七曜の転生者と魔法学校   作:☆桜椛★

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七曜の魔女とアズカバンの囚人
ホグワーツ特急とディメンター


 1994年、ヴワル大魔法図書館にある研究室にて、大魔法図書館の主であるパチュリー・ノーレッジは魔法で電子顕微鏡以上の性能を付与された顕微鏡を覗いては紙に羽ペンを走らせたり、積み上げられた本の中から1冊取り出してペラペラとページをめくったりして何かを考察していた。

 

 

「ふぅ・・・そろそろ400種類に到達しそうね。流石はバジリスクの猛毒。こんなの0.1mgで毒に強いドラゴンでも数日であの世行きね。ハリーったらよくこんな猛毒くらって即死しなかったわね・・・・今度解剖してみようかしら」

 

 

 パチュリーは昨年手に入れたバジリスクの毒を解析していた。しかし調べてみたら人間界でも存在を確認されている毒から、魔法界どころか、なんとヴワル大魔法図書館のどの図鑑や本にも載っていない全く未知の猛毒などが混ざり合っていた為、ホグワーツから戻って来てからお風呂と食事の時間以外は全て毒の研究に没頭していたのである。転生してから200年生きてきたパチュリーでもこんなに研究が長引いた事はほとんど無かった。更に数時間作業を続けていると、研究室の扉がノックされ、外から小悪魔の声が聞こえてきた。

 

 

『パチュリー様〜〜!ホグワーツからふくろう便が届きましたよ〜〜!』

 

「あら?もうそんな時期なの?分かったわ!ありがとうこぁ!」

 

 

 パチュリーは分厚い扉の向こうにいる小悪魔に少し大きめの声で礼を言ってから器材や本などを片付け、座りっぱなしだった椅子から腰を上げてググッと伸びをしてから研究室を出た。何時も座っていた机に向かうと頭に梟を乗せた小悪魔が紅茶をカップに注いでおり、パチュリーが椅子に再び腰掛けるとカップを差し出した。

 

 

「ありがとうこぁ。・・・・うん、美味しいわ」

 

「えへへ♪そう言って頂いて私も嬉しいです。どうぞ、ホグワーツからの手紙です」

 

 

 パチュリーは小悪魔が差し出してきた手紙の封を切り、中身を確認する。そして同封されていた教科書などのリストを見ようとした時、『背後人形』をプレゼントしたロックなんたらの事を思い出した為一瞬手を止めてしまったが、すぐにそう何度も似た様な輩が教師になる訳がないだろう多分と思い直してリストを確認した。幸い保育園児の為の絵本の様な題名の本は無かった為少しホッとしつつ他の教科書を確認した。

 

 

「ふぅ〜ん・・・新しく魔法生物飼育学と占い学が追加されるのね。必要な教科書は『怪物的な怪物の本』と『未来の霧を晴らす』、『中級変身術』と『三年生用の基本呪文集』か・・・うん、大丈夫そうね。色々と」

 

「良かったですねパチュリー様。でもなんか1冊だけ似た様な題名有りましたけどそれは大丈夫なのですか?」

 

「一応担当教師の名前が知り合いの名前だから大丈夫だと思うわ。・・・・さてと、こぁ。今からダイアゴン横丁に行くから準備しなさい。一緒に買いに行きましょう」

 

「はい!畏まりました!」

 

 

 小悪魔はパァッと花が咲いた様な笑顔を見せてすぐに出かける準備をする為に自分の部屋に向かって飛んで行った。蝙蝠の様な羽根をパタパタと動かしながら遠ざかる小悪魔の背中をパチュリーは可愛らしいものを見たとクスクス笑いながら見送った。

 

 

 

 

 

 

 数十分後、空間転移魔法でダイアゴン横丁にやって来たパチュリーと小悪魔の2人は早速教科書を買う為に本屋を目指していた。小悪魔は昨年パチュリーと一緒に来た時から偶にここに来ては魔法界特有の調味料や茶葉、またはヴワル大魔法図書館に置かれていない最新の魔法書などを買いに来ているのだが、今回はパチュリーと一緒にいるからか、フン♪フン♪と鼻唄を歌いながらルンルン気分で歩みを進めている。パチュリーもそんな子供の様な様子の小悪魔を見て微笑んでいる。

 

 

「ふふふ♪そんなに買い物が好きなのかしら?こぁ」

 

「買い物も好きですけど、パチュリー様と一緒に買い物が出来る事がとっても嬉しいんですよ〜♪パチュリー様はホグワーツから戻って来てからずっとバジリスクの猛毒の研究に没頭していてあまり研究室から出て来なかったじゃないですか」

 

「あら、嬉しい事言ってくれるわね。そんなに寂しかったのなら遠慮せずに声を掛けてくれたら良かったのに」

 

「ハッ!!べ、べべべ別に寂しかったとかそんな訳ではない訳ではないんですけど、えぇと!その・・・」///

 

 

 つい上機嫌だった為溢れた本音を指摘された小悪魔は顔を真っ赤にして「あうあう」とちょっとしたパニックに陥った。オロオロしている小悪魔をパチュリーも可愛く思い、クスクス笑いながら小悪魔の頭を撫でた。突然の出来事に固まった小悪魔だが、すぐに気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「ふふっ♪落ち着いたわね?さぁ、早く買い物を済ませましょうか」

 

「クゥ〜〜ン♪・・・・ハッ!?は、はい!」

 

(((((可愛い・・・)))))

 

 

 まるで小動物の様な小悪魔を見てパチュリーを含め、ダイアゴン横丁で偶々その場に居合わせた魔法使いや魔女達は心が癒された。その後、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店にて目的の教科書を購入し、一通り買い物を終えた2人は人間界に寄って喫茶店で紅茶とケーキを楽しんだ。途中、『怪物的な怪物の本』が暴れそうになったが、パチュリーがニッコリと笑みを浮かべてお願い(・・・)をすると借りてきた猫のように大人しくなった。

 

 

 

 

 

 

 数日後、パチュリーはホグワーツ特急の最後尾のコンパートメントでいつもの様に分厚い魔法書を読んでいた。しかしそこにはパチュリー以外に窓側の席でぐっすりと眠っている白髪が混じった鳶色の髪をした1人の男性がいた。彼はパチュリーがくる前からここで眠っており、パチュリーは一瞬不審者かと思い目を細めたが、荷物棚に置かれた彼の物らしき荷物に書かれていた名前を見て少し力を抜いた。カバンにはR・J・ルーピン教授と書かれており、パチュリーの記憶通りならばホグワーツからの手紙にあった新任教師だ。パチュリーがペラペラとページを捲っていると、コンパートメントの扉が開いてハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が入って来た。

 

「あ!パチュリー、久しぶりだね」

 

「あら、ハリーとその他2人。奇遇ね」

 

「ちょっとパチュリー。私とロンをその他呼ばわりしないでちょうだい。・・・・?その寝ている人は誰?」

 

 

 ハーマイオニーはコンパートメントの中に入るとルーピンを見つけてパチュリーに質問した。

 

 

「R・J・ルーピン教授。新しくホグワーツにくる教師みたいよ?おそらく闇の魔術に対する防衛術のね」

「大丈夫なのかい?なんだか強力な呪いをかけられたら1発で参っちまいそうだけど?ま、ちゃんと教えてくれるならいいけどね。・・・ところでハリー、話ってなんだい?」

 

「あぁ、そうだね。パチュリーも聞いてくれるかい?」

 

「別にいいわよ。読書ついでに聞いてあげる」

 

 

 パチュリーは読書をしつつもハリーの話を聞いた。ロンの両親の言い合いの事や列車に乗る前に言われたウィーズリー氏の警告と最初はあまりパチュリーもなんの事やら意味が分からなかったが、聴いているうちに1人の人物の名前が挙がった。その人物の名はシリウス・ブラック。なんでも12年前、たった一度の呪いで13人の人間を殺害し、アズカバンと呼ばれる魔法使いの為の要塞監獄に収容されていたが、なんでもハリーを狙う為に脱獄したらしい。

 全くタカが子供1人に根性あるわね。そのシリウス・ブラックと言う人物は。まぁ冗談は置いておいて・・・・問題はこの3バカがシリウス・ブラックについて何かしら問題を持って来そうなのよねぇ。原作知識は『秘密の部屋』までだけだが、そのシリウス・ブラックが何かしらの面倒事を運んで来る事は容易に想像出来る。さてさてどうしたものかしら?もしかしたらこぁに何か手伝ってもらわないといけない可能性もあるかしら?そう言えばあの子かなり魔法とかの扱いが上達してきたわね。今度何かこぁ専用の魔道具でも作ってあげようかしらね。

 パチュリーが魔法書を読みつつその様な事を考え始め、ハリー達の会話は全く耳に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 パチュリーがふと気付くと、窓の外は雨が激しく降っており、風も唸りを上げていた。ロンが身を乗り出してルーピン教授の体越しに真っ暗になっている窓の外を見た。

 

 

「もうそろそろ着く頃だ」

 

 ロンの言葉が終わるか終わらないうちに汽車は徐々にスピードを落とし始めた。ロンはルーピン教授の脇をすり抜けて窓から外を眺める。

 

 

「お!調子いいぞ。あぁ、もう腹ペコだ。宴会が待ち遠しい・・・」

 

「喜んでいるところ申し訳ないけど、ホグワーツにはまだ着かないはずよ」

 

「え?じゃ、なんで止まるんだ?」

 

 

 ロンが疑問を口にする間も汽車はどんどん速度を落としていった。ピストンの音が弱くなっていき、窓を打つ雨風の音が一層激しく聞こえる。ハリーが立ち上がって通路の様子を窺うと、同じ車両のどのコンパートメントからも他の生徒達が不思議そうに通路に顔を出していた。すると突然汽車がガクンと止まった。遠くの方で荷物棚からトランクが落ちる音や、トランクが足の上に落ちたのか悲痛な叫び声が響いてくる。そしてなんの前触れも無く明かりが一斉に消えて辺りが真っ暗になった。パチュリーはこっそり暗視魔法で暗闇の中でも見える様にしたが、ハリー達は何も見えない為ちょっと混乱している。

 

 

「いったい何が起こっているんだ?」

 

「イタッ!!ロン!今の私の足だったのよ!!」

 

「故障しちゃったのかな?・・・グフッ!?ちょ!誰!?」

 

「ごめんね!何がどうなったか分かる?アイタッ!!」

 

「その声・・・ネビルか!?なんで僕に倒れてくるのさ!」

 

「ハリー?君なの?なんで僕の下にいるの?」

 

「自分の胸に聞いてみたら?私ちょっと運転手の所に行ってくるわ。何事なのか聞いて来アイタッ!!誰!?」

 

「そっちこそだあれ?」

 

「ジニー?貴女何してるの?」

 

「あれ?その声ハーマイオニー?」

 

(何このカオス・・・と言うか昼間の様に見える私から見たらコントを見ているみたいね)

 

 

 コンパートメント内は何やら面白い状況になっており、暗視魔法で暗闇の中でも昼間の様に見えるパチュリーはその様子を呆れた表情で見ていた。するとパチュリーの正面に座っていたルーピン教授が目を覚まし、辺りの様子を観察して険しい顔をして警戒しだした。

 

 

「静かに!!・・・動かないで」

 

 

 しわがれ声にハリー達はピタリと動きを止め、ルーピン教授が何か手をゴソゴソさせているとカチリと言う音と共にコンパートメントに明かりが灯った。ルーピン教授はゆっくり立ち上がって手の平に炎を出現させて前に突き出した。ルーピン教授が扉に辿り着く前に扉はゆっくりと開いた。そこには他のコンパートメントの生徒や汽車の運転手どころか、明らかに人間ではないマントを着た天井にまで届きそうな黒い影だった。顔はスッポリと頭巾で覆われており、マントから突き出した手はまるで死人の様に細かった。パチュリーはまるで亡霊の様な生き物を見て「へぇ?」と珍しそうにそれを観察した。

 吸魂鬼、別名『ディメンター』と呼ばれる魂を吸い取る生き物だ。ディメンターは魔法界ではアズカバンの警備員の様な役割をしており、『キス』と呼ばれる行為で人間から魂を吸い取って廃人同様にする事が出来る謂わば吸血鬼の魂バージョンの様な生き物だ。パチュリーも大図書館の図鑑や本で知っているだけで、本物を目にするのは初めてだった。パチュリーがディメンターを眺めていると突然ハリーが倒れ、ビクビクと痙攣し始めた。ハーマイオニーやジニー達は顔を蒼ざめて息を呑んだ。ルーピン教授は杖を取り出してディメンターに向けた。

 

 

「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない!去れ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・え?私?」

 

 

 ルーピン教授の警告をガン無視するディメンターはコンパートメント内を見渡し、パチュリーの方を向くとそのままジッと見つめ(?)た。パチュリーは自分が見られている事に気付いて自分を指差しながら首を傾げた。しばらくディメンターはパチュリーを見つめた後、ゆっくりと滑る様に浮きながらパチュリーに近づこうとした。ルーピンはそれを見て慌ててブツブツと呪文を唱えると、ルーピン教授の杖からディメンターに向かって銀色の光が飛び出した。ディメンターはそれを受けてスーッとパチュリーの方を見ながら去って行った。しばらくの間コンパートメント内を沈黙が支配していたが、汽車が再び動き出した時の揺れを切っ掛けにハリーが倒れている事を思い出したハーマイオニーがハリーの頬を叩き始めた。

 

 

「ハリー!ハリー!しっかりして!!」

 

「・・・・ウ、う〜〜ん?」

 

「ハリー、大丈夫かい?」

 

 

 ハリーはすぐに目を覚まし、鼻の眼鏡を押し上げながら体を起こした。それをハーマイオニーとロンが手伝って席に座らせる。ハリーはコンパートメント内を見回して疑問を口にした。

 

 

「えっと、何が起こったの?あいつは?どこに行ったの?」

 

「思ったより早く目が覚めたわね。あの様子なら2時間くらい眠ったままだと思ったわ。いい?ハリー。貴方さっきディメンターに何かされて突然倒れたのよ」

 

「ディメンター?なんだいそれ?」

「吸魂鬼・・・まぁ、魂を吸い取る魔法界の生き物よ。そうね・・・ちょっと違うけれど、魂を食べる吸血鬼・・・って言ったら分かるかしら?」

 

 

 パチュリーの説明を聞いてハリーは段々と状況を読み込み、顔を蒼ざめていった。ハリーの様子を見たルーピン教授がパキッと大きな板チョコを割ってハリー達に渡した。

 

 

「食べるといい。気分が良くなるから。君にも・・・」

 

「いいえ、私は結構よ。大して気分が悪いとかそんな事は無いわ」

 

「ふむ・・・どうやらその様だね。あぁ、君達は食べておきなさい。元気になる。私はこれから運転手と話をしてこなければ。失礼・・・」

 

 

 ルーピン教授はそう言い残して通路へと消えた。ハリーは何が起こったのかハーマイオニー達に詳しく聞き始めた。パチュリーはその会話には交ざらずに窓の外に目を向けた。窓ガラスに付いていた水滴は凍り付いており、僅かに氷の隙間から見える外には複数のディメンター達が辺りを巡回する様に飛び回っていた。


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