たったひとつのSunshine Story   作:Kohya S.

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11. 可能性、感じたんだけど

 高海さんは、あわてたように下を向いた。なにか言わなくてはと思う。

 

「えーっと、今日は本当にありがとう」

 

 びくっと高海さんは顔を上げた。

 

「い、いえ、どういたしまして」

 

 すこし早口で言う。

 彼女は一呼吸おいてから続けた。

 

「私のほうこそ、生演奏で歌うのって初めてだから、楽しかった」

「それならよかったけど」

「西村くんが言っていたこと、わかったんだ」

 

 なんだろう。俺の疑問に気づいたのか彼女は微笑んだ。

 

「打ち込みとは違うって話。たしかに違うね」

「あっ……」覚えていてくれたんだ。「演奏、あまり上手くなくてごめん」

「あはは……。でも、最初だから仕方ないよね」

「そう言ってくれるとありがたいけど。歌いにくかったんじゃない?」

「うーん、最初はそうかな。やっぱり感じが違うから。でも……二回目に歌ったときには、ちょっと楽しかったかも」

 

 その言葉は部員たちがほめられているようで嬉しかった。

 

「次までにはもうすこし練習しておくから」

「期待してます!」

 

 彼女はにこっと笑った。

 

 このままのレベルでは高海さんに申し訳ない。それに、できることは演奏のレベルを上げることだけではない気がした。きっと俺にもなにかできることがあるはずだ。

 

「逆に高海さんはすごいよね。部員たち、高海さんの歌に驚いてたよ」

「えっ、そうかな。そんなことないと思うけど」

 

 高海さんは照れたように目をそらした。そんな彼女に俺はどうしても言いたくなる。

 

「俺も、あらためてすごいと思った。……っていうか、感動したよ」

「えっ。……あ、ありがとう」

 

 高海さんは俺のほうを向いてそう言ってくれた。街灯の灯りでは暗くてよくわからないけれど、彼女の頬が赤くなっているのは気のせいだろうか。

 

 バス停について列の最後尾に並ぶ。

 俺は時刻表を確認に行った。

 

「あと五分くらいみたいです」

「ありがとう。すぐだね」

 

 列に戻ると高海さんは両手をこすりあわせて、さすがにちょっと寒そうにしていた。吐く息が白い。

 手を握って温めてあげたかった。

 

 高海さんは渡辺さんを気にしているのか、いま来た道を振り返った。

 

 彼女の横顔に、俺と高海さんとの関係ってなんなんだろう、と思う。

 いまは、友人、っていう表現しかできないだろう。高校が違うのに友人になれただけでもありがたい。まさに役得だった。

 

 でも――もっと彼女と親しくなりたい。

 

 彼女は俺のことをどう思っているのだろうか。それを確かめて、先に進むには、デートにでも誘えればいいのかもしれない。

 

 俺は今日の彼女を思い出した。まるで高校生とは思えない歌声と振る舞い。凛としたという形容がふさわしいだろうか。

 

 今の俺には――とてもそんな勇気は出なかった。

 

 ただ、このとき、俺は彼女のことを忘れていたんだ。もうひとつの彼女のことを。

 

 俺の視線に気づいたのか彼女はこちらを向いた。問いかけるようにわずかに首をかしげて、微笑む。

 俺の胸はぎゅっと締め付けられた。

 

「……渡辺さん、間に合うかな」

 

 俺はなんとかそう言った。

 

「うん、曜ちゃん、そのへんはしっかりしてるから。……あ、来たみたい」

 

 高海さんは手を振った。俺にも渡辺さんが走ってくるのが見えた。

 

「間にあったみたいだね。はい、これ」

「うわー、ありがとう!」

 

 渡辺さんは高海さんにペットボトルのお茶を渡した。

 

「はい、西村君も」

「ありがとう」

 

 思わず受け取ってしまったが、本当なら俺のほうが用意するべきだった。さっきの高海さんのようすを思い出して反省する。

 ただ、俺の見間違いでなければ、ボトルを手渡すとき、渡辺さんは俺にウインクしてくれた。

 

 渡辺さんはペットボトルを両手でつかんでいる高海さんの手を、さらに外側から両手で握る。

 

「わーっ、千歌ちゃん、手、冷たいね」

「手袋、持ってくればよかったよ」

 

 渡辺さんの自然な行動がとてもうらやましかった。

 

        ・

 

 音楽室に戻ると奈良橋が一人残っていた。

 

「すまん、待たせたか」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 電気を消し、鍵を掛けてから職員室まで一緒に行く。俺は気になって途中で聞いた。

 

「……どう思った、高海さんの歌?」

「そうですね。思っていたよりもずっと素晴らしいです」

 

 奈良橋は素直にそう答えた。

 

「部員たちも驚いてたみたいだし。みんな、やる気になってるよな」

「ありがたいことですね」

 

 奈良橋は唇をゆるめた。狙い通りということだろうか。

 

「演奏のほう、どう思う? ああ、俺じゃなくて、部としてだけど」

「うまくいくかってことですか」

「うん。今日の二回目、ちょっと可能性、感じたんだけど」

「そうですね、私もそう思いました」

 

 奈良橋がそう思っているのなら、もうひとつの可能性もあるだろう。

 

「ひとつ提案なんだけど、編曲、もうすこし難しくしていいかな」

 

 奈良橋は面白そうに眉を上げた。俺は続ける。

 

「いまのままだと、どうがんばっても高海さんのおまけにしかならない。もうすこしこう、せめて……高海さんと一緒に、いい曲にできればって思うんだ」

「……西村君がそんなことを言うなんて、意外ですね」

 

 どう思われていたんだ、俺は。いや、奈良橋の言う通りかもしれない。

 

「で、どうかな」

「悪くないと思いますよ」

 

 奈良橋はうなずいた。俺は懸念も伝えておく。

 

「ただ、ひとつ不安があって。ただでさえ苦労してるのに部員がなんていうかな」

「きっと……大丈夫でしょう。鉄は熱いうちに打て、といいますから」

「そうか。部員への話、頼んでいいかな」

「わかりました」

 

 奈良橋はにこりと微笑んだ。

 

        ・

 

 翌日、この日も部活の出席率は100%近かった。始まる前に全員でミーティングをする。

 

「昨日はお疲れさまでした。どうでしたか、高海さんと一緒にやってみて」

 

 奈良橋はざっくばらんに聞いた。

 

「スクールアイドルってすげえな、正直びっくりした」と一人が答えた。

「ほら、俺の言った通りだろ」これは前からAqoursを知っていた部員らしい。

「ふたりとも可愛いしな」これには全員がうなずいた。

「観客、増えるんじゃないでしょうか」と一年生の一人。

 

「なかなか盛り上がってるようでなによりです」

 

 奈良橋はにこりと笑った。

 

「しかし、ひるがえって我々の演奏はどうでしょうか?」

 

「あー、そうだな……」

「まああんなもんかと」

「二回目、悪くなかったんじゃね」

 

 若干テンションを落としながらも部員たちは口々に答えた。新年に入ってからそれなりに練習してきて、手応えは感じているらしい。

 

「私も可能性を感じました」奈良橋はうなずいた。「そこで……」

 

 今度は奈良橋は、にやりという感じで笑う。

 

「勝手ながら西村君に編曲をお願いしました。……ぐっと難しくしてもらいます」

 

 部員たちの視線が集まって、俺はぴくりと反応する。そう来たか。奈良橋らしい。

 彼に感謝しながら、発言を期待されているようなので、俺は立ち上がってみんなを見渡した。

 

「いまのままだと俺たちはあくまで単なる伴奏だ。だから高海さんに負けないように……いや、高海さんの歌の魅力を引き出せるように、もうすこしこだわりたい」

 

 いま気づいたけれど、それだけじゃなくて、俺も全力を出してみたいんだ。

 奈良橋が続けた。

 

「そういうことです。いかがでしょうか、みなさん」

 

 部員たちは互いに顔を見あわせる。

 奈良橋と俺の意識が多少とも影響したのだろうか。

 

「まあそりゃ、多少はいいとこ見せたいよな」

「難しいくらいのほうがいいぜ、俺は」

「高海さんと渡辺さんのためなら」

 

 奈良橋は俺のほうをちらっと見て、わずかにうなずいた。

 

「それでは進めましょう。西村君、早めによろしく」

「ああ」と俺は答える。

 

 奈良橋が続けて、彼女たちが今回のために新しくステージ衣装を用意する、と話すと部員たちはふたたび盛り上がった。

 

「ですから私たちもそれに(こた)えるため、小物を用意したいと思います。具体的には、全員でシルクハットをかぶりましょう。いかがでしょうか?」

 

 いままでの部員たちなら、きっと見世物のようだと嫌がっていただろう。しかし今回は異論は出なかった。

 

「それでは編曲ができるまで練習はいままで通り。次の合同練習は二週間後です。それまでがんばりましょう」

「おう」

 

 大きな声を出す部員こそいなかったが、いつになく部活の雰囲気は明るかった。

 

        ・

 

 俺はその日の夜から編曲に取りかかった。高海さんの歌を聞いたあとだからだろう、すぐにイメージがわいてきた。

 次の週末には、曲はある程度までできあがった。

 

 PCから再生される曲に、俺は頭のなかで高海さんの歌声を重ねてみる。

 

 もう一押し、なにか欲しい気がした。

 

 次の月曜日の昼休み。昼飯を食べ終えた俺は奈良橋に話しかける。

 

「なあ、奈良橋。バイオリンやってるって言ってたっけ」

 

 ずいぶん前、入学直後くらいに聞いた覚えがあるし、たしか浦の星でもそんなことを言っていた。

 

「はい、よく覚えてましたね」

「いまもやってるのか?」

「いえ、中学までですね」

「ぶっちゃけ、どのくらいの腕前なんだ?」

 

 それによっては絵に描いた餅だ。

 奈良橋とは高校に入ってから知りあったので、中学以前のことは知らなかった。

 

「大したことはないですよ。県の学生音コンの予選突破、くらいですね」

「それって結構すごいんじゃないか?」

「さあ、どうでしょう」

 

 正直よくわからないが、この感じだと期待できそうな気がした。

 

「今度の曲、間奏にバイオリンソロ、入れたいんだけど」

「ほう」

 

 面白そうな顔をする奈良橋。

 

「……トランペットとかも考えたんだけど、やっぱり曲の雰囲気を考えるとさ。引き受けてくれるか?」

「ひとつ、条件があります」

 

 奈良橋はメガネをくいっと上げた。いやな予感がする。桜内さんを紹介しろ、とか言われても困るぞ。

 

「というか、必然ですけど。指揮は西村君にお願いすることになりますね」

 

 俺は黙り込む。

 そうか、考えていなかった。

 

「ソロだけ演奏するなら奈良橋が指揮でもいいんじゃないか」

「そんな嫌味っぽい真似は、あまりしたくないですね」

 

 だめか。しかし、俺が指揮をして部員たちがついてきてくれるだろうか。

 

「部員のことなら、サポートはしますから大丈夫ですよ」

 

 はあ、と俺はため息をついた。指揮は率直に言って、荷が重い。しかしそれしか方法がないなら――。

 

「わかった、やるよ」

「そう言ってくれると思いました」にこっと笑う奈良橋。「どうします? 通しでバイオリンを入れるんですか? それともソロだけ?」

 

 俺は考えながら話す。

 

「いや、全体だと俺も、編曲するのが難しいと思う。奈良橋にはトランペットを吹いてもらって、ソロだけ持ち替える感じかな」

「私もひさしぶりですから、そのほうがありがたいですね」

「それじゃ明日には楽譜、持ってくるから」

「わかりました。楽しみにしています」

 

 俺は思い出して付け加える。

 

「ああ、ソロのことは、俺が言い出したって話していいよ」

 

 奈良橋は意外そうな顔をしたが、うなずく。

 

「それでは事実を伝えますか」

「うん、それがいいと思う」

 

 俺が会話を打ち切ろうとすると奈良橋が呼び止めた。

 

「西村君」

「なんだ?」

「曲を一番よく知っているのは西村君です。ですからソロにかかわらず、指揮は西村君が向いていたと思いますよ」

 

 そうなのだろうか。俺は首を振って奈良橋から離れた。

 

        ・

 

 その日のうちに俺はバイオリンソロを入れて、翌日の部活に楽譜を印刷して持って行った。

 

 楽譜を見た部員たちの顔が曇るのがわかった。ぶつぶつと文句を言う部員もいる。

 無理もない。なにしろいきなりピッコロのグリッサンド、それから二小節ごとに転調だ。

 

「はい、みなさん静粛に。たしかに難しいとは思いますが、いまのみなさんなら必ずものになる、と私は信じています」

 

 奈良橋は真剣な口調で言った。にやっと笑うと一転して、おどけるように話す。

 

「高海さんや浦の星の女の子に、いいところ見せたくありませんか?」

 

 部員たちの雰囲気が明るくなり、奈良橋は続けた。

 

「それと、西村君からの提案でさらに新しい試みを入れることにしました。申し訳ないのですが、私が間奏でソロをやらせてもらいます」

 

 ざわっと部員たちが騒ぐ。しかし奈良橋の実力はみな知っているので反対意見はなかった。そして、当然の疑問が出る。

 

「それじゃ指揮はどうするんだ?」

 

 トロンボーンのパートリーダーが聞いた。ここまでは予想通りだ。

 

「ですので、指揮は私から西村君にお願いしました」

 

 またもや注目を浴びる俺。なんだろう、企画が始まってからこんなことばかりだ。

 

 奈良橋に押し付けられた、という風を装うこともできるだろう。ただ――高海さんなら、そんなことをするだろうか。

 

 俺は腹をくくって立ち上がる。

 

「勝手なことをしてすまないと思ってる。ただ、どうしても奈良橋のソロが欲しかった」

 

 いったん言葉を切って部員たちを見渡した。表情からはなにを考えているのか読み取れなかった。

 

「正直、俺には指揮なんか向いてないと思う。カチンとくることもあるかもしれない。でも、いい演奏にしたいと思ってる。だから……よかったら俺にやらせてほしい」

 

 俺はごくりと唾をのんだ。

 部室は突然、静かになり、遠くの運動部の掛け声がいやに大きく聞こえた。

 

「まあ、そういうことならいいんじゃないか」

 

 先ほど発言した部員が言った。同意するようなつぶやきが広がる。俺は心のなかで安堵した。

 

「そのほうがうちのパートとしてはありがたいぜ」

 

 サックスのパートリーダーが言って、笑いが広がった。今日ばかりは、俺はぜんぜん気にならなかった。

 

 

 

        §

 

 

 

 お正月、冬休みは――そう、本当にいろいろなことがあった。みんなでこれからのことを話して、一緒にいられるあと三か月のあいだ、Aqoursは精一杯がんばろうって決めた。

 

 鞠莉ちゃんたち三年生がいなくなることが急に現実的になって、私はやっぱり考えてしまう。私が一人になったらって。

 もちろん、みんなとは離れていたって繋がっているし、本当に一人になることなんてない。今回だってたまたまステージに立つのが私ひとり、っていうだけ。

 だからこそ、今度のライブ、みんなにどんな恩返しができるのか、それが問われるような気がした。

 

 冬休みには自分の曲の練習に、ひさしぶりに沼津のカラオケ店に行った。なぜかみんなと一緒で、練習ではなくて普通のカラオケ大会になってしまったけれど。

 善子ちゃんは「異世界ロマンティーク」のオープニングが一押(いちお)しで、私も何度も一緒に歌わされてしまった。善子ちゃんは「この切ない感じがいいのよ」って力説していた。

 

 カラオケで隣になった花丸ちゃんに「恋になりたいAQUARIUM」の作詞はどうだったって聞いたら、「新しい視点から誰かにアドバイスしてもらうのは、すごくいいことだと思うずら」って、彼女は話した。

 だから私が西村くんに相談したのは、正しかったみたいだ。

 あ、なぜか花丸ちゃんはこのとき、真っ赤になっていたっけ。

 

 そして冬休みが終わり、沼津南高校にはじめて練習に行ったとき。

 私はとてもドキドキしてしまった。曜ちゃんが一緒に行ってくれて本当に良かったと思う。

 それに、西村くん。ずっと私を気にしてくれたみたい。彼のおかげで落ち着いて歌うことができた。

 

 実際に目にすると男の子ばかり20人っていうのは壮観だった。でも想像していたよりは、みんなおとなしかった気がする。

 

 生演奏で歌うのはとても新鮮な体験で、私はわくわくしっぱなしだった。

 

 いつもは伴奏にあわせるのを、伴奏のほうがあわせてくれる。わかってはいたのに不思議な感覚だった。たしかに西村くんと奈良橋くんの言っていた通り、演奏はいまひとつかもしれないけれど。

 きっと次回以降は、もっと楽しく歌えるんじゃないかな。

 

 帰り道、曜ちゃんが急にいなくなって――西村くんと二人きりになって、私は別の意味でドキドキする。

 私が生演奏の話をしたら、西村くんは嬉しそうだった。

 

 私がその日、いちばん嬉しかったのは、西村くんにすごいって言われたこと。もっときちんとお礼を言えればよかったのだけれど、私は頭がぼうっとしてしまい、ありがとう、と言うのがやっとだった。

 

 いままでこういう経験はなかったので、私はどういうふうにふるまえばいいのか、ぜんぜんわからなかった。

 

 バス停について待っているときに、私は彼の視線を感じる。視線をあわせると、彼はなにか言いたそうにしていた。

 結局彼は、曜ちゃんを心配していただけみたいだった。

 

 でも、私の間違いでなければ、西村くんが言いたいことはほかにあるんじゃないか、という気がした。

 私のなにかが彼を躊躇(ちゅうちょ)させてしまったのかも――もしそうだったら、と私は今でも不安だ。

 

 曜ちゃんが合流してくれたときには、ほっとしたのは否めなかった。

 

        ・

 

 あれから数日たって、私は梨子ちゃんと一緒に部室で待機していた。

 

「おまたせー!」

 

 曜ちゃんがあらわれた。紙製の手提げ袋を持っている。

 

「とうとうできたのね」と梨子ちゃん。

「いやー、千歌ちゃんに着てもらえるかと思うと、制作も、はかどりました!」

 

 曜ちゃんはそう言いながら、袋から中身を取り出して机に置いた。

 

 白い生地と黒いリボンの服。隣にある小さな袋はコサージュだろう。

 

「うわっ、嬉しい! 曜ちゃん、ありがとう!」

「お礼は着てみてからだよ。細かいところ調整したいから、さっそく着替えて!」

「うん!」

 

 私は部室の更衣スペースに入った。

 全員で着替えるときには部室のカーテンを閉めるけれど、ひとりのときにそこまでしなくてもいいように、部室の隅にキャビネとカーテンで仕切ったちいさなスペースを作ってあった。全身が映るくらいの鏡も用意してある。

 

 私は衣装を広げてみる。いつものように丁寧な作りだった。

 

 私だけの衣装。

 

 もちろんいつものステージ衣装だって自分専用なのだけれど、今回は特別だ。

 

「ありがとう、曜ちゃん」

 

 私はもう一度、ささやいてから制服を脱いだ。

 

 衣装のサイズは、ほぼ直しがいらないくらいだった。鏡に映してみる。

 

 オードリー・ヘプバーンにはまったくかなわないとはいえ、それでも結構、可愛い女の子がいる。そう思ってしまった。

 梨子ちゃんみたいに、すらっとはしていないのに、曜ちゃんのデザインはうまくそれをカバーしてくれていた。

 

 白のドレスに黒のリボン。モノトーンは私の明るい髪の色にはあわないかも、と思っていたのは杞憂(きゆう)だったらしい。コサージュのせいかきれいにまとまっていた。

 

 くるっと回ってみる。考えていたよりもちょっとスカート丈は短めだったけれど、本当に素敵だった。

 

 西村くんなら、どう思うかな?

 

 なぜか私は、そう思ってしまった。

 そして、そう思った自分に気づいたとき――胸がきゅっと、しめつけられた。一緒に自分の顔が赤くなるのがわかる。

 どうしてだろう。

 

「千歌ちゃん、サイズはどう?」

 

 曜ちゃんの声がして、私はあわてて呼吸を整えた。

 

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