パチュリーの予想通り、ファイアボルトはマクゴナガル先生に没収され、マダム・フーチやフリットウィック先生が分解して呪いや魔法が掛けられてないか徹底的に調べられる事になった。
ハリーとついでにロンはそれ以来ずっとマクゴナガル先生に密告したハーマイオニーと仲違いをしている。ハーマイオニーはあの箒がシリウス・ブラックから送られた物ではないかと考えて100%の善意でやった事なのだが、世界一の箒をバラバラに分解すると言う行為は、ハリーとロンにとってまさに犯罪的な破壊行為なのだ。
この仲違いは年が明けて、休暇が終わって学校が始まっても修復される事はなく、没収されたファイアボルトもハリーの元へ戻って来なかった。
「・・・・そろそろ、箒はハリーの元へ戻って来たか?」
「貴方もなかなかしつこいわね。戻って来たらちゃんと知らせてあげるって何度言えば理解するのかしら?」
もそもそとパンを食べながら毎回会う度に同じ質問をするシリウスに、パチュリーは呆れた表情で同じ答えを返した。学校が始まっても彼とパチュリーの関係はちゃんと続いており、今ではお互いに軽く会話する程度には仲が良くなっている。
「しかしもう2月になるぞ?流石に長過ぎじゃないか?それにハリーは新しい箒を注文していないらしいじゃないか。もう試合は明日なんだろう?」
「貴方は逃亡中の凶悪殺人犯なのよ?そんな人から送られたかもしれない物を、教師が生徒に簡単に渡す訳がないじゃない。貴方だって渡そうと思わないでしょう?」
「それは・・・・・そうだが」
それでも納得がいかないと言いたげなシリウスに、パチュリーは大きな溜息を吐いた。変身術の授業が終わる度にハリーに箒がどうなったのか聞かれていたマクゴナガル先生もこんな気持ちだったのだろうか?
「ハァ・・・・心配しなくても、次のレイブンクロー戦までには必ず返されるから安心しなさい」
「・・・何故そう言い切れるんだ?」
「マクゴナガル先生も生徒と同じくらい優勝杯が欲しいからよ。罰則を受けるハリーを規則を捻じ曲げてまでシーカーにする程、あの先生はハリーや自分の寮には甘いんだもの。心配するだけ無駄よ」
そう言うとシリウスは漸く安心した様に「そうか」と呟いて香ばしい匂いのするチキンに齧り付いた。初めて会った頃はガリガリの死人の様な姿だったが、今の彼は少し痩せ気味程度にまで肉付きが良くなっている。持って来た料理を全て平らげているので、これには作っている小悪魔も満足気だ。
「さて、そろそろ私達は戻るわ。明日も同じ時間に持って来るから」
「あぁ、分かった」
パチュリーは小悪魔を連れて『叫びの屋敷』を出ると、空間転移の魔法を使ってホグワーツの自分の部屋へ戻った。小悪魔に空になったお皿を片付けるよう指示を出し、椅子に座って魔法書の続きを読もうとしたその時、突然寮中に聞き覚えのある声の悲鳴が響き渡った。パチュリーはビクリと肩を震わせ、小悪魔は驚いて持っていたお皿を落としそうになった。
「な、なんでしょうか?今の悲鳴は?」
「・・・・分からないわ。ちょっと様子を見て来るわね」
先程聞こえたのはほぼ間違い無くロンの悲鳴。聞こえて来た悲鳴は大きさから考えても寮内、談話室か男子寮辺りだ。しかし今の時間帯は授業を終えた生徒達が寮に戻って思い思いに過ごしている筈で、もしロンが何かに襲われたとかなら、他の生徒達の悲鳴や叫び声が聞こえて来ないのはおかしい。だが何も無いのにあんな悲鳴を上げたりする訳がない。何かあったのは確かだ。
部屋を出ると微かに談話室の方から怒鳴り声の様なものが聞こえて来る。どうやら怒鳴り声の主もロンの様だ。何があったのだろうと色々考えながら談話室へ入ると、怒り狂った様子のロンが何故かシーツを持ってハリーの隣に座っているハーマイオニーに向かって怒鳴っていた。
「スキャバーズが!見ろよ!スキャバーズが!」
「ちょっと、これは何の騒ぎ?」
「あ、パチュリー・・・」
怒り狂って今にも殴り掛かりそうなロンと、震えて言葉も発せずにいるハーマイオニー、周りで石像と化している生徒達に聞いても意味が無さそうだと思ったパチュリーは、オロオロとハーマイオニーとロンを交互に見ているハリーに何があったのかを尋ねた。
「それが僕にもさっぱりで・・・・」
「血だ!!」
ロンは持っていたシーツを突き出しながら叫んだ。突き出されたシーツをよく見ると、赤い染みの様な物が付いていた。
「スキャバーズが居なくなった!それで、床に何があったか分かるか!?」
「い、いいえ・・・」
ギロリとロンに睨みつけられたハーマイオニーの声は震えていた。ロンはハーマイオニーの翻訳文の上に何かを投げつけた。奇妙な刺々した文字の上に落ちていたのは、数本の長いオレンジ色の猫の毛だった。
「あの猫がやりやがった!スキャバーズが食われた!どうしてくれるんだ!?」
★
「ピーターが居なくなっただと!?どう言う事だ!?」
パチュリーは大喧嘩を始めたロンとハーマイオニーをハリーに丸投げして、直ぐに『叫びの屋敷』へ向かって先程の出来事をシリウスに教えた。当然彼は飲んでいた飲み物を漫画の様に吹き出す程驚き、パチュリーに詰め寄って詳細を説明するよう求めた。
「そのままの意味よ。ネズミに変身してるとは言え、流石に仮にも魔法使いの人間が猫に食べられたとは考えられないから、生きてはいると思うけどね」
「それは分かっている。ピーターは臆病だが同時に警戒心が強い奴だったからな。私が脱獄して自由の身になり、ホグワーツに近付いていると気付いて身を隠そうとしているんだろう」
「なら、もうホグワーツ城を出て何処か遠くへ逃げてるでしょうね」
ネズミになれば狭い隙間やパイプの中も通れるのだからとパチュリーは予想を立てるが、彼は首を横に振った。
「いや、ピーターはホグワーツ城から出たりはしないだろう。敷地内の何処かに隠れ潜んでいる筈だ」
「何故そう思うのかしら?」
「さっきも言ったが、ピーターは臆病な性格だ。ホグワーツの周りを
ディメンターは相手の魂を吸い取る能力の副次効果で、相手の悲惨な記憶を呼び覚ます能力もある。その能力を知っているピーターはディメンターに近付く事を嫌がって外には逃げないとシリウスは言う。
「でもどうするのかしら?ホグワーツの敷地内と言ってもかなりの広さよ?」
「・・・かなり難しいが、ホグワーツに侵入して自分の足で地道に探すしか無いだろう」
そこで校内を自由に移動出来るパチュリーに探してくれと頼まない辺り、シリウス・ブラックの性格がうかがえた。難しい顔をしている彼を見て、少し考えたパチュリーは空間魔法で手元に改良途中の『幽霊マント』を取り寄せると、彼に手渡した。
「・・・・これは?」
「私がディメンター相手にも感知されない様に改良した『透明マント』の試作品」
「はぁ!?」
シリウスは目を見開いて『幽霊マント』とパチュリーを交互に見た。
「まだ実際に試した訳じゃないから、ちゃんと効果があるかは分からないけどね」
「・・・・ホントに消えてる。初めて会った時から思っていたが、君は本当に学生か?」
「取り敢えずピーター・ペティグリューを見つけるまで貸してあげるわ。良い実験データを期待してるから、頑張りなさい」
試しに『幽霊マント』を纏って完全に姿が消えるのを確認しているシリウスにそう言うと、パチュリーは『叫び屋敷』を後にして自分の部屋に戻った。
★
翌日、レイブンクロー対グリフィンドールのクィディッチの試合が行われる競技場は、今まで以上に色めき立っていた。観客席には学校中の生徒達が集まっており、試合が始まる瞬間を今か今かと待ち望んでいる。
理由は今朝ハリーが大広間に持って来た返却されたファイアボルトだ。どうやら昨日の夜にマクゴナガル先生が返したらしく、みんな500ガリオンもする最新の箒が使われる試合を楽しみにしているのである。
「・・・・まだ始まらないのか?」
「黙って待ちなさい。子供じゃないんだから」
そして比較的人が少なかった観客席の一番端に座るパチュリーの隣に居る
「しかし凄いなこのマントは・・・まさか本当に気付かれない所か、私が出す足音や声まで消せるとはな」
「でもまだ未完成なのよ。もう少し研究が必要だわ」
パチュリーはディメンター対策に魂と感情を探知されない術式を組み込んだのだが、そうすると透過と匂い消しの術式が上手く働かなくなってしまったのだ。パチュリーからすればこのマントは未完成の欠陥品なのだが、シリウスは自分が纏っているマントの桁外れな性能の凄さに驚きっぱなしだった。
(本当に何者なんだこの子は・・・?実は何百年も生きている魔女なんじゃないか?)
「・・・・始まるわね」
フィールドに両チームが入って来て、競技場に割れる様な拍手が沸き起こった。キャプテンを先頭に選手達がずらりと並び、マダム・フーチのキビキビとした指示でレイブンクローのキャプテンとグリフィンドールのキャプテンであるウッドが握手をする。
「箒に乗って・・・ホイッスルの合図を待って・・・・さーん──にーぃ──いちっ!!」
ホイッスルが鳴り響き、両チームの選手達が一斉に空へ舞い上がった。ファイアボルトを持っているハリーは他のどの選手よりも速く、高く上昇し、競技場の遥か上空を旋回してスニッチを探している。
「全員飛び立ちました。今回の試合の目玉は、なんと言ってもグリフィンドールのハリー・ポッター乗るところのファイアボルトでしょう。『賢い箒の選び方』によれば、ファイアボルトは今年の世界選手権大会ナショナル・チームの公式箒になるとの事です───」
「ジョーダン、試合の方がどうなっているか解説してくれませんか?」
「了解です。先生──ちょっと背景説明しただけで。ところでファイアボルトは、自動ブレーキが組み込まれており、さらに───」
「ジョーダン!!」
「オッケー、オッケー。ボールはグリフィンドール側です。グリフィンドールのケイティ・ベルがゴールを目指しています・・・」
最早恒例となっている解説のリー・ジョーダンによる実況とマクゴナガル先生の注意の声が競技場に響く中、ハリーはスニッチを見つけたのか急降下する。しかしレイブンクローのビーターが打ったブラッジャーを躱した事で、スニッチを見失った様だ。グリフィンドールの応援席からがっかりした声が上がり、反対にレイブンクローの応援席からは歓声が上がった。
その間にグリフィンドール側がゴールにボールを決め、ハリーは高度を下げて飛び回りながら必死にフィールドを見渡してスニッチを探す。
「グリフィンドールのリード。八十対〇。それに、あのファイアボルトの動きをご覧ください!ポッター選手、あらゆる動きを見せてくれています!どうです、あのターン───チャン選手のコメット号はとうていかないません。ファイアボルトの精巧なバランスが実に目立ちますね。この長い───」
「ジョーダン!いつからファイアボルトの宣伝係に雇われたのですか!?まじめに実況放送を続けなさい!!」
マクゴナガル先生の怒声が響くと同時に、レイブンクローが3回目のゴールを決めて、戦況を巻き返して来ている。ハリーは一度スニッチを見つけた様だが、レイブンクローのシーカーであるチョウ・チャンに行く手を遮られて見失っていた。
どうやらチョウは正面からの勝負ではハリーの箒に勝てないと踏んだらしく、ハリーを執拗に付け回していた。
「あのレイブンクローのシーカー、ハリーがスニッチを見つけたら横から掻っ攫うつもりだな?」
「作戦としては良い判断だと思うわよ?箒の性能差があり過ぎるんだもの・・・・あら?」
ふと視線を下すと、パチュリー達が座っている場所から少し離れた所で、黒いマントを纏った黒い影が3つ見えた。一瞬ディメンターかと思ったが、よく見たらディメンターにしてはふくよかだし、この距離に居るのに少しも冷気を感じない。マントからチラチラ見える肌は普通の肌色だし、何よりマントの下から足が見えた。どうやらディメンターの様な格好をした人間の様だ。
「・・・・おい、アレは」
「人間よ。ディメンターじゃないわ」
遅れて気付いたシリウスに、アレは偽物であると伝えた。しかし誰が何の為にあんな格好でこんな人気の少ない所に居るのだろうとパチュリーは疑問を抱いたが、それは聞こえて来た会話で解消された。
「ポッターの奴、僕達の姿を見れば腰を抜かすだろうな」
(あぁ、ドラコね。ディメンターのマネをして前の試合みたいにハリーを箒から落として、レイブンクローに勝たせるつもりなのかしら?)
この試合でグリフィンドールが負ければ、決勝戦はレイブンクロー対スリザリンになる。ファイアボルトがあるグリフィンドールならスリザリンに勝てる可能性は十分にあるが、箒の性能で全体的に負けているレイブンクローには勝つのは難しいだろう。
まぁ、ドラコのハリーへの個人的な嫌がらせも含めているのだろうが。
「・・・・あのガキ共のケツに蹴りを入れて来る」
「いえ、その必要は無さそうよ?」
立ち上がったシリウスに、パチュリーは上空から急降下しながら杖を抜いたハリーを見てそう言った。ハッと上空をシリウスが見上げると同時に、ハリーは大声で叫んだ。
「エクスペクト・パトローナム!
白銀色をした霞の塊の様な、何か大きなものがハリーの杖から噴き出し、それがドラコ達の方へ一直線に飛んで行った。飛んで来た何かが直撃したドラコ達は悲鳴を上げて地面に転がる。
「い、今のは・・・・『
「まだ未完成だけど、それで間違いないでしょうね。いつの間にあんな呪文を覚えたのかしら?」
2人がハリーの放った『守護霊の呪文』に驚いていると、マダム・フーチのホイッスルが鳴り響き、観客席から大歓声が上がった。フィールドへ視線を向けると、片方の手にスニッチをしっかりと握っているハリーと、彼に抱き付いて大喜びしているグリフィンドールの選手達の姿があった。グリフィンドールの勝利だ。
「良くやったぞハリー!良くやった!」
シリウスは自分の声や姿がパチュリー以外に認識されない事を良い事に、両手を上げて喜んでいた。
「良かったわね。じゃあ私は取り敢えずあそこで転がってる子達の所へ行くから、貴方もネズミ探し頑張りなさい」
「あぁ、分かった・・・・そいつ等に1発だけ蹴りを入れても良いか?」
「ダメに決まってるでしょ。さっさと行きなさい」
パチュリーはシリウスをネズミ探しに行かせると、折り重なる様にして地面に転がっているドラコ達の元へ向かった。予想通りそこに転がっていたのはドラコとクラッブとゴイル、そして確かスリザリン・チームのキャプテンの男の子(パチュリーは名前を知らない)の4人だった。ドラコはゴイルに肩車されていたのか、1つの頭巾の付いたローブを脱ごうとゴイルと一緒にジタバタしている。
「・・・・取り敢えず、怪我は無さそうね。全く、何をやってるのよ貴方達は?」
パチュリーが悪戯を仕掛けて返り討ちになった4人に溜め息を吐いていると、マクゴナガル先生を先頭に他の教師や生徒達がゾロゾロとやって来た。マクゴナガル先生は未だにジタバタしているドラコ達4人を順に見て、最後にパチュリーを見る。
「一応言って置きますけど、私はハリーの魔法が当たったこの4人が気になってここに来ただけですからね?」
「ミス・ノーレッジ・・・・これは、そう言う事でよろしいですね?」
パチュリーがコクリと頷くと、マクゴナガル先生は憤怒の形相を浮かべた。
「あさましい悪戯です!グリフィンドールのシーカーに危害を加えようとは、下劣な卑しい行為です!みんな処罰します。さらに、スリザリン寮は五十点減点!この事はダンブルドア先生にお話しします。まちがいなく!」
激しく怒るマクゴナガル先生を見て、ドラコ達が受ける処罰はかなり厳しいものになるだろうと思ったパチュリーは、心の中で彼等に合掌し、人混みを避けながら城への道を戻って行った。
その後、パチュリーは自室でずっと魔法書を読んでいたので不参加だったが、グリフィンドール寮では盛大にパーティーが開かれた。パーティーは1日中続き、終わったのは午前1時にマクゴナガル先生がタータン・チェックの部屋着に、頭にヘア・ネットという姿で現れて、全員に寝なさいと命令した時だった。
そして、みんなが寝静まってから数時間後・・・・、
「あああああああああああアアアアアアァァァァぁぁぁぁぁっっっッッッ!!やめてぇぇぇぇぇぇえええええ!!」
先日とは比べ物にならない程のロンの絶叫が、グリフィンドール寮内に響き渡った。
新年初投稿です。