「もう少しで抜けられそうだね。」
「まったく…階層の端まで来ることになるとはな。」
チトとユーリの二人の乗る古めかしい複葉機、ソードフィッシュは今までより一層さびれた風景の中を飛んでいた。下の視界に見えるものは、ところどころ廃墟がある以外は、ただただ広がる無機質な床だけだった。その風景の中で一つだけ異様なものがあった。
「相変わらずっと続くな。」
「穴ぐらい開いてたらいいんだけどねぇ…」
それは巨大な壁だった。穴一つない壁が階層の上から下まで覆いつくしていた。もちろんその壁はすぐ途切れるようなものではなく。おおよそ階層全体を区切るような巨大なものだった。
「やっぱもうこの階層は無視して上に行った方がいいのかなぁ。」
「なんで?」
「だって何があるか分からないし…」
「いや、何かしらあると思うよ。」
「え?」
急にユーリが確信を持ったような口調で言うのでチトは驚いた。すかさず聞き返す。
「いや…だからなんでわかるの?」
「昨日ヌコが言ってた。なんか電波か何か出てるんだって。」
「まじか。」
普段なら『なんで大事なことを言わないのか』とでもいうところだが、今回は壁の向こうに何かがあるという期待のほうが上回った。
「ヌコは今どうしてるの?」
「寝てるね。」
「色々聞きたかったけど、あとでいいや。」
またしばらくして、壁の端が見えるところまで来た。外までもうさほどない。
「ちーちゃんもう外に出れそうだね。」
「外に出るのも久しぶりだな。」
「燃料は大丈夫?」
「少し心もとないけど、壁の先まで行けるぐらいはあると思う。」
「じゃあ行きますか。」
*
二人の乗る機体は階層の外へ出た。外は雨が降っていた。
「うわっ、雨か。」
「最悪だな…」
「それより寒い。ひぇ~」
「早く降りてお湯でも飲もう…」
階層の外に出て離れてみると、壁の側面があらわになった。厚さ的に高さとほぼ同じくらいある厚いものだった。視界が悪く、壁の向こう側の様子はまだわからないが空間は広がっているようで行けそうであった。
「これは結構手間だな。でも壁があまり厚くなくて…」
「あれ?」
「どうした?」
「雨がやんだ?」
急に雨が嘘のようにやんだ。事態は好転したが不気味がる二人。
「よかった…?」
「うん…」
「それより壁の向k…うわ!」
「うお!」
『ヌイ?』
機体に衝撃が走る。何かにぶつかったような音もした。ついでにヌコも起きた。
「なんだ!?」
「まさか攻撃!?」
ここ最近他人にあってないので緊張が走る。もちろん攻撃してくるのは人だけではないが。ユーリは後部の機関銃を立ち上げる。その間も警戒をしていたチトが何か見つける。
「ちーちゃん翼見て!」
「あ、穴だ。」
複葉機なので翼は二つあるが、上翼、下翼ともに大穴が開いていた。しかし下翼はどうもおかしい。
「なんか下の方光ってない?」
「何か引っかかってるのか…?あれは…氷か。」
「ん?」
氷、空、降る。これらに当てはまるものがあったはずだ。チトは今までの知識を総動員して考える。
「そうだ!雹だ!」
「なに?ひょう?なに?」
「急いで階層に入るぞ!」
しかし、事態は悪化する。再び雹が降り始める。それも大量に。平均的な大きさは先ほどよりも小さいが、当たる度に機体は激しい衝撃に包まれる。
「ひぃ~!」
「もうすぐ階層だ!頑張れ!」
「何を?!」
なんとか氷の銃撃をかいくぐりソードフィッシュは階層内に避難することができた。外ではいまだ雹が激しい音を立てていた。機体にはさらに穴が開いていたが、飛行には問題なかった。
「危なかった…」
「氷がめっちゃたまってる。」
「なんか機体が重いと思ったらそれか。ゆー出しといて。」
「え~。」
ユーリがブツブツ言いながら氷を一個づつ投げる。その間にチトは計器を確認する。幸い、機械関係に故障は出てないようであった。
「燃料も漏れてないな。」
チトは機の後方に燃料が広がっていないか見渡す。その時この階層の状態を初めて確認した。
「ユーリ見て!水!」
目下はすべて水面であった。しかも水底もわからないほど深い。
「これは…うに?」
「うみ、でしょ。」
「そうそう」
「でも階層に海はないよ。」
「じゃあなんだろ、水たまり?」
「うーん…」
大きな水たまりにはところどころ建物の残骸が頭を出しているだけで、ほとんどが水面であった。どうやら先ほどの壁は、この水をせき止めていたようであった。階層の端にも壁があり、水を蓄えていた。なかなか階層に入れなかったのもこの水面の高低差のせいであろう。
「壁壊さなくてよかったね。」
「さっきいった電波ももう水底かなぁ」
『ウイテル。』
「まじか。」
「何処にあるの?」
『アレ。』
ヌコが足で指す方には、建物に混じって何か横長い影があった。
「でかいな。」
「ともかく行ってみようよ。」
*
「なんだこれは…」
「浮いてるから船じゃない?」
「船かあ。飛行場みたいだ。」
近づいてみると確かにそれは浮いていた。船の上は水平の何もない床で、端の方に構造物と塔が立っていた。
「ともかく降りれそうだし降りよう。」
「結構短いけど大丈夫かな?」
ユーリの不安とは裏腹に、ソードフィッシュは船の中ほどで止まることができた。
「さて…まずは穴をふさがなきゃな。」
「その前にこの服を何とかしようよー。」
息つく間もなくこの船まで来たので、その前に雨に打たれていたことをすっかり忘れていた。太陽も階層の間から見えるほど傾いていた。
「うーん、とりあえず今日は服を乾かせて終わりにするか」
「私あの建物で食べ物探してくるね。」
「追い逃げるな…てっもう行っちゃったよ。くそぅ。」
ユーリが脱ぎ捨てた服と一緒に着ていた軍服を干していると、ユーリが戻ってきた。手に何か持っているようだ。
「見てこれ!缶詰みたいなのがいっぱいあったよ!」
「ちょっと貸して。」
「なんて書いてあるの?」
「これは…こひ。」
「あーあれか。…そういえば。」
ユーリは飛行機に何かを取りに行って戻ってきた。
「これってそれに入れるやつでしょ!」
ユーリが持ってきたのは前に拾った粉だった。
「この絵についてる黒い飲み物はこひだったのか。なるほど、早速溶かしてみよう。」
とりあえず缶からこひを出して鍋にかける。開け方がわからなっかたので缶切りで開けた。温まったところでマグカップに移す。
「どれ。やっぱ水は入れなくてよかったな」
「じゃあ早速入れてみよう!」
粉の入った瓶からナイフで掬い取ってカップに入れて、そのままナイフでかき混ぜる。こひの中の粉は次第に広がっていき、言い具合の焦げ茶色になった。期待を込めてカップに口を付ける二人。
「はぁ~」
「はぁ~」
期待以上の味に、心の芯から溶けそうになる二人。水面の端では夕日が二人を温かく照らしていた。
「取り合えず、これからは修理と船の探索かなぁ。」
「そういうのは明日考えようよ。もう眠い…」
「そうだな、今日はいろいろありすぎた。」
夕日は沈み、一日が終わろうとしていた。
終。されど二人の旅行は終わらない、
作者です。いやー長かった(さぼって間が空いたせい)(最後駆け足になったのは内緒)
一応物語はおしまいです。少女終末旅行のSSは今後もネタがあれば、その度出していくつもりです。(このシリーズも含めて)
ありがとうございました。