勘違いヒーロー、誕生。   作:さらだ

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side トオル

 

サルを相手にすることにジャンプキーを使うことを渋ったおれ。おれにも倫理とか、道徳とか一応あるし。……あるよな?

 

バスコに捕まったおれたちは鎖で縛られた。だが、幸いおれはモバイレーツを奪われなかった。変身しなかったせいか、持っていないと思われたらしい。

 

ガシャンっと音を立て、ジョーが床にくずれる。

 

「おっとォ~。足がすべった。ってことで、マベちゃん。おれと取引しない?こいつらと引き替えに、あの日おれが手に入れるはずだった物を全部よこしな。全てのレンジャーキーとゴーカイガレオン、あとナビィ。宇宙最大のお宝探しに必要な物全部だ。どう、簡単っしょ?あれ、あれれれれぇ~?まさかマベちゃん、迷ってる?ならどっちでもいいけどねェ。この取引が駄目なら、また他の手考えるし。あぁ、こいつらサンギャックに売っちゃうよ?せめて賞金くらいほしいもん。考える時間やるよ。イイ答えを期待してるからさ!」

 

バスコはモバイレーツを閉じ、おれたちを品定めするかのようにみつめた。そんなバスコにルカが話しかけた。

 

「ね!バスコ。あたしを雇わない?」

 

ぎょっとしたようにルカをみやり、動揺が走る。ルカはあっけからんと「だって、しにたくないもん。だったらあたしは命を取って、マーベラスを捨てる。」と言いながら立ち上がる。ただし後ろのジョーやハカセ、アイムに向けて「あたしに任せて」と指でサインを出している。バスコはニッコリ笑いながらルカに近寄る。

 

「よォし、わかった!

 

 

 

_______っていうと思った?」

 

表情を消したバスコが冷たくはねのけた。やっぱりな。

 

「わりィな。おれ、人、信じてねーんだわ。人、信じて何か得することあんの?うっかり信じた相手がおれみたいな奴だったら、いろんな物失っちゃうよォ?…………マベちゃんみたいに。」

 

そしておれにちらりと視線を向け、「おれはトオルに散々カモにされたからねェ。こいつには気を付けた方がいいよォ?心臓が惜しいんならねェ。」と、可哀想なものをみるかのようにルカたちに語りかけた。……はて、なんのことやら。見に覚えがありすぎてどれのことだかわからない。

 

 

バスコが云うには、数年前にとある惑星で漢方薬の治療が大ブームになったことがあった。そして、誰に構わず漢方薬の一種である葛根湯を薦める医者がいた。

 

「頭が痛い?あー、そりゃ 頭痛ですね、葛根湯をおあがり。次は胃痛? 葛根湯をおあがり。今度は筋肉痛?葛根湯をおあがり。次は……」

 

「先生、おれは単なる付き添いで」

 

「付き添い? 退屈だろ、葛根湯をおあがり」

 

この付き添いがバスコだったのである。漢方薬が口にあわなかったバスコは数日後、体調を崩し、またその医者に駆け込んだ。

 

「まったく、拾い食いすんじゃねーよコノヤロー。こりゃ腹痛だな。葛根湯をおあがり」

 

 

この医者は、トオルだった。そう、つまりおれなわけで。なんか、思い出してきた。そうか、そんなこともあったなァ。

 

「___あのときまた漢方薬を処方されて、アカレッドが「その葛根湯が原因なのだが」って言ってくれなかったらおれは今ここにいないね。」

 

 

ウッ!ハカセたちの視線がいたいこと。しみじみと語るバスコには哀愁の風が吹いている。

 

そうしておれたちはサルに牢屋へと移動させられた。ハカセがサルを懐柔しようと図るが、あえなく失敗。脱獄をしようと試みるが、あえなく失敗。そうこうしている間にマーベラスから連絡が入り、交渉の場所へ連れていかれた。

 

 

 

 

「ご苦労さん。とりあえず、その宝箱の中、見せてよ。そんで、ソレ置いてさがっててくれる?」

 

「こいつはやらねーよ。」

 

「………へェ。じゃ、こいつら見捨てるんだ?」

 

「いや、仲間たちも返してもらう。」

 

「あのさァ、マベちゃん。何も捨てずに何かを得るなんて、無理なんだって」

 

苛立ったようにバスコが顔を歪める。

 

「知ったことか。ほしいモンは全部この手でつかみ取る!____それが海賊ってモンだろ?」

 

そういうや否やマーベラスは宝箱を投げつけ、バスコに斬りかかる。ハカセの気転で鎖はほどけた。

 

 

……おれ以外はな!

 

「「「「「ゴーカイチェンジ」」」」」

 

ちょ!せめておれの鎖を切ってから変身してくれ。結局、おれは鎖でグルグル巻きにされ、敵陣のなかに放り込まれてしまった。もがいているうちに鎖は引きちぎれたが、あいにくジャンプキーで変身する余裕がない。

 

それでも必死に手足を動かし、攻撃されそうになりながらも向こう側にたどりつくと、先回りした二人ほどにポカポカポカと袋叩きにされる。慌てて対岸に逃げるとまた実体化したレンジャーキーに殴られ、反対側に逃げるとそっちでもまたポカポカポカポカと挟み撃ちに合う。

 

息も絶え絶えになったおれは、散らばったレンジャーキーのもとにたどりついた。

 

「逃げるぞ、ナビィ。レンジャーキーを集めろ!」

 

ナビィにそう言い、ふと見るとナビィは何だか難しそうな本を読んでいた。

 

「何だ、それは?」

 

「傷寒論と言う医学書だよ」

 

「医学書?医者には医学書より少年ジャンプだ!」

 

おれがかめはめ波の構えをとろうとすると、後から声がかかる。え?今のみられた?みられた?ぱっちりみられた?ダラダラと冷や汗がふきこぼれる。

 

「……へェ、トオルもまるくなったねェ。だけど、これだけは はっきりと言えるっしょ。トオルは、マベちゃんたちを“壊す”。まァ、せいぜい気をつけることだねェ。トオルの影響力は宇宙を震撼させるほどだから。何かがあってからじゃ、もう元には戻らないよ?」

 

 

 

意味深な言葉を残し、バスコは去っていった。

 

 

 

 

ひとり残されたおれは空を見上げる。太陽が眩しくて、視線を彼らへ移す。バスコの言葉が頭の中を駆けめぐる。おれが彼らを“壊す”。そんなこと、“わかっている”。もしも、おれの前に壁ができたら、おれはどう動くことが最善だろう。

 

 

目の前に立ちはだかる高い、高い壁。

その向こうはどんな眺めだろうか。

どんな風に見えるのだろうか。

 

某バレーボール漫画じゃ、“頂の景色”って言ってたな。

 

おれ独りでは決して見ることのできない景色。 でも、独りではないのなら、見えるかもしれない景色。

 

彼らといっしょなら見えるかもしれない景色。

 

例えば、おれが彼らと共にいたいのならば

例えば、おれが彼らを護りたいならば

例えば、おれが彼らの枷になってしまうならば

 

そうなったときおれは、___

 

 

「トオル、メシだ。帰るぞ」

「……おいてくぞ」

「今日は大根の葉っぱをつかってみたんだ!」

「えェ~!肉がいい!ね、トオルもそう思うでしょ?」

「ルカさん、好ききらいはいけませんよ。トオルさんもいっしょにいただきましょう」

 

 

少し離れたところから彼らがおれを呼んでいた。おれはフーと息を吐き出し、「あァ」と短く答えた。

 

 

 

 

 

 

おれは 彼らを、彼らの夢を、壊したくないでいる。

 

 

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