勘違いヒーロー、誕生。 作:さらだ
戦う交通安全!
激走戦隊 カ~~~レンジャー!
side トオル
「皆のもの、交通安全に気をつけるぞよ」
朝起きるなりナビィがお宝占いの結果を告げた。おれは寝起きの働いていない頭でぼんやりきいていた。
横断歩道は手を上げて渡る。無理な横断はやめましょう。駐車違反はやめましょう。自転車は駐車違反か?
なんだか微笑ましい。マーベラスは両手をあげて横断歩道を渡ったり、ルカは駐車違反のドライバーにキレたり、教本(宇宙警察監修)片手に取り締まりをしている。前世で教習所に通っていたことを思い出す。おれはATの普通車の運転免許を取っていたんだっけ。いまは両さんにジャンプチェンジすれば、乗り物系はたいてい操縦できるからなァ。実を言うと、宇宙船の免許をおれとってんだよな。いまは地球に居座ってるので宇宙船を操縦する機会も減ったので身分証明書代わりに使っている。
しばらく歩いていると、ゴーミンに追われている男がいた。
「ザンギャックだよな?」
「とにかく行きましょう」
………厄介ごとのにおいがプンプンするが、仕方ない。皆ザンギャックに立ち向かいに行ってしまった。おれも行くとするか……
おれが駆けつけると、ベンチで体育座りをする男がいた。赤地に黒い馬蹄と白い蔦・金の葉の模様が刺繍されたシャツを着ている。男は「……これが海賊戦隊ゴォ~カイジャー。いいね」と、頷いていた。狙われているにしては態度が堂々としているし、なんだこの状況。
「君たちが海賊戦隊ゴォ~カイジャーだね?はい、コーヒー牛乳」
そう言いながら、男はおれたちに一人ずつ順番にコーヒー牛乳(瓶)を配った。いちご牛乳の気分だったが、つい反射的に受け取ってしまった。実はいちご牛乳にするか、煮オレシリーズにするか、コンビニで悩んだすえにいちご牛乳を選択した。ちなみに言うと、煮オレは赤羽カルマがよく飲んでるものだ。いちご、レモン、サバなどシリーズ化されている。
銀さんにジャンプチェンジしすぎた反動か、体が糖分を欲している。カフェインじゃない、糖分がほしいんだ。でもせっかくもらったしなァ。おれがそんなことを考えている間に会話が進む。
「………アンタは?」
「実は私、戦う交通安全カァ~レンジャーのレッドレーサーだったんだ。かのレジェンド大戦でレッドレーサーの力を失ってしまったから、今は陣内恭介の名前で役者やってますけど」
「元カーレンジャーだったからザンギャックに襲われていたの?」
「さァ?」
「ナビィの言っていた交通安全に気をつけろってことはこういうことか」
結局、牛乳瓶の蓋を空けることにした。ポンっと音を立てて、ちびちびと口に含む。
「そうだ!私と劇団つくらないか?こどもたちに、芝居を通して交通安全を教えたいんだよ。それまでは紙芝居でやってきたんだけど、どうも限界を感じてね。どうだ、《6色の信号機》!絶対イイ芝居になるって!もちろん、脚本と演出と主演は私が!そして君たちは6色の信号機になって__って、君たち、大いなる力はいらないのかい?」
男がペチャクチャ喋るのをコーヒー牛乳を飲みながら左から右へ聞き流す。
「いや、いるけど……」
「6色の信号機になるのは……」
「ほかのカーレンジャーの方にいただきます」
さて、そろそろ頃合いか。皆の足が一歩ずつ下がっている。おれもゴクッとコーヒー牛乳を流し込む。そして、マーベラスの「行くぞ!」を合図におのおの牛乳瓶をおいて走りだした。
「待ちたまえ、君たち!私がレッドレーサーだったことを忘れているね?足には自信あるんだ」
油断していたわけではないが、予想外だったのは男が得意気にそう言い、ギャグ漫画よろしく追いかけてきたことだ。
side ハカセ(ゴーカイグリーン)
あっちに行くべきか、こっちに行くべきか……それが問題だ。
カーレンジャーのレッドレーサーの前から走り去ったぼくたち。いくら大いなる力がほしいからといって、劇団をつくるのはちょっと、ね。そもそもぼくたち、海賊だし。
頭を抱えてどっちに行くべきか悩んでいると、さっきのカーレンジャーの人が「その悩める演技。シェイクスピアも絶賛する……!」と、逃げようとしたぼくを両腕を掴んで引き留めた。うわ!まずい。ザンギャックは火をまといながらこっちに向かってくるし、この人はぼくを盾にしてくるし………!何するんですか!!
「ちょ!仮にも元カーレンジャーの人が他人を盾にするなんて。自分で除けてください!」
「しょうがないだろ。もう戦う力を失ってしまった体なんですから」
それもそうか。……ハッ!つい、一緒になって体育座りをして納得してしまった。
いつの間にかザンギャックの女幹部インサーンがあらわれ、ジェラシットを叱咤していた。
「やめなさい。だれが炎のジェラシーパワーで倒せといった。そこをどきなさい。私は捕まえろと言ったはず」
「くっ……かわいさ余って憎さ100倍インサーン!」
どうすればいいんだろう。止めるべきか、止めざるべきか………そこが問題だ。
「ハカセ!大丈夫か」
「なんだこりゃ……」
「なにがなんだかわかりませんね……」
マーベラスとジョーとアイム、ルカが駆けつけてきた。ザンギャックたちがカーレンジャーの人を取り合いしていて、まさにカオスな空間になっている。
「元カーレンジャーの陣内恭介を巡って、ザンギャックの内部分裂?」
「……そんな大げさなものにはみえないが」
たしかに。ルカがいうような内部分裂にはみえないけど、ザンギャックの幹部が動くってことはひょっとすると………
「もしかしてカーレンジャーの大いなる力ってすごいものなのかも」
なんとなく小さな可能性としてぼくがそうつぶやく。でも、実際のあの人の様子からしてそうは見えないんだよなァ。皆も首を捻っていて、ピンと来ていないみたいだ。しばらくザンギャックの攻防を眺めていると、「何してんの。ボケッとしてないではやく助けなさいよ!はやく!」と、インサーンという女幹部が叱咤してきた。ハッとなって、モバイレーツを取り出し、レンジャーキーを構える。
「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」
「派手に____ってどこだ。やりずれェな」
………派手に行けなかった。ぼくらが変身すると、相手はもう姿はみえなくなっていた。レッドレーサーは「こっちだ~!」と建物の中からぼくらを呼ぶ。どこか調子が狂うな。まずはジェラシットという怪人を相手に戦うか。……………くッ!なかなか強い。
やっぱりここはこれでしょう!レンジャーキーを取り出し、ゴーカイチェンジだ!
___《ターボレンジャー》
「おい!それじゃない!」……しまった。カーレンジャーだって!違うみたいだ。仕切り直してもう一度。
___《カーレンジャー》
元レッドレーサーをみると、親指を立てて笑っていた。よし、正解だね。
アイムは一輪車、ジョーはスケボー、ルカはローラースケート。ぼくとマーベラスは自転車。ぼくがペダルをこいで、マーベラスは「ラクだぜ」と後ろに乗っていた。そりゃぼくがこいでるからね………めざとくそれを発見した元レッドレーサーは「こら二人乗りは禁止」と腕でばってんしてる。
「「「「「ゴーカイクルマジックアタック」」」」」
ぼくたちがジェラシットを相手にしている間に元レッドレーサーはインサーンから逃げ回っていた。
「まった!わかったよ。こういうのは地域では男からなんだよ。
………ソイヤァ!!」
インサーンを払いのけ、逃走している。インサーンは怒りを露にして追いかけ回している。まだ逃げ回っていたんだ。………うーん、助けに入るべきか、入らないか。
ジェラシットは倒してもないのに巨大化した。どういうこと?マーベラスも「マジでわけがわかんねェ」と呆れている。
「馬鹿!恋は叫んでも通じない。もっと心をこめるんだ、いいか、アイ ラブ ユー。ハイ!」
………そして、この状況をつくった当の本人は、ジェラシットに向かって説教をしている。大袈裟に身ぶり手振りして、復唱するように言った。
「そうだぞ、ジェラシット。東の海にはこんな諺があるんだ。
………恋はいつでもハリケーンってな。」
いつの間にかトオルも一緒になってジェラシットを応援していた。最近はまるでしんだ魚のような目をしていたのに、いまはキリッとした顔つきになっている。
「おぉ!きみ、いいこというじゃないか」
「おっさんもなかなかイカしてんな」
元レッドレーサーとトオルは握手を交わし、意気投合したようだ。いまでは恋愛トークに花を咲かせている。トオルは得意げに話し出していた。
「一度こいつって決めたら他の女に目移りしちゃいけねェ。おれは小野寺推しだったんだよコノヤロー。おのれザクシャインラブゥゥゥゥ!!」
………………いや、ジャンプの話だ、これ。
ちらりとおそるおそる振り向くと、ザンギャックが「アイ ラブ ユー」とお互いに言い合っている。元レッドレーサーは満足気に頷いているし、トオルにいたっては完全に煽りにきている。………カオスすぎるよ。
「うわぁぁ!トオルまでおかしくなっちゃった」
「アホらしくなってきた」
「………何やってんだアイツ」
「まぁ、そんな諺があるのですね」
「アイム、本気にしないの。どうせその諺っていうのはジャンプのことよ、たぶん。」
案の定、フラれたジェラシットは巨大化したまま大暴れした。微妙な気分のままゴーカイオーに乗り込み、そのままジェラシットを空の彼方へ飛ばした。
side トオル
ジェラシットは空の彼方へ消えていき、一件落着。公園では《戦う交通安全》の芝居が繰り広げられていた。棒読みで。
「《戦う交通安全》じゃあ、いってみよう」
監督ことレッドレーサーは赤い台本を手に、合図がかけた。
「……赤信号。自分を責めるのはよせ。」
「せめて黄色信号に」
「せめてって、そんな言い方ないでしょ」
「赤信号さん。そうですよ」
「……ピンク信号は黙っていろ」
「黙ってられないから」
「……なんだ、この緑野郎」
「みんな、やめよう。
……おれたちの敵は交通違反だ。おれたちは、戦う交通安全……」
思わず「チェンジで」って言いたくなるくらいの大根演技だ。これがテレビだったらチャンネル変えると断言できる。子どもたちも「かっこわる」「だっせー」と不満の声をあげている。
「もっと熱く!大いなる力はいらないのか!はい、もう一回」
おっと、監督の熱血指導が入った。「黒信号もボケッとしてないで、絡みにいくんだよ」と軽く背中を叩かれた。やれやれ、仕方ない。
「……赤信号。自分を責めるのはよせ。」
「せめて黄色信号に」
「せめてって、そんな言い方ないでしょ」
「赤信号さん。そうですよ」
「……ピンク信号は黙っていろ」
「黙ってられないから」
「……なんだ、この緑野郎」
取っ組み合いのくだりで黒信号(おれ)が登場する。
___ドコォォ
おれは拳を勢いよく地面へ叩きつけた。結果、公園にはクレーターができた。おれのイメージ的にサイヤ人は着陸するときでっかいクレーターつくる。さすがに宇宙船を出すのはコスト的に無理だった。でもリアリティの追求って必要だし。ということで、自分でクレーターをつくった次第だ。土埃の中に人影がみえ、それっぽくいい雰囲気になっている。
「おれたちの信号機は赤信号さん一人じゃない、ここにもいたということだ」
「黒信号………全員揃ったな。
いくぞ!戦う交通安全、激走戦隊カーレンジャー!」
皆で腕をグルングルン回し決めポーズをとる。
ちらっとギャラリーをみると、保護者が顔を青くして携帯電話をかけ始めていた。ちょっ!あとでちゃんと埋めるから!ついでにおれの黒歴史も埋めるからァァ!!
そうしておれは大人の事情により、各方面へ頭をさげるのであった。