空を舞う魔導の銀翼   作:こたねᶴ᳝ᵀᴹᴷᵀᶴ᳝͏≪.O

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Mission.2

エンジン音で目を開く。プロペラの音。

周囲を見れば、ここはコックピットの中だ。

これは......前大戦時の月の国の戦闘機、金式戦闘機五二型だ。

となればと体を見れば、想像通りの古めかしい飛行服、見慣れた体よりも大きく、おそらくは男性だろう。

なるほど、これは夢だ。確信する。私はこのような夢をよく見る。

大抵は戦闘機に乗っているが、そうでなくても戦場にいて、自分は自分ではない誰かになっている。意識ははっきりしていてそれが夢だとわかるが、ほとんど自由は効かない。

そのまま飛んでいれば敵が現れ、戦闘になるはずだ。......来た。

夢の中の私――或いは俺や僕等――は目をこらす。同じく前大戦時の戦闘機、クルフス合衆国のF-91 アームストロングか。

二機は接近。ヘッドオン。ヘッドオンを避けたいこちらはコークスクリューに近い機動をする、すれ違う。

ピッチアップ。運動性能に任せてそのままF-91の背後を取るが、速度差によって引き離される。F-91は大きくターン。再び突進してくる。一撃離脱戦法だ。

緩やかなターンとラダーで少しずつF-91の正面から右へずれつつ少し高度を下げる。

F-91が近づいてくる。さらに急激に右、切り返して左へ、F-91にビームアタック。

降下と合わせてかなりの速度のF-91は急には曲がれない。射撃。

正確な偏差射撃だ。命中。F-91は回避機動をとっているがあまり回避できていない。パイロットは新米かもしれない。

そのまま背後につき、緩降下しつつ狙いをつける。F-91は損傷し煙を吹いていて、速度が落ちている。一方こちらは速度が乗ってくる。引き離されることはない。射撃。7.7mmのみだ。F-91はピッチアップ。7.7mmは回避される。しかしそれが狙いだ。金戦はすでにピッチアップしていた。

射撃。命中。

翼が折れ、キャノピーが赤く染まって......

 

――――――

 

目が覚める。見慣れた天井とベッドの感触。

今日は前大戦の月の国軍の戦闘機乗りの夢だったな、とそのままの感想を抱いて起き上がる。

背伸びをひとつ。ふぅ、と息をつき、ベッドから出る。

時計を見れば、ちょうどいいような時間。いつも通りだ。

一日の始まり。歯を磨いて、トイレに行って、水を飲んで、朝食は......適当にパンでも食べる。

本当にただのパンだ。おいしいともまずいとも思わないが、まぁおいしい方なのだろうな、と思う。

服を着替えて出勤だ。基地へは徒歩でも行ける距離だ。

町の景色も変わらない。規模は大きくないがそこそこに便利で、寂れてなどいないのにどこか寂れた町のような雰囲気がある。

春先はそこら中の草むらに花が咲いていて綺麗だが、やはり秋の方が好きだ。

理由は特にない。自分のオレンジの眼や赤みがかった栗色の髪と同じ色がそこら中にあるからだろうか?と考えなさそうだと却下する。なんとなく好き、でいいだろう。

そう何気ないことを考えながら歩いていると周辺の建物がほとんどなくなってくる。基地に近づいている証拠だ。

当然飛行場だからというのもあるが、そもそも市街などへの被害を避けるために、国土の端に基地を作ってそこだけを対地攻撃の目標にしているのだ。

数十年は前に決まった国家間戦争のルールであり、私のような雇われが主力になりだしたのもその頃。狭い国土で進化した兵器の火力が振るわれては、終戦してもお互い何も得るものがない。それに軍人というのはエリートだ。あまり減らしたいものではないのだろう。

大国も参戦する戦争の最中でありながら町が何ら変化を見せないのもこのルールのためだ。空襲におびえるといったことはもうない。

これを戦争と呼んでよいのかも疑問だが、今のところは戦争となっている。国家と国家の、資源や資金を賭けた争いだ。

基地の門で身分証明書を見せて中に入る。

さて、今日も仕事の始まりだ。

 

――――――

 

いつも通りに進んでいた一日であったが、仕事が始まってみればいつも通りでないことがあった。

敵機が多いのだ。

3回の哨戒飛行で3回とも敵機に遭遇し、うち一回は4機編隊となれば相当だ。

「敵さんは大侵攻でもやるつもりなんすかねぇ。そのための偵察とか?」

「かもね。まぁ、私たちは命令があれば飛ぶだけだ。」

そうだとして、主な戦場ではないこの地域へもこれだけ飛んでくるとなれば上も気づいているだろう。それならば何かしら手を打つだろうが、傭兵には直前まで作戦の予定などは知らされないことが多い。通常の飛行でも大作戦でも、実行の少し前に伝えられて当日になれば飛ぶ、というようなパターンばかりだ。

それでも特に問題はない。警戒、戦闘、やることは単純だ。

時計を見れば、そろそろ次の飛行の時間だ。今回も敵機に遭遇するのだろうか。

僚機の彼女の肩をたたく。

「ん?」

「時間。行くよ。」

「うーい」

緊張感がない。傭兵には意外と多いが、彼女は荒くれ者といったタイプではない。

昔からこうなのだが、どこからその余裕は湧いてくるのだろうか。

まあ、こんなことを考える咲葉自身緊張するというわけではないのだが。

 

――――――

 

いつもと変わらない哨戒飛行といった具合で上がり、同様に航路をとる。

探知魔術機(サーチャー)コンタクト。

敵機だ。そちらへ向けて飛ぶ。ステルス機ではないから向こうも気づいているだろう。

ある程度近づいたところで目をこらす。ゴーグルの拡大機能も使ってみる。細かい機種まではわからないが......ジェットだ。二機。

この基地周辺で遭遇する敵機は大抵旧式のピストン機だ。ジェットとは珍しい。

『敵機はジェットらしい。古い型みたいだけどあまり気を抜きすぎないようにしなよ』

『わかったっすー』

『......ほんとにわかってる?大事な僚機に墜ちられると困る......』

『あれ?心配してくれてるんすか?』

ため息をつきそうになる。

『そりゃ心配にもなる......』

だいぶ近づいてきた。そろそろ交戦範囲だ。

『後ろをのお願い』

『了解っす!』

ヴァルノール、エンゲージ。交戦を宣言。

近づいて敵機の形状がわかりやすくなってきた。

あれは......Nf-283か。量産型が安価で出回っているので、比較的よく見かける。

翼下には増槽が見える。元が迎撃機なので長く飛ぶには必須だ。しかしあれは大きい。後部の噴炎がやけに光っている。速度を上げたタイプか。

元迎撃機の火力は侮れない。ヘッドオンは悪手だろう。大きく旋回して正面を外れまた旋回してビームアタック。

照準、射撃。しかし後ろを通り過ぎる。思ったよりもかなり速い。

敵機が旋回。旋回は鈍い。速度に特化しているらしい。こちらに狙いをつけるにはそこそこかかるだろう。スロットルを押し上げ、上昇。

少し周囲を確認。イリュージョンが相手している敵機をオーバーシュートさせているのが見えた。

こちらの敵機は緩めの角度で上昇している。速度を活かして振り切りつつ上を取るつもりか。

十分に上昇したので緩降下しながら敵機を追う。しかし追いつけるか怪しい。

ここで敵機が旋回を始めた。距離が縮まる。幸運だ。

照準、射撃。今度は命中。

敵機は旋回を続ける。いくらなんでも鈍すぎる。あれでやっていけているのだろうか。新米かもしれない。

ロール、ピッチアップ。敵機と同じ向きで旋回。

照準、長く射撃。敵機が回避機動。ロール自体は割と機敏だ。ラダーも使って回避された。

しかし、これで速度が落ちた。

敵機の上でピッチアップ、上を向き、180度ロールしてピッチアップ、下を向く。

正面に敵機の腹。降下で逃げようとしているが、遅い。

射撃。命中。

燃料に引火したらしい。引火時の危険は火属性系の推進機関の欠点のひとつだ。

バレルロールして敵機を回避。水平に戻して敵機を見る。火が消える気配はない。ドラッグシュートを出した。減速し、キャノピーが外れ、座席が射出される。撃墜だ。

『ヴァルノール、Splash1』

周囲の様子を見る。僚機ともう一機の敵機の戦闘は続いていた。

イリュージョンが後ろにつかれるが、オーバーシュートさせる。固定脚の一部が展開してエアブレーキになっているのが見えた。また妙なものを。

射撃、命中。敵もう一機の両翼が折れる。撃墜確実だ。

『ハーフムーン、Splash1』

敵機撃墜のコール。残敵はなし。

『流石に疲れたっす......とっとと帰ろうっす』

『無事に帰るまでは気を抜かないほうがいい』

『わかってるっすよ』

RTBを宣言。帰路についた。




金式戦闘機五二型≒零式艦上戦闘機五二型
F-91 アームストロング≒F-51 ムスタング
Nf-283≒Ta283(Fw283)

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