七曜の転生者と魔法学校   作:☆桜椛★

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暴走ブラッジャーと骨無しの腕

 ミセス・ノリスが石にされた事件からしばらく経った土曜日の11時頃、パチュリーは再びハーマイオニーに連れ出されてクィディッチ競技場の観客席に来ていた。最初は適当に誤魔化して自室に避難しようとしたが、今回はロンまでパチュリーを連れて行こうとした為にそれは叶わなかった。

 因みに、ロンにはつい昨日までの間『背後人形』の実験台になってもらったわ。結果は上々。ロンはずっと背中を見ては顔を蒼ざめて耳を塞ぎ、マクゴナガル先生やマダム・ポンフリー先生、更には驚いた事にスネイプ先生にまで助けを求めていた。そして数日前から授業を欠席して寝込んではガタガタ背中を見ない様に固く目を閉じて耳を塞いでベッドに寝込み始めたのでロンが寝ている間に回収しておいた。

 

 

「全く・・・私は本当にクィディッチに興味が無いのだけれど?ロン、なんで今回貴方まで私を連れ出すのよ?」

 

「だって、パチュリーがいればハリーにもし何かあっても安心じゃないか。それに・・・・あの不気味な人形が現れてもパチュリーなら或いは・・」

 

「あぁ〜うん。分かったわ。居てあげるからそうガタガタ震えないで」

 

 

 どうやらかなり重症のトラウマになってしまった様だ。先程2人はハリー達がいる更衣室の方に走って行ってハリーに「幸運を祈る」と元気付けたらしいが、パチュリーは何故かそれがフラグにしか聞こえなかった。

 そう言えばハリー達は最近どこかに行っているが、何をしているのかしら?また先生の誰かに『秘密の部屋』について聴きまくっているのか・・・もしくはフィルチが浮遊術を使える様になったのを調べているのかしら?

 最近、ハリー達はパチュリーにも内緒でコソコソ動き回っている様なのである。ハーマイオニーは珍しく魔法史の授業で先生に『秘密の部屋』について質問していたし、3人でミセス・ノリスが石にされた現場の近くを調べて回ったりしていて監督生のパーシー・ウィーズリーに減点されていたらしい。噂では女子トイレに入った事で揉めたらしい。

 何やってんのよマジで・・・・っと、選手達が入って来たわね。

 

 

「ハリー!!マルフォイなんかに負けるなよー!!箒から叩き落とせー!!」

 

「貴方歳を重ねる毎に口が悪くなってないかしら?」

 

「当たり前よ。マルフォイなんかブラッジャーに叩き落とされたらいいんだわ」

 

「貴女も段々口が悪くなって来たわね」

 

「「ロックハート先生に対するパチュリーの口の悪さの方が凄いと思う」」

 

「アレは当然の事よ。あんな授業・・・談話室で魔法書を読む方が遥かに良いわ。いえ、比べるまでもないわね」

 

 

 パチュリーが当然の様に言い切ったちょうどその時にマダム・フーチが笛を鳴らして試合の開始の合図をした。観客達の歓声に煽られる様に14人の選手が鉛色の空に飛び上がった。ハリーは誰よりも早く高く舞い上がり、スニッチを探し始めた。その下をマルフォイが新しい箒を見せつける様に飛び去って行く。ハリーはそれを無視して別の方向を向いてスニッチを探していると、ブラッジャーがハリーを狙って飛んで行った。ジョージが棍棒を片手にハリーの隣を猛スピードで通り過ぎてスリザリン選手目掛けてブラッジャーを打ち返した。ブラッジャーは確かに命中して飛んで行くが、ブラッジャーは軌道を変えてハリー目掛けて飛んで行った。ハリーは急降下してそれを躱し、ジョージが再び棍棒をブラッジャーに叩き着けるが、またしてもブラッジャーは軌道を曲げてハリーの頭を狙い撃ちする。ハリーはそれをヒョイと躱してハリーとブラッジャーの鬼ごっこが始まった。

 

 

「ハリーの奴、何やってるんだ?いつもと違って変だぜ?」

 

「あれはどちらかと言うとブラッジャーがおかしいわね。何度打ち返してもハリーの頭を狙って飛んで行ってる」

 

「何ですって!?きっとマルフォイが細工したのね!?パチュリー!!なんとかして!!」

 

「ハーマイオニー?貴女もまさか私にあれを止める為だけに私を引っ張って来たのかしら?私は何でも屋じゃないのよ?全く・・・・あら?」

 

 

 パチュリーが懐から出した自作の杖をブラッジャーに向けたが、すぐに顔を顰めた。ハーマイオニーとロンは未だにハリーを狙って飛んで行くブラッジャーを見てパチュリーにどうしたのかと聞きたそうな顔を向けた。

 

 

「諦めなさい。アレは直せない・・・いや、そもそも直す必要がないのよ。あのブラッジャーはアレで正常なの」

 

「はぁ?何言ってんだパチュリー!!ブラッジャーは今もハリーを狙っているんだぞ!?」

 

「アレはもともと設定した行動をとるブラッジャーなのよ。多分誰かがハリーを狙うように設定したのね。今アレにかかっている魔法を解除したらブラッジャー自体がただのガラクタになって地面に落ちる。そうなると試合が中止になる可能性があるわ」

 

「そんな!?じゃあどうすればいいのよ!!?」

 

「こればっかりはハリーに頑張ってもらう他無いわね。試合の決着がついたらブラッジャーをどうにかしてあげるから我慢なさい」

 

 

 パチュリーの言葉にハーマイオニーとロンは悔しそうにハリーを狙い続けているブラッジャーを睨む。今はジョージとフレッドが合流してハリーにブラッジャーが行かないように棍棒を振り続けていた。それでもブラッジャーは軌道を変えてハリーを狙う。少ししたら雨が降ってきたのでパチュリーは自分の服と帽子に防水の魔法をかけた。ハーマイオニーとロンが雨で濡れながらハリーを応援していると、マダム・フーチがホイッスルを鳴らしてグリフィンドールの選手達が地面に降りて集まった。何やら怒鳴り合う様に話しているが、マダム・フーチが試合を続行しても良いかを聞いた頃には話がついた様で、選手達は再び空に舞い上がった。しかし今度はハリーのみで逃げ回っており、フレッドとジョージは他へ回った。

 

 

「フレッド!ジョージ!何やってるんだ!!ハリーが危ない!!」

 

「多分、ハリーが2人にお願いしたのね。現在60対0でグリフィンドールが押されてるわ。だからこれ以上点を取られないようにハリーが1人でブラッジャーから逃げつつスニッチを探してるようね」

 

「あぁ、なんて事!!・・・あっ!!マルフォイ!ハリーをおちょくりに行ったのね!?ブラッジャーに当たって骨を折りなさい!!」

 

「本当に口が悪いわね貴女!?」

 

 

 パチュリーがハーマイオニーに突っ込みを入れてから上空に目をやるとマルフォイの左耳の少し上辺りにピカッと光を反射する物体が見えた。金色のスニッチだ。ハリーもそれを見つけたらしく、そちらを睨んで空中で停止した。そこをハリーを狙うブラッジャーが逃す筈も無く、ハリーの肘を強打した。右腕が動かなくなった所を見ると骨を折ったのだろう。

 

 

「あら、ハリーが右腕の骨を折ったわね。ハーマイオニーの願いはハリーに向かったようね」

 

「嘘ッ!!?ハリーごめんなさい!!悪気があった訳じゃないの!!」

 

「ハーマイオニー、パチュリーの冗談だよ。本気にしてどうするのさ?と言うか、なんでパチュリーは濡れてないの?」

 

「気にしたら負けよ。ほら、ハリーが動いたわよ」

 

 

 ハリーは下の方を飛んでいるマルフォイの方へ急降下した。マルフォイは慌ててそれを避けて通り過ぎたハリーをポカンと眺めている。ハリーは折れていない方の腕を必死に伸ばして空を激しく掻き、逃げ回るスニッチを捕まえた。ハリーはそのまま地面に向かって突っ込み、バシャッと泥水を跳ね上げて箒から転げ落ちた。パチュリーは観客席からバレない程度に浮遊魔法を使って飛び降りてハリーの下へ向かう。ハーマイオニー達も慌ててそれを追いかけ、マダム・フーチが試合終了のホイッスルを鳴らす。地上に落ちたハリーをまだ狙うブラッジャーにかかった魔法を解除して地面に落としてからパチュリーはすぐにハリーの容態を見た。幸い腕の骨以外は折っていないようだ。パチュリーがそれを確認したと同時に、パチュリーが今1番嫌っているロックハートが大股で歩み寄って来た。パチュリーはあまり近くに居たくないのでロックハートから少し距離を取り、ロックハートはチラッとパチュリーの方を見てからハリーの顔を覗き込んだ。ハリーはぼうっとロックハートの顔を見ると、悪夢を見ているかの様に呻いた。

 

 

「やめてくれ・・・選りに選って・・・・」

 

「自分の言っている事が分かっていない様だ」

 

(ハリーの意識は正常ね。問題ない様で良かったわ)

 

 

 パチュリーはハリーの意識が正常である事を確認した。ロックハートは杖を取り出しながらニコリとハリーに笑い掛ける。

 

 

「ハリー、心配するな。私が君の腕を治してやろう」

 

「やめて!!!僕、腕をこのままにしておきたい。構わないで・・・」

 

 

 ハリーは慌てて体を起こそうとしたが、腕に激痛が走った様で元の姿勢に戻った。パチュリーの隣でコリンがカメラを構えて腕が折れたハリーを撮影する。

 

 

「コリン!こんな写真は撮らないでくれ!!」

 

「こらコリン。怪我人を撮影するなんてダメじゃない」

 

「さぁ、横になって、ハリー。この私が、数え切れない程使った事がある簡単な魔法だからね」

 

 

 パチュリーはコリンを軽く叱り、ロックハートはハリーに子供をあやす様に言った。ハリーは腕の痛みを歯を食いしばりながら耐えている。

 

 

「僕、医務室に行かせてもらえませんか?」

 

「先生、そうするべきです。ハリー、物凄いキャッチだった!素晴らしいの一言だ!!君の自己ベストだ!ウン」

 

「ちょっと?チームのシーカーが骨を折ってるのに試合に勝ったからってニコニコ笑っちゃダメよ」

 

「あ、ヤベェ・・・・」

 

 

 グリフィンドールのキャプテンのウッドはしまった!と言わんばかりに手で口元を隠した。フレッドとジョージがただのガラクタとなったブラッジャーを恐る恐る箱に入れているのを他所にロックハートは翡翠色の袖をたくし上げてみんなに下がる様に指示を出す。ハリーは弱々しい声でロックハートに止めるよう訴えたが、ロックハートは杖を振り回して最後にそれをハリーの折れた腕に向けた。

 ・・・・・・ん?え!?ちょっと待ちなさいその魔法は!!!

 パチュリーが止めようとした時には既に遅く、魔法は発動されてしまった。ハリーは何かを感じ取ったのか目を閉じて右腕から顔を背けた。パチュリーは「あちゃ〜」と額に手を当て、周りの生徒達は息を呑み、コリン・クリービーは狂ったようにカメラのシャッターを切りまくる。ハリーの腕は先程とは違って、ブヨブヨのゴム手袋の様になってしまっていた。

 

 

「あっ・・・・・・そう。まぁね。時にはこんな事も起こりますね。でも、要するに骨は折れていない。それが肝心だ。それじゃ、ハリー。医務室まで気を付けて歩いて行きなさい。・・・・あっ、ウィーズリー君、ミス・グレンジャー、ミス・ノーレッジ、付き添って行ってくれないかね?・・・マダム・ポンフリーが、その・・・少し君を・・・あー・・・キチンとしてくれるでしょう」

 

「『キチンとしてくれるでしょう』・・・じゃないわよ!!なんで骨折を直すのに骨抜き(・・・)の呪いをかけるのよ!?貴方はそれでも教師!!?」

 

「こ、これは・・・あれだ。ミス・ノーレッジ。先ずは折れた骨を抜いてからくっ付けて中に再び戻せば治ると思って・・」

 

「貴方骨折を直す魔法を数え切れない程使ったのではないの!?全く、折れただけなら私でもすぐに治せたのに・・・はぁ〜・・・ハーマイオニー!ロン!ハリーを医務室に連れて行くわよ」

 

 

 ハーマイオニーとロンは骨が無くなって腕がゴム手袋の様になってショックを受けているハリーに肩を貸して医務室へ向かい、パチュリーは溜め息を吐きながら3人の後を付いて行った。

 

 

 

 

 

 

「まっすぐに私のところに来るべきでした!!」

 

 

 マダム・ポンフリーはハリーのゴム手袋の様にブヨブヨになってしまった骨が無くなった腕を持ち上げながら怒っていた。

 

 

「ロックハートがハリーに無理矢理『腕を治してやる』と魔法をかけてたからハリーは悪くないわ」

 

「またあの人ですか!?全く・・・つい4日前にも転んで頭を怪我した生徒の容態を悪化させたと言うのに・・・」

 

 

 どうやらロックハートは以前にも似たような事をやらかしたらしい。マダム・ポンフリーはやれやれと肩を竦めながらじっくりとハリーの腕を観察した。

 

 

「骨折ならあっという間に治せますが・・・骨を元どおりに戻すとなると・・・・」

 

「先生、出来ますよね?」

 

「もちろん!出来ますとも。でも、痛いですよ?今夜はここに泊まらないと・・・」

 

 

 マダム・ポンフリーは腕を治す為の薬を取りに行き、ロンはハリーをパジャマに着替えさせていた。ゴムの様な腕を袖に通すのにかなり時間が掛かっていた。その間パチュリーとハーマイオニーはベッドの周りに張られたカーテンの外にいた。

 

 

「ハーマイオニー?貴女まだロックハートの肩を持つの?ハリー腕の骨消されちゃったわよ?」

 

「誰にだって、間違いはあるわ。それに、もう痛みは無いんでしょう?ハリー?」

 

「おまけで何も感じないでしょうけど。普通間違いじゃ済まないわよ?骨折を直すのに骨を抜くなんて・・・はぁ。私はもう帰るわ。ハリー、お大事にね。ロックハートには注意なさい」

 

「うん、バイバイ。パチュリー」

 

 

 パチュリーは溜め息を1つ吐いて医務室を出て行った。ハリーとロンは手を振って見送ったが、ハーマイオニーは少し不機嫌そうにしていた。


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