ルーピン先生の『闇の魔術に対する防衛術』の授業はたちまちホグワーツの殆どの生徒達の1番人気の授業になった。マルフォイやその取り巻きのスリザリン寮生達は常にルーピン先生のあら探しをしていたが、パチュリーを含めて誰1人として気にする生徒はいなかった。ルーピン先生の授業は基本実地教習で、ボガートの次は
逆にハグリッドの『魔法生物飼育学』はパチュリーからしても面白くもなんともない授業となってしまった。マルフォイの所為でハグリッドは完全に自信を失ってしまい、毎回毎回
そして時間は流れ、10月になったある日の事、変身術の授業の時間にパチュリーが教室の外に並んで待っていると、後方の列が騒がしくなった。パチュリーが気になって読んでいた魔法書に栞を挟んで閉じ、騒ぎの中心に向かった。そこには泣いているラベンダー・ブラウンと、パーバティやハリー、ロン、ハーマイオニーなどの見知った顔が集まっていた。
「ちょっと、何があったのよ?なんでラベンダーが泣いてるの?」
「あ、パチュリー。実は今朝ラベンダーの家から手紙が来てさ、彼女のウサギのビンキーが狐に殺されちゃったらしいんだ」
「成る程、それで……」
自分のペットが死んでしまったから泣いているということか。周りの生徒達も泣き続けるラベンダーを気の毒そうに見つめる。するとラベンダーは何かに後悔した様子で叫んだ。
「私、迂闊だったわ!!みんな今日が何日か、知ってる?」
「え?え〜〜っと・・・何日だっけ?」
「・・・・・10月16日。初めての占い学の授業でトレローニー先生が彼女に言った、彼女が恐れている事が起きると予言した日ね?」
パチュリーが口にした言葉を聞いて周りにいた生徒達はどよめいた。皆スッカリ忘れていたが、今回の事は確かにトレローニー先生は彼女に向けて「貴女が恐れている事は、10月16日に起こりますよ!」と予言した内容と合致しているのだ。
「そうよ!トレローニー先生は正しかったんだわ!正しかったのよ!」
泣き叫ぶラベンダーに今や並んでいた生徒達全員が注目していた。するとハーマイオニーが一瞬躊躇うような素振りをしてからラベンダーに質問した。
「貴女・・・貴女、ビンキーが狐に殺される事をずっと恐れていたの?」
「ウウン、狐って限らないけど・・・」
「でも、ビンキーが死ぬ事を勿論ずっと恐れていたわ。そうでしょう?・・・・あら?ビンキーって年寄りウサギだった?」
「ち、違うわ!あ、あの子は、まだ赤ちゃんだった!」
ハーマイオニーが一瞬間を置いてやがてそう質問した。ラベンダーは涙に濡れた顔をハーマイオニーに向けてそれを否定した。泣きながらそう叫ぶラベンダーをパーバティがきつく抱き締めた。
「じゃあ、どうして死ぬ事なんかを心配するの?」
「ハーマイオニー、今すぐにその口を閉じなさい」
「だってそうでしょパチュリー?論理的に考えてよ。つまり、ビンキーは今日死んだ訳でもない。でしょ?ラベンダーはその知らせを今日受け取っただけだわ」
ハーマイオニーはパチュリーの忠告を無視して周りに集まった生徒達に向けても言った。ラベンダーは更に酷く泣き始め、パーバティはハーマイオニーを睨み付けた。
「それに、ラベンダーがその事を恐れていた筈がないわ。だって、突然知ってショックだったんだもn「黙りなさいハーマイオニー」ッ!?」
パチュリーは少し殺気を乗せながらハーマイオニーを睨み付けた。パチュリーの目を見てハーマイオニーは口を閉じて数歩後退った。
「いいかしら?子ウサギは突然死する事がよくあるの。生き物だから高い所から落ちて落下死したり、水の中に落ちて溺死したりする危険もあるわ。そんな自分のペットが死んでしまう事を恐れるのは普通なのよ?どうやら貴女は占い通りになったのが気に食わなくて言っているんでしょうけど、そういうのは1人でやってなさい」
先程からハーマイオニーの話を聞いていると、ラベンダーがウサギが死ぬ事を恐れていた事を否定する事とは別に、トレローニー先生の占いは正しくないとも聞こえるのだ。それを言われたハーマイオニーは肩をビクッと震わせるが、すぐに言い返して来た。
「だ、だって・・・彼女は先生の占いは正しかったって言ってるけど、論理的に考えて彼女が常にウサギが死ぬ事を常に考える筈がないわ!」
「トレローニー先生の占いは、『10月16日にラベンダーが恐れている事が起きる』というもの。
「そ、それは・・・・」
「何をやっているのですか?皆さん。もう授業が始まりますよ」
ハーマイオニーが苦虫を噛み潰した様な顔をした丁度その時、マクゴナガル先生が教室のドアを開けた。パチュリーは最後にキツ目にハーマイオニーを睨むと、何も言わずに教室の1番後ろの席に座った。生徒達は無表情のパチュリーと悔しそうな顔をしたハーマイオニーを交互に見ながら席に着き、気不味い雰囲気の中授業を受けた。
終業のベルが鳴り、パチュリー達が教室を出ようとすると、マクゴナガル先生が待ったを掛けた。
「ちょっとお待ちなさい!皆さんは全員私の寮の生徒ですから、ホグズミード行きの許可証をハロウィーンまでに私に提出してください。許可証がなければホグズミードもなしです。忘れずに出すこと!」
ホグズミード村、イギリスで唯一魔法使いしか住んでいない村だ。喫茶店や菓子屋、魔法の洋服屋、悪戯道具の専門店などの様々な店が並ぶ賑やかな村だ。ホグワーツでは3年生になると、保護者から許可証にサインを貰い、先生に提出すると、決められた日に訪れる許可を貰えるのだ。
一応私も許可証は持っている。後でマクゴナガル先生に渡すつもりだ。因みに保護者
「あの〜、先生。ぼ、僕・・・無くしちゃったみたい」
「ロングボトム。貴方のお婆様が私に直送なさいました。その方が安全だと思われたのでしょう。さぁ、それだけです。帰ってよろしい」
マクゴナガル先生の許可が下りたので、パチュリー達は次々に教室を退出して行った。
★
時は流れてハロウィンの日。今日はホグワーツの生徒達が待ちに待ったホグズミード村に行ける日である。朝から管理人のフィルチがドアの内側に立って長いリストを片手に名前をチェックしていた。ロンやハーマイオニーもホグズミード村に行っていたが、パチュリーがハーマイオニーに怒った日からハリーは滅茶苦茶ガッカリした様子で2人を見送っていた。どうやら許可証は手に入らなかったらしい。
パチュリーもホグズミード村に行った・・・なんて事はなく、自室で小悪魔が淹れてくれた紅茶を飲みながら魔法書を読んでいた。今回読んでいるのは『吸魂鬼に関する調査記録』である。数日前にホグワーツ付近を警備していたディメンターに自作の『幽霊マント』を試したのだが、1発でバレてしまったので、ディメンターにもバレないよう改良する為にディメンターについても調べているのだ。
(ふむ・・・ディメンターは人の魂を感じ取る能力があるのね。動物の魂は感知出来るが、興味を持つ事はない・・・成る程、だから私の『幽霊マント』もすぐにバレたのね)
パチュリーは紅茶を飲んみながら数日前の事を思い出した。マントを被って校門前を警備していたディメンターの近くに歩み寄ると、ディメンター達がこちらの方をゆっくり振り向き、ジーッと見てきたのだ。パチュリーはそれだけ見て『幽霊マント』はディメンターに効果がない事が分かり、すぐに引き返して城に入ったのだ。
「う〜ん・・・ならマントに魂を感知させないようにする術式を加えて見ましょうか。・・・・あら?紅茶が無くなっちゃったわね。こぁ、悪いけど紅茶を淹れてくれないかしら?」
パチュリーは小悪魔に向かってそう頼んだが、小悪魔は何かのカタログを読んでいて気付いていない様子だった。なんのカタログかはパチュリーからは見えないが、パラパラとページをめくっている。
「こぁ?聞いてるかしら?」
「ふぇ?あ、はい!なんでしょうか?」
「紅茶が無くなっちゃったから淹れて欲しいのよ」
「了解しました」と小悪魔は読んでいたカタログを座っていた椅子に置いてティーポットを手に取り、パチュリーのカップに注いだ。
「ねぇ、こぁ?さっきからなんのカタログを読んでいるの?」
「え!?あ、いや・・・た、大した物ではありませんよ?」
異常に反応する小悪魔をパチュリーは怪しいと感じ、小悪魔が読んでいたカタログを浮遊魔法で浮かせてから自分の手の上に置いた。小悪魔がそれに気付いてカタログを取り返そうとしたので、ついでに自分の周囲に結界を張った為、小悪魔はパチュリーに触る事すら出来なかった。
パチュリーは小悪魔の読んでいたカタログに目をやると、それは意外な物のカタログだった。
「
「えっと・・・じ、実は」
小悪魔の話によると、少し前に町に買い物に行った際、偶々売店に置いてあった新聞を興味本位で読んだ際、シリウス・ブラックという犯罪者が銃を持って逃亡中という記事が目に入った。その銃という道具がどんなものか知らなかった為、大図書館で調べているうちに興味を持ったらしい。
「銃って・・・貴女実物見た事あるの?」
「ちょっと前に大図書館の水晶で射撃場の様子を遠視しました」
「成る程ね〜・・・・」
パチュリーは恥ずかしそうに顔を俯かせている小悪魔を見る。彼女の尻尾と羽根もしょんぼりとしている。
銃ねぇ?そういえば前世の二次創作物では偶に銃を使っているものもあった気がするわね。
「・・・・うん、別にいいんじゃないかしら?」
「え?いいんですか?」
小悪魔はキョトンとした表情で顔を上げた。
「えぇ、別に構わないわ。貴女がそんなに興味を持つのも珍しいから。別に人を撃つ為に欲しいとかじゃないでしょう?」
「あ、はい。パチュリー様のお陰で魔法は簡単なものなら使えるように成りましたけど、あまり強い魔法が使えないじゃないですか。もし何かあった時の為に、パチュリー様に守られるだけじゃなく、私も自分で戦えるように成りたいと思いまして・・・」
そういう理由があったのね。確かに最近の私はトロールやヴォルデモートの部下、更には戦闘はしなかったけどバジリスクなんかに遭ってるものね。これから先小悪魔が巻き込まれる可能性も低くないし、確かに戦闘・・・少なくとも自衛は出来るようにしておいた方がいいわね。
「分かったわ。じゃあ銃は私が作ってあげるから、どんなのがいいか決めておきなさい」
「あ、ありがとうございます!」
小悪魔は嬉しそうに頭を下げて礼を言い、早速パチュリーからカタログを受け取ってどれがいいか真剣な表情で考え始めた。初めて会ったときは怖がりで若干甘えん坊だった小悪魔が、知らない内にそんな事を考えるようになった事にパチュリーは少し嬉しく思ったりした。
ふと、壁の時計を見ると、もうすぐマクゴナガル先生に貸し出し中の魔法書を取りに行く時間になっている事に気付いた。
「あら?もうこんな時間ね。こぁ、私はマクゴナガル先生に貸した魔法書を取りに行ってくるわ。ゆっくり決めなさいね」
「はい!行ってらっしゃいませ♪・・・あ、これなんかいいかも」
パチュリーは部屋を出て、談話室から外に出る為に肖像画を押し開けると、パチュリーの目の前には沢山の生徒達がこちらを見ており、先頭にはダンブルドア先生とフィルチが立っていた。上にはピーブズがニヤニヤ笑いながら浮いていた。
・・・・え?何この状況?
「あの・・・何かあったのかしら?」
「おや?おやおや?パチュリー!君は知らないのかい?君が開けた肖像画を見てごらんよ」
ピーブズに首を傾げながら談話室への出入口である肖像画を見てみると、『太った婦人』の肖像画がズタズタに引き裂かれていた。
「これは・・・何があったの?」
「あいつは癇癪持ちだねぇ?あのシリウス・ブラックは」
目を細めるパチュリーにピーブズはくるりと宙返りしながら楽しそうに笑いながら答えた。