マルフォイがバックビークに腕を切られた事故から数日間、マルフォイはパチュリー達の前には現れず、木曜日の昼頃にあったスリザリンとグリフィンドール合同の魔法薬学の授業が半分程終わった頃に姿を見せた。包帯でグルグル巻きにした右腕を吊り、ふん反り返って地下牢教室に入って来たマルフォイは痛みを勇敢に耐えているようなしかめっ面をしていた。
「先生、すみません。遅れてしまいました」
「ふむ、まぁその怪我ならば仕方あるまい。そうだな・・・ミス・ノーレッジの机に座りたまえ」
マルフォイはスネイプ先生に言われた通りパチュリーの隣の空いた席に着いた。パチュリーは右腕を痛そうにしているマルフォイの右腕を見ながら授業中の為小声でマルフォイに話し掛けた。
「随分と大袈裟な処置ね。マダム・ポンフリーの治療を受けたのならこれだけの期間があれば完治しているはずよ?」
「えっと、まぁ色々事情があってね。迷惑は掛けないから黙っててくれるかい?」
「まぁどうせハリー達への嫌がらせでしょう?別に貴方達の仲が悪いのは知っているけど、私の注意を無視するのはどうなのかしら?下手したら貴方の右腕無くなってたかもしれないのよ?」
「う〝っ!・・・それはゴメン」
パチュリーの言葉にぐうの音も出ないマルフォイは素直に謝罪し、話を打ち切って授業に意識を戻した。今日の授業は新しく『縮み薬』と言う一種の若返りの薬だ。ただし間違った調合をすると毒薬に早変わりする為注意は必要である。マルフォイは腕が使えない(フリをしている)為代わりにパチュリーが材料の雛菊の根を刻もうとナイフを手に持つと視線を感じ、そちらを見てみるとハリーとロンのペアがジーッとパチュリーを見ていた。どうせ2人の事だから「マルフォイの根を滅多切りにしてやれ!」とでも思っているのだろうと予想したパチュリーはそれを完全に無視してキチンと同じに揃えて刻み、他の作業も完璧に済ませて薬を完成させるとハリー達の方から舌打ちが聞こえた。
「チッ!パチュリーの奴、マルフォイの分の薬まで完成させちゃったよ」
「パチュリーったら、何を考えてるんだ?」
(ぶっ飛ばすわよ馬鹿コンビ)
聞こえて来たハリー達の会話を聞いてパチュリーはまた改造した『背後人形』をくっ付けてやろうと思った。この『背後人形』は赤ん坊ではなく、新しく血塗れの大人の女性の人形だ。しかも付けた人間の体力をある程度吸い取って疲れやすくさせ、常に「殺して・・・殺してちょうだい」と囁いてくるのだ。ただしそれでは先ずバレずに対象に付ける事が困難な為、血涙を流しながら笑う髑髏のバッチ型にし、対象に付けると人型になるようにしたものだ。
パチュリーがそう考えていると数個先の鍋でまたネビルが問題を起こしたらしく、スネイプ先生の声が聞こえて来た。会話の内容からしてネビルの鍋の薬は本来の緑色の液体ではなく、オレンジ色になっていたらしい。
「オレンジ色か、ロングボトム。教えて頂きたいものだが、君の分厚い頭蓋骨を突き抜けて入っていくものがあるのかね?我輩はハッキリと言った筈だ。ネズミの心臓は1つでいいと。聞こえなかったのか?ヒルの汁はほんの少しでいいと、明確に申し上げたつもりだが?ロングボトム、いったい我輩はどうすれば君に理解していただけるのかな?」
「先生、お願いです。私にネビルを手伝わせてください。ネビルにちゃんと直させます」
「君にでしゃばるよう頼んだ覚えはないがね、ミス・グレンジャー。ロングボトム、このクラスの最後に、この薬を君のヒキガエルに数滴飲ませて、どうなるか見てみることにする。そうすれば、多分君もまともにやろうという気になるだろう」
スネイプ先生が恐怖で息も出来ないネビルを置いてその場を去ると、ネビルはハーマイオニーに「助けてよ!」と呻くように頼んだ。ハーマイオニーが頷いてこっそり手伝っているのを眺めているとスネイプ先生の声が地下牢教室に響いた。
「材料は全部加えた筈だ。この薬は服用する前に煮込まねばならぬ。グツグツ煮えている間、あと片付けをしておけ。後でロングボトムの薬を試す事にする」
パチュリーがネビルの方を見てみると、必死に鍋を掻き混ぜているネビルの姿があった。近くにいるハーマイオニーがバレないように唇を動かさないように指示を出しているが、見た所全く間に合いそうにない。パチュリーはスネイプ先生の合格を受けた鍋に残っている『縮み薬』を小瓶に少し移してポケットの中に隠した。そして片付けを終えるとスネイプ先生がクラスの全員をネビルの鍋に集めた。
「ロングボトムのヒキガエルがどうなるか、よく見たまえ。なんとか『縮み薬』が出来上がっていればヒキガエルはおたまじゃくしになる。もし造り方を間違えていれば・・・・我輩は間違いなくこっちの方だと思うが、ヒキガエルは毒にやられる筈だ」
ネビルは顔を蒼ざめ、ハーマイオニーは表情には出していないが雰囲気で焦っているのが分かる。鍋の薬は少し薄くなっているがまだオレンジ色でこのままではヒキガエルのトレバーは飲んで薬が効果を発揮する約3秒後には天に召されるだろう。生徒達が見守る中、スネイプ先生はスプーンをネビルの鍋に突っ込み、トレバーの口に2、3滴流し込んだ。ハーマイオニーが顔を逸らし、ネビルは目を覆っている中、薬を飲んだトレバーはポンッ!と音を発しておたまじゃくしに姿を変え、スネイプ先生の腕の中でクネクネしていた。グリフィンドールのみんなが拍手喝采する中、信じられないと驚愕の表情を浮かべるスネイプ先生は鍋の中の薬と手の中のおたまじゃくしを交互に見る。
「どういう事だ?この色は間違いなく・・・いや、しかし・・・ううむ・・・まぁ、どちらにせよ、グリフィンドールは5点減点!手伝うなと言った筈だ、ミス・グレンジャー。バレていないと思ったか?授業終了」
授業が終わり、未だ顔を顰めながらネビルの鍋を睨んでいるスネイプ先生を残して生徒達は玄関ホールへの階段を上がって行った。パチュリーはすぐ人気が無い場所に移動すると、ポケットから
「なんとか上手くいったわね。さぁ、証拠隠滅っと」
パチュリーがパチンと指を鳴らすと小瓶の中の薬が跡形も無く消え去り、残った小瓶をポケットに仕舞い込み、次の授業へ向かった。
『闇の魔術に対する防衛術』の最初のクラスにやって来た時はまだルーピン先生は来ておらず、パチュリーは席に座って魔法書を読んでいた。しばらく読んでいるとやっとルーピン先生がやって来て、くたびれた古いカバンを先生用の机に置くと「やぁ、みんな」と曖昧に微笑みながら挨拶した。
「教科書はカバンに戻してもらおうかな。今日は実地練習をする事にしよう。杖だけあればいいよ」
生徒達は何人か怪訝そうな顔をするも、面白そうだと思って「ついておいで」と言って教室を出て行くルーピン先生の後を追った。道中、空中で逆さまになりながらあちこちの鍵穴にチューインガムを突っ込んでいるピーブズと遭遇したが、ルーピン先生が「ワディワジ、逆詰め!」と唱えると鍵穴に突っ込まれていたチューインガムが弾丸のように飛び出してピーブズの鼻の穴に命中して撃退するという事があったが、目的地らしい職員室に辿り着いた。ルーピン先生の指示でみんなが部屋の奥へと進むと、先生方の着替え用ローブを入れる古い洋箪笥が置かれており、ルーピン先生がその傍に立つと、箪笥がガタガタと揺れてバーンと壁から離れた。
「心配しなくていい。中にまね妖怪・・・ボガートが入っているんだ」
((((それは心配するべき事なんじゃ?))))
殆どの生徒達がそう思っている間も箪笥はガタガタ震えており、威嚇しているのか取っ手の部分までガタガタと激しい音を立てている。
「ボガートは暗くて狭い所を好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、流しの下の食器棚などだ。私は一度、大きな柱時計に引っかかっている奴に出会った事がある。ここにいるのは昨日の午後に入り込んだ奴で、3年生の実習に使いたいから、先生方にはそのまま放っておいて頂きたいと、校長先生にお願いしたんですよ。それでは、最初の問題ですが、まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」
「ハイ!形態模写妖怪です。私達が1番怖いと思うのはコレだ、と判断すると、それに姿を変える事が出来ます」
「私でもそんなに上手くは説明出来なかったろう」
ルーピン先生の言葉でハーマイオニーは若干頬を染めた。パチュリーも最初はなんとかハートみたいな授業ならホグワーツごと爆破しようと考えていたが、思ったよりもちゃんと授業をしている為、少しホッとしていた。
「だから、中の暗がりに座り込んでいるボガートは、まだなんの姿にもなっていない。箪笥の外にいる誰かが何を怖がるのか知らない。だからボガートが1人の時はどんな姿をしているか誰も知らない。しかし、私が外に出してやればたちまちそれぞれが1番怖いと思っているものに変身する。つまり、初めっから私達の方がボガートより大変有利な立場にありますが、ハリー、何故だかわかるかな?」
「えーっと、僕達、人数が沢山いるので、どんな姿に変身すればいいか分からない?」
「その通り、ボガート退治をする時は誰かと一緒にするのが1番いい。向こうが混乱するからね。私は過去に一度に2人を脅そうとして2人の怖いものが合体して全く怖くないものに変身したボガートを見た事がある。そしてボガートを退散させる呪文も簡単だ。しかし精神力が必要だ。こいつを本当にやっつけるのは笑いなんだ。君達はボガートに自分が滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。初めは杖無しで言ってみよう。私に続いて・・・リディクラス、バカバカしい」
「「「「リディクラス、バカバカしい!」」」」
「そう、とっても上手だ。でもそれだけじゃ足りないんだ。そこで、ネビル、ちょっと前に来て。さて、ネビル。君が世界一怖いものはなんだい?」
「え、えっと・・・
「ん?ごめんネビル。よく聞こえなかった」
「その・・・スネイプ先生」
「「「「プッ!!!」」」」
ネビルの答えた世界一怖いものを聞いてクラスの大半が吹き出した。ネビルらしいと言えばネビルらしい。そんな中ルーピン先生は真面目な顔をしており、次はネビルと一緒に暮らしているお婆さんの服装の特徴を聞いた。
「いいかいネビル。その服装を強く思い浮かべるんだ。ボガートがスネイプ先生に変身したらその服装を思い浮かべながらさっきの呪文、『リディクラス、バカバカしい』と唱えるんだ。上手くいけばボガート・スネイプ先生はてっぺんにハゲタカが付いた帽子を被って、緑のドレスを着て、赤いハンドバッグを持った姿になってしまう」
これを聞いてパチュリーも含めてみんなが想像してしまい、大爆笑した。ルーピン先生はみんなに今の内に何が1番怖いかを考えて、その姿をどうやったら面白く出来るか考えておくよう言った。が、ここでパチュリーは悩んだ。
・・・私の1番怖い物ってなんだ?
パチュリーが考えているうちに実地練習は始まり、ルーピン先生が杖で箪笥の扉を開けた。すると中からスネイプ先生に変身したボガートが現れ、ネビルを睨み付けた。ネビルは数歩後ずさったが上ずった声で呪文を唱えた。
「リ、リ、リディクラス!!!」
するとパチン!と鞭で打つような音と共にスネイプ先生が躓き、服装が先程ネビルが言っていたお婆さんの服装に変わった。クラスのみんなから笑い声が上がり、ボガートは途方にくれたように立ち止まった。
「パーバティ、前へ!」
ルーピン先生の呼び声にパーバティがネビルと入れ替わって前に出た。スネイプがパーバティを見るとパチン!と音がして血塗れの包帯を巻いたミイラになった。パーバティはすぐに「リディクラス!」と叫ぶとミイラは自分の包帯が絡まって頭から先につんのめり、頭が転がり落ちた。ルーピン先生もそれを見て笑いながら次の生徒を呼んだ。そして巨大なガラガラヘビがピエロのビックリ箱になったり、ゾンビがスーツ姿で名刺を差し出したり、切断された腕がネズミ捕りに挟まれたり、13日の金曜日の殺人鬼がどこぞの配管工ブラザーズの兄の服装になったりと、いくつか変なのが混じっていたがみんなから笑いが上がった。ちなみにロンとハーマイオニーはボガートが血涙を流しながら笑ってヨチヨチ近付いてくる赤ん坊・・・つまり『背後人形』になったため気絶して何人かの生徒に医務室に運ばれた。
「さっきのは私でも怖いな・・・ンンッ!さて、もう少しだけやろう。パチュリー、前へ」
「私が怖い物ねぇ?正直分からないわね・・・」
パチュリーが気になりつつも前に出るとボガート・『背後人形』がパチュリーを見た。しばらくジーッと見られていたが、急にペコリと頭を下げられて男とも女とも言えない声で『読ミ取レナイデス。勘弁シテクダサイ』と言われて思わず「は?」と聞き返してしまった。ルーピン先生もクラスのみんなもポカンと、口を開けてボガートを眺めており、ボガートは次の瞬間パチン!と音を立てて細かい煙の筋となって消え去った。その後終業のベルが鳴るまで皆唖然とボガートのいた場所を眺めており、我に返ったルーピン先生は皆に幾つか宿題を出して授業を終わらせた。