七曜の転生者と魔法学校   作:☆桜椛★

29 / 36
ルーピン教授の復帰と叫び屋敷

 ハリーの相棒とも言えるニンバス2000が暴れ柳によって天に召されてしまった日から暫く経ち、ようやくマダム・ポンフリーに退院を認められて戻って来たハリーは、すっかり何時もの元気を失くしてしまっていた。余程相棒のニンバスがただの木片と小枝になってしまったのがショックだった様だ。

 ハリーが入院している間、彼の親友や仲間達はなんとかハリーを慰めようと一生懸命だった。ハグリッドは黄色いキャベツの様な形をした虫だらけの花をどっさり送ってよこし、ロンの妹であるジニー・ウィーズリーは果物の入ったボウルの下に敷いて閉じておかない限りキンキン声で歌い続ける『「早くよくなってね」カード』ならぬ『安眠完全妨害カード』を真っ赤になりながら手渡し、グリフィンドールの選手達は魂が抜けて真っ白になったウッドを連れてお見舞いに訪れた。ウッドはハリーを少しも責めていないと慰めの言葉を送ったが、その声は死んだ様な虚ろな声であり、ただでさえ塞ぎ込んで悩み続けているハリーに罪悪感を抱かせた。因みにウッドはそれからずっと部屋で寝込んでしまっている。

 勿論パチュリーも何度かお見舞いには行った。ニンバス2000の亡骸を飛べはしないが魔法で元の姿に戻したり、小悪魔が作った美味しいクッキーを送り、心の中で「もうハリーに『背後人形』は出来るだけ使わないようにしよう」と思いながら『背後人形』にも完璧に効く魔除けの魔法(偽)を掛けたりした。ニンバス2000とクッキーは少し喜んだ様に見えたが、最後の魔除けの魔法(偽)については泣きながら礼を言われた。

 そして今日は月曜日。昼食を終えたパチュリーは、次の『闇の魔術に対する防衛術』の授業を受ける為に、ルーピン教授のクラスに向かっていた。

 

 

「『闇の魔術に対する防衛術』を教えてるのがスネイプだったら、僕、病欠するからね?」

 

「あら?ならちょうどここにフレッドとジョージが考案した『病欠お菓子セット』の試作品があるのだけれど・・・試してみるかしら?」

 

 

 パチュリーは小さなクッキーの箱の様なものを取り出してロンに試すかどうかを聞いた。

 この『病欠お菓子セット』は、フレッドとジョージが学校の授業をサボる為だけ(・・)に考えたものだ。箱の中には数種類のお菓子が入っており、一見ただのお菓子が入った箱ではあるが、このお菓子は種類によって食べるとそれぞれ発熱、下痢、頭痛、嘔吐などの症状を引き起こす。効果は約1時間続き、時間が経つとまるで最初から何もなかったかの様に治る。因みに味付けは小悪魔が担当した為、かなり美味しかったりする。

 

 

「うん!その時は頼むよパチュリー!」

 

「・・・私から言っておいてなんだけど、即答なのね」

 

「パチュリー、それ僕にもお願い。ハーマイオニー、教室に誰がいるのか、チェックしてくれないか?」

 

 

 ハーマイオニーは少し呆れた様子で教室のドアから中を覗き込んだ。中を見たハーマイオニーはパチュリー達に「大丈夫よ」と告げて先に教室の中へ入って行った。それに続いてパチュリー達も教室の中に入ると、くたびれたローブが前より更にダラリと垂れ下がり、目の下にクマが出来たルーピン教授の姿があった。まだ病気なのではないかと生徒達は少し心配になったが、席に着くとルーピン教授はみんなに微笑み掛けたのを見て心配はいらないなと判断し、一斉にルーピン教授が病気の間スネイプ先生がどんな態度をとったか、不平不満をぶちまけた。

 

 

「フェアじゃないよ!代理だったのに、どうして宿題を出すんですか?」

 

「僕たち、狼人間について何も知らないのに!」

 

「羊皮紙二巻だなんて!」

 

「ふむ・・・君達、スネイプ先生に、まだそこは習っていないって、そう言わなかったのかい?」

 

 

 ルーピン教授は少し顔をしかめながら生徒達に聞いた。それに対して生徒はまた一斉にスネイプ先生が全く耳を貸さなかった事をプリプリ怒りながら答えた。それを見たルーピン教授はニッコリ笑いながら頷いた。

 

 

「よろしい。私からスネイプ先生にお話ししておこう。レポートは書かなくてよろしい」

 

「「「「「やったああああぁぁぁ!!」」」」」

 

「そんなぁ・・・私、もう書いちゃったのに!」

 

 

 レポートを書かなくていいと聞いて、宿題を終わらせてしまっていたハーマイオニー以外の生徒達は歓声を上げた。それ程スネイプ先生に出された宿題のレポートが嫌だったのだろう。パチュリーは授業があったその日の内に魔法書を読みながら片手間で終わらせていたので、後でスネイプ先生に提出しようと決めた。

 

 

「さぁ、授業を始めよう!今日やるのはこいつ・・・おいでおいで妖精(ヒンキーパンク)だ」

 

 

 そして授業は始まり、ルーピン教授はガラスの箱に入ったヒンキーパンクを持って来た。手にカンテラをぶら下げ、一本足で、鬼火の様に幽かで、儚げで害の無い生き物に見える。だがこの生き物は旅人の前をピョンピョン跳び、そのまま迷わせて沼地に誘い込んで溺れさせようとする思いっきり害のある生き物だ。

 ルーピン教授はヒンキーパンクについて分かりやすく説明し、生徒達は楽しそうにそれをノートに書き取って行く。そして終業のベルが鳴り響き、生徒達は皆荷物をまとめて出口に向かった。パチュリー達も荷物をまとめ終え、出口に向かおうとすると、ルーピン教授がハリーに待ったをかけた。

 

 

「おっと!ハリー、ちょっと残ってくれないか?話があるんだ」

 

「はい、分かりました。ごめんみんな、先に帰ってて」

 

 

 そしてハリーは教室に残り、パチュリー達は先に教室を出た。そしてしばらくして話を終えて戻って来たハリーの顔は少し明るくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・・なかなかいいものは売ってないわね」

 

 

 月日は流れ、ホグズミード村行きを許可された学期の最後の土曜の日。ガヤガヤと騒がしく賑やかな雰囲気に包まれているホグズミードに、珍しい事にパチュリーの姿があった。とあるお店の商品を眺めていた彼女は、ふと誰も居ない自身の隣を向き、虚空に向かって話しかけた。

 

 

「貴女は何か欲しいものはあったかしら?こぁ?」

 

「うーん、このお店には有りませんねぇ」

 

 

 すると虚空から小悪魔の声が聞こえて来る。実はパチュリーの側に『幽霊マント』を被って姿を消している小悪魔がいるのだ。普段この様な場所に来る事は無く、自室に引きこもって小悪魔の淹れた紅茶を飲みながら魔法書を読んだり研究をしたりしているパチュリーがホグズミード村へ来た理由は、彼女が「久々に一緒にお買い物に行きませんか?」と提案したからだ。

 因みに小悪魔の姿は『幽霊マント』によって他人には一切見えていないのだが、パチュリーは自分の目と耳に魔法を付与して、小悪魔の姿が見えるし声も聞こえる様にしているので、小悪魔が尻尾を犬の様に振りながら楽しそうにしているのがよく見えている。

 

 

「では他のお店にも行ってみましょう!」

 

「そうね。それにしても随分と楽しそうね、こぁ。なんなら今度からここへ来れる様になった時は一緒に来る?」

 

「え!?い、いいんですか!?あ、パチュリー様は魔法の研究や開発で忙しいのでは・・・・?」

 

 

 小悪魔は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに不安そうな表情に変えてパチュリーに本当にいいのかと聞き返した。それに対してパチュリーはクスリと笑いながら「大丈夫よ」と答えた。

 

 

「確かに色々とやってみたい研究や魔法の開発もあるし、行けない日も多いだろうけれど、こぁと一緒に出掛けるのは私も楽しいもの。研究や魔法の開発は他の日にやればいいから問題無いわ」

 

「あ、ありがとうございます!では今日は来て下さったお礼に、美味しいチーズケーキをお作りしますね!」

 

「ふふ♪そうね。帰ったら一緒にお茶にしましょう。こぁは何処か行きたい所はあるかしら?」

 

 

 そんなパチュリーの問いに、小悪魔は少し考える素振りをした後、「あ!」と声を上げた。

 

 

「そう言えば、パチュリー様が興味を持ちそうな場所があるんですよ!」

 

「私が興味を持ちそうな場所?」

 

 

 パチュリーは自分が興味を持ちそうな場所を考えた。だがパチュリーが興味を持つと言えば主に未知の魔法や見た事も無い魔法書、もしくは魔法薬や魔道具の材料となる滅多に出会える事の無い伝説級の魔法生物などなど。そんなものがこんな学校の近くにある村にあるとは思えなかった。

 

 

「どんな場所なのかしら?」

 

「はい!ここからちょっとだけ離れてますが、『叫びの屋敷』と呼ばれる今は誰も住んでいない古いお屋敷があるんです。なんでも満月の夜になると、誰も住んでいないその屋敷から不気味な叫び声が聞こえて来るらしいんですよ」

 

「ふむ、確かにそれは興味があるわね。行ってみましょう。案内、お願い出来るかしら?」

 

「はい!お任せ下さい!パチュリー様!」

 

 

 その屋敷に興味を持ったパチュリーが小悪魔に案内を頼むと、彼女は元気に返事をしてポケットから地図を取り出して歩き出した。パチュリーは小悪魔の後を付いて行き、噂の不気味な叫び声の原因について様々な推測を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

「あ、パチュリー様。アレが『叫びの屋敷』みたいです」

 

 

 ホグズミード村から歩いて数十分程歩き、立ち止まった小悪魔が指を差した先には、今にも崩れてしまいそうな大きな屋敷がポツンと建っていた。周囲に民家などは一軒も見当たらず、屋敷へ繋がる道には人が通らない様に紐が張られ、『立ち入り禁止』と書かれた古い看板が立っている。ただ観光地として人が勝手に入らない様にしているのか?はたまた別に入ってはいけない程の何かがあるのか?そんな疑問がパチュリーの頭の中に浮かび上がり、更に興味が湧いていった。

 

 

「行くわよこぁ、その噂の原因を探りに行きましょう」

 

「え?あ!ま、待って下さいパチュリー様〜!」

 

 

 『叫びの屋敷』に向かって飛んで行くパチュリーを小悪魔が慌てて羽をパタパタと動かして追い掛ける。そして屋敷の側に来たパチュリーは、先ず屋敷の周りを飛び回って外観を観察し始めた。

 

 

「うーん・・・建物が古くなってあちこちに隙間や穴が開いてるけど、これだけで噂になる様な音は鳴らないわね」

 

「じゃあ、何か魔法生物か人間が中に入り込んだんでしょうか?」

 

「それが1番可能性が高いけど、魔法生物なら満月の夜だけじゃなくて常日頃から叫んでるでしょうし・・・かと言って、ドアや窓は完全に塞がれてて開けた形跡も無いから人間は中に入らない。それに人間なら尚更満月の夜に叫ぶ意味は無いわ。あるとすれば・・・・・まぁ、それは入って確かめましょう」

 

 

 パチュリーは幾つか思い当たるものがあるのか、少し考える素振りを見せると、板を打ち付けされて固く閉ざされている屋敷の扉の前に降り立ち、ポケットの中から小さな宝石の様なものが付いた1本の紫色の羽根ペンを取り出した。

 

 

「序でにコレの実験もしておきましょうか」

 

 

 そう言うとパチュリーはその羽根ペンで扉に人が1人通れそうな大きさの円を書いた。そして線と線が繋がると円の内側にポッカリと穴が空き、屋敷の中に入れる様になった。それを見たパチュリーは満足そうに羽根ペンを見る。

 

 

「第1段階は成功ね。さぁ、早く入るわよこぁ」

 

「はい、パチュリー様」

 

 

 先に中に入ったパチュリーが、小悪魔も中に入ったのを確認すると、羽根ペンに付いている小さな宝石の様なものを撫でる。すると扉に開いた穴はまるで最初から何もなかったかの様に消え去り、書いた線も見えなくなった。

 

 

「良し、魔力の跡も線を書いた跡も完全に消えてるわね?実験は成功。なかなかいい出来だわ」

 

「あの双子が考えた悪戯道具ですか。よくこんなもの思い付きますね」

 

 

 パチュリーが持っている羽根ペン・・・フレッドとジョージが考案した『抜け穴羽根ペン』を小悪魔が呆れた様子で眺める。しかも悪戯目的で考案されて作られたこの羽根ペンが、魔法界の研究者達からしても未知過ぎる魔法と技術の結晶となっているのだから笑えない。

 

 

「こぁが言いたい事も分からなくもないわ。あの2人も、こういったアイデアをもっと別の事に活かせばかなりの人気者になれたでしょうに・・・・まぁ、いいわ。探索を始めるわよ」

 

 

 パチュリーはそう言うと、魔法書を開いて魔法を発動させ、光の玉を出現させて薄暗い屋敷の中を照らしながら歩き出した。それを見た小悪魔は不思議そうに首を傾げた。

 

 

「あれ?探索魔法は使わないんですか?」

 

「あの魔法、この間改良に成功して地形やら建物の構造、反応の識別も出来る様にしちゃったのよ。使ったらすぐに解決しちゃうから、先ずは自分の目で見て考えるのよ」

 

「あー・・・・直ぐに答えが分かったら面白くないってお考えですか?」

 

「そうよ。さ、行きましょう?こぁ」

 

「はい!パチュリー様!」

 

 

 そうしてパチュリーと小悪魔は先ず1階の探索を始めた。屋敷の中は手入れがされていないのか埃っぽいが、家具などはそのままにされていたので、椅子やテーブル、化粧台などが置かれている。だが叫び声の原因らしきものは見当たらなかった。

 

 

「パチュリー様〜!これ見てください!」

 

 

 すると隣の部屋を調べに行った小悪魔がパチュリーを呼んだ。パチュリーは小悪魔が何か見つけたのかと思い直ぐに向かった。

 

 

「どうしたの?こぁ」

 

「はい!なんだか怪しい地下通路の様なものを見つけました!」

 

 

 小悪魔が指差す方向には、確かに床に開いた穴があり、その穴はずっと奥まで続いていた。

 

 

「風が吹いてる・・・という事は何処かに繋がってるわね」

 

「ここから魔法生物か何かが侵入したんでしょうか?」

 

「可能性としてはそれが1番高いわ。取り敢えずここは後回しにして、2階を調べましょう」

 

 

 パチュリー達は地下通路の探索を後回しにして、登る度にギシギシと音を立てる階段を登って2階へとやって来た。そして取り敢えず適当な部屋を調べようととある一室に足を踏み入れた。

 

 

「グルルルルル・・・・!!」

 

「「・・・・・犬?」」

 

 

 するとそこには全身真っ黒な毛に覆われた大きな犬が、唸り声を上げてパチュリーと小悪魔を威嚇していた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。