今私はホグワーツの地下牢に来ているわ。別に賢者の石持ち出したのがバレたとかではないわよ?今日の授業で行う魔法薬学がこの地下牢にて行われるの。地下牢には様々な薬品の入った棚やアルコール漬けの動物があり、いかにも実験室と言う雰囲気を醸し出している。そして今私は赤毛の男の子ロン・ウィーズリーに滅茶苦茶睨まれている。それだけならいつもと同じだが、今はハリーや他のグリフィンドール寮生にも多少睨まれている。何故なら・・・
「やぁパチュリー!今日はよろしく頼むよ」
「えぇ、よろしくね?
パチュリーの隣に座っているマルフォイはグリフィンドール寮生の視線に気付いているのか気付いていないのか爽やかな笑顔をパチュリーに向けている。この魔法薬学はスリザリン寮の生徒達と合同で行われる授業なのだが、人数が余ってしまい、担当教師のスネイプ先生にマルフォイと組むように言われたのだ。そのせいでグリフィンドールの生徒からコソコソ「裏切り者め」とか言われている。
私が誰と組もうが勝手でしょう?なんで一緒になっただけでグダグダ言われるのよ?
パチュリーが溜め息を吐いていると授業が始まった。まずは出席を取り、ハリーの前で止まった。
「あぁ、さよう。ハリー・ポッター。我らが新しい・・・スターだね」
パチュリーの隣に座るマルフォイはクラッブやゴイルと冷やかし笑いをしている。ハリーはパチュリーを睨み「止めろよ」と訴えるが完璧にお門違いである。パチュリーは肩をすくめてそれを無視した。
「このクラスでは魔法薬調剤と微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ。このクラスでは杖を振り回すようなバカげた事はやらん。そこでこれでも魔法かと思う諸君も多いかもしれん」
パチュリーは成る程理に適っていると思っていた。確かに魔法薬を作るのに実はあまり魔法を使わない。教科書を見る限りパチュリーの物より幾らか古い作り方ばかりではあるが、新しいパチュリーのやり方にも魔法は殆ど使わない。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。・・・ただし我輩がこれまでに教えてきたウスノロ達より諸君がまだましであればの話だが」
(この教師私に喧嘩売ってるのかしら?古い方法で作っても素材と時間と手間の無駄なのを分かっているのかしら?)
ウスノロと言う単語にパチュリーはピクリと反応し、スネイプ先生をジト目で睨むが本人は気付いていないのか突然「ポッター!」と呼び、問題を出した。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「・・・分かりません」
何も答える事が出来なかったハリーにスネイプ先生はせせら笑った。
「チッ、チッ、チッ・・・有名なだけではどうにもならんらしい」
一応ハーマイオニーが手が千切れんばかりに上に伸ばしているがスネイプ先生は完璧に無視をする。パチュリーは念の為質問と答えをノートに書き足し、暇なので教科書を読んでいた。古い方法でも面白いもので読んでいると影が掛かり、視線を上げるとスネイプ先生がいた。
・・・・・え?なんの用よ?
「ミス・ノーレッジ。先程ポッターが答えられなかった答えを言ってみたまえ」
他のグリフィンドール生やロン達はしめた!と言いたげな顔をした。これで答えられなければ後で色々文句を言えると思ったのだろう。しかしパチュリーは淡々と問題に答えた。
「『生ける屍の水薬』と呼ばれる強力な眠り薬です」
「ほう?ではベゾアール石を探せと言われたら何処を探す?」
「ヤギの胃の中を探します。ベゾアール石とはたいていの薬の解毒剤ともなる石の事です」
「・・・・脱狼薬とはどのような薬か?」
「その名の通り人狼が満月の夜の前の1週間服用する事で変身しても理性を失わない薬。とても苦い薬で砂糖を入れると効き目がなくなる。ただしこの薬は完全には脱狼出来ない。その為脱狼薬に自分の髪を入れたポリジュース薬を4対6で鍋に入れて弱火で混ぜ、吸血蝙蝠の羽根1㎠と牙1本加え、チョコレートを一欠片入れれば、満月の日かその前日にコップ一杯分飲むだけで普通の脱狼薬の数倍の効果を発揮する甘い脱狼薬になる」
パチュリーはつい図書館にあった調合方法を言ってしまったが大丈夫だろうとスネイプ先生を見るが、驚愕の表情で固まっていた。周囲の生徒達はスネイプの様子に驚きを隠せずにいた。ハッと意識を取り戻したスネイプ先生は顎に手を当て今度はブツブツ言い出した。
「確かにそれなら味も良くなり吸血蝙蝠を使えば夜間は効果が切れない。それにポリジュース薬という発想は・・・・」
「あ、あのスネイプ先生?大丈夫ですか?」
「ッ!!?も、問題ないミス・ノーレッジ。その通りだ。グリフィンドールに5点!」
あ〜大丈夫じゃないわね。流石にマズかったか。
生徒達はグリフィンドールに点をあげたスネイプ先生を凝視しているが、スネイプ先生はそのまま授業を続けた。2人1組でおできを治す薬を調合すると言う物だった。勿論パチュリーはマルフォイと組み、ほぼパチュリーが完璧に調合していった。マルフォイに鍋を任せ、最後の素材を入れようとパチュリーが鍋に近付いた時、地下牢いっぱいに緑の煙が立ち、シューシューと音が鳴った。パチュリーは誰かが鍋を火から降ろさないで山嵐の針を入れたのだろうと発生源を見るとネビルがおできまみれになっていた。スネイプは怒鳴り声を上げ鍋を溶かして溢れた薬を取り除いていた。
パチュリーはやっぱりと最後の素材を入れ薬を完成させ、瓶に入れてスネイプ先生に持って行った。
「スネイプ先生。ネビルにコレを・・・」
「む?おぉ、完璧な出来だ。コレを使いなさい」
薬をネビルに使うとあっという間におできは消え、元の顔になった。スネイプ先生は隣で作業をしていたハリーとロンに矛先を向けた。
「ポッター、何故針を入れてはいけないと言わなかった?彼が間違えば自分の方がよく見えると考えたな?グリフィンドールは1点減点!しかしこの薬は完璧な出来だ。そこでグリフィンドールに2点!」
その後も1時間授業が続き、ハリー達が減点されパチュリーが点を稼ぐと言う結果で授業は終えた。ただパチュリーはスネイプ先生に大層気に入られてしまい、ロンはますます不機嫌になった。
★
「今日は飛行訓練の日か。もうそんな時期になったのねぇ」
木曜日の午後3時半、パチュリーはあっという間に時が過ぎて行くのを感じながらスリザリン寮生と一緒にグリフィンドール寮生のみんなを待っていた。手には今制作中の魔法書があり、次々とパチュリーはその本の空欄に複雑な式や陣を加えていく。コレはパチュリーが厳選した活用出来る魔法や攻撃防御に優れた魔法を書き足している魔法書で、ゲームでいつもパチュリーが持っていた物を作ろうと1週間前から書き続けている。しばらく待っているとグリフィンドール寮生がやって来た。
やっぱり嫌われてるわねぇ・・・貴方達が遅かっただけなのに。
パチュリーが呆れながら書いていた魔法書を閉じると担当教師のマダム・フーチがやって来て早速授業が始まった。
「なにをボヤボヤしてるんですか。みんな箒のそばに立って。さぁ、早く」
マダム・フーチの指示でパチュリー達は箒の近くに立った。
私の箒は・・・まぁまぁ綺麗ね。
「右手を箒の上に突き出して。そして『上がれ!』と言う」
全員が「上がれ!」と叫ぶが、箒が上がったのはマルフォイとハリー、そしてパチュリーだけだった。箒は一種の生き物のような物だ。乗り手がびびっていたら箒も不安がってしまう。パチュリーの場合は常日頃から飛んでいるから箒も安心した様子だ。それからみんな箒に跨りマダム・フーチに握り方を直してもらった。マルフォイが間違った持ち方だったらしく指摘されたのをハリーとロンは喜んでいた。
「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2メートルぐらい浮上してそれから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ。1、2の・・・・ッ!こら、戻ってきなさい!」
パチュリーが空を見上げるとネビルが笛を吹く前に飛んで行ってしまった。そのまま声にならない悲鳴を上げ、真っ逆さまに落ちる。
やっぱりネビルやらかしたわね。・・・って、あの角度は確実に死ぬわ。仕方ないわね。
パチュリーは先程書いていた本を構える。本はひとりでにパラパラとページをめくっていき、風属性の魔法の項で止まり魔法を発動する。ネビルに突然真下に出現した緑の魔法陣から吹いて来た突風が当たり、落下速度が激減し、体勢が変わる。地面に直撃する前にネビルはフワリと停止し解除すると地面に落ちた。体勢が悪く結果的に手首の骨を折ってしまったが、死ぬよりマシだろう。
「私がこの子を医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにしておくように。さもないとクィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ。・・・・・それにしてもあの風の魔法はいったい?」
マダム・フーチがネビルを連れて見えなくなるとマルフォイが大声で笑いだした。
「あいつの顔を見たか?あの大まぬけの」
その言葉にパーバティだったか?その子が咎めるも、スリザリン寮の女子生徒に冷やかされている。そうしているとマルフォイがネビルのおばあさんが送って来たらしい『思い出し玉』を拾い上げた。それを掲げているとハリーが口を開いた。
「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」
「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな・・・・木の上なんてどうだい?」
「こっちに渡せったら!」
ハリーが強い口調で言うとマルフォイがヒラリと箒に跨って空に飛び上がった。マルフォイは樫の木辺りの高さまで舞い上がるとそのままハリーを挑発した。
「ここまで取りに来いよ、ポッター」
それを聞いてハリーは箒を掴む。パチュリーの隣でハーマイオニーが叫ぶ。
「ダメ!フーチ先生がおっしゃったでしょう、動いちゃいけないって。私達みんなが迷惑するのよ」
ハリーはハーマイオニーの言葉を無視してマルフォイを追いかけた。パチュリーは原作知識でこの後の展開を知っている為何もしないでいたが、既に半分くらいは原作崩壊しているからどうしようかと少し迷っていた。するとパチュリーの裾を引っ張る存在に気付いた。なんか嫌な予感がしながらそちらを向くとハーマイオニーとその他グリフィンドール寮生がこちらを見ていた。
「パチュリー!あの2人をなんとかしてよ!!」
「そうだそうだ!なんとかしろよ!!」
「貴女達は私をなんだと思ってるの?それにどうせ私はグリフィンドールの裏切り者らしいし、どうこう言われる筋合いは無いわ」
その言葉にグリフィンドール寮生の殆どが押し黙った。その様子にパチュリーは溜め息をついて飛び上がり、2人の下に向かった。
「こら貴方達、下の連中がうるさいからさっさと降りて来なさい」
「なんだよパチュリー!君もマルフォイの肩を持つのかい!?」
「バカな喧嘩してないでさっさと降りて来なさいって言っただけでなんで私がそんな風に言われるのよ?ドラコもその玉を返しなさい」
「君の頼みでもそれは出来ないね」
あぁダメだこのガキ共言うこと聞かないわ。ハリーは私を敵認定。マルフォイは変なプライド。下の連中は私にどうしろって言うのよ。
パチュリーがイライラしながらもうこの2人にスペルカードのアグニシャインかシルフィホルン辺りをぶつけようかと本気で悩んでいると2人が動きだした。マルフォイが『思い出し玉』を投げ捨て、ハリーがそれを追いかけた。ハリーは猛スピードで急降下し、地面スレスレの所で玉を掴み体勢を立て直そうと箒を上に向けるが、どうしても上がらず、顔面から落ちそうになった所で追い付いたパチュリーに制服を掴まれ宙ぶらりんになった。
「ハリー・ポッター!!」
パチュリーがフゥと安堵しているとマクゴナガル先生が走ってやって来た。ハリーはビクビクと震え始め、地面に下ろしてもガタガタ震えていた。
「よくもまぁ、そんな大それた事を・・・首の骨を折っていたかもしれないのに・・・・」
「先生、ハリーが悪いんじゃないんです・・・」
「黙りなさい。ミス・パチル・・・」
「でも、マルフォイが・・・」
「くどいですよ。ミスター・ウィーズリー。ポッター、さぁ、一緒にいらっしゃい」
マクゴナガル先生はハリーを連れて大股で歩いて行った。2人が見えなくなったあたりで今度はロンが何故かパチュリーに矛先を向け始めた。
「おい裏切り者!なんで君はマクゴナガル先生に怒られないでハリーだけが怒られているんだ!?」
「私は助けてあげたんだけど?それは私が箒を使って飛んでないからじゃない?まぁ、それ以前に先生は私に気付いてなかったんでしょうけど」
「何を言っているんだ!?君は空を飛ん・・・で・・・・」
ロンは今パチュリーが箒を使わずに飛んでいるのに気付いた。更にパチュリーは自分に対先生用の認識阻害魔法を間に合わせでかけて居たのでマクゴナガル先生は気付かないでいた。
「じゃ、私は失礼するわ。あぁ、先生に言っても無駄よ。誰も信じはしないわ。ダンブルドアでもね・・・」
パチュリーは驚愕でまたもや固まったロンを置いて城に入って行った。残された生徒達はそれをポカンと眺めてから口を開く。
「今のどうやったんだ?人が箒を使わずに空を飛んだぞ」
「さぁ、前々から僕等に分からない事言って先生が驚愕して点をあげていたからなぁ」
パチュリーはこの一件でグリフィンドールとスリザリン両生徒達から少しだけ注目されるようになった。