「じゃ、話してもらいましょうか。3人共?」
パチュリーはハーマイオニーの治療をしてから3人に案内されたマートルの女子トイレの中に入り、腕を組んでハリー達を睨み付けた。ハリー達は既にグリフィンドールの制服姿になり、パチュリーと目を合わせようとしない。しばらく沈黙が続き、ようやくハーマイオニーが口を開いた。
簡単に纏めるとハリー達はマルフォイがスリザリンの継承者だと思い、ハーマイオニーの発案で『ポリジュース薬』を使ってクラッブ、ゴイル、そしてパチュリーの姿になってマルフォイから聞き出そうとしたらしい。何故ここで自分なのかと変身していたハーマイオニーに質問すると、パチュリーがマルフォイとそれなりに仲がいいからペラペラと喋ってくれると思ったそうだ。髪の毛は決闘クラブの時に舞台の上に1本だけ落ちているのを回収したらしい。
そして今日、クラッブとゴイルは睡眠薬入りチョコレートケーキで簡単に捕まえられ、パチュリーはスリザリン寮に行くことはないと考えて作戦を実行した。結果は自分達の勘違いで、マルフォイはスリザリンの継承者ではなかったらしい。更に薬の効果が切れ掛かって急いで女子トイレに向かっている時にパチュリーと遭遇、そして現在に至るらしい。
「全く、何やってるのよ貴方達は?危うくハーマイオニーが消し炭になるところだったのよ?分かってるの?」
「でも・・・それはパチュリーが去年トロールに使った魔法を使おうとしたから・・・」
「『でも』じゃないわよ。じゃあロン、角を曲がると自分の姿をした何者かがいた時、貴方はどうするのかしら?『やぁロン!元気かい?』なんて挨拶して通り過ぎるの?」
「いや〜・・・それは・・・」
ロンはパチュリーに何も言い返せなかった。パチュリーはしばらく3人に説教をし、涙目になった3人を連れてグリフィンドール寮へ戻って行った。それから1週間、罰として3人は『背後人形』の改良型の実験台になって貰った。コレは今までハリー達に使っていた『背後人形』をパチュリーが独自に改造した物で、背中に張り付いて話し掛けてくる所までは普通の物と変わらないのだが、このパチュリーが改造した物は張り付いた人間の運気を下げる。例えば甲冑が自分に向かって倒れて来る。魔法薬を作っていると鍋に穴が開いて爆発する。廊下を歩いていると窓ガラスが割れてガラスが降り注ぐなどだ。しかもそれ等の不幸が発生すると人形が血涙を出してケタケタ笑うのだ。結果は上々。ハリーとロンはグレードアップした『背後人形』をどうにかしようと先生方に相談したが、結局解決出来ず医務室で寝込み、ハーマイオニーも程なくして医務室で寝込んでしまった。しかもそれぞれかなり不幸な目に遭っていた。
さぁて、次はどんな風にしようかしら?
★
クリスマス休暇を終えてもしばらくの間ハリー達は医務室で寝込み続けた。新しい『背後人形』はハリー達のトラウマになったらしく、眠っている間も「やめて・・やめて下さい・・やめろぉぉぉ!!」と急に寝言を呟いたかと思うと飛び起きたり、自身の杖を持って毛布に包まり、ガタガタ震えたりとしていた。クリスマス休暇を終えた生徒達はハリー達が襲われたと思い込んで医務室前をウロウロしたりしてマダム・ポンフリーに叱られていた。教師達も最初は信じていなかったが、ハリー達の容態を見て只事ではないと感じていた。パチュリーもまさかこんなにも効果があるとは思っていなかったのでほぼ毎日見舞いに来ていた。
そして今日もパチュリーは医務室へ3人の見舞いに来ていた。新学期が始まってからは宿題も一緒に持って来ている。パチュリーはマダム・ポンフリーにお見舞いに来た事を伝えてからハリー達が寝ているベッドへ向かった。
「ハリー、ロン、ハーマイオニー。来たわよ」
「やぁ、パチュリー。元気そうだね」
「あら?ハリー、ロン、もう平気なの?」
そこにはハーマイオニーのベッドの隣に置かれた椅子に座る制服姿のハリーとロンの姿があった。どうやら今回初めて『背後人形』を経験したハーマイオニーに比べて割と早く回復した様だ。まだハーマイオニーは顔を青くしているが、脇机に置かれた教科書類を読んでいる為こちらも近い内に復帰するだろう。パチュリーは3人に今日の分の宿題を渡す。
「はいコレ。今日の分の宿題よ。ちゃんと済ませなさい」
「ウゲェ!やっぱりもう少し寝てようかな?」
「ダメよ。ハーマイオニーを見習いなさい。遅れを取り戻そうと必死になっているわよ?」
「僕等をハーマイオニーと比べたらダメだよパチュリー」
ハーマイオニーを指差すパチュリーにハリーは肩をすくめる。そこでふとパチュリーはハーマイオニーの枕の下からはみ出ている金色のカードの様な物を見つけた。
「あら?ハーマイオニー、その枕の下からはみ出ている金色の物は何?」
「え?あ!!た、ただのお見舞いのカードよ」
「嘘おっしゃい。貴女がただのお見舞いカードを枕の下に入れて寝るわけないでしょう?ほら、貸しな・・・・さい!!」
「あぁ!!ちょっと!ダメ!!」
パチュリーは慌ててカードを枕の下に突っ込もうとするハーマイオニーから素早くカードを取り上げて距離を取った。ハリーとロンも初めて気付いたのか両隣からカードを覗き込んだ。
『ミス・グレンジャーへ
早く良くなるようお祈りしています。
貴女の事を心配しているギルデロイ・ロックハート教授より
勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、『週刊魔女』五回連続チャーミング・スマイル賞受賞・・・・』
「何よコレ?ハーマイオニー、貴女こんな紙屑を枕の下に入れて寝ていたの?」
「え!?えっと・・・コレは・・・・」
パチュリーのみならず、ハリーとロンも呆れ顔でハーマイオニーを見る。まさかここまでハーマイオニーがロックハートにメロメロだとは思わなかった。ハーマイオニーはどうにか誤魔化そうと頑張っていたが、パチュリー達の顔は変わる事はなかった。最早苦笑いしか出来ないハーマイオニーだったが、薬を持って来たマダム・ポンフリーがパチュリー達を医務室から追い出すのを見て胸を撫で下ろしていた。パチュリー達はマダム・ポンフリーに医務室から追い出され、外に出た途端に扉はバタンと閉じられた。
「ハーマイオニーってあんなにロックハートにメロメロだったんだね。僕、あそこまでとは思わなかったよ」
「ロックハートって、おべんちゃらの最低なやつ!だよな?」
「違うわロン。ロックハートは・・「ストップだパチュリー。君がロックハートの事を言い始めると僕等の頭の中がロックハートへの呪詛で埋まっちゃうよ」失礼ね貴方」
パチュリーは話を止めたロンをジト目で睨むが、ロンは「事実だろ?」と言うだけだった。パチュリーは少し納得いかない気持ちだったが、これからマクゴナガル先生に貸し出している魔法書を返して貰いに行く為に2人と別れた。
★
月日は流れ、淡い陽光がホグワーツを照らす季節がやって来た。ジャスティンとニックの事件以来被害者は出ていない為、城の中も僅かに明るいムードが漂い始めている。ただギルデロイ・ロックハートが襲撃事件を自分が止めさせたと思い込んでいるようで、さらに面倒臭い事になっていた。
「ミネルバ、もう厄介な事は起きないと思いますよ?今度こそ部屋は永久に閉ざされましたよ。犯人は私に捕まるのは時間の問題だと観念したのでしょう。私にコテンパンにやられる前に止めたとは、なかなか利口ですな」
物凄く嫌そうな顔をしているマクゴナガル先生を無視してロックハートは訳知り顔にウインクしながらペラペラと話を続ける。
「そう!今、学校に必要なのは、気分を盛り上げる事ですよ!先学期の嫌な思い出を一掃しましょう!!今はこれ以上申し上げませんけどね、まさにこれだ!と言う考えがあるんですよ・・・」
ロックハートはマクゴナガル先生に一方的にそう告げてからスタスタ歩き去って行った。ロックハートの言う気分を盛り上げる事とは何か、それは2月14日の朝食時に明らかになった。パチュリーは前夜遅くまでクィディッチの練習をしていて寝不足のハリーと偶然出くわして一緒に大広間へ向かった。他の生徒達より少し遅れて大広間の扉を開けると、パチュリー達は部屋を間違えたと思って閉めてしまった。しかしどう見ても大広間の扉に間違い無い為、嫌々扉を開けた。そこには何時もの大広間の姿は無く、壁という壁はけばけばしい大きなピンクの花で覆われ、淡いブルーの天井からはハート型の紙吹雪が舞っていた。パチュリーとハリーは苦笑いしながらグリフィンドールのテーブルに行くと、いかにも気分が悪そうなロンとクスクス笑いを抑えきれていない様子のハーマイオニーが座っており、パチュリーは席に着きながら今の状況をハーマイオニー達に質問し、ハリーも席に着きながらベーコンから紙吹雪を払いながら答えを待った。
「ちょっとロン?これいったい何事?」
「こんな事する奴はあいつしかいないだろ?見てみなよ」
パチュリーの問いにロンは答えるのもアホらしいと言う顔で先生達のテーブルを指差した。パチュリーとハリーが指が差された方向を見ると、石になったかのように固まった。そこには壁の色とマッチしたけばけばしいピンクのローブを身に纏うロックハートの姿があった。ロックハートは片手を上げながら「静粛に」と合図しており、その両側の先生達は石の様に無表情をしていた。マクゴナガル先生はヒクヒクと頰を痙攣させ、スネイプ先生に至っては表現しにくい程凄い顔になっている。
「バレンタインおめでとう!!今までのところ46人の皆さんが私にカードをくださいました。ありがとう!!そうです。皆さんをちょっと驚かせようと、私がこの様にさせていただきました!・・・・しかも!コレが全てではありませんよ!!」
そう叫ぶロックハートが手をポン!と叩くと、玄関ホールに続くドアから無愛想な顔をした小人が12人ゾロゾロと入って来た。しかもロックハートが全員に金色の翼を付けてハープを持たせている小人だ。
「私の愛すべき配達キューピッドです!!今日は学校中を巡回して、皆さんにバレンタイン・カードを配達します!そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方もこのお祝いムードにはまりたいと思っていらっしゃる筈です!さぁ、スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方を見せてもらってはどうです?ついでにフリットウィック先生ですが、『魅惑の呪文』について、私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。素知らぬ顔をして憎いですね!?」
ロックハートの言葉にフリットウィック先生は顔を覆い、スネイプ先生はおそらく今心の中で「『愛の妙薬』を貰いに来た最初の奴には毒薬を無理矢理飲ませてやる」と思っているだろう。ロンはハリーに肩を竦めながら話し出す。
「な?僕達も大広間に入って来た時は驚いたよ。昨日まで普通だった大広間がこんなけばけばしい感じになっちまったんだから」
「あら?素敵じゃない。流石ロックハート先生だわ♪」
「ハーマイオニーはご機嫌だね。もう僕呆れて物も言えないや。ねぇ?パチュリー?・・・・パチュリー?」
ハリーがハーマイオニーの有様に「ダメだこりゃ」と首を振りながらパチュリーに同意を求めると、返事がない事に疑問を抱いた。ハーマイオニーとロンもそれに気付いてパチュリーを見たが、今日程見なけりゃ良かったと後悔した事はないだろう。パチュリーは以前のピクシー小妖精事件の比にならない程不機嫌そうな雰囲気を醸し出し、パチュリーの近くにいる生徒達は身の危険を感じて距離を取っていた。
「ふ、ふふふふ・・・あんのバカ魔法使い。学校中巡回してバレンタイン・カードを配るですって?巫山戯てるんじゃないわよ。そうだわ・・・いっその事全部燃やしちゃえばいいんじゃないかしら?えぇ、そうよ。それがいいわ。そうすれば証拠も全て燃えて無くなるのよ」
「パ、パパパパチュリー?何言ってるんだい?なんかいつもより怖いよ?」
ユラリと亡霊の様に立ち上がったパチュリーにハリー達はかなり引き気味に質問する。周りの生徒達も殺気に近い何かを感じて慌ててパチュリーから更に距離を取った。ロックハートは先生方に話していて気付いていないが、テーブルの先生方はパチュリーの様子を見てギョッとしていた。
「ハリー?私いい事思い付いたのよ。もうホグワーツごとロックハートを燃やせば誰も私が殺ったなんて気付かないんじゃないかしら?もう生徒だ先生だ関係無いわ!!日符『ロイヤル・・」
「パチュリーが壊れた!!みんなパチュリーを押さえて!消し炭にされる!」
「離しなさいハリー!!全部燃やさないと気が済まないわ!!」
「パチュリー!!早まったらダメ!!今この場には僕等もいるから!!」
「そうよパチュリー!!ロックハート先生は何も悪くないわ!素敵なサプライズじゃない!!」
「「ハーマイオニーは黙ってて!!!」」
数分後、パチュリーはどうにか落ち着いたが、その日の授業は全て欠席した。そしてハリー達は今生きている事に感謝した。