たったひとつのSunshine Story   作:Kohya S.

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9. 私、応援してるからね

「それで、今日は誰が会うの?」

 

 次の日の朝、部室に集合した私たち。全員揃ったところでの鞠莉ちゃんの発言だ。

 私はてっきり梨子ちゃんと曜ちゃん、それに私が会うんだとばっかり思っていたけれど。

 

「たまには私が一緒でもいいわよね、千歌っち。なにしろ理事長だし?」

 

 ウインクをする鞠莉ちゃん。えー、そういうのありなの?

 

「それでしたら生徒会長であるわたくしのほうが、ふさわしいのではありませんか?」

 

 ダイヤちゃんまで……。

 

「最初に話を持ってきたのはオラずら」

「あ、振り付け、私が考えるよ。ぜひ参加したいな」

「ルビィは遠くから見るだけで……」

「いまの時代、ネット配信は必須。このヨハネも力を貸しましょう」

 

 収拾がつかなくなり、私は声を出してアピールする。

 

「だめだめ、だめだよー! そんなことしたら、二人ともびっくりしちゃうよー」

 

 みんなくすくす笑っていた。遅ればせながら私は気づく。

 

「よろしく、千歌っち!」

「あ、もしふたりがいいって言ったら、紹介してよ」

「お茶くらい出さなくてはなりませんわね」

 

 鞠莉ちゃんと果南ちゃん、ダイヤちゃんの言葉に、私はぷくっと頬を膨らませた。

 

        ・

 

 生徒会室は暖房が入っていなくて寒いので、今回は部室で会うことになった。

 私たちは念入りに部室を掃除した。段ボール箱はどうにもならなかったけれど。

 

「もう、ぜったいのぞかないでよね」

 

 六人にはそう伝えて屋上に練習に行ってもらった。

 

 三人になったところで曜ちゃんが私たちを手招きする。曜ちゃんは秘密でも打ち明けるように話した。

 

「えへへ、衣装のラフスケッチ、書いてきたよ」

「うわっ、見せて見せてー!」と私。

「だーめっ! せっかくだから、みんなが揃ったところで見せるよ」

 

 みんな、っていうのは沼津南高校の二人を含んでいるのだろう。

 

「えーっ、そんなー」

「驚きは、みんなで共有するのが楽しいよ!」

「そうかもしれないわね」梨子ちゃんがくすっと笑った。

 

 私は楽しみがもうひとつ増えてワクワクしてくる。

 

「私、玄関で待ってようか?」

 

 曜ちゃんが言った。そろそろ約束の時間だ。冬休みなので校内放送はかからない。

 

「あ、電話が来ると思う」

 

 そう言ってから私はあわてて付け加える。

 

「その、今度、浦の星に来るって聞いたから、私、電話番号教えてたんだ」

「準備いいんだね、千歌ちゃん」

 

 曜ちゃんはにこっと笑った。

 

 ちょうどそのとき、私のスマートフォンから着信音が鳴った。私はあわてて取り出す。西村くんだ。私は梨子ちゃんと曜ちゃんに目配せして電話に出た。

 

『あ、西村です』

「西村くん。わざわざ来てくれてありがとう」

『いま、玄関まで来たんだけど。鍵が開いてなくて』

「あっ、そういえば冬休みだった。ごめん、昇降口まで来てもらっていいかな」

『昇降口……。わかった、あっちかな』

 

 電話は切れた。ふたりは面白そうに私を見ていた。私は理由がわからなくて、でも急いでいたので、早口でふたりに話す。

 

「玄関が閉まってるんだって。私、スリッパ取ってくる」

「わかったわ。私は先に昇降口に行ってお迎えしておくから」

「ありがとう、梨子ちゃん」

「あ、待って、私も行く!」と曜ちゃんも言った。

 

 私は小走りで玄関へ急いだ。曜ちゃんは梨子ちゃんについていったみたい。

 私は玄関で来客用のスリッパをふたつ取って、昇降口へ行った。

 

        ・

 

 廊下の角を曲がると、入り口からの逆光のなか、四人の影が見えた。

 見慣れた梨子ちゃんと曜ちゃんの影。ひとまわり大きなふたつの影。私にはすぐに、どちらが西村くんかわかった。

 

 私に気づいた西村くんが微笑んだみたいだったけれど、影になっていてよくわからなくて、私はそれを残念に思う。

 

 たたっと小走りで光のなかに出ていくと、やっと西村くんの顔がはっきりと見えた。

 

 間違ってなかった。やっぱり彼は照れくさそうに微笑んでいた。

 

 私は足を止めた。なぜか胸がきゅんとして、目をあわせていられなくなって、ぺこっと頭を下げる。

 

「おはようございます。ごめんなさい、私、玄関閉まってるの忘れてて」

 

 そういいながら顔を上げずに、ふたりの前にスリッパを置く。

 

「いえ、ぜんぜん問題ないです」

「ありがとう」

 

 ふたりが言う。私は深呼吸をしてから顔を上げた。

 

 スリッパに履き替えた二人を、私たちは部室まで案内した。途中で気づいたのか西村くんが言う。

 

「今日は、生徒会室じゃないんだ」

「うん、がんばって部室を片づけたからね」

「ふーん、そうなんだ」

 

 西村くんは面白そうに唇をゆるめた。

 

 テーブルの周りに座ってもらって、すっかり寒くなったという話や函館のライブの話(西村くんだけでなく奈良橋くんも見ていた)をしていると、部室の外に人影が見えた。

 部室の扉はガラス張りなので誰かが来たらすぐわかる。この金髪は……。

 

 ノックの音がして扉が開かれた。

 

「失礼します」

 

 鞠莉ちゃんだ。手にはお盆――というか、もうすこし格好いい名前で呼んだ方がいいのかな。白いトレイを持っている。

 今日は鞠莉ちゃんがジャンケンに勝ったらしい。私は梨子ちゃんと曜ちゃんと顔を見あわせた。

 

「どうぞ」といって奈良橋くんと西村くんの前にカップとソーサーを置く。今日は緑茶ではなくて紅茶だ。

 二人は前回ほどではないけれど、やっぱり驚いていたみたいだった。

 

 もしかすると、私たちは着替える前の制服だけれど、鞠莉ちゃんは練習着姿だからかもしれない。冬なのにすこし肩も出てるし胸だって制服より目立つ。

 もう、鞠莉ちゃんてば。

 

 鞠莉ちゃんは私の前にカップを置くとき、さりげなくウインクした。

 

 鞠莉ちゃんは一礼すると部屋を出ていった。前のふたりは最後まで目で追っていた。

 

「えーと、よかったら、どうぞ」

 

 私がそう言って勧めると、ふたりは「いただきます」と言って口に運んだ。

 

「いい香りですね」

 

 奈良橋くんが言い、西村くんもうなずいた。

 

        ・

 

 カップを置いて奈良橋くんが話す。

 

「いただいた曲と歌詞で編曲してきました」

「ありがとうございます!」

 

 いよいよだ。私は鼓動が速くなる。

 

「いえ、こちらこそお待たせして申し訳ありませんでした。CDを持ってきたんですが」

「あ、用意します」

 

 梨子ちゃんがCDプレイヤーを出してくれた。西村くんが鞄からCDを出して、梨子ちゃんに手渡す。

 

「お(あず)かりします」

 

 梨子ちゃんは丁寧に両手で受け取り微笑んだ。

 

 西村くんが口を開いた。

 

「あの、今回はうちの吹奏楽部の演奏じゃなくて、打ち込みです」

「打ち込み?」私は聞き返した。

「はい、コンピュータで演奏したやつです。だから実際とは結構、違います。うちの演奏はこんなに……その、うまくはいかないと思います」

 

 うーん、わかったような、わからないような。あとで梨子ちゃんに聞いてみよう。

 

「それじゃ、再生しますね」

 

 梨子ちゃんがそう言って再生ボタンを押した。曜ちゃんは目を輝かせていて、奈良橋くんは静かに微笑み、西村くんは――ちょっと不安そうだった。

 

 演奏は柔らかいフルートの音から始まった。次いでトランペットが加わる。楽器については音楽の授業でやっただけなので、もしかしたら違う楽器かもしれなかった。

 

 イントロは短くてすぐにAメロが始まった。転調してBメロへ。ゆったりとホルン――かな、金管楽器が主旋律を(おぎな)うように鳴る。サビでは木管と金管がそろって元気よく演奏した。

 

 間奏を終えた二番はAメロの繰り返しが一回だけで、すぐにBメロに入っていた。悪くないんじゃないかな、と私は思う。

 

 それからCメロへ。四分の三拍子のワルツ風。これに乗せて私が歌うんだ、と思うとドキドキしてきた。

 

 最後の大サビからアウトロ。「ジャン!」といかにも吹奏楽風に曲は終わった。

 

「おおっ! すごい、すごいよ! こんな風になるんだ」

 

 曜ちゃんがパチパチと拍手した。

 

「いい感じですね。アレンジ、とっても素敵」梨子ちゃんも感心したように言う。

 

 私は西村くんの視線を感じる。私は彼に向けて微笑んだ。彼の緊張がやわらぐのがわかった。

 

 曲を聴いているあいだ、部室の外に何人もの影が見えたけれど、ふたりには気づかれなかったみたいだった。

 

「ありがとうございます」奈良橋くんも嬉しそう。「ただ、申し訳ないんですが演奏はかなり簡単にしてあります。そこはご容赦ください」

「十分だと思います」と梨子ちゃんはうなずいた。

 

 私はそんな印象はなかったけれど、やっぱり違うんだろうか。

 

「それではこれで進めます。よろしくお願いします」と奈良橋くんは頭を下げた。

 

 曜ちゃんがここで口を開いた。

 

「あの、私、お見せしたいものがあるんですけど」

 

 不思議そうな顔をする二人。曜ちゃんはスケッチブックを取り出した。

 

「せっかくなので衣装を考えてみたんです。こんな感じにしたいんですけど」

 

 パラッと表紙をめくってテーブルに置く。ふたりだけでなく、私と梨子ちゃんものぞきこんだ。

 

「ミュージカル風ってことで、『マイ・フェア・レディ』を意識してます」

 

「うわーっ!」と私は私は思わず声をあげる。

 

 白を基調にした、体にぴったりしたマーメイドラインのドレススタイル。スカートの裾は斜めにカットされていて、前は膝丈くらいだけれど、うしろはそれよりずっと長かった。

 胸元と、背中の腰のあたりに飾られた幅広のリボンは、白黒のストライプだ。

 組み合わされた可愛らしい帽子のつばは、優美な曲線を描いていて、蜜柑色のコサージュが飾られていた。

 

「『サウンド・オブ・ミュージック』とかも千歌ちゃんに似合いそうですごく悩んだんだけど、歌詞のなかの『新しいストーリー』っていうのには、こっちがふさわしいかなって」

 

 誇らしそうな、すこし恥ずかしそうな曜ちゃんの声。

 

 これを、私が着られるんだ。嬉しいけど、なんだかみんなに悪いかも……。

 

「すごく可愛いわ」

「よくできてますね」

 

 梨子ちゃんと奈良橋くんも感心したようすだった。

 

「もしかしてAqoursの衣装は渡辺さんが?」

 

 奈良橋くんが曜ちゃんにたずねる。

 

「えーと、半分くらいかな、デザインしてるのは。作るほうはみんなでやってます!」

「曜ちゃんの衣装、可愛いだけじゃなくてすごく動きやすいんです」と梨子ちゃん。

「すごいですね。どのあたりが苦労されてますか?」

「それはずばり、予算! もう、大変なんです」

「なるほど。ああ、すみません、今回は我々からなにも出せなくて」

「あっ、そんなつもりじゃないです。私たちが好きでやってるので。この衣装も……」

 

 三人の会話の横で西村くんが独り言のようにつぶやいた。

 

「これ、高海さんが着るんだ」

 

 西村くんは顔を上げて、私を頭からつま先まで眺めて、目をそらした。すこし顔が赤くなっている気がする。

 

「えっ、なあに?」

 

 どういう意味だろう。私は思わず聞いてしまう。

 

「いや、その、すごく似合いそうだなって……」

 

 私は嬉しくて、恥ずかしくて――なにも言えなかった。聞かなければよかった。そう思った。

 

「会場は市民文化センターでしたっけ?」

 

 曜ちゃんが確認している。たしか最初のころの打ち合わせでそう聞いていた。

 

「はい。うちの高校のすぐ隣です」と奈良橋くん。

 

 去年のラブライブ、予備予選の会場だ。沼津では大きいホールで観客も千人以上、入れる。

 

「もっと狭いところでも十分なんですけどね」と彼は苦笑した。

「なるほど。あそこだと、わりとステージには余裕があるのかな?」

「そうですね、部員もすくないですから」

「それじゃ、歌うだけじゃなくてすこしダンスも入れようか。どう思う、千歌ちゃん?」

「あ、いいね!」

 

 ミュージカルって言ったら、やっぱり歌って踊る、だと思う。特にCメロのところ、私は体が自然に動いてしまいそうな気がしてたんだ。

 

「どうでしょうか? 奈良橋君、西村君」

 

 曜ちゃんが聞くと、奈良橋くんは西村くんを見て、西村くんは私をちらっと見て、「俺は、いいと思うけど」と言った。

 

「私も同感です。ぜひお願いします」と奈良橋くん。

 

 楽しみがもう一つ増えて、私は心がウキウキするのを止められなかった。

 

        ・

 

 次回は年明けで、いよいよ演奏に私の歌を合わせることになった。衣装の参考に曲の雰囲気をつかみたいってことで、曜ちゃんも一緒に行くことにした。

 でも、きっと曜ちゃんは男子高に行ってみたい、っていうのが大きいんじゃないかな。

 

 決めなくちゃいけないことも決まって、そろそろふたりが帰ろうとしたとき、部室の外で気配がした。

 

 私はため息をついて、二人は首をかしげる。

 

「あの、すみませんけど、部員を紹介してもいいですか?」

「部員というと、Aqoursのみなさん?」と奈良橋くん。

「はい。無理に、じゃなくていいです。みんな興味本位だから……」

 

 私はそう言って、別に断っていただいてもかまいません、という雰囲気をかもし出すのだけれど――。

 

「いえ、ぜひお願いします」と奈良橋くんは笑った。

 

 西村くんはあっけに取られていたようだけれど、なにも言わなかった。

 

 席を立って私が扉を開けると、予想通りすぐそばに六人がいた。鞠莉ちゃんを先頭にみんな目を輝かせている。

 

 この調子だと、このまま帰ったら途中で「さりげなく」割り込んできたね……。

 

 私はみんなに声を掛けた。

 

「あー、どうしてもっていうなら紹介するけど」

 

 全員が――ルビィちゃんまで――大きくうなずいた。

 

 私は扉を開けたまま四人のところに戻った。あとから鞠莉ちゃんたちがぞろぞろとついてきた。

 

 奈良橋くんはさっと、西村くんはあわてたように立ち上がった。梨子ちゃんと曜ちゃんも面白そうに微笑みながら私の横に立つ。

 

「えーと、沼津南高校、吹奏楽部の奈良橋くんと西村くんです」

 

「部長の奈良橋です。今回は高海さんに来ていただくことになり、本当に感謝しています。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 奈良橋くんはそう言って一礼する。続けて西村くんが話す。

 

「編曲担当、西村です。えーと、いい曲にできればいいなと思います。よろしく」

 

 ちょっと緊張してるみたいだった。無理もないと思う。六人とも興味津々(きょうみしんしん)って感じなんだもん。

 

「それで、えー、こちらは。はい、鞠莉ちゃんから!」

 

 私はもう、みんなに任せてしまうことにした。

 

「ワオ! 私から? 私、小原鞠莉。マリーって呼んでね。ここ浦の星女学院の理事長よ!」

 

 ふたりの頭上に疑問符が浮かぶのが見えるような気がした。あとで説明しないと。

 

「黒澤ダイヤですわ。生徒会長を拝命(はいめい)しております」

「私は松浦果南。千歌の幼馴染なんだ。よろしく」

「オラ、国木田花丸ずら。……あっ、またオラっていってしまったずら……」

「黒澤ルビィです。よ、よろしくお願いします」

「津島ヨハネ。よろしくね、リトルデーモン」

 

 あ、疑問符がふたつに増えた。

 

「はい、もういいかな?」

「つれないねー、千歌」

 

 果南ちゃんが言うけど、このまま話してたらどんな話題が出てくるかわからなかった。恥ずかしい話とかされたら困ってしまうし、鞠莉ちゃんとか「誰が好み?」とか平気で聞きかねない。

 

 私はみんなを扉から追い出すようにして出て行ってもらった。

 

 はあっ、とため息をつくと、梨子ちゃんと曜ちゃんがくすくす笑った。

 

「みなさん素敵でしたね」

 

 奈良橋くんが微笑む。それはもちろん、みんな可愛いけれど。

 

 西村くんはどう思ったんだろう。

 彼の顔色をうかがうと、すこし赤くなっているみたいだった。もう、男の子って単純なんだから。

 

 私の視線に気づいたのか西村くんは決まり悪そうに身じろぎして――私は笑ってしまう。

 

 私たちが鞠莉ちゃんと善子ちゃんについて補足すると、二人の疑問はようやく解けたみたいだった。

 

        ・

 

 二人を昇降口から見送って、スリッパを置いてから私たち三人は部室に戻る。

 

 遅くなったけれどこれから練習だ。カーテンを閉めて、私たちは練習着に着替えはじめた。

 

「CDプレイヤー、屋上に持っていきましょ」と梨子ちゃん。

「あ、そうだね」

 

 私はうなずく。きっとみんな聞きたがるに違いない。

 

「それにしてもいい曲になったね、千歌ちゃん」と曜ちゃんが私に笑いかける。

「うん。梨子ちゃんと西村くんに感謝だよー。それに、曜ちゃんも素敵な衣装、ありがとう!」

「どういたしまして。まだ、これから作らなきゃだけどね」

「あっ、そうか。よろしくお願いします!」

「まかせといて。あ、西村くんといえばさ」曜ちゃんがきらっと目を光らせる。「すいぶん仲良くなったんだね、千歌ちゃん」

 

 急に言われて、私はどきっとする。

 

「そうね。私もちょっと驚いたわ」梨子ちゃんもうなずいた。

「えっ、そんなことないけど……」

 

 しどろもどろに私がそう答えると。

 

「だって電話のときすっかりお友達モードだったもんね」

「それにそのあとも、すごく自然に会話してたわ」

「そ、それは作詞のことで話したから、自然にそうなってただけで……」

 

 私は懸命に言い訳する。あれ、でも、言い訳なのかな。

 

 言い訳しなきゃならないってことは、本当は私、西村くんと仲良くなれていて、さらにそれが恥ずかしいって思ってて……どうしてだろう。

 

 でも、その考えは一瞬で流れて行ってしまった。

 

「それに、衣装のときだって、二人だけでなにか話してたでしょ」と梨子ちゃん。

「あ、してたしてた」

「えーっ、見てたの?」

 

 もう、二人とも目ざといんだから。

 

「なに話してたの、千歌ちゃん?」「千歌ちゃん?」

 

 二人が声を揃えるけれど、私は答えられるわけがなかった。

 

「べ、べつになにも……曜ちゃんの衣装が素敵だって、話してただけだもん」

「ふーん、そういうことにしておきましょうか」「はい!」

 

 二人は顔を見あわせて笑った。もうすっかり着替えの手は止まってた。

 

「ほら、着替えないと。みんな待ってるよ」

 

 私は二人に背中を向けた。

 

「西村君、優しそうだもんね」

「そうね。話しやすいっていうのかな」

 

 着替えを再開した梨子ちゃんと曜ちゃんが話しているのが聞こえた。

 

 それは私も、そう思うけれど。

 

「で、でも、奈良橋くんのほうが格好いいって感じしない?」

 

 私は背中越しにそう言う。

 

「私は断然、西村くんかな」

 

 意外な梨子ちゃんの言葉に私はドキリとする。

 

「あれ、梨子ちゃん?」曜ちゃんが聞いた。

「だって編曲ができるってすごいもん」

「あっ。実は私も! あの飾らない感じがいいんだよね。今度、話してみようかな」

「えっ!」

 

 曜ちゃんも? 私は思わず振り返る。

 二人は私を見て、いたずらっぽく笑った。

 

 あれ、もしかして。

 

「ごめんごめん、千歌ちゃん」

「千歌ちゃんが可愛くて、つい。ごめんなさい」

 

 二人はすぐに謝った。私のもやもやの原因が二人にあることは間違いないのに、そんなふうに謝られたらなにか聞くわけにもいかない。

 

「私、応援してるからね」

「もちろん私もだよ!」

 

 二人はそう言ってくれたけれど、なにを応援しているのか、私にはいまひとつよくわからなかった。

 

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