たったひとつのSunshine Story 作:Kohya S.
翌週のある日の放課後、授業が終わってすぐ、俺たちは部活に行かずに学校を出た。
「不満そうですね」
隣にいる
「どうして俺まで行かなきゃならないんだよ」
「それはもちろん、曲の話になったら西村君がいないと困るからですよ」
奈良橋の話はもっともだった。俺はなにも答えずにそっぽを向いた。
先日彼が言っていた秘密の話というのは、定期演奏会にゲストボーカルを呼ぶ、という企画だった。それも、同じ高校生である他校のスクールアイドルに声を掛けていた。
先方からは前向きな回答をもらったそうで、今日は直接、具体的な話をしに行くところだった。
スクールアイドルは部活の一環としてアイドル活動をするというもので、俺も名前だけは聞いたことがあった。ラブライブという全国大会もあるらしい。
ただ男子高である沼津南には当然ながらスクールアイドルは存在せず、俺も音楽のジャンルのひとつくらいにしか認識していなかった。
悪くないアイデアだと思う。一般的には。
「それに、女子高ですよ。浦の星女学院は」
「まあ、そうだろうな」
女学院、っていうくらいだし。
「可愛い女の子もいるでしょうし、出会いがあるかもしれませんよ」
奈良橋は眼鏡の奥で目を輝かせた。
相手が女子高というのは、昨日、奈良橋から詳しい話を聞いたときに知った。スクールアイドルグループが「Aqours」という名前だということも。
部員たちが知ったらたいへんな騒ぎになることは間違いなかった。だから話が本決まりになるまで企画の存在自体が部員たちには秘密だった。
それはもちろん俺だって女の子に会えるのは嬉しい。この前の文化祭では結局、なんの出会いもなかった。このままトータル三年間、ひとりだけの寂しい高校生活を送ることになるのは願い下げだ。
でも、どうなんだろう、と思う。こっちが男子高って、向こうも知っているだろうけれど……実際に会ったら、引かれたりしないだろうか。
それが最初の不安だった。
それに奈良橋はイケメンだからいいが、俺は、まあ普通だ。どうせなら俺じゃなくて他のやつのほうがいいような気がする。
「ただ、向こうもいろいろ事情があるようでして」そのイケメンが言う。
「事情?」
「ええ。そのあたりも含めて詳しい話は今日、ということです」
奈良橋は言葉を濁した。聞けば教えてくれると思うが、どうせあとでわかることだ。俺はあえて聞かなかった。
すぐにバス停につく。浦の星がある内浦まではバスで三十分強。同じ沼津市内とはいえかなりの距離だ。
やってきたオレンジ色のバスに俺たちは乗り込んだ。
・
幸いバスには空席があって俺たちは座席に座った。学校帰りだろう、乗っているのは制服の生徒が多かった。
俺たちも帰宅している時間はないので詰襟のままだ。
奈良橋は本を読み始めてしまい、俺はぼうっと窓から外を眺めた。昨日までの雨は上がり、いい天気だ。
Aqours。
昨日、俺は動画サイトで彼女たちの動画をチェックしていた。正直に言って俺は圧倒された。
三人で活動を始めたのは今年の春。それなのにAqoursは急速に上達し、メンバーを加え、先月の東海地区大会では堂々優勝して全国大会に駒を進めていた。
ダンスもすごいし(特に最新の「MIRACLE WAVE」は圧巻だ)歌声も見事なハーモニーだが、どうしても俺は曲が気になった。
彼女たちの曲はすべてオリジナルで、最初の「ダイスキだったらダイジョウブ!」からしてよくできていたのに、それからどんどんレベルを上げて、「MY舞☆TONIGHT」あたりは鳥肌ものだった。
誰が作詞、作曲、それに編曲をしているのだろう。スクールアイドルの事情は知らないが、顧問だろうか。それともプロに依頼しているのか。まさか、彼女たち自身がやっているとは思えないが――。
作編曲をしている身としては気になった。
それに対して我が吹奏楽部ときたら……。
レベルが違いすぎる。それがふたつ目の不安だった。
いつのまにか乗客はかなり減っていた。
車窓からは海が見える。傾いてきた日の光で輝く
同じ沼津に住んでいるのに、俺は内浦に行ったことはほとんどなかった。恐らく小学校の遠足で水族館に行ったきりだ。それを言えば、海を見るのもひさしぶりだった。
バスは三角形の島を右手に見ながら走っていく。車内アナウンスによればそろそろ内浦らしい。
「浦の星女学院前」というそのものずばりな名前のバス停で、俺たちは降りた。潮の香りが俺の鼻をくすぐった。
・
数分後。バス停は「名前に
息が上がりそうな俺にくらべて奈良橋は涼しい顔だ。吹奏楽部の体力づくりの基礎練習、沼津南の部員はみな手を抜いているが、部長はさすがだ。
見慣れない制服――なかなか可愛い制服だ――の女子と、ときどきすれ違うので、浦の星の生徒はみなこの坂を
ここまで上った
振り返った俺の前に広がるのは、夕焼けの色を帯び始めた空に、まだ青い海。緑の木々。透き通った空気のなかで鮮やかなコントラストだった。
「西村君、行きますよ」
声を掛けられて、俺はあわてて奈良橋のあとを追った。
受付で事務の職員に奈良橋が用件を話すと、校内放送が流れた。
「スクールアイドル部にお客さまです。代表者は受付まで来てください。繰り返します。……」
来客用スリッパに履きかえて俺は落ち着かない気持ちで待った。Aqoursのことよりも、これから女の子に会うという単純なドキドキが強かった。
奈良橋はやっぱり涼しい顔で、貼られているポスターなんかを眺めている。
「すみません、お待たせしました」
声が聞こえて俺たちは視線を向けた。
そこにいたのは腰まである栗色の髪の女の子だった。すらりとした体に浦の星の制服がよく似合っている。
すぐに名前は出てこないが、Aqoursの動画で見覚えがあった。
なんとなく部員の誰かが来るのだと思っていたが、Aqoursのメンバーが現れて俺は
「沼津南高校の方ですよね?」
そう言って彼女はにこりと微笑んだ。
「はい、沼津南高校、吹奏楽部部長、奈良橋です。今回はお招きいただきありがとうございます」
奈良橋がそつなく答えた。いつもより背筋が伸びている。
「Aqoursの桜内梨子です」
桜内さんは可愛らしく頭を下げて、俺はいきなり息が詰まりそうになる。女の子ってこんなに可愛かったっけ……。いや、桜内さんが可愛いんだ。
なんとか気を落ち着かせて声を出そうとしたところで、奈良橋が言った。
「詳しい自己紹介は、みなさんと会ってからにしましょうか」
おい、俺にも話をさせてくれよ……。
「はい、ご案内します」
桜内さんは向きを変えて廊下を歩きだした。
途中ですれ違う女子生徒は、くすくす笑ったり、珍しいものでも見たかのように足を止めたり、逃げるように走っていったりと、その反応はいろいろだった。まあ、女子高に男子生徒がいるのだから仕方ないだろう。
階段を上って二階へ。案内されたのは「生徒会室」という
「あの、部室は散らかってるので……。ここを借りたんです」
引き戸を開けてくれる彼女。生徒会役員との面会、ということではないらしい。俺たちはなかに入った。
・
生徒会室には横向きの長机がひとつあって、その向こうに女の子がふたり座っていた。
「いらっしゃいませ!」
ひとりが勢いよく立ち上がる。
オレンジ色にも見える明るい、肩にかかるくらいの髪。Aqoursの動画のいくつかで真ん中にいた子だ。いま彼女はすぐそこにいて、すこし前のめりになっていた。
「あ、どうぞ。座ってください」
もうひとりの子が腕をのばす。
彼女たちの向かいにパイプ椅子が数客、並んでいた。
二番目の子はアッシュブロンドめいたショートカット、
「失礼します」と言って奈良橋は椅子に座り、俺もそれに続いた。
扉を閉めた桜内さんも彼女たちの隣に腰を下ろす。
「えーと、今日はわざわざご
いかにも言い慣れてなさそうだ。
「いえ、こちらこそ、突然のお願いを聞いていただき恐縮です」奈良橋がにこやかに答える。
「とんでもないです!」
立ったままで彼女は胸を張った。
「……千歌ちゃん、とりあえず座ろうか」
ショートカットの子が言うと。
「あ。えーと。では失礼して……」
千歌と呼ばれた子はスカートの
「それに、普通でいいと思うよ」
桜内さんが同意を求めるようにこちらを見るので、俺たちはうなずいた。奈良橋はともかく俺はそのほうが気楽だ。
桜内さんはにこりと笑ってから続けた。
「千歌ちゃん、簡単に自己紹介したらどうかな」
「そうだね」真ん中の子がこくりとうなずく。「えー、私、高海千歌、浦の星女学院の二年生で、スクールアイドル部の部長をしてます。よろしくお願いします」
高海さんはぺこりと頭を下げた。
桜内さんともうひとりの子がちらりと目くばせしたかと思うと、もうひとりの子が先に口を開いた。
「私は、渡辺曜。千歌ちゃんと同じ二年生。よろしく!」
「
奈良橋は歯切れよく、俺はぼそぼそと「よろしくお願いします」と答えた。
桜内さんはちょっと大人しくていかにも美少女、渡辺さんは活発な感じだった。高海さんは――明るい、という形容が似合うだろうか。
三人とも可愛いことに間違いはなかった。
さて、今度はこちらの番だ。
「沼津南高校二年、奈良橋
にこやかな微笑みとともに話す奈良橋。
「同じく二年、西村
俺にはそんなのは無理なのでぶっきらぼうになる。ただ「平部員」のところで桜内さんがすこしだけ唇をゆるめるのが見えて、俺は嬉しくなった。
彼女たち三人は口々に「よろしくお願いします」と言って礼をした。
さて、ここまでは外交儀礼みたいなものだけど、ここからどう話を進めるのか――まあ基本的には奈良橋に任せておけばいいか。
「あらためて、今回はありがとうございます」と奈良橋。「妹から話を聞きましたが、お忙しいようですね、Aqoursは」
妹? 奈良橋に妹……いたかもしれないな。あとで聞いてみよう。でも、忙しいとは?
「そうなんです。演奏会の日にいろいろと予定が重なって、グループ全員での参加は難しそうでして……」頭のうしろをかく高海さん。「あ、Aqoursの用事ってわけじゃ、ないんですけど」
となると、どうなるんだ? 九人全員じゃないとか?
高海さんは続けた。
「それで、当日は私しか、参加できそうになくて……」
「それでも良ければ、ってことになるんだけど」渡辺さんが言い添える。
俺は思わず桜内さんを見てしまう。彼女はすまなそうに微笑んだ。
「なるほど、高海さんですか」
奈良橋が話して俺は彼に視線を移す。
このようすだと奈良橋は、ひとりしか来られないことは知っていたらしい。まあ当然か。
「私としてはゲストを呼べるだけでも
漠然とAqoursが九人、来てくれるものだと思っていたが、なかなかそうはいかないか。でも……。
高海さんはなにかに期待するように俺たちを見つめていた。その瞳の奥にあるのは……もしかして不安、だろうか。
それを見た俺は迷わずに言う。
「大歓迎です」
「ということですので、ぜひ、お願いできますか?」と奈良橋。
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします!」
高海さんはびっくりするくらいの声で言って、大きく頭を下げた。
・
「しかし、そうなると……曲はどうしようかな。ここにいる西村に、Aqoursの曲を吹奏楽用に編曲させてもらおうと思っていたんですが」
「……もしかして、文化祭のときの『異世界ロマンティーク』の曲、西村さんが編曲したんですか?」
桜内さんが俺に聞き、俺はとりあえずうなずいた。
「そうなんですね。編曲、素敵でした。曲の特徴と楽器の特徴、すごくよくとらえてて」
「えっと、ありがとうございます」
俺はそれだけ言って恥ずかしくなり視線をそらしてしまった。きっと顔はすこし赤くなっていたと思う。
「私ひとりじゃ、Aqoursの曲ってわけにはいかないよね」
高海さんが言った。
「さすがに難しいかもね」渡辺さんが腕を組む。
「ソロで歌う、っていうのはありだと思うけど、曲の構成とか考えたらどうかしら」桜内さんも考え込む。
Aqoursの曲を一通り聴いた俺も、三人の話に心の中で同意した。
ふとそのとき、俺は背中に視線を感じて振り返った。扉は閉まっていた。扉にはガラス窓がはまっているがそこにも誰もいない。気のせいか。
奈良橋が口を開く。
「Aqoursの曲に限らず、なにか歌いたい曲とかありますか、高海さん?」
たしかにAqoursの曲ならキャッチーだが、企画としてはそれにこだわる必要はないだろう。
「あ、私が希望していいのかな」と高海さん。にこっと笑って続ける。「実は私、吹奏楽って聞いて、イメージしてた曲があったんだ」
「どんな曲でしょう?」
「そ・れ・は、ミュージカルです! オーケストラをバックに歌って踊る、かっこいいよねー」
天井を見上げて目をキラキラさせる高海さん。
吹奏楽と
「そういえば千歌ちゃん、小学校の芸術鑑賞会で『サウンド・オブ・ミュージック』を見たとき、しばらく歌ってたよね」
渡辺さんが笑う。
「英語がわからないから適当な歌詞だけどね。あはは」
「ミュージカルか。素敵ね」
桜内さんは高海さんをまぶしそうに見ていた。
この三人、仲がいいんだな、と俺は唐突に思った。
「それに、『マイ・フェア・レディ』とか『メリー・ポピンズ』とか」高海さんは続ける。
「いいですね」微笑む奈良橋。
ミュージカルなら、と俺は思う。
「吹奏楽用の楽譜、探せばあるかもしれないな」
もしそうなら俺は楽をできる。
「その方向で考えてみましょうか」と奈良橋が言い、残りの四人はうなずいた。
・
ちょうどそのとき、ノックの音がして俺と奈良橋は振り返った。
「失礼します」
扉が開くと、長い黒髪の女の子がお盆を持って立っていた。透き通るように白い肌。たしか彼女もAqoursのメンバーだ。
あれ、扉が自動的に開いた気がするけど……。気のせいかな。
彼女はまさに、しずしずという形容そのままに机に近づいて、まず奈良橋の前に、続いて俺の前に、茶碗を置いた。
「ありがとうございます」と奈良橋。
「あ、どうも」
茶碗から立ち
彼女は三人の前にも茶碗を置くと、俺たちに一礼してから、またしずしずと歩いていく。
俺は彼女がもう一度礼をして部屋を出ていくまで、目で追ってしまった。今度こそ、扉は勝手に開いた。
「えーと、粗茶ですが、どうぞ」
高海さんの声に視線を戻す。高海さんはなぜか苦笑しているように見えた。
お茶は当然のようにおいしかった。
「あの、せっかくなので……」桜内さんが注意を引く。「私に作曲させてもらえないかな。千歌ちゃんの曲」
「えっ、ほんと?」
高海さんは腰を浮かせかけた。
「ええ、千歌ちゃんにはお世話になってるし……。ここで恩返ししておくのも、いいと思うの」
「恩返しなんて……もちろん、すっごく嬉しいけど……。でも、大丈夫なの? 忙しくない?」
「それは平気よ。ラブライブの本選まではまだ時間があるから」
「ほんと?」
「ええ、本当よ」
微笑む桜内さん。
「うわあ……ありがとう、梨子ちゃん!」
高海さんは両手で桜内さんの手を握って、ぶんぶんと上下に振った。
二人のようすを見る限り、作曲のことは、いまここで桜内さんが提案した話らしい。でも、桜内さんが作曲?
「それじゃ、私は衣装を作らなきゃだね」渡辺さんが敬礼する。
「曜ちゃんも! もう、感謝だよー」
高海さんは今度は渡辺さんの手を握った。
「ただ……」
桜内さんはすこし赤くなった顔で俺たちのほうを見る。
「編曲は、お願いしなくちゃですけど」
「それはもちろん、任せてください」
奈良橋は大きくうなずいた。俺になにも聞かずに。
とはいえ俺にも
「やらせてもらいます」
桜内さんは感謝するように笑って、俺は胸がドキリとする。その勢いのままに俺は聞いた。
「桜内さん、ほかの曲も作ってるんですか?」
「ええ、Aqoursの曲は、何曲か」
「何曲かっていうか、ほとんどだよね」渡辺さんが言う。
そうなのか。この、目の前にいる可愛い女の子が、Aqoursの曲を。
「……その、すごいですね。尊敬します」
俺は驚きに打たれて、それだけ言うのがやっとだった。
「そんな、すごいだなんて……」
桜内さんは頬を真っ赤に染めて、下を向いた。それはもうたまらなく可愛かった。なぜか俺まで赤面するほどに。
「それじゃあ、私は作詞をがんばります!」
「うん、自分の曲だもんね。千歌ちゃん」これは渡辺さん。
「あー、もう、どきどきしてきたよー」
高海さんは嬉しそうに身をよじった。
彼女は感情が素直に
・
それから今後の進め方を決めて――基本はそれぞれの部のアドレスでメールをやり取りすることになった――俺たちは生徒会室を出た。扉は自動では開かなかった。
来たときと違って、三人が玄関まで送ってくれた。
「楽器はなにを担当されてるんですか?」
「トランペットです。趣味ではバイオリンを少々」
「素敵ですね」
桜内さんと奈良橋が話している。悔しいが二人はよく似合う気がする。
俺の隣には高海さん。Aqoursの動画の中では彼女は誰に劣ることなく輝いていたが、隣にいるとごく普通の女の子、という感じだった。
「えーと、西村さんは、どんな楽器ですか?」
「俺は、サックス」
「さっくす?」
「サキソフォンともいうかな」
「さきそ……ふぉん?」
わかってないっぽいな、と俺は説明する。ただ、説明下手な俺は、彼女をますます混乱させてしまったらしい。
「ごめん、またあとで」
「あはは、私のほうこそごめんなさい」
ロマンチックとはほど遠い会話だった。うしろで渡辺さんが笑うのが聞こえた。
三人に見送られて俺たちは校舎を出た。夕日がまさに海に沈もうとしていた。
オレンジの夕日。そこからずっと広がる空の、赤から青へのグラデーション。黒く沈んでいく木々。ここに来たときとはまた違った色合いだが、こちらも悪くなかった。
帰りのガラガラのバスのなか、奈良橋は俺に話す。
「彼女たちが引き受けてくれてよかったですね。西村君」
「まあな」
向こうだって、一人しか行けないから
それに彼女たちはごく自然に接してくれた気がする。ひとつ目の不安は、どうやら当たらなかったらしい。
俺自身もわりと無理なく会話ができたと思う。俺はほっとしていた。
「うん、そうだな。本当に」
俺は言い直した。
とはいえ、そのせいで俺は編曲をすることになったわけだけど。
「西村君には感謝してます」
「どういたしまして」
まるで見透かすように奈良橋が言って、俺は肩をすくめる。まっすぐに礼をいうのはこいつらしい。
ふたつ目の不安のことは、いまは考えないでおこう。
「それにしても……」奈良橋はいったん言葉を切り、目を細める。「みんな可愛かったですね」
「たしかに、それは言えてる」
間違いなかった。桜内さんはもちろんだけれど、高海さんも表情豊かで魅力的だった。渡辺さんは活発な感じでこちらまで元気になりそうだ。
それに加えて途中でお茶を持ってきた彼女。白い肌に黒髪の彼女もまた違った雰囲気の美少女だった。
決して俺たちが女の子に飢えてるからではなくて、彼女たちがとびきり魅力的だったということだと思う。
「さっそくの出会い。まさに役得ですね」
「これが出会いって言えるのかな。連絡先とかも交換してないぜ」
会って話したというだけでも、部員たちからは
「そのうち機会がありますよ」
そうならいいけど。妙に落ち着いている奈良橋とちがって、俺は女の子との会話に慣れてないからな。
俺は肩をすくめた。
浦の星を出る直前、話をしていた奈良橋と桜内さんを思い出す。
「高海さんか」
来てくれるのが桜内さんだったら、もっと会話ができるのかもしれない。もちろん桜内さんとも、曲のことで話をする機会はあると思うが――。
俺の内心を知ってか知らずか、奈良橋が言う。
「誰が来てくれるとしても、嬉しいことじゃないですか」
「まあな」
俺はもう一度言って窓の外を眺めた。
すっかり日は落ちて、