「何にもなかったねえ」

 

 日も暮れあたりは薄暗がりに陥り熱気を帯びた夜風が吹く。

 怪人探しに心躍らせ歩き回るのはよかったが、噂をすれば何とやらは起こることなくただ無意味に近い放課後を過ごした三人。小腹も程よくへり夕食にはちょうどよい時間だった。

 寮への帰路に向かう。

 時間を確認しようと携帯端末を開き、時間を確認した時刻は午後7時20分。

 

「すいません」

 

「はい?」

 

 ふと声を掛けられる。

 その声は男性の発せられる凛々しい声であり振り返えろうと端末の画面をスリープにした。

 そしてそれは映る。黒く染まった画面に反射して映る姿が。

 背筋が凍る。冷や汗が吹き出た。

 ギギギッと音が聞えそうな首の動きで静寐は清香の顔を見た。

 清香も同じ様子。顔は青ざめてどうしようもない様子であった。

 

「すいません。少しよろしいでしょうか」

 

 すでに答えは出ていた。

 ああ、逢っちゃった。終わった人生。

 逃亡一択の選択肢。スタートの銃声が心の中で鳴り響いた。

 

『きゃああああああああああ』

 

 二人とも全力で走り、そして張り上げた声を上げた。

 

「う、うそっ! マジで出た。こんなことってある?!」

 

「死にたくない。憑かれたくない。生きていたいィいいい!!」

 

 変に懇願する二人はある異変に気づく。

 

「ねえ? 本音は?」

 

「え?」

 

 いつも静寐のとなりにいる筈の布仏本音が――いなかった。

 いつもニコニコしてのろのろ動くあの愛らしいマスコットのような存在が――いない。

 

「え、まさか本音――転けた?!」

 

「どしよう! 置いてきちゃったよお!!」

 

 もう既に二人ともパニックだった。

 怪奇の現れた恐怖心、学友を置いてきた罪悪感。

 すべてが一緒くたになりパニックという精神状態を作り出していた。

 

「ど、どうする!!」

 

「う、う~っ……助ける! 女は根性、怪人だって殴り倒してやらぁ!!」

 

 行動力が変な方向性に傾きだしている事に二人は気づいていなかった。

 行動に移したのいいがやはり怖いものは怖いらしく、二人とも無意識にくっ付き合い互いの足を引っ張り合う。

 

「ほ、本音ー……」

 

 小声で呼ぶが返答はない。

 薄暗がりの学園。逢魔が刻の風景というのは場所を問わず神秘的でそして自然と恐怖心を掘り起こしてくるものだった。そしてよちよち歩きの歩みで進んでいると人影が二つ。

 一人は小柄なもの。

 間違いはない。布仏本音の陰に違いなかった。

 だるだるの裾に袖、ふらふらと頼りない足取りを見ても核心が持てた。

 もう一人は――

 

「ひっ」

 

 血の気が引いた。

 暗い。

 それはそれは薄暗い男だった。

 今の時間帯であるならば周囲の空間にどうかしてしまいそうなほど薄暗い。

 外灯にちらりと照らされその全貌を見る。

 良く見れば若々しい、さらに良く見るなら顔立ちも悪くわない。

 ただそんなもの有史以前に置き捨ててきたのか第一印象はただただ『暗い』。

 どれだけ活発で全国大会覇者のスポーツマンであっても触れればたちまち養老院のベットで木陰を眺める爺婆へと変貌をさせる蕭々たる立ち姿。まさに暗黒怪人の名に相応しさ。

 

「ほ、本音!」

 

 学友を抱き寄せ、隣の男より守るように睨みを利かせた。

 そして隣の男は――

 

「唐突な語懸、驚かせてしまい。真に申し訳ございません」

 

 それはそれは綺麗な謝罪をされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、本音知ってたの?!」

 

 近場のベンチで彼の話を聞いていた。

 

「ええ、つい先日道のほどを尋ねて案内をなさってもらい面識がございます」

 

「えへへ……アッキーの事だと思わなかった」

 

「アッキー?」

 

 本音お得意のあだ名だった。

 それを聞いた彼は名と身分を語たる。

 

「挨拶のほうが遅れてしまいました。自分は先刻よりIS学園用務員の職を奉じることと成りました湊斗景明ともうします。今後ともどうぞよろしく申し上げます」

 

「い、いえいえ。こちらこそどうぞよろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

 年齢は明らかに私たちのほうが下であるにも拘らず、その言葉遣いは丁寧を極めていた。

 ベンチに座る彼の姿勢はピシッと背筋が伸びており背もたれに一切背が触れていない。その姿勢が彼の自然的な体勢であることが見てとれ、背もたれにもたれかかる自分たちが少々恥ずかしくなる。

 礼儀正しい。どこまでも綺麗なほど礼儀正しい。

 真っ当な教育を受けてきたのだろう。それを真に受け忠実に実行し正しく生きてきたのだろう。

 あまりにも綺麗で、そして瑕である暗闇瘴気(ブラックオーラ)さえなければ恐らくそれなりにモテていたに違いない。

 

「なんで私たちに声を?」

 

「は、恥ずかしながら自分はまだこの学園の地理を把握し切れておらず迷っていた次第。そこにあなた方が通りかかりお声のほどを」

 

「ははーん」

 

 なんとなく状況が読めてきた。

 多分ここ数日噂になっていた暗黒怪人の源泉は間違いなくこの人のせいだ。

 道に迷っていて、たまたま通りかかった生徒に声を掛け持ち前の暗黒オーラで逃げられたのだ。

 それが噂に尾鰭が付き、IS学園暗黒怪人伝説に昇格したのだ。

 考えて見れば見るだけあまりにも馬鹿馬鹿しいないように笑いが漏れた。

 

「じゃあ湊斗さん。案内しますよ」

 

「有難うございます」

 

 丁寧すぎる怪人を愉快爽快行動派喪女三人組は、喪に服すどころの話ではない雰囲気を纏った用務員と共に家路に着いた。




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