「ちぇ、なんで私が運ばなきゃいけないんだ…」
「あ゛?なんか言ったか。」
「なんでもないです。」
チトの鋭い眼光にユーリがひるむ。博物館の中での追いかけっこは、ひと悶着あった後ユーリが砲弾を運ぶことで和解した。リュックに砲弾を詰めて歩くユーリが、先ほどの出来事をチトに思い出させないよう話題をそらす。
「にしてもさ、同じ砲弾がいっぱいあってよかったね。」
「まあ、そうだな。」
同じような砲弾は戦車にたくさん積んであったので3~4個持って帰ることにした。
「そういえばさ、あの飛行機も爆弾とか落としてたのかな。」
「爆撃機ってやつか?どうだろうな。」
「おじいさんなら知ってたかな…」
チトが昔のことを思い返して歩いているうちに、愛機の元へ着いた。
*
砲弾を落とす準備を始めた二人。最低限の荷物以外を下ろし、機体に砲弾を乗せるスペースを作る。砲弾も載せたのでいよいよエンジンを掛ける。エンジンにハンドルを刺し、エナーシャというはずみ車のスターターを回す。
「うぅ、重い。」
「おー、がんばれ。」
『ガンバレー』
ちなみに、どこからともなく戻ってきたヌコは地上待機となった。
「ちーちゃんがやってよ~」
「そしたら、ユーが操縦することになるじゃん。絶対やだ。」
しばらく回すと、エンジンの中から聞こえる回転音が高くなってきた。計器の回転数も十分なのでエンジンを始動させる。小刻みな爆発音とともにプロペラが回り始める。同時にエンジンの排気口から大量の煙が立ち上がる。ユーリはすかさず後部座席へ着く。
「なんかさ、」
「ん?」
「いつもやってることだけど、目的があるとなんか雰囲気違うね。」
「目的?ああ、なんだ砲弾を落とすことね。」
「あれ?」
「ちーちゃんは大げさだなぁ。」
「…」
いまいちユーリと共感できなかったチト、照れながらスロットルをを上げる。エンジンはさらに爆音を響かせながら機体が進み始める。
*
しばらく迂回して、例のタンクの近くの上空まで来た。
「あれ、これって私が落とすの?」
「それしかないだろ。」
「えぇー。」
いやいやながら、ユーリは重い砲弾を持ち上げる。
「そろそろタンクの上に来たかな?」
「ちょうどいい感じだよ。」
「とりあえずタンクに穴が開けばいいからその辺を狙って。」
「はーい。」
「あと分かってるだろうけど、真上で落としても当たらないから手前で投げろよ。」
「え?!」
「なんだ、知らなかったのか。じゃあ…」
「ゴメンもう落としちゃった。」
「えぇ…?!」
ユーリはタンクの真上で砲弾を落としたため、砲弾はタンクから大きく外れ落ちていった。
「何処に落ちた?」
「道に突き刺さったみたいだね。」
ユーリがのぞくスコープの先では道路に砂煙が俟っている。どうやらそこに落ちたようだ。
「ま、今のは私が言わなかったのが悪かったかもね。」
「次は絶対当てる。」
「ホントかぁ…?」
「コツはつかんだ。多分。」
*
しばらくして、元の所へ機体が着陸した。次の投下でユーリが当たったというもの、信じていいものか不安げな表情を浮かべるチトと、自慢げなユーリが下りてくる。
『オカエリ』
「ただいま」
「ただいま~」
地上待機していたヌコが二人を出迎える。
「ホントに当たったのかなぁ。」
「ちーちゃん、信じてないなぁ…」
「どっちにしろ予備の砲弾はお前がとっとと捨てちゃったし、信じるしかないけど。」
「えへへ…。」
ユーリが笑ってごまかす。その行動力の速さをほかのことに使ってほしいと考えながらタンクのところまで行く。
*
「開いてるねぇ。」
「割とでかい穴が開いたな。」
梯子を上ったタンクの上には、砲弾と同じくらいの穴が開いていた。中を覗くと、底の方にたまっている燃料と突き刺さった砲弾が見える。ユーリは自分の功績が認められて自慢げであった。
「底に穴が開かなくてよかったな。汲むのはバケツかなんかを紐でつるしてやるか。」
チトが燃料を汲んで確かめていると、ユーリがふらふらと歩きだした。
「…ってユーどこに行ってんだ。」
「なんか、甘いにおいがする…?」
「え?」
それを聞いチトも嗅覚に神経を集中させると、確かに甘いにおいがした。においの発生源と思われる方には小さい建物があった。
「あっちの方かな??」
「あっちは捨てた砲弾が落ちたあたりかも。」
「近づいてみよう。」
二人は建物へと向かう。
*
「この建物みたいだな。」
「ああ~なんかとっても美味しそうなにおいが~」
ユーリが言った通り砲弾が落ちたのはこの建物のようだ。建物の屋根に大穴が開いている。重い扉は古びているが、カギは壊れていて開けることができた。入ると中にはタンクが並んでいた。
「これも燃料かな?」
「でもこれ甘いよ?」
「なんでわかる。」
「舐めた。」
「えぇ?!」
ユーリが指をしゃぶっている近くには、砲弾によって傷が入ったタンクから染み出た赤い液体が見えた。
「お前、爆薬や機械油だって甘いのはあるんだぞ。大丈夫か。」
「おいしいよ…あとあれに似てる。」
「あれ?」
「びう。」
懐かしい名前を聞いたチト。確かに周囲に漂うにおいはびうのような鼻につくようなにおいがする。ユーリがタンクの梯子に上りだした。
「ちょっと、上から汲んでみるね。」
「気を付けろよ。」
「よいしょ…って、うん?!」
「うわ?!」
ユーリがタンクの上に乗った瞬間、タンクがひしゃげて大きくなった傷から大量の液体があふれ出した。慌ててユーリが飛び降りると、傷が元に戻りさらなる流出を防げた。しかしチトはすでにびしょぬれだった。ユーリが恐る恐る近づくが、チトに動きはない。
「ちーちゃん…大丈夫?」
「…」
「怒ってない?」
「…ふふふ」
「え?」
「ゆ~ぅ~!!」
「うわ!?」
いきなりチトがユーリに抱き着く。いきなりのことで混乱するユーリ。しかし前もこのようなことがあった気がする。
「ちーちゃんがまたおかしくなった…また月の魔力??いや月は出てないか…」
「ゆーの顔はよく伸びるなぁ~」
「赤いし太陽の魔力なのかなぁ…まあどうでもいいや。」
「もがもが」
「ちーちゃん髪の毛食べるのやめてよぉ…ヌコ助けてぇ…」
『ヌイ??』
そのころヌコは燃料タンクの上で二人が汲みかけていた燃料で、一杯やっていた。結局、二人は夜遅くまで飲み明かすこととなった。次の日、チトは自分の酔っていた時の所業と頭の痛さに苛まれるとは知らずに。
続く
作者です。お酒は二十歳になってから。
作中に出てきた赤い液体、元い赤ワインですが、何かびう的な名前を付けたかったけどつくみず先生のようなセンスもないのでやめました。
あと、作品没案があるけどせっかく考えたので本篇とは別に番外編として載せるかも。