たったひとつのSunshine Story   作:Kohya S.

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14. 梨子ちゃんはすごく可愛い

 次の練習の日。私は初めて、ひとりで沼津南高校へ行った。

 

 曜ちゃんは白い傘を用意してくれた。市販の傘をそれっぽく改造した手作りだって言っていたけれど、本当に曜ちゃんは器用だと思う。

 

 吹奏楽部のみんなは前回よりもさらにうまくなっていた。

 次の練習、それに本番が楽しみだった。

 

 練習の帰り、西村くんはペットボトルを渡してくれた。

 

 練習は楽しくて、西村くんも優しくて、ちょっと浮かれてたんだと思う。

 向こうから高校生らしいカップルが歩いてきて、私たちとすれ違った。

 

 私はなんの意識もしないで、つい、聞いてしまう。

 

「西村くんは、彼女とかいるの?」

 

 彼の答えは私にとってすごく嬉しいものだった。

 さらに「高海さんは、どうなの」って聞かれたときには、ドキドキしてなかなか返事ができなかった。

 そして私の返事は――西村くんも喜んでたみたいだった。

 

 でも、私は、無責任だったのかもしれない。

 

 西村くんは突然、私に聞いた。梨子ちゃんの連絡先を知りたいって。

 

 きっと彼の言う通り、作曲について聞きたいだけなんだと思う。

 

 でも、そうじゃなくて、私が「彼女がいるか」なんて聞いたせいで、西村くんが梨子ちゃんのことを思い出したのかもしれなかった。

 

 その場で教えることもできたのに(西村くんなら変なことしないって、私は知っている)、私はつい保留するような感じで、梨子ちゃんに聞いてみるって答えてしまった。

 

 バスに乗るとき、私はなんとか彼に笑顔を見せることができたけれど、心のなかは千々に乱れていた。

 

 交差点で向こうから歩いてきたふたり連れ。意識なんかしてないって思ったけれど、そんなことなんてない。

 

 私はちょっと、いいなって思ってしまった。

 隣にいるのが彼だったらって思ってしまった。

 きっと彼も、そう思ってくれてるんじゃないかなって――。

 

 でも、それは、私の勝手な思い込みだったのかもしれない。

 

        ・

 

 翌日、昼休みに梨子ちゃんに話すことにした。

 

 黙っていることもできたけれど、そんなことをしたらあとでもっと、後悔するに違いなかった。

 

 でも、どうしてこんなに気になるんだろう。

 別に、西村くんとは――ただの友達なのに。

 

 曜ちゃんが購買に買い物に行ったときに、私は梨子ちゃんに話しかけた。

 できれば曜ちゃんには知られたくなかった。

 

「梨子ちゃん、あの、話があるんだけど」

「なあに、千歌ちゃん、あらたまって」

 

 梨子ちゃんは首をかしげる。女の子の私から見ても、梨子ちゃんはすごく可愛い。こんな梨子ちゃんなら、男の子がほうっておかないよね。

 私はそんな思いを振りはらって続ける。

 

「えーと、あのね、西村くんが梨子ちゃんの連絡先を教えてほしい、っていうんだけど」

「えっ、西村君が?」

 

 梨子ちゃんは驚いたように言った。

 

「うん。曲について聞きたい、って」

「なにかしら……。もちろん、教えてくれてかまわないけど」

 

 もちろん、梨子ちゃんならそう言うってわかっていた。

 

「それじゃ……えーと、どうしようかな」

「メールアドレスを教えてくれたら、私からメールを出すわ」

「わかった」

 

 私は梨子ちゃんと西村くん、両方をあて先にしてメールを送信した。本文には「よろしくお願いします」とだけ書いて。

 

 梨子ちゃんの手元のスマートフォンからメール着信音が鳴った。

 

「ありがとう、千歌ちゃん」

 

 私は努力して、笑顔を浮かべてうなずいた。

 

「そういえば千歌ちゃん、昨日、練習だったんでしょ? どんな感じだった?」と梨子ちゃんが聞いた。

「あっ、えーっとね」

 

 私は西村くんのことは考えないようにする。

 

「うん、みんなすごく上手になってたよ」

 

 編曲が変わって、もっといい感じになったということは、曜ちゃんと練習に行った次の日にみんなに話してあった。

 

「そうなんだ。本番、楽しみね」

「もう、楽しみで仕方ないよ。梨子ちゃんの曲に曜ちゃんの衣装だもん。ほんと、申し訳ないよ」

「うふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」

「梨子ちゃんに来てもらえなくて残念だな」

「そうね。でも、もしピアノの発表会が早めに終わったら、なんとか都合をつけて行くわ。同じ沼津市内だし」

「あ、そうなると嬉しいかも」

「私も。それに、きっとみんなも同じこと、考えてると思うわ」

 

 梨子ちゃんは可愛らしく微笑んだ。

 

 

 

        §

 

 

 

 ありがたいことに、高海さんからの連絡は翌日に来た。高海さんに心から感謝する。これで桜内さんのメールアドレスがわかった。

 俺はいったん、その日の夜まで待った。

 

 夜、それほど遅くない時間。俺は桜内さんにメールを出すことにした。

 急に連絡を取って申し訳ないと思っていること、事情があるので電話で話したいことを書く。さらに俺の電話番号と、電話をくれればこちらから掛けなおすとも書いておいた。

 

 メールを送信して、俺は祈るような気持ちで待った。

 もし桜内さんが電話をくれなかったら、俺たちの計画は、俺と高海さんのあいだに傷だけ残して頓挫(とんざ)してしまう。それも、修復しようがないほどの傷だ。

 

 幸い、俺の祈りは通じたらしい。すぐに俺の電話が鳴りだした。画面に表示される見慣れない電話番号。桜内さんだ。

 

「はい、西村です」と俺は電話に出る。

『あの、西村君?』彼女の声。『桜内ですけど』

「ありがとう、桜内さん」

『えっ、なあに、いきなり?』

「あ、俺から掛けなおします」

『西村君?』

 

 桜内さんの声を無視して、俺はいったん電話を切った。すぐに掛けなおす。

 

「電話、すみませんでした」

『わざわざいいのに。でも、急にどうしたんですか? 私への連絡なら部活のメールアドレスがあるじゃないですか』

「それは、ごめんなさい」

『千歌ちゃんのこと、ちゃんと考えてくれないと困ります』

 

 桜内さんの声には俺を責めるような調子と、高海さんへの心配が込められていた。いい友人だな、と俺は思った。

 でもそれは誤解で――それはきっと、これからの俺の話で解けるはずだ。

 

「それも、すみません。どうしても桜内さんだけに話したいことがあったんです」

『私だけに?』

 

 桜内さんの疑問が手に取るようにわかった。俺は続ける。

 

「はい。それで、高海さんには秘密にしてほしいんです」

『それは、約束できません。いったん話を聞かないと』

 

 もちろんそうだろう。それでも話さえ聞いてもらえれば、約束してくれることに確信はあった。

 

「それでかまいません。聞いてもらえますか」

『……はい、聞くだけなら』

 

 彼女は静かな声で答えた。よかった。俺は一呼吸おいて話した。

 

「実は定期演奏会で、追加のプログラムを考えていて……それを高海さんには秘密にしたいんです」

『秘密のプログラム、ですか?』

「はい。あの、Aqoursの曲を一曲、追加で演奏したいなって思っています」

『Aqoursの曲……』

 

 桜内さんは繰り返した。

 

「だから、高海さんの……その、思い入れのある曲を教えてもらえないかなって。それに、楽譜があればコピーしてほしくて」

 

 俺は一気に言った。

 しばらく桜内さんはなにも言わなかった。やがて、くすり、と笑い声が聞こえた。

 

『なんだ、そういうことだったんですね』

「あの、協力してもらえますか」

『……ええ、もちろんです』

「ありがとうございます」

 

 よかった。俺は肩の力を抜いた。想像以上に緊張していたらしい。

 

『秘密にしなくても、十分、喜ぶと思いますけど』

 

 桜内さんは面白そうな声で話す。

 

「でも……」

 

 そう言いかけて考えなおす。だれが言い出したか、なんてことは置いておこう。

 

「高海さんの驚く顔が見たくて」

『うん、それは、わかる気がします』

 

 桜内さんはまた、くすっと笑った。

 

「それで、曲はなにがいいでしょうか。どれもいい曲ばっかりで……」

『嬉しい言葉、ありがとうございます。うーん、そうね……』

 

 桜内さんは悩み始めた。

 

『やっぱり「MIRAI TICKET」かな。でも、最初の曲の「ダイスキだったらダイジョウブ!」かも。この前の予選の「MIRACLE WAVE」も、千歌ちゃん、がんばってたし……』

 

 桜内さんにとっても、決めがたい問題らしかった。

 

『そうね、やっぱり「君のこころは輝いてるかい?」かしら。私たち三人で、ひさしぶりに作った曲だし。結局、廃校は決まっちゃったんだけど……。うん、間違いないと思うわ』

 

 桜内さんは、最後、力強く断言した。

 

「ありがとうございます」

 

 俺はもう一度、お礼を言った。

 

「それで、楽譜ですけど。今度、取りに行っていいですか?」

『いえ、写真を撮ってメールします。きっと、なるべく早いほうがいいでしょ?』

「はい、助かります!」

『わかりました。すぐ送りますね』

 

 桜内さんが笑うのがわかった。彼女は続けた。

 

『あ、今回の件。私、千歌ちゃんには、きちんとフォローしておきますから』

「どうも、すみません」

 

「フォロー」が具体的にはなにを指すのかいまひとつわからなかったが、俺はお礼を言った。

 

『千歌ちゃんのこと、よろしくお願いしますね』

「はい、任せてください」

 

 なにをよろしくお願いされたのかも俺はわからなかったが、高海さんのことならなんでも任せてほしい。そんな気分だった。

 

 俺は彼女におやすみなさいを言って、電話を切った。

 

 楽譜はすぐに届いて、俺はその日から編曲に取りかかった。そのまま今までにないペースで編曲を進め、数日後には部員たちに渡すことができた。

 

 

 

        §

 

 

 

 梨子ちゃんに西村くんの連絡先を伝えた、翌日。ひさしぶりのしっかりした雨になっていた。冬らしい、冷たい雨。

 曜ちゃんは、南岸低気圧のせいだって話していた。「寒気が意外に南下しなかったから、雪じゃなくて雨になったんだね」って。

 

 沼津市街でのAqoursの練習からの帰り、内浦三津(みと)の私たちは同じバス停で降りた。

 ダイヤちゃんとルビィちゃんが、次に花丸ちゃんがさよならを言って別れていき、最後に梨子ちゃんと私が残った。

 住宅街の中の道を、傘を差して二人で歩いていく。

 あたりはすっかり暗くなっていて、傘にあたる雨音が響いた。

 

 一昨日(おととい)、西村くんとあんなことがあって、昨日は梨子ちゃんとその件を話して――私は今日一日(いちにち)、心が落ち着かなかった。

 梨子ちゃんはそんな私を気遣(きづか)ってくれていたみたいだった。

 

 青白い街灯に照らされた梨子ちゃんの横顔。やっぱり私なんかより、と思ってしまって、つい口にする。

 

「ねえ、梨子ちゃん」

「千歌ちゃん」

 

 私の言葉は梨子ちゃんのそれと重なった。ちょうど梨子ちゃんも、私に話したいことがあったようだ。

 

「あ、千歌ちゃん、どうぞ」

 

 梨子ちゃんはそう言ってくれて、たいしたことを話そうとしたわけでもない私は躊躇(ちゅうちょ)する。そんな私をはげますように梨子ちゃんは微笑んだ。背中を押されるように私は話した。

 

「梨子ちゃんは……彼氏とかいるの?」

「えっ!」

 

 梨子ちゃんは立ち止まった。驚いた顔をしている。それは、そうだよね。

 

「もちろんいないわよ」

 

 一瞬のあと、梨子ちゃんは笑いながら答えた。

 もちろんってどういうことだろう。いたっておかしくないのに。

 

「それじゃ、好きな人、とかは?」

「それも、いまはいないわ。あ、恋愛感情ってことだけど」

 

 その言葉に私は安心してもいいのだろう。でも、そんな気にはなれなかった。だって、西村くんにはそんなこと、関係ないかもしれないから。

 

「そういう千歌ちゃんはどうなの。好きな人とか、いる?」

 

 当然の質問が来た。私はそれに驚かなかった。もしかしたら、そう聞かれることを期待していたのかもしれない。

 

「よく、わかんないかな」

 

 私はそう答えた。梨子ちゃんはしばらく黙ってから、にこっと微笑んだ。

 

「千歌ちゃん、正直だね」

 

 それはそうだと思う。だって、本当に、自分のことがわからなかったから。

 

「あまり詳しいことは言えないんだけど……」

 

 そう前置きしてから、梨子ちゃんは続けた。

 

「昨日、西村くんの連絡先、教えてもらったでしょ」

 

 私はドキリとしたけれど、なんとか外見には出さずにすんだと思う。

 

「あれから話をしたの。実は西村くんの話、千歌ちゃんのことだったんだ」

「私のこと?」

「うん。相談したいって」

「どんな相談だったの?」

「それは、秘密」

 

 梨子ちゃんは唇に指をあてた。

 

「でもね、西村くん、千歌ちゃんを……すごく大切に思ってるんだって、気がしたわ」

「私、を……?」

「ええ」

 

 相談の中身は気になって仕方がなかった。でもこれ以上聞いても、梨子ちゃんは答えてくれそうになかった。

 

「だから、安心していいわよ。千歌ちゃん」

「安心、だなんて。私、別に……」

「うふふ、千歌ちゃん、やっぱり正直だね」

 

 梨子ちゃんはそういって微笑み、歩き出した。

 私はすこし遅れてついていく。

 

 梨子ちゃんの話を聞いて――ほっとしたのは事実だった。一昨日からのもやもやが、すっきりとしたのがわかる。

 やっぱり西村くんは、そんなことを考えてたんじゃないって。

 それに、私を大切に思っているという、梨子ちゃんの言葉。

 

 私、素直になっていいのかな。

 

 西村くんと一緒にいたいっていうこの気持ち。これってやっぱり――。でも。

 

 私は梨子ちゃんの隣に行って、話しかける。

 

「ねえ、梨子ちゃん。私、すごく普通じゃない?」

「あら、またその話? たしかに千歌ちゃんは普通よ。だけど、それでもいいんじゃない? 私だって、曜ちゃんだって、みんな普通の女の子だもん」

「うん、それはそう思うんだけど。もし、もしだよ?」

「ええ」

「もし、私が恋をするとしたら……それは、やっぱり普通の恋になるのかな? 普通に出会って、普通に仲良くなって……普通に告白とか、するのかな」

 

 梨子ちゃんは私をちょっとびっくりしたように見つめて、私は視線をそらした。

 

「それとも、なにか……そう、梨子ちゃんに会うみたいな奇跡が起きて……普通の私に、特別ななにかが、起こるのかな?」

 

 梨子ちゃんはしばらくなにも言わなかった。

 

「千歌ちゃん」と優しい声。

「ん?」

 

 私は顔を向けた。

 

「恋に普通って、ないと思うわ。どんな恋だって、その人にとってみたら、奇跡で、特別よ」

 

 梨子ちゃんは打ち明け話でもするようにささやく。

 

「それだけは、普通の女の子みんなが持ってる、特別」

「特別……」

 

 梨子ちゃんは大きくうなずいて、元のような明るい声で続けた。

 

「だから千歌ちゃんも、素直になったほうがいいわ。だって、そんなに可愛いんだもん、千歌ちゃん!」

 

 いつのまにか家のすぐ近くまで来ていた。

 

「それじゃ、また明日ね!」

 

 そう言って梨子ちゃんは手を振った。

 

 

 

        §

 

 

 

 本番が翌週に迫った、最後の練習の日。

 インターネット通販に注文したシルクハットも、先日無事に届いていた。

 ただ、あれから高海さんからはなんの連絡もなくて、俺は不安を抱えながら来客用の玄関で待った。

 

 高海さんはどんな顔をしているのだろうか。どんな態度で接してくれるのだろうか。

 桜内さんが電話で話してくれたことを聞いて、すこしだけ楽にはなっていたが、それでも怖い。

 怖くて玄関のほうを見ていられなかった。

 

「こんにちは、西村くん!」

 

 高海さんの声がして俺は顔を上げた。

 晴れ渡った空のような笑顔。俺が最初に、彼女に惹かれた笑顔だった。

 

 よかった、と思う。ようやく胸のつかえが下りた。

 

「こんにちは」ともうひとりの声。桜内さんだった。

 

 予定では、高海さんだけのはずだったのに。

 

「こんにちは。わざわざすみません」

 

 俺はあわててふたりに返事をする。

 桜内さんは俺と目があうと、にこっと微笑んだ。きっと彼女がなにかしてくれたに違いない。感謝しかなかった。

 

「編曲、どんな感じなのか気になって。聞かせてもらえますか」と桜内さんが聞く。

「もちろんです。どうぞ。部員たち、待ってます」

 

 俺はふたりを意気揚々と案内した。

 

 桜内さんの登場に部員たちはさらに盛り上がった。

 高海さんに準備してもらって、俺は指揮棒を持つ。演奏が始まった。

 

 曲が終わり、俺は桜内さんにコメントを求めた。

 

「私の曲が、こんな素敵になるなんて……。本当に嬉しいです。ありがとうございました」

 

 わあっと部員たちが歓声を上げた。

 

        ・

 

 そのあと、本番当日の予定を打ち合わせて、もう一度合奏し、練習は終わりになった。

 

 俺はふたりをバス停まで送った。

 こうやって高海さんたちを送るのも今日が最後になるのかと思うと、残念な気持ちしかなかった。

 

「でも、本当にいい演奏だったわ」

 

 桜内さんは俺の渡したペットボトルで手を温めながら話した。

 

「うん、私も楽しく歌えたよ」と隣の高海さんが言う。

 

 今日の高海さんはいつにも増して輝いていた気がする。その輝きはいまも残っていて、彼女はなにか特別なオーラをまとっている――俺にはそんな気がした。

 

「千歌ちゃんの歌も、とってもよかった」

「えへへ、ありがとう」

 

 高海さんは嬉しそうに答えた。そして、俺のほうをちらっと振り返る。

 俺は言わずもがなのことを口にする。

 

「うん、いままでで一番、よかったと思う」

 

 高海さんはにこっと笑った。やっぱりその笑顔は、輝いていた。

 

「よーし、本番、がんばるぞー!」

 

 そう言って高海さんは突然、駆け出して、俺はあっけにとられる。桜内さんはと見ると、彼女は驚いたようすもなく微笑んだ。

 

「千歌ちゃんらしいって、思いません?」

 

 そう言われれば納得だった。

 

 俺は桜内さんに話す。

 

「あの、いろいろありがとうございました」

「いいえ、私のほうこそ」

「それに、高海さんに……あの、彼女が元に戻ってて、俺……」

 

 なにを言えばいいのかわからなくなる。

 

「私、なにもしてません。ただちょっと、本当のことを千歌ちゃんと話しただけです」

「本当のこと……?」

「ええ。だから、安心してください」

 

 桜内さんの言葉は、よくわからなかった。でも、とりあえず悪いことではないらしかった。

 

 桜内さんはもう一度笑うと、高海さんを追いかけるように足を速めた。二、三歩、進んだところで「あっ」と言って振り返る。

 

「千歌ちゃんが普通の女の子だってこと、忘れないでくださいね」

 

 俺の返事を待たずに桜内さんは今度こそ走り出した。

 

「待って、千歌ちゃん!」

 

 普通の女の子。もちろんそうだ。それが高海さんなんだ。それなら、俺は――。

 

 気づけば二人との距離はずいぶん開いていた。これでは送っている意味がない。俺も急いであとを追った。

 

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