まだ朝日も昇りきらない早朝に景明は鍛錬をしていた。
武道の型でもと思うがアリーナの一件もあり、少々自粛気味で反省も兼ねて筋トレに変更している。
腕立て、スクワットと続け現在は腹筋に精を出していた。
「景明くん。今日も早いね」
「轡木さん。お早う御座います」
腹筋をやめて挨拶をしようとしたが彼は笑顔でそのまま続けていいと手を振った。
「あと七時から職員朝礼だから遅れないようにね」
「はい。承知しました」
「……ところで、今日はなにをやっているんだい?」
「腹筋です」
「……そうかい」
なんともいえない顔でこちらの筋トレ風景に苦笑している。
「出身は長崎だったね」
「はい。轡木さんは?」
「長野だ。ソースかつ丼が有名だよ。長崎はちゃんぽんだね」
「はい」
なんでもない会話で場を持たせようとしたが轡木は持たせようとしたが、ついに訊いてきた。
「下半身が浮き上がる腹筋なんてはじめて見た。苦しくはないのかい?」
「苦しみ喘ぎ、身を焦がす思いです」
「そうか。君たちのとこではそれが普通なのかい」
「通常より逸脱した筋トレである事を認知していただければ」
「そうだよね。うん」
「はー、どうなってんだこりゃ」
珍しくお馴染みの面々と離れる事に成功した一夏は第三アリーナの入り口で上を見上げて呟いた。
アリーナが割れていた。
パッカリ縦に裂かれたチーズのように真っ二つだった。
学校側からは施設の老朽化とそれに伴った事故で破損したと説明を受けていたが。
「事故でこうなるか? ふつう」
ラウラが尖っていた頃にアリーナのバリアーを壊した張本人だから言えるのだが。
事故ではこうにはならないだろう。
施設の老朽化といったって頻繁に改築工事を行い続けているIS学園で老朽化なんて言葉は似合わない。女子生徒間の噂では昨日の夕刻に教師陣がここを利用していたそうな。
教師陣が利用して何の事故だよ。ガス爆発? チャイナボカン? これは鈴に言ったら殺されるな。
「いーちかくん♪」
「はい? ぶっ」
呼び声に反応し振り向くが、頬に突き刺さる指先があった。
「なんでふか、楯無ふぁん」
「うん、やっぱり無垢な子が一番ね」
にっこり顔の楯無は一夏の頬を何度も突く。
感触を楽しんでいるようであり、興味深げに女性と男性の肌触りの違いに声を挙げながら楽しんでいた。
ふと気づく。彼女の首筋辺りに張られた大きめの絆創膏。僅かに血が滲んでいる。
「首の辺り、どうしたんですか?」
「ん? ああ、これね。なんでもないのよ」
誤魔化すように笑って手を振った。
虫刺されを掻いたのだろうか。綺麗な立ち姿を損なうには充分だ。
「今度は何ですか? また道場で殴り落す気ですか」
「いやん。お姉さんを拳骨魔みたいにいわないで」
「あの空中コンボ食らってもう懲りてますって」
「もう、そんなんじゃ強くなれないぞ」
「先輩に勝とうだなんて思ってませんので」
「そんなに卑屈にならないでよー。機嫌を早く直してくれないよ、くすぐり攻撃しちゃうぞー」
身構えウ○トラマンが怪獣に対峙するかのような姿勢になった。
それはまずい。非常にまずい。
この人のくすぐりはホントに洒落にならないくらい苦しい。
「はぁー、今日の相手は私じゃないのに」
「え? 違うんですか」
「あ、あからさまに声が明るくなったな」
「いえちょっと嬉しかったんで」
「ほんとうにくすぐり倒してやろうかのう」
手をワキワキとざわつかせにじり寄って来る先輩に後ずさる。
俺は逃げる算段を頭の中で必死で弾き出してみるが、
(逃げられねえ)
走って逃げれは追いつかれる。自滅覚悟で突撃すれば自滅する。
後者はないとして、前者も無理。ならば。
「お命だけは」
「よろしい。生徒会室にいきましょ♪」
この人には逆らうだけ無駄。
俺は手を引かれて連行された。
「あんた……!」
「…………」
生徒会室に入ったときひと目でそれが目に入った。
虚先輩の向かいに座り生徒会の書類に目を通して山と詰まれたそれを迅速に処理している。
黒い雰囲気を前面に押し出した男が。
「臨海学校の時の!」
「どうも。用務教諭の湊斗です」
「箒から聞いてたけど、本当に教員だったんだ」
「箒……篠ノ之さんの事でしょうか?」
「ああ、いやまさか先生だったなんて」
きっとあの時も生徒だけだと不安と思い学園側が教員を出したんだ。
そうであると決め込んだ一夏はほんの少しほっとした。
「久しぶりに男の人と会った」
「自分も似た気持ちです。自分の場合上席が男性ですから全く似たとは言い切れませんが」
「それでも俺は嬉しいですよ。いやほんと嬉しいな」
「ちょっとー。お姉さんをのけ者にしない」
ドスドスと人差し指で脇腹を刺してくる。くすぐったくあるが同時に痛くもあった。
楯無の気が多少治まったところで座るように促され腰を落ち着けた。
本当にこの部屋の調度品はいい物が使われている。椅子も適度に固くすわり易く、尻も痛くならない。
「楯無さん。書類のほうが片付きました。判の方を」
湊斗先生は手馴れた様子で楯無の必要な箇所を催促していた。
さすが大人と言ったところか。手際も非常によく、虚先輩以上に迅速に終わらしていた。
「うん? どれどれ?」
「これです」
ズイっと寄越したのは一つ一つ綺麗にファイリングされた書類の山。
そして先生は楯無の判子が必要な箇所をすべて事細かに指差した。
「ここと、こことここ、そしてこちらです」
「ちょ、手際よすぎじゃないです? 先生」
「以前事務関係の仕事をした事がありこういったことは得意です。発注の書類はこちらにまとめてます」
「へーん。一夏くーん手伝ってー」
「駄目です。これはあなたの判子が必要なのですから責務を全うして下さい」
「むー、けち。あんなにボコボコにしたんだから少しは優しくしてもいいのに」
「拗ねても、それはそれです。埋め合わせとして代わりにあなたではなくとも出来る書類をすべて処理したのでしょう。あなたでなければ出来ない箇所はあなたがやって頂かなければ、それに」
矢継ぎ早に先生の問責は続く、今度は費用についてだった。
「この生徒会の客席参加型演劇の費用についてですが、これでは他の部より皺寄せが、」
「あーんもう! それはこっちでやっときます。判も幾らでも押しますよ」
(すげえ、あの楯無さんを口で押し込んでるこの人!)
優秀すぎる副官にあくせくする将軍のそれだった。
落胆気味にぽんぽんと判子を押してゆく姿は哀れであったが少し愉快でもあった。
俺はその姿を一頻り楽しんだところで切り出した。
「ところで俺、何で呼ばれたんですか?」
「え? ああそうだったわ。今日の特訓、湊斗先生に代わってもらうわ」
「ええ! 急すぎないですか」
「だって。これだし?」
山と詰まれた書類をどうだと見せ付けるように胸を張るが、ぜんぜん威厳はない。
それより湊斗さんがコーチになるって。
(あの機体と戦うってことか?)
あの紅い機体と。
誰の目にもわかる異形の機。ISではない着装する何かしらの武装。
あれと、戦うのか?。
「ISと、あの紅いのと?」
「あ、そっか。一夏くんあの場に居たんだったよね。あれはね
「
「出処は秘密。そして今回はあの紅い機体とは戦いません」
「え? じゃあ」
「一夏くん。生身でも弱いでしょ」
少しむっときてしまう。
実際そうだが、そういわれると男の沽券にもかかわる。
「それだから私とやるよりは、
視線を投げた先には湊斗先生が事務仕事に戻ろうとしていた。
悪戯めいた笑みを浮かべた楯無はパッと扇子を開く、その扇子には『一敗塗地』と書かれていた。
「彼、私よりも強いわよ」
「は、はぁ」
胴着を着て一夏くんを見据えていた。
げほげほとえづき、のたうつ彼をただ見下ろし、静かに腕を下げた。
彼はある程度武術に嗜みがあるようだが、時折片手持ちになる傾向があった。
だが型が存在しているようにも見える。拙いようで、しっかりとした型が。
しかしながら。
(弱い……)
彼は弱かった。
なまじ武術の心得があるが故に誘いにも容易に引っかかり、そして倒される。
何度も向かってくる心意気はいいが、これが真剣ならば次は存在しない。
女性しか使用できないISを使用できる男性。
特異な存在であり、彼に武術の手解きをと頼まれているがこれではモノになるまでかなりの時間を要するだろう。もとより学生であり、不必要な力であることは分かってはいるが。
彼のある種の異常性を見れば納得もいく。
(弱いが……飲み込みは早い。――早すぎる)
大変よい事だが、この速度は異常だ。
一手で、一夏くんは中段で袈裟懸けを狙っていた。
俺は地摺の青眼、竹刀を股より下に構えを取った。そして彼の接近に伴い、竹刀を上げ切先にて一夏くんの鳩尾を突き飛ばした。
二手目に、彼は同じ中段袈裟懸け。俺も地摺の青眼、しかし握り手を僅かに左に回し逆風を切り込む予定であった。
袈裟懸けの一撃を切り上げと同時に、逆風。切落の用量で行ったが、
結果は――行うことはできず。
彼は右肘で竹刀を受け止め、左手を柄より離し腕絡めに動いたのだ。
大変よい判断能力。そして尋常ならざる反応速度に驚嘆したものだ。
だが、やりようはあった。
「一夏くん。君は大変よい判断能力があります。動体視力も充分すぎる。……しかしやはり詰めが甘い」
「…はぁ…はぁ。やっぱり、そう思います?」
肩で息をしている彼だが、体力さえあればまだまだやれるように思えた。
「体力の低さが何よりも問題です。日々の体力作りは何を?」
「とくには、最近ではみんなにISの特訓をやってますが」
「なるほど‥‥‥」
となれば最初の課題は体力作りからだろう。
ISの操作技術の有無はその後でも構わない、劔冑であっても基礎がなければ騎航すら儘ならないはずだ。
(飛行技術は判断しかねるが、格闘戦については
悪くはない。が、経験が何よりも足りていない。
蓄積した判断要素がないが故、取れる行動も習ったような基本的な動きに限定されている。
型破りの行動はとるに取れないようだ。
「どのような流派を修めているので」
「篠ノ之流です。修めるってほどじゃなくてかじった程度ですが」
「いつほどからお止めになったので」
「えっ……なんでわかるんです」
「僅かながら未の動きにぎこちなさ、動きが離れていたように感じました。二年、いや三年は怠っているように見受けられました」
「あ、ははは。やっぱり出ますよね動きに」
一夏くんは中学生時代バイトに明け暮れていたと言う。家庭環境は知らないが、やはりこちらの時代も最も必要となってくるのは『金』という事なのだろう。
一概に市勢に出て若くして稼ぐというのは悪い事ではない。讃えられるべきだ。
しかし武人の視点から見てしまえば何を言おうにも、惜しい。途轍もなく。
覚えもよく素質もある。身に着けた技は劣化を辿るが朽ち落ちることはない、しかしその劣化は大きすぎる。
(鍛えれば光と同じぐらいに、化ける)
直感できる。
この子は道さえ示せば大きく前進する才能を秘めている。
ISのほうでは分からないが、
久しく感じない高揚感のようなものが芽吹く。
ああ、この感覚は覚えている。家の道場であれを見ていたときと一緒だ。
苦心するあの子の姿。達成を果したあの子の姿。すべてが同時に見える。
俺はただあの光景を見ていたかった。
あの子が――――光が大きくなる姿を。
「先生?」
「――すいません。少々考えに耽ってしまいました」
一夏くんは既に息を整え立ち上がっている。
彼を鍛えよう。それが今俺に任された教職の意味だ。
「似合うじゃない。オータム」
スーツに身を通す部下に湿った声音で声をかけた。
「そ、そうですか。なんだか照れくさいな」
弾んだ声で彼女は返してくる。
私たちは名を捨てた者。この世に存在はするが、人間世界ではすでにいないもの達。
多くの闇を浴びすぎた、盆より溢れた泥が我々だった。
「今回はあなたにすべてを押し付ける形になってしまって悪かったわ」
「いいんです。スコールの為なら」
従順なる部下、盲信なる手足。
優秀な一兵卒であった彼女は信頼していた上官の裏切りによって器の外に溢れ出た一人だ。
それをより大きな泥溜まりに落とし込んだのは何を隠そう私だ。
すでに死んでも可笑しくない体を窮屈な蛋白質で構成された檻から、ナノチューブと電解性窒素組織体で出来た新たな体に乗り移り生きている。
すべてはこの世を自在に動かす為の足がかり。
「『白式』の強奪。分かっているわね?」
「ええ、ガキ一匹。捻り殺してやりますよ」
オータムは優しげに微笑んでいう。
彼女はすでに箍が外れた典型例だ。もはや『殺し』は本能と同じレベルに落ちた
そんな彼女に正直そんな彼女にこれを頼むのはお門違いだとは分かっていた。
「福音を撃墜した機体、すでに画像は見たわね」
「
「状況推測だけど、IS学園に格納されているの。分かるわね?」
「……新しいパワー。ひ、ヒヒヒ」
侵された、冒された。
世間に私達は犯された。力が必要だ、力がすべてだ。
どこまでも利用しつくす。骨の髄まで啜り尽くそう。
一夏 ■■
箒 ■
セシリア
鈴音
シャルロット
ラウラ
刀奈 ■
簪
本音
乱音
ヴィシュヌ
ロランツィーネ
ファニール
オニール
ベルベット
クーリェ
麻耶
他
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やっぱりオリジナル劔冑出したほうがいいのかな?
取りあえず募集かけてみます。
読者様にこんな劔冑見て見たいって案があったら活動報告に書いてみてください。
待機形態、陰義、実物刀工の名前を付属で書いてくれたら嬉しいです。