勘違いヒーロー、誕生。   作:さらだ

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side 鉱石を拾った一般人

 

下町を歩いているとこの場所に似合わない格好をしたお嬢さんが歩いていた。辺りをきょろきょろと物珍しそうに見渡している様子から土地勘がないことがわかる。あのこをターゲットに誘拐すれば………!よし、いまだ。

 

「……あのすみません。駅はどちらですか?」

「駅ですか?わたくしがご案内いたします」

 

思えば、これが厄日のはじまりだった。どうして誘拐なんて馬鹿なまねをあのとき実行しようだなんて考えたのだろうか。

 

何気ない会話をしつつ周囲を警戒する。人通りが少ない道にさしかかったときおれはピストル(と言ってもおもちゃ)をおしつけた。おとなしくしろ。騒ぐな。しにたくなかったら言うことをきけ。

 

どこかの工場の跡に連れてきた。背中に銃口を押しつける。よし。ここからが問題だ。はやく身代金を要求しないと………!

 

「おい。電話番号教えろ。聞こえないのか!身代金、要求するんだよ!」

 

おれがピストルを使って脅すと、お嬢さんはにっこり笑って回し蹴りを繰り出した。その拍子におれの手からピストルが離れた。この子はいったい何者なんだ……!?

 

「これおもちゃですね。こうみえても海賊なので」

 

海賊ゥ!?……ま、まさか巷で噂の宇宙海賊?

 

「すみませんでしたァァァァ!どうか許してください。出来心なんです。やむにやむを得ない事情があったんです!会社やめて店だしたんですけど、金を借りた先が絵に描いたような悪徳金融で、わずかな貯金も店も全部とられて………借金まで背負わされて、」

 

おれは土下座をして洗いざらい全部白状した。すると、お嬢さんは「わかりました」と言い、携帯を取り出し電話をかけ始めた。

 

「あ、ハカセさん。わたくし今、誘拐犯さんといっしょなのですが、お金が必要だとおっしゃっているので、日本円で3億円ほど用意いただけませんか」

 

ちょ、ちょっとォォ!!!何やってるんだこのお嬢さんンンン!?「お金はわたくしが都合します。もう大丈夫ですよ」イヤイヤ、大丈夫じゃないから!!いまのまるで脅迫電話じゃないか!!「脅迫だなんてそんな……」しかも何!?3億円?おれの借金3,000万だよ?「たくさんある方が助かるかと思いまして」イヤイヤイヤ、わからない、わからない。おれ宇宙海賊がわからない。

 

 

「3億ゥ!?」

「3億!?」

「……3億」

「3億」

「あわせて15億だな」

 

あわせたら駄目だろォォ!!ちょっと携帯貸せ!おれが訂正する。

 

「さっさと用意しろ15億」

 

「増えてますよ!3億ですよね?」

 

………ハッ!電話の向こうの奴につられてしまった。まずい。これじゃますます状況が悪くなっていく。

 

「しょうもないこと言うな!」

 

おれはつい感情的に怒鳴った。瞬間電話越しに空気がピリッとした。電話の向こうで「あら地雷ふんだわね」と女の声が聞こえた。それに続けて「トオル、いまはアイムの無事を確認しないと……!」と焦ったような男の声もする。な、なんだ?急に寒気がしてきた。

 

「しょうもないだと?何がしょうもないんだ。わかりやすいだろ。3億が5回きて15億。足してどうするんだというツッコミ。お笑いとして成立してるじゃねーかコノヤロー。おまえもおもしろいと思ったから15億ってかぶせたんだろ?それをしょうもないって、あァなるほど。しょうもないって言うなら、おまえはお笑いの天才なんだろォ?さぁお笑いの天才のボケ、みせてもらおうじゃねーか」

 

ひィッ!なんだこいつ!!マシンガンのようにおれを追い詰めるように語りかけてくる。じわじわとプレッシャーがかかってくる。胃が痛くなってきた。身代金の要求してたのになんであれはお笑いの説教を受けてんだ。なんでナチュラルによし〇とやってんだ?「チッ!貸せトオル」おれが腹を手でさすっていると電話相手が変わった。も、もしもし。

 

「オイ。おまえが誘拐犯か。おれたちの仲間をさらうとはいい度胸してんなァ。そこで待ってろ。動くなよ」

 

おれはぱたりと静かに携帯を閉じた。もう終わりだ。完全におれ死亡宣告された。

 

物陰から怪しい風貌をした奴が近づいてきた。どうしてこんなときにザンギャックに会うんだ!?たしかに地球には毎日のようにザンギャックが襲来していたが、ここ最近は暴れる事もなかったというのに。

 

「さすがおれさま。ついてるぜ。こんな早く見つかるとは……おいおまえ!クワゾール持ってんだろ?おとなしくよこしな」

 

クワゾール?なんのことだ??

 

「……クワゾールって猛毒を生み出す危険な鉱石のことですか」

「ん?こいつは驚いた!賞金首の元お姫様じゃねーか」

「ッ!絶対に渡してはいけません!」

イヤ、渡すも何もおれ知らないよ……ひィ!!いきなり攻撃された。

 

お嬢さんはおれをかばいながら戦っていた。行き止まりまで追い詰められたとき、お嬢さんの姿がピンクのヒーローに変身した。

 

そういえば、昨日500円を拾ったと思ったら、勘違いで変な石を拾ったような………なんてこったパンナコッタ。こんなもの拾ったばっかりに。借金はなくならない。誘拐は失敗。海賊に狙われたあげくにザンギャックにまで襲われて……なんでこんな運が悪いンだよォ……

 

「いいえ、あなたは幸運です。あなたがこの鉱石を拾ったことでこの星のあなたや大勢の人々の命を救えるのですから。王女でありながら何もできず星を失い、たったひとりで逃げなければならなかったそんな人もいますから……でも生きていればいいこともあります。だから、あなたは幸運です」

 

幸運、か。おれがじんわりしていると、またさっきのザンギャックが追ってきた。ひィ!そして海賊たちも駆けつけてきた。ひィ!やっぱり運が悪いんだァァ!!

 

「ザンギャック、よくもあたしたちの仲間を誘拐してくれたわね」

 

…………え?あ、あれ?おもわずお嬢さんと目を合わせる。海賊たちはザンギャックに向かって剣の先を向けていた。その言い方じゃ、まるでザンギャックがお嬢さんを誘拐したような………

 

「え?なに。誘拐?誰が?おれ?」

 

案の定、ザンギャックは混乱していた。そりゃそうだ。未遂とはいえ、誘拐はおれが企てていたし………たしかに鉱石を狙われ追われたが、それは別件だ。

 

「しらばっくれんな。礼はたっぷりさせてもらう」

「言い訳はききたくねェ。ただでは返さねェ」

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

海賊たちは赤、青、黄色、緑、ピンクのコスチュームに変身し、ザンギャックたちと応戦し始めた。壁に隠れていたおれを白衣を着た男が避難させてくれた。「アイムだけじゃなく一般人まで誘拐していたのか」………なんだか誤解されているような気がするが、これ以上ややこしくするわけにはいかない。おれは黙って白衣の男の「怪我はねェか?」という問いかけに首を横に振っていた。

 

「あとは主犯のアンタだけよ!」

「まてまて!タイムタイム!おまえら、なんか誤解している!な、ピンク!?」

「何のことでしょう」

「えェェ!?そんなことねーだろ!?」

「うるせェ!この誘拐犯」

 

………なんだかものすごくいたたまれなくなってきた。あのザンギャックに濡れ衣を着せてしまった。お医者さん、おれ怪我してたみたいです。心が痛いです。

 

 

「おのれェ!ふん、ラッキーなのはおれさまだ。クワゾール、それとこいつらは賞金首!一味全員の賞金あわせて11,251,000ザギンがおれのものだ!!」

 

そう言った瞬間、この場にいる全員が列に並んで順番につぶやいていく。

 

「11,251,000」

「11,251,000」

「11,251,000」

「……11,251,000」

「11,251,000」

 

そして最後の一人となったとき全員の視線が白衣の男に向かった。もしかしてもしかするとこのパターンは………期待した眼でみると

 

 

 

____「11,251,000」と冷静に顎に手を添えてつぶやいた。

 

えェェェェェ!!足さねーのかよッ!!そこは足すところだろォォ!?みろ全員ずっこけてるじゃねーか!!芸人の団体芸になってるよ!!

 

 

 

 

 

結局、海賊たちはザンギャックを相手に戦い、コテンパンにしていた。容赦がない攻撃だった。クワゾールという鉱石は海賊たちに渡して処理してもらった。一件落着だが、おれは謝らなければならない。お嬢さん、いやゴーカイピンクに頭を下げた。

 

「すまん!おれはどうかしてた。切羽詰まっていたからといって関係のないアンタを……おれ、もう一度踏ん張ってみるよ、アンタみたいに」

 

「もしどうしようもなくなったらわたくしに声をかけてください。まだしばらく地球にいますから」

 

お嬢さんの後ろからひょっこり白衣の男が顔をのぞかせた。

 

「オイおっさん。次来るときは必ず大爆笑のネタもってこい。皆、期待してっからよ」

 

それはイイ顔で言い放った。笑顔なのに笑顔じゃない。目が笑っていない。ウッ、また急におなかが………

 

「あいつ次来るのか?」

「……さァな」

「あーあ、トオルに追い込まれてるじゃない」

「あまりからかってはかわいそうですよ」

「ご愁傷様。」

 

ピンクのお嬢さんたちが後ろでこそこそと話していた。おれは口元を引きつらせながら手を振って彼らを見送った。

 

………まじめに働こう。

 

 

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