パチュリーがホグワーツを焼こうと暴れたヴァレンタインからしばらく経って、再びクィディッチの試合の日がやって来た。しかし今回はクィディッチの試合にパチュリーは行っていない。いや、行ってたまるかと心に決めて自室にて魔法書を読みながら小悪魔とお茶を飲んでいた。魔法書を黙々と読み続けながら焼きたてのクッキーを食べているパチュリーに小悪魔は質問を投げ掛ける。
「パチュリー様?今回はクィディッチの試合を観に行かなくて良かったのですか?」
「気にする事はないわ。それにまた
「例えがかなり物騒ですけどそんなに嫌いなんですね、ロックハートと言う魔法使いが」
小悪魔は苦笑しながら紅茶を飲む。パチュリーはロックハートの名前を聞いて少しムスッとした顔をする。
「もうあいつの事は名前で呼ぶのは止めなさいこぁ。せっかく貴女が淹れてくれた美味しい紅茶が不味くなっちゃうじゃない」
「あははは、流石に言い過ぎですよパチュリー様。でも美味しいと思ってくれていて嬉しいです♪」
背中の羽をパタパタ動かしながらニッコリ微笑む小悪魔にパチュリーはクスリと笑ってクッキーを1枚口の中に入れる。サクサクのクッキーを楽しみながら小悪魔のお菓子作りの腕が上がっている事に感心する。
「ふふっ♪こぁも料理やお菓子作りの腕がかなり上がったわね。初めての時なんて砂糖と塩を間違える以前にクッキーとパフェの作り方を間違えていたのに」
「ブハッ!!ケホッ!ケホッ!パ、パチュリー様!?あの時は・・・その・・・・あうぅ〜〜///」
パチュリーの言葉に飲んでいた紅茶をむせてアタフタしてから顔を真っ赤にして俯いた小悪魔にパチュリーは『可愛いなぁ』と温かい目で小悪魔を眺めていた。しばらく眺めていると、談話室の方が急に騒がしくなって来た為パチュリーは怪訝な顔をする。
「ん?おかしいわね・・・・まだクィディッチが始まったあたりの時間帯の筈なのに何故談話室に生徒達の声が聞こえて来るのかしら?」
「う〜〜・・・・ふぇ?あ、ホントですね。もう試合が終わったんでしょうか?」
「いえ、流石にそれは早過ぎるわ。いくらハリーでも始まってすぐにスニッチを捕まえる事は出来ないわよ。ちょっと様子を見て来るわ」
「あ、はい。行ってらっしゃいませ」
席を立って談話室に向かうパチュリーに小悪魔は慌てて立ち上がって一礼し、パチュリーを見送った。手を軽く振りながら談話室へ向かったパチュリーが見たのは、何やら話し合っているグリフィンドール寮生と何故か物凄く不機嫌そうな顔をしているクィディッチチームの面々だった。
・・・・うん、全く意味が分からないわね。
「「ん?あ!パチュリー!!」」
「あら?フレッドにジョージ。これはいったい何事?クィディッチの試合はどうしたのよ?」
パチュリーが疑問符を浮かべていると、双子のフレッドとジョージが全く同じタイミングで同じ台詞を言った。パチュリーはちょうどいいと思って今の状況を質問した。
「それがいざ試合だって時にマクゴナガル先生がやって来て、『試合は中止です!!』って言いやがったんだよ」
「クィディッチの試合を中止?どうしてそうなったのかしら?フレッド」
「残念ジョージだよ・・・・ごめん嘘フレッドで合ってるからその拳を下ろしてくれ・・・ありがとう。それが分からないんだよ。いきなり来て中止って言われただけだから」
パチュリーの振り上げた拳に冷や汗をたらりと流しながらフレッドが謝罪し、自分もよく分かっていない事を伝える。パチュリーがフンッと鼻を鳴らしながら腕を組んでしばらくフレッドとジョージの双子と話を続けていると、ハリーとロンの2人と丸めた羊皮紙を手に持ったマクゴナガル先生が談話室に入って来た。どことなく暗い表情のハリー達に首を傾げていると、マクゴナガル先生が残念そうな表情で話し始めた。
「皆さんに残念なお知らせです。つい先程、レイブンクローの監督生であるミス・ペネロピー・クリアウォーターと、ミス・ハーマイオニー・グレンジャーの2人が石にされました」
マクゴナガル先生の言葉にパチュリーを除いたグリフィンドール寮生全員の顔が驚愕の表情に染まった。パチュリーも表情には出していないが多少驚いてはいる。今朝の朝食時に猛スピードで階段を駆け上がるハーマイオニーとすれ違ったばかりだと言うのに、その彼女がこの短時間に襲われたのだから少しぐらい驚きはする。マクゴナガル先生は丸めた羊皮紙を広げてから全員に聞こえる様に大きな声で話し始めた。
「そして、今回の件で皆さんにお知らせがあります。・・・全校生徒は夕方6時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後は決して寮を出てはなりません。授業に行く時は、必ず先生が1人引率します。トイレに行く時は、必ず先生に付き添ってもらうこと。クィディッチの練習も試合も、全て延期です。夕方は一切、クラブ活動をしてはなりません」
マクゴナガル先生はそう言い終えると羊皮紙を再びクルクルと丸めてから少し言葉を詰まらせた。
「言うまでもないことですが、私はこれ程落胆した事はありません。これまでの襲撃事件の犯人が捕まらないかぎり、学校が閉鎖される可能性もあります。犯人について何か心当たりがある生徒は申し出るよう強く望みます」
マクゴナガル先生が少しぎこちなく肖像画の裏の穴から出て行くと、途端にグリフィンドールの生徒達は話し始めた。パチュリーは一瞬犯人を教えようかと思ったが、言わない事にした方が良いと判断してハリー達の元に向かった。その間にリー・ジョーダンが大演説を始めた。
「これでグリフィンドールは2人やられた。寮付きゴーストを別にしてもレイブンクローが1人、ハッフルパフが1人。先生方はだーれも気付かないのかな?スリザリン生はみんな無事だ。今度の事は全部スリザリンが関係してるって、誰にだって分かりそうなもんじゃないか?スリザリンの継承者!スリザリンの怪物!・・・どうしてスリザリン生を全部追い出さないんだ?」
リーの演説にみんな頷きながら拍手を送っている。パチュリーはハリー達の所になんとか辿り着いたが、ハリーはハーマイオニーが石にされた事が余程ショックな様で、暗い面持ちだった。
「あらあら、随分と落ち込んでいる様ねハリー?」
「パチュリー・・・まぁね。今朝『図書室に行って来る』って別れたばっかりなのに、次に会ったのは医務室のベッドの上さ。・・・・そうだ!パチュリー!君、石化した人を蘇生する薬持っていたよね?あれをくれないかい?」
「あのねぇ、貴方達は私を何でも屋とでも思っているのかしら?貴重な薬をそうホイホイ渡す訳がないでしょう。そもそも猫1匹蘇生するぐらいしか薬は残っていなかったから次に出来るのは学校で作られるのと同じ時期よ」
「うっ!!ご、ごめん・・・」
パチュリーの言葉にハリーは気不味い顔をする。パチュリーは深い溜め息を吐くとハリーと別れて自室に戻り、小悪魔に簡単な説明をしてから紅茶を淹れるよう頼んでから魔法書の続きを読み始めた。
★
いつの間にか季節は夏に突入していた。ハーマイオニーとレイブンクローの監督生が襲われた事件の日の翌日にはハグリッドとダンブルドア先生が学校からいなくなった事が生徒達の間で話題となり、更に恐怖感を広がらせた。ただ、マルフォイは2人がいなくなっても暗い表情1つせず、寧ろ愉快そうに過ごしていた。2週間程たったある日の魔法薬学の授業時にはスネイプ先生に校長に志願してはどうかと聞いていた程には絶好調である。
スプラウト先生の引率でパチュリー達は闇の魔術に対する防衛術のクラスに向かっていた。パチュリーは教室に入ると誰よりも早く1番離れた後ろの席に座って堂々と持参の魔法書を開く。他の生徒達も席に座ったが、やはりダンブルドア先生がいない事が不安なのか暗い表情だ。しかし、その表情はウキウキと教室に入って来たロックハートを見て唖然とした表情に変わった。
「さあ、さあ、何故そんな湿っぽい顔ばかり揃ってるのですか?皆さん、まだ気が付かないのですか?」
ロックハートの物分かりが悪いとでも言うような口調にパチュリーを中心に何人かの生徒達がムカッとした。ロックハートは相変わらず歯を見せながら笑ってゆっくりと話す。
「危険は去ったのです!!犯人は連行されました!!」
「いったい誰がそう言ったんですか?」
ロックハートの堂々とした発言にディーン・トーマスが大きな声で質問する。
「なかなか元気があってよろしい!!魔法大臣は100パーセント有罪の確信なくして、ハグリッドを連行したりしませんよ」
「いえ、するわね」
ロックハートの自信たっぷりな言葉にロンが何か言おうとしたが、その前に魔法書を読んでいたパチュリーが声を上げた。ロックハートはパチュリーの方へズンズン歩いて来て子供に言い聞かせるように言う。
「自慢するつもりはありませんが、ハグリッドの逮捕については、私はミス・ノーレッジより
「普通に自慢じゃない。そもそも貴方の言葉は信用出来ないわ。ヴァレンタインの時は『犯人は逃げた!』だの『秘密の部屋は永久に閉ざされた!』だの自信満々に言っていたのに、ついこの間2人襲われている。その前には骨折を治すと言いながらハリーの腕の骨を全て抜いて更に悪化させた。それなのに貴方を信用出来ると思うのかしら?」
パチュリーの挙げた例を聞いてロックハートは笑みを少し消してパチュリーを睨む。周りの生徒達もウンウンとパチュリーの言葉に頷いている。しばらくパチュリーと睨み合っていたロックハートはフンッと鼻を鳴らして授業に戻った。何も言い返せなかったのだろう。
フッ・・・勝ったわ。
★
テスト3日前の朝、朝食の席でマクゴナガル先生が新たな発表があると大きな声で言った。「良い知らせです」と言う言葉を聞いて大広間は蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。
「ダンブルドアが戻ってくるんだ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
「スリザリンの継承者を捕まえたんですね!?」
「「「キャァァァァァァァァ!!!」」」
「クィディッチの試合が開催されるんだ!!」
「「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
「ロックハートがクビになるのかしら?」
「「「「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・えぇ?」」」」」」
生徒達の叫びの後に歓声が大広間中に轟いていたが、何処かの誰かの質問を聞いて一瞬歓声を上げたがすぐに口を閉ざして歓声を止めた。パチュリーは柄にもなく肩を震わせて笑いを堪えており、先生方のテーブルもロックハートを除いた全員が必死に笑いを堪えていた。後から生徒達の間でも笑いを堪えるものが多数出てきた。離れた所に座っているハリーやロンもそれは同じだった。
「ちょ・・・ちょっと待っ・・・それは・・」
「ふ・・・不意打ち過ぎ・・プククッ」
しばらくすると全員落ち着いてきて、肩を震わせていたマクゴナガル先生もゴホンと咳払いをしてから発表した。
「ゴホンッ!!えぇ〜、スプラウト先生のお話では、とうとうマンドレイクが収穫出来るとの事です。今夜、石にされた人達を蘇生させることが出来るでしょう。言うまでもありませんが、その内の誰か1人が、誰に、または何に襲われたのか話してくれるかも知れません。私は、この恐ろしい1年が、犯人逮捕で終わりを迎えるのではないかと、期待しています」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
大広間で歓声が爆発した。本当に犯人が捕まってくれれば、もう恐れる必要もなくなるからだ。少し前までお通夜のような暗かった朝食が一気に明るい宴会のような朝食へと変わった。パチュリーはちょっっっっっっっとだけ残念に感じながらも朝食を終え、他の生徒達と授業に向かった。午前の授業も半ば終わりを告げ、次の魔法史の教室に向かおうとした時、ロックハートはこれまでにない程上機嫌で生徒達を引率していた。ロックハートはこれまでに何度も「危険は去った!!」と自信たっぷりに宣言するたびにそれが間違いだと証明されてきたが、今回はいつもより自信に満ち満ちている。
「私が言う事をよく聞いておきなさい。哀れにも石にされた人達が最初に口にする言葉は『ハグリッドだった』です。全く、マクゴナガル先生がまだこんな警戒措置が必要だと考えてらっしゃるのには驚きますね」
「そうね。貴方みたいな先生に、しかも女子に決闘で負けるような者を警戒措置に使っても効果は0ね」
パチュリーの言葉にロックハートは青筋を浮かべつつも笑みを絶やさなかった。しかしやはり腹が立っていたのか残り廊下1つになった所でロックハートは「もう必要ないでしょう」と言ってからパチュリーをひと睨みしてから去って行った。魔法史の授業が始まり、もうすぐ休憩時間を知らせるベルが鳴ると言う時に、学校中に魔法で拡声されたマクゴナガル先生の声が鳴り響いた。
『生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まりください』