IS学園学園祭。
祭とは本来は信仰の一部であり、神仏にたいする祈りや感謝の意味があったのだがその意味はどの世界でも変わらず形を変え変容する。
学園祭とはまさに生徒たちが模様す学園生活と言う尊い時間に感謝謳歌する祈り。
この世界ではこの『学園祭』は数多く行われているが、景明には少々真新しい光景である事たしかだ。
それもその筈で多種多様の人種で構成されているIS学園で、その生徒たちの両親、親友、もしくはその政府の人間や他国の企業のスカウトなどが一堂に会す機械でもあったからだ。
まさに国際社会の見本のような光景だ。
日本、英吉利、亜米利加、独逸、仏蘭西、希臘に豪州、阿弗利加もいる。
数えだせば切がない。
見回りをしてまわっている景明には目まぐるしい光景だった。
普段は見慣れない男性も幾人もすれ違っている。親友か交際中の者か、それとも父親か。
どれも顔は明るく、久しく会わない者たちと和気藹々と談笑していた。
そんな中を俺のようなものが歩くのは場違いであると実感していた。
暗い雰囲気が周囲の者たちに当てて回っているのか、ヒソヒソとこちらに視線を投げながら小声で話している。
《御堂、時間よ。見回りも御終い》
(……ああ)
俺にだけ届く金打音が耳に届く。
校舎の外で待機している村正の声だった。
質素な腕時計で時間を見て、予定している時間が迫っている事を確認。
(――第四ブロックの教職員用会議室)
行先を頭の中で反芻する。
校舎を抜けて、教員棟へ。そこのとあるエリアの扉を開ける。
地下へと続く道程。電灯で照らされてはいるが薄暗い雰囲気は拭えない。
ガラス張りの廊下に差し掛かり、横目でちらりとガラスの向こうを覗く。
ISの残骸。それに類する機械部品。
まるで墓地だった。訓練用のISから防衛戦闘用のISまで数十機が一列に並び搭乗者を待ちわびていた。
この先永遠に搭乗する事はないだろうが、本来のあり方から鑑賞品に堕っしたモノほど美しく哀れなものはないだろう。
「あ、きたね景明くん。皆さんはもう揃ってる」
会議室の扉の前で轡木さんは待っていた。
「過分な遅刻、誠に申し訳ございません」
「いや、いいだ。実際早すぎるくらいだ」
いつもは大らかな轡木の雰囲気が僅かながらピリついている。
いかにこの会議室で今から行われる話が有事であるかを物語っていた。
扉が静かに開かれ入室。
巨大な楕円のテーブルを囲む国籍バラバラの首脳陣がプロジェクターを望んでいた。
そこに映し出されていたのは、装甲した俺の姿。
いや実際に注意を向けて見ているのは装甲された
飛行している姿、そして刀を奮い楯無と仕合う姿。
その姿に時折、息を呑む音や、嘲笑、厭きれた声が聞える。
「これが我々IS学園の得た着装兵器《
静かでハスキーな声が聞える。
椅子の背もたれで姿は見えなかったが恐らく学園長。轡木夫人だ。
テーブルの左、中央辺りより声が上がった。
後ろに二人の女性護衛を従えた者、情報誌で見たことがある。ウクライナの少将だ。
「製作者、製作法、存在台数、それらすべてが不明? 馬鹿にしているのか?」
「残念ながらそれらの情報しかつかめておりません」
「ならばせめて搭乗者を同席させるべきだろう?」
別の席より声が。
アメリカの国防省の人間だった。
「皆様がそれを望まれると思い検討はしましたが、今後の情勢を考え控えさしてもらいます」
「なぜ、国益の為には公開すべきだろう」
「公開したとしても
「我々を敵に回す気か?」
「私たち学園側は常に中立です。どちらにも傾かない天秤です」
「食えぬなあ。――ならば詳細な
左の頬を僅かに引きつらせたアメリカの代表が時を抑えた声で言う。
「もちろん。そのためにここへ皆様にお集まり戴いたのです」
テーブルの上をタップしデータを各員の手元に一斉に表示した。
「平常の時速は亜音速、最大速度は超音速――」
「
「シールドバリアーの相殺能力! 磁気制御による機動及び攻撃能力の向上!」
口々に上がる驚嘆と常識の崩壊する声たち。
今までこの世界にISと対等もしくは凌駕する兵器が現れなかったためだろう。
俺たちの世界でも
そう言わしめるほどの力を証明してきていたのだろう。
だが、俺と村正の存在がその根幹を大きく揺さぶったのだ。
「この
困惑の渦から青年の声が届いた。
小麦色の肌、東南アジアの顔立ちの若い青年だった。
「《
「その口ぶりからすると劔冑は複数体存在していると?」
「していたと言っていたほうが正しいかと」
「存在しないと?」
「現状は村正の一領のみとなります。搭乗者曰く今後も増える事はない可能性が高いと」
「
「不確実な情報を今ここに開示するのは避けるべきと判断いたします」
「…………まあ、いいだろう。確かにその通りだしね」
青年は笑った。
後ろ脇に立つ女性は物凄い目で青年を睨みつけていたが意に反していない。
タイ王国のトップだろう。顔は知らないが、後ろの女性の顔を見れば判別はつく。
『王の御剣』シンチャイ・プラモートだ。
織斑千冬と遜色のない威圧感、それ以上の圧迫感。現役を退いたものと現役の差なのだろう。
「ところでと言っては何だが」
ロシアの代表が矢庭に口を開いた。
その目は非常に懐疑的な色を佩びており学園長に注がれていた。
その
「
「詳細な書類は事前に提出済みのはず、何でしたら今からでも」
「所詮は文面だろう。その
「衛星での映像はどの国も確認しているものだと思いましたが」
「この世にはねえ。各国の軍事システムを同時ハッキングして痕跡すら残さない天才が存在しているのだよ? それが動いたとも考えられないのかね」
「
「ああ。そうでないことを祈りたいがね」
「何の利益があって?」
「ISとて磐石ではない、と言うパフォーマンスがしたい。この騒動の波紋自体が君たちの狙いでは?」
ロシアの言う事も分からんでもないだろう。
学園はISの幅広い普及を掲げているが同時に、世界の中立者として存在している。
故にアメリカやロシア、EU圏の強国などの多数ISを保有している強者たちに争わせない為に『仮想の強者』を作り、尚且つそれを存在しているように振舞えばISとて磐石ではないと認知するようになる。
そうなればISの更なる強化や、他の兵器開発に傾くだろう。
ISの覇権が女性中心社会を作り上げている現実。
学園側は
ロシアの懸念も最もだ。
だが――
「お見せしたほうが早そうですね」
「確かにあるのかい?」
「待機状態でよろしいのならば直ちに」
「構わない」
学園長の目配せが用務員二人に飛んでくる。
轡木も俺も、充分に理解している。
(村正、どこにいる)
《隣の整備室、天井の上よ》
(そうか。要人を連れて行く、粗相はするなよ)
《しないわよ。そんなこと》
誰にも聞えない
――隣の整備室、既に待機中。と。
小さく頷いた学園長は席を立つ。
「皆さん。隣の整備室に移動を願います。そちらに『村正』のほうが待機していますので」
整備室に移動する要人たち。
ISの整備する部屋にただ一角、異様な光景が目に入った。
あちこちに張り巡らされた糸。白くそして金属的光沢をもった糸があちこちに撒かれている。
それらが幾重にも編まれ作り出された網の幾何学模様。
その中心に鎮座する赤い真紅の大蜘蛛が一匹。
誰もが唖然とした。
「こちらが、
足がカタカタと規則的に動き綱の上を縦横無尽に歩き回っていた。
(村正、いつの間にこんな巣を作った)
《またされる身にもなってよ。待ち草臥れよ》
確かにこの整備室は半分廃棄されたようなものだが、半分だ。
使うときは使う。荒らして言い訳でない。
鼻を鳴らして笑うものが居た。
「これが
「ISの待機状態のようなものです。
「その結果が蜘蛛か? たいそう不快感を煽る――」
村正の口より小さく纏められた糸が噴出し、嘲笑うその者の足許を撃ち貫いた。
自尊心の高い
何せ魂の宿る鎧なのだから。
「口には多少気を使ったほうがよろしいかと。
「ISのコアユニットのようなものかい?」
タイの青年が口を開いた。
「ええ、それに近しいものと。搭乗者曰く、製作者の魂といっておりましたが」
「いい例えだ。作り手の魂は作品に宿るものだからね」
青年は村正に歩み寄りその赤い
割れ物を扱うような慎重な手付きで扱う。
「これのエネルギー源はなんのだい? 電気ってことはないだろう?」
「我々のほうでも調査はしましたが。確実な答えには至っておりません」
「何のエネルギーの供給無しに自立稼動を続けるのはどんなものにもありえないだろう。草木でも空気や地の栄養を必要としているのだよ」
「…………」
「搭乗者の証言ではなんていっていたんだい?」
「科学的根拠にかけるといったほうがこの場合いいのでしょうが、彼曰く『使用者の
みなが息を呑んだ。
「使用者自身が……エネルギー……源」
「余りにも非人道的過ぎる!」
「即刻
口々に言われる罵詈雑言にも似た言葉たち。
青年が一掃する。
「静まりたまえよ。根拠に欠けると夫人も言っていただろう」
「しかしだね、ラーマ11世。この兵器は人間を電池代わりにしているんだよ?」
「電池といっても、稼動に必要な僅かな
青年の言葉は続いた。
「仮に瀕死の
半笑い気味で青年はいう。
その通りだ。
日々のカロリー補給は大切だが、日常の食事のみで充分すぎるほど騎航は可能なのだ。
この青年はよい観察眼を持っている。
僅かに目にした情報で限りなく近い答えにまで辿り着いている。
しかし惜しい。
彼は
それに陰義によって消費は嵩張り、最後には
学園側にもこのことは打ち明けていない。
何せこちらの世界の情勢を僅かただが俺も触れてみてきた。
インターネットという便利なツールのおかげで世界各国のあらゆる情勢、あらゆる技術の情報を得られた。
そして分かった事が、こちらは『人道』に大して非常に過敏であると。
与えすぎるのも返って毒なりかねない。景明はそう判断したのだ。
みなが口々に意見を言い合っている最中、警報機が異様な音を発した。
教員マニュアルにあった。
これは――
「強襲――」
まるで見計らったかのようなざわめき。
要人たちは落ち着いてはいるが、やはり身の危険を察したのか筋肉が硬直していた。
「皆様、シェルターのほうへ」
学園長が先導しみなを連れて行こうとした。
その瞬間声が上がった。
「ちょっと待ってくれたまえ」
「何でしょうか?」
アメリカの次官が鋭い目で学園長に提案した。
「やはり私も
学園長の目は細まり、まるで軽蔑しているようにも見えた。
次官は言う。
「強襲者に
投稿がくそ遅れてしまいましてすいません。
リアルがくそ忙しく、くそみたいな生活が続いてしました。
あ、俺くそってすごく言ってる。マジくそ野郎。
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