七曜の転生者と魔法学校   作:☆桜椛★

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ヒッポグリフとパニック

 大広間で昼食を終えたパチュリー達は城の外へ向かい、『魔法生物飼育学』の最初の授業に向かった。昨日降っていた雨は上がり、空は澄み切った薄ねずみ色をしている。禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋を目指して芝生を下っていると、パチュリーは背後から声を掛けられた。

 

 

「やあ、パチュリー」

 

「ん?あら、ドラコじゃない。この授業スリザリンとの合同授業だったのね」

 

 

 いつも通りの笑みを浮かべているマルフォイとその他2人をチラ見しながらパチュリーは初めてこの授業がスリザリンとの合同授業だと知った。軽い挨拶を済ませるとマルフォイ達はハリーの話で盛り上がり、ゲラゲラ笑いながら離れて行った。目的地に到着すると、ハグリッドはファングと言う名のボアハウンド犬と一緒に小屋の外で生徒達を待っていた。少し離れた場所からでも分かる程ハグリッドの顔は嬉しそうで、早く授業を始めたいのか異常にソワソワしていた。

 

 

「さぁ、急げ!早く来いや!今日はみんなにいいもんがあるぞ!凄い授業だぞ!みんな来たか?・・・よーし。ついて来いや!」

 

「凄く嬉しそうね、彼」

 

「うん、僕もあんなに上機嫌なハグリッドは滅多に見ないかな」

 

 

 パチュリーがフン♪フン♪と鼻唄を歌いながら大股で歩き出したハグリッドを見ながら率直な感想を述べた。偶々隣に立っていたハリーもハグリッドを珍しい物を見たという様な顔で見ており、何故か機嫌が悪そうだったハーマイオニーとロンもハリーの言葉に頷いていた。ハグリッドは禁じられた森の縁に沿って5分程歩いて行き、パチュリー達を放牧場の様な場所に連れてきた。パチュリー以外の生徒達は何かあるのかと辺りを見回すが、そこには何も居なかった。ハグリッドはザワザワと騒いでいる生徒達の方に向き直り、「みんな!ここの柵の周りに集まれ!」と大声で号令をかけた。

 

 

「そーだ、ちゃんと見えるようにしろよ?・・・さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった」

 

「・・・・どうやって?どうやって教科書を開けばいいんです?」

 

 

 マルフォイの冷たい気取った声の質問を聞いてハグリッドは首を傾げた。マルフォイはこの授業の教科書である「怪物的な怪物の本」を取り出したが、紐でグルグル巻きにしており、不機嫌そうな本は唸り声を上げていた。それを見て他の生徒達も次々と本を取り出したが、ベルトで縛っていたり、きっちりした袋に押し込んでいたり、大きなクリップで挟んでいる者も居た。それらの教科書を見てハグリッドはガックリと来たようだった。

 

 

「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?本当に?だーれも?」

 

「あ、私はもう全部読んだわよ?なかなか面白かったわ」

 

「「「「「何ぃ!!?」」」」」

 

 

 パチュリーが大人しくなった教科書を広げながら返事すると、パチュリーの周りにいた生徒達は信じられないと言う様な顔でパチュリーの方を見た。実際に大人しく開かれている本を見ると周りから「嘘だろ?」とか「マジか!?」などの驚きの声があがり、ハグリッドはそんな生徒達の反応とは反対に嬉しそうな顔をしていた。

 

 

「1人だけか?ええか?お前さん達、撫でりゃー良かったんだ。そうすりゃこいつは大人しくなる」

 

 

 ハグリッドは近くにいたハーマイオニーから教科書を取り上げると、本を縛り付けていたスペロテープをビリリと剥がした。テープが剥がれた途端本はハグリッドに噛み付こうとしたが、ハグリッドの巨大な親指で背表紙を一撫でされると一瞬震えてからパタンと開き、ハグリッドの手の中で大人しくなった。それを見てマルフォイは鼻で笑って声を上げた。

 

 

「ああ、僕たちって、みんな、なんて愚かだったんだろう!撫でりゃー良かったんだ!どうして思いつかなかったのかねぇ!?」

 

「お・・・俺はこいつらが愉快な奴等だと思ったんだが・・・」

 

 

「ああ恐ろしく愉快ですよ!手を噛みちぎろうとする本を持たせるなんて、まったくユーモアたっぷりだ!」

 

「黙れ!!マルフォイ!!」

 

 

 自信なさげな声を上げるハグリッドを責めるマルフォイにハリーが怒鳴り声を上げた。

 どうでもいいけど私の耳元で怒鳴り声を上げないでほしいわ。耳がキーン!てしたわよ?

 

 

「ハリー、うるさいわよ。耳がキーンてなったわよ」

 

「え?あ、ごめんパチュリー」

 

 

 パチュリーがジト目でハリーを見るとハリーは申し訳なさそうに謝罪し、マルフォイはその様子を見てハリーを鼻で笑っていたが、ハリーが怒鳴った原因はマルフォイにあるためパチュリーが睨むと気まずそうに視線を逸らした。

 

 

「えーっと、そんじゃ、教科書はある・・・と。そいで・・・なんだっけな?」ボソッ

 

(おい今なんて言った?)

 

「えーっと・・・こんだぁ、魔法生物が必要だな・・・ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ・・・」

 

 

 ハグリッドは大股で禁じられた森の中に入って行った。ハグリッドの姿が見えなくなると、再びマルフォイは声を張り上げた。

 

 

「まったく、この学校はどうなっているのだろうねぇ?あのウドの大木が教えるなんて、父上に申し上げたら、卒倒なさるだろうなぁ〜」

 

「黙れ!!!マルフォ「うるさい!!」痛ぁ!!?ちょ!待って!耳引っ張らないで!!」

 

「あはははは♪何やっているんだポッ「貴方もさっきから騒がしい!今は授業中よ!」イダダダダダダ!?わ、悪かった!僕が悪かったから耳を離して」

 

 

 パチュリーがハリーとマルフォイの耳を引っ張って2人を黙らせていると、放牧場の向こう側からある生き物が数十頭早足でやって来た。胴と後脚、尻尾は馬だが、前脚と羽根、そして頭部は鷲そっくりな見た目のその奇妙な生物達はそれぞれ分厚い皮の首輪をつけ、それを繋ぐ長い鎖をハグリッドが全部まとめて握っていた。「ドウ、ドウ」と大きくハグリッドが声を掛けて鎖を振るうとそれ等は生徒達のいる柵の方へ移動した。ハグリッドはみんなに手を振りながら嬉しそうに大声を出した。

 

 

「ヒッポグリフだ!美しかろう、え?」

 

「えぇ、確かに美しいわね」

 

 

 ハグリッドの問いにパチュリーは素直に返した。パチュリーも過去に何度か野生のヒッポグリフは見た事はあるが、野生の為あまり体は綺麗ではなかった。それに比べ、ハグリッドが連れて来たヒッポグリフ達はしっかりと手入れされており、美しさが引き立てられていた。パチュリーの感想を聞いてハグリッドは嬉しそうに頷き、ヒッポグリフについて説明を始めた。

 

 

「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければならねえ事は、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは。絶対、侮辱してはなんねぇ。そんな事をしてみろ、それがお前さん達の最後のしわざになるかもしんねぇぞ?」

 

 

 ハグリッドが真面目な雰囲気を出しながら話しているため生徒達も真面目に話を聞いていた。自分の行動によって最悪死ぬかも知れないと聞いたら真面目になるのは当たり前だろう。

 

 

「必ず、ヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ。それが礼儀ってもんだろう?な?こいつの側まで歩いて行く。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、素早く離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな」

 

「痛いで済めばいいのだけどね」

 

「大丈夫だって・・・多分な。よ〜〜し!!誰が1番乗りだ?」

 

 

 ハグリッドの質問に答える代わりに殆どの生徒が後退りした。何人かは退がらなかったが、パチュリー以外の生徒はかなり不安そうな顔をしている。ヒッポグリフは繋がれているのが気に入らないのか、猛々しい首を振りたて、たくましい羽をばたつかせた。それによってますます生徒達は後退りし、ハグリッドは「誰もおらんのか?」と悲しそうな顔をしながら縋るように聞いている。いつまで経っても名乗り出ない為、仕方なくパチュリーが前に出ようとすると、その前にハリーが名乗り出た。これに午前の占いを知っている生徒達はあっと息を呑んだ。

 

 

「僕、やるよ」

 

「偉いぞ、ハリー!よーし、そんじゃ・・・バックビークとやってみよう」

 

 

 ハグリッドはバックビークと言う名の灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、革の首輪を外した。ハリーは放牧場の柵を乗り越えてゆっくりとバックビークに歩み寄って行く。

 

 

「さぁ、落ち着け、ハリー。目をそらすなよ?なるべく瞬きするな・・・ヒッポグリフは目をショボショボさせる奴を信用せんからな・・・・そーだ、ハリー、それでええ。・・・それ、お辞儀だ」

 

 

 ハリーはまっすぐバックビークを見据えながら深くお辞儀をした。バックビークはその鋭い頭をハリーの方に向け、猛々しいオレンジ色の目の片方だけでハリーを睨んだまま気位高くハリーを見据え、動かなかった。

 

 

「あ〜〜・・・・こりゃダメかもしれんな。よーし、退がって。ハリー、ゆっくりだ」

 

 

 ハリーがハグリッドに従ってゆっくり下がろうとした丁度その時、バックビークは上げていた頭をハリーに下げてお辞儀を返した。周りの生徒達は驚きの声を上げ、ハグリッドはその様子を見て狂喜した。

 

 

「やったぞ、ハリー!よーし、触ってもええぞ!嘴を撫でてやれ、ほれ!」

 

 

 ハリーはゆっくりとバックビークに歩み寄り、手を伸ばして嘴を何度か撫でた。するとバックビークはそれを楽しむかの様にトロリと目を閉じた。それを見て生徒達はパチパチと拍手を送ったが、マルフォイとクラッブとゴイルの3名は酷くがっかりした様子だった。するとハグリッドは驚いた事にハリーにバックビークに乗るよう言った。ハリーはオロオロとしたが直ぐに落ち着き、ハグリッドにあれこれ教えてもらいながらバックビークに跨った。

 

 

「よーし、いいぞ〜・・・・そーーれ行け!!」

 

 

 ハグリッドがバックビークの尻をパシンと叩くとバックビークは飛び上がった。ハリーは振り落とされない様に必死にしがみついている。バックビークは放牧場の上空を一周すると急降下して地上に降りた。ハグリッドは「よーく出来た、ハリー!」と大声を出し、生徒達はマルフォイ達以外が歓声をあげた。

 

 

「よーしと。他にやってみたいモンはおるか?」

 

 

 ハリーの成功に励まされて他の生徒達も恐々放牧場に入って行った。ハグリッドは一頭ずつヒッポグリフを解き放ち、やがてあちこちでみんなヒッポグリフにお辞儀し始めた。ただネビルのヒッポグリフはお辞儀をする様子がなかった為何度も慌てて逃げていた。

 まぁ、そんな事は置いといてだ・・・・。

 

 

「・・・・え〜〜っと・・・・・ハグリッド先生?ヒッポグリフが先にお辞儀して来た(・・・・・・・・・)場合はどうすればいいのですか?」

 

「・・・・正直言って分からん。こんな事は初めてだ」

 

 

 私がお辞儀しようとしたらヒッポグリフの方が先に私に向かってお辞儀してきた。隣ではハグリッドが腕を組みながら首を傾げている。確か教科書にはヒッポグリフはプライドが非常に高い事で有名な魔法生物よね?そういえば大図書館の本の1つに『ヒッポグリフは圧倒的な力の差を感じ取ると、極稀に相手を敬う事がある』と書いてあった気がする。・・・・・と、言う事は?

 

 

「(マジかぁ・・・)取り敢えず、お辞儀を返しておきましょう」

 

「それがええ」

 

 

 パチュリーがお辞儀を返すとヒッポグリフも頭を上げた。パチュリーが嘴を撫でてやると気持ち良さそうにした。見た目に反する可愛らしい行動にパチュリーも微笑んでいると、マルフォイ達とハリーが一緒にいるのを見つけた。珍しい組み合わせなので見ていると、マルフォイがバックビークの嘴を撫でながら尊大な態度でハリーと話していた。

 

 

「簡単じゃあないか。ポッターにも出来るんだ、簡単に違いないと思ったよ・・・・おまえ、全然危険なんかじゃないなぁ?」

 

「ちょっとドラコ、やめなさい」

 

 

 パチュリーは何やら嫌な予感がしたためマルフォイに注意した。しかしマルフォイは大丈夫だと言いながらバックビークに話しかけた。

 

 

「なぁ、そうだろう?醜いデカブツの野獣君」

 

「ッ!!ドラコ!!」

 

 

 マルフォイがそんな事を言った瞬間、バックビークの鋭い鉤爪が光った。マルフォイはヒィーッ!と悲鳴をあげ、ハグリッドがバックビークに首輪をつけようと格闘していた。パチュリーはすぐさまドラコの腕の様子を見た。少し深く切られて血が出ているがこの位ならば医務室で直ぐに治せると判断した。取り敢えず早めに治そうとしたが、マルフォイが暴れる為やり難い。終いには「死んじゃう!」とデカイ声で喚きまくった。それを聞いてクラス中がパニックに陥った。

 

 

「僕、死んじゃう!!見てよ!あいつ、僕を殺した!!」

 

「あーーもう!じゃあなんで貴方生きてるのよ!?暴れたら余計傷が酷くなるでしょう!!いい加減にしないと私が力尽くで黙らせるわよ!?」

 

「だって僕死「あ〝?」ナンデモナイデス・・・・」

 

 

 パチュリーが鋭い目付きで喚きまくるマルフォイを睨むとピタリと喚き声は止まった。するとバックビークを繋ぎなおしたハグリッドがパチュリーの所にやって来た。

 

 

「おい!大丈夫か!!?」

 

「大丈夫よ。幸い腕を切り落とされるとかそんな大怪我ではないわ。でもすぐに治療は必要ね」

 

「そうか、ちょいと退いてくれ。その子をこっから連れ出さにゃー!すまんが手を貸してくれんか?」

 

「分かったわ。早く行きましょう」

 

 

 ハグリッドはマルフォイを軽々と抱え上げると城に向かって歩いて行き、パチュリーは先に走ってゲートを開けた。

 

 

「はぁ・・・幸先悪いわね・・・・」


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