「自分が担任ですか?」
「ああ、新しいクラスの併設が決定したが、教員が不足していてな」
教員棟で雑務の最中、景明は少々混乱した。
学園祭以降、所属不明のISの領空侵犯によりIS学園の安全性と警備体制の見直しが図られ、教職員の業務内容の大幅な見直しが行われ誰も彼もが忙しくしていた。
「織斑教員。新しいクラスというのは予てより
「いいや、大規模な転校転入だ。各国の専用機持ちが挙って申請を送ってきている」
千冬は苛立たしげに頭を掻き、ため息を吐いていた。
景明が原因であることは重々承知していた。学園祭の不明機撃退の報を受けた各国が焦って斥候を送ったのだろう。
IS学園は学び舎であると同時に、ISの『世界最強の兵器の使い手』の育成機関なのだ。
将来的に敵国の尖兵になる者たちの動向もしれ、そしてそれが専用機持ちであるなら兵装さえも割れる。
戦略的にも重要な拠点だ。
そこにISを打倒しえる兵器が在るとなれば、是が非でも情報が必要となってくるのだろう。
無論、強力な武装『
「自分では少々役者不足でありませんか」
「私の顔に泥を塗ってくれるなよ。お前を推薦したのはこの私だ」
「はい?」
「生徒たちに自身の素性がばれないか悩んでいるのだろ。違うか」
「確かにそのとおりです。自分の素性を複数人に隠し通すのは無理があるかと」
「心配のしすぎだ、貴様はあの
確かにその通りだ。しかしよりにもよって
「教員免許のほうは如何しましょう」
「一から採ることはお前は無理だからな。こちらで特例特別免許状の手配をしよう。幸いお前はIS実習とこちらの歴史以外は普通以上あるようだからな。数国英生科、そのほか科目をすべて担当してもらう」
「…………」
無茶である。
喉元まで出かけた言葉を堪えた。
千冬は関連書籍及び資料をデスクの上に置いた。
ここまで山のような紙媒体を見るのは生まれて初めてだった。
「この忙しい時期にすまないとは思っているが、ここの職に就いたのなら諦めることだ」
景明は名簿を手に取り目を通す。
台湾、タイ、オランダ、カナダ、ブラジル、ギリシャ、ロシア。
有数のIS保有国出身者が名を連ねていた。そしてもう一人専用機を剥奪された者の名前も。
「彼女もこのクラスに?」
「委員会に引き渡してもよかったのだがな。いつまで拘束が続くかも知れんからな、いっそ学園でとどめておくという方針になった」
「そのための自分ですか」
「ああ、いざとなれば実力行使も構わない」
名簿の中に入るその名前に違和感を覚えながら景明はその名前を見た。
織斑マドカ、
「皆さんおはようございます。そして転入入学のほど誠におめでとうございます」
立ちなれない教壇の上に立っていた景明はクラスを見渡した。
全員が女性。分かっていたことだが教鞭をとる側としてはまったく持ってやりにくい。
せいと一人一人を見るまでもなく、大半がその目つき尋常ならざる色を帯びており学生と呼べる適正年齢を過ぎている者もいれば、それに達していないものもいた。
「この度、このような大規模編入は学園側も想定していなかったため、皆さんの教室もこのようなプレハブとなったしだい。誠に陳謝いたします」
出会い頭に謝罪する担任など如何なものかと景明も思うが、本当に今自身が口にした通り、教室があまりにもひどいためである。
プレハブ。よく言えば機能的かつ無駄のない姿、悪く言えば工事現場の掘っ立て小屋。
学園の通常の教室であれば画像投影機による教材掲示や冷暖房が適切に効いた部屋での最適な学習環境であるのだが、こちらは古きよき黒板、型落ちのクーラーでたびたびかび臭い異臭を放つ。
それもその筈でここは本来用務員の物置を急遽改装してあるからだ。
「このクラスは他のクラスの人間よりISを触れている時間が非常に多い人たちが多いこともあり、IS実習が非常に少なくなっております」
クラスはひたすらに静かで、ざわめきの一つも起こらない。
織斑先生の一クラスの喧騒があれほどまでにまとめ易いとはある意味ではうらやましくあった。
「湊斗先生、代わりましょうか……?」
「申し訳ございません。お願いします」
副担任に据えられていた榊原菜月に主導権を預け教壇を降りた。
「で、では。新しいクラスということもあるので自己紹介から」
榊原先生は生徒たちに自己紹介を勧めた。
左最前列より生徒たちは名を並べているが、ほとんど偽名。
身元もわからないものも何人か混じっている。しかしその中にも本名の者たちもいた。
「
手短に自己紹介をした少女。その見た目は一年二クラスの生徒を思い出させた。
それもその筈でその生徒と血縁者、親類であり従妹だという。
日本の高校一年生には一年ほど年齢は足りてはいないが、台湾の飛び級制度を使い代表候補生、そして専用機を持ち今があるそうであった。
「タイの代表候補生です。ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、よろしくお願いします」
入学試験時の筆記のトップをたたき出している。
母親はムエタイの世界では『
経歴を見る限り間違いなく軍属、尉官以上の地位を持っていることは間違いはない。
「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。やはりここは楽園だ、みんなよろしく頼むよ」
オランダ代表候補生。非常にメディア露出が多い候補生であることを認識している。
メディアに取り上げられる話題は基本的にスキャンダル、同性愛とそれにまつわる不倫が非常に多い。
数多の不倫の話題は数え切れず、一部界隈では次にその話題が起きれば百人に達するという。
「今度は私たちねッ!。オニール」
「ええッ! ファニール」
『私たちはカナダ代表候補生! コメット姉妹、よろしくお願いします!』
元気がいいのは非常によろしい。
カナダ代表候補生のファニール・コメットとオニール・コメット。
二人の容姿は瓜二つであり、頭髪の色、左右対称の髪型でなければ区別するのは難しい。
左に髪を纏めているのがオニール、右がファニール。忘れないようにしよう。
「ベルベット・ヘル」
名前だけ述べた少女。
少女というがもう少しで美女の域に達するだろう。年齢もこのクラスの中では年長の部類だ。
ギリシャ代表候補生。すでに学園には二年にフォルテ・サファイアというギリシャ代表候補生が在籍している。普通は代表候補生が複数人立てられる事はないのだが、恐らくフォルテ・サファイアが織斑一夏、彼女が
他人を寄せ付けない、というより係わり合いになる気がないのだろう。
孤立した雰囲気をかもし出していた。
「く、クーリェ・ルククシェフカ……。よ、よろしく、ね」
年少も年少。このクラス最年少。
ロシア代表候補生。施設の出身で身寄りがないと身辺書類には書かれていた。
だがそれ以上に目を疑ったのは彼女が専用機持ちであり、更識楯無曰く『私に取って代わるロシアの次期主力戦力』と目されているからだ。
更識楯無も迂闊に接触をするべきではないと念を押してくるあたり、余程のことなのだろう。
「グリフィン・レッドラム。ブラジルの代表候補生だよ、よろしくねっ」
ベルベット・ヘルと同じくクラスの年長者。
ブラジルの代表候補生であり、過去に一度サッカーの女子代表としてメディアのフラッシュを浴びたことがあるそうだ。身寄りもなく孤児院出身でサッカー代表を断り、ISの代表候補生としての道を選んだようだ。
そして最後に。
「織斑マドカだ」
十人十色。さまざまな経歴を持ちさまざまなスキルを要しているのだろう。
ただ全員にいえたことは、
《人気者ね、御堂》
(云うな。それに人気というならばお前だ)
《そう? それは嬉しいことね》
学園の森に身を潜めている村正は
この学園の一年生の教育課程を行えば年長組みには再度同じものを学ばせ、年少組は理解不能だろう。
年少にあわせるわけにも行かず、年長組にあわせるのは論外だろう。
景明が方針を熟考している最中に榊原教諭は更に胃を痛めそうなことを口走る。
「一ヵ月後にはキャノンボール・ファストが学園で開催されます。皆さん勉学もISも共に頑張りましょう」
「…………」
影明は考えを放棄しそうになった。
一夏 ■■
箒 ■
セシリア ■
鈴音
シャルロット
ラウラ
刀奈 ■
簪
本音
乱音
ヴィシュヌ
ロランツィーネ
ファニール
オニール
ベルベット
クーリェ
麻耶
他 ■■