仮面ライダートラベラーズ 切り札とメダルと放浪者 作:フラスコブレイド
森を抜けた剣崎と映司はとある街にたどり着く。
2人はそこで『包帯のおばけ』の噂を聞く。
街の住民たちからその話を聞いた映司は可能性として『屑ヤミー』の存在をほのめかす。
そして夜、2人は実際に屑ヤミーに遭遇し戦闘となる。
映司はそこで緑の血を流す剣崎を見てしまう。
普通人間は想像を絶するものと遭遇した場合、精神を守るため気絶してしまったり忘れてしまったりするものだ。
けれど耐性があった場合そんなことは起こり得ない。
例えばメダルの怪人と戦い続けた俺の目の前で緑の血を流す剣崎さんとか……。
「あっ……えーと……これは……その……」
剣崎さんは明らかに焦っていた。
きっと誰にも見られたくなかったんだろうと思う。
当然だ。
緑の血を流すってことは自分は人の皮を被った化物だと言っているようなものだから。
俺じゃなかったらきっと拒絶されていた。
「剣崎さん……とりあえずホテルに戻りましょうか」
「えっ……でも……」
「話は部屋でもできます。ほら行きましょう」
「…分かった」
俺と剣崎さんはホテルに戻る。
その道中、剣崎さんが不意に後ろを向いていたことには気付かなかった。
剣崎さんはさっきからずっと黙ったままだった。
このままじゃ何も分からない。
「剣崎さん、俺は信じてますよ」
「え……」
「剣崎さんが言ってくれたじゃないですか、俺のこと信じるって。だから俺も剣崎さんを信じます」
「映司…………分かった」
剣崎さんは自分のことを話し始めた。
「そうだな……今から1万年、この世界には53体の『アンデッド』と呼ばれる怪物がいた。アンデッドは今この世界にいる生物の始祖とも呼べる存在で、アンデッド同士戦って勝ち残ったものがこの世界を変えられる万能の力を得るんだ。そして1万年の戦い……バトルファイトで勝ち残ったのはヒューマンアンデッド」
「人類の……始祖ですか?」
「そう。今人類が繁栄してるのはヒューマンアンデッドが勝ち残ったからなんだ。そして現代、アンデッドの存在を知ったある男がアンデッドをこの世界に再び蘇らせた」
「蘇らせた……って死んでたってことですか?」
「いや、アンデッドは死なない。ただバトルファイトで負けたものはカードに封印されるんだ」
「カード?」
「そう。今全世界に広まっているトランプの元になった『ラウズカード』ってカードに封印される。そのカードからアンデッドを解放したんだ」
「どうしてそんなことを…」
「バトルファイトを勝ち残ったものに与えられる万能の力を欲したんだよ。自分の理想とする世界に作り変えるために」
「とんでもない欲望ですね……」
こんな人からヤミーを生み出したらきっととんでもないものが生まれるだろうな。
「俺はそのアンデッドをもう1度封印する仕事をしていたんだ。放っておけばアンデッドが人々を襲う危険があった。それに俺には適性があったし」
「適性?」
「ああ。『ライダーシステム』って呼んでたけど、それはアンデッドを封印したラウズカードの力でアンデッドを封印してたんだ」
「『ライダーシステム』…?もしかして『仮面ライダー』!?」
「えっ……そ、そう。仮面ライダー。都市伝説にもなったんだよ。『謎の怪物と戦うヒーロー』とか」
「わぁ!すごい!まさかこんなところにも仮面ライダーっていたんだぁ!!」
「えっ?映司?」
剣崎さんがすごく困惑してしまっている。
しまった…少し興奮した……。
「…あっ!ごめんなさい!話逸れちゃいましたね……」
「いいか?大丈夫か?まあいいや、うん。それで俺は仮面ライダーとして人々を守るために戦った。けどバトルファイトには1つ大きな秘密があった」
「秘密……?」
「53体のアンデッドのうち、たった1体。『ジョーカー』と呼ばれるアンデッドがいた。ジョーカーは何かの生物始祖ではないアンデッド。ジョーカーが勝ち残れば…世界は滅びる。実際にそれは起きたんだ……」
「起きたって……えっ?それって……」
俺はふと昔のことを思い出した。
あれはまだ俺が何も出来なかった中学生の頃。
屋敷に現れた黒い影。
大きな虫のような形をしていた。
俺を庇った使用人の何人かが…………。
「確か……13、4年前…全世界同時に謎の怪物が大量発生したことがありましたね……1週間程度で急に消滅して以来何も無かったのでほとんど忘れられていましたけど……それと関係が?」
「そう。その謎の怪物『ダークローチ』が世界を滅ぼすために放たれた。でもそれは消えた」
「……ジョーカー1体だけじゃなくなったから……?」
「俺が……『アンデッド』になったからだ」
「…!」
アンデッドという生物の話からなんとなくそんな気がしていた。
「…アンデッドになったっていうことは…剣崎さんは元々人間だったんですか?」
「ああ。俺がライダーになったのもアンデッドとの融合係数が高かったからなんだ。そして融合しすぎてこうなった」
「見た目は完全に人間なんですけどね……」
「まあそうなんだけど」
剣崎さんが少し笑った。
「俺さ…小さい頃に火事で両親が死んじゃって……無力な自分が嫌だったんだ。だからライダーのスカウトが来た時嬉しかった。俺が人々を助けられるって。俺は人を愛してるんだ。人を愛してるから戦ってた。そして、友だちになった奴と世界を救った……」
「俺もですよ」
「え?」
「俺、昔内戦に巻き込まれたことがあって……その時誰1人助けられなかった。困っている人を助けたいって思ってやってた事が裏目に出て、大勢の人が死んで、俺だけが助かった。それを家族に利用されて……自分のことに執着が無くなったんです。自分のことを後回しにしてただ目の前の人を助けようとして……」
俺はポケットの中の割れたコアメダルを取り出す。
「それ…昼間の……」
「俺はどんな人も助けられる力が欲しかったんです。1人で皆を助けられるような。それを気付かせてくれた奴がいて、それよりもっと大事なことを気付かせてくれた人たちがいました」
「映司……」
「俺、その時ヤミーやグリードと戦ってたんです。仮面ライダーとして」
「映司も!?」
「はい。俺はあの時、誰でも助けられる力を手に入れていた…」
思い出すあの日の出来事。
海岸での出来事。
「俺たち、なんか似た者同士だよな」
「え?」
「俺たちは仮面ライダーで、誰かを失って、誰かを助けたくて」
「剣崎さん……」
「あ、でも俺アンデッドだからなー…そこは似てないか」
「そんなこと…ないですよ」
「どういうことなんだ?」
「今はもう問題ないんですけど、俺グリードになったことがありまして………」
「グリードに?その…ヤミーを生み出せる……?」
「はい。流石にヤミーを生み出したことはありませんが、グリードになって力を求めて……」
「そうだったのか………」
剣崎さんがベッドに転がる。
天井を見つめ、目を閉じる。
「映司のこと知れて良かったよ。明日はヤミーの親玉探しだな……」
「そうですね。俺も剣崎さんのこと聞けて良かったです。あ、剣崎さんのことは秘密にしておきます」
「その方がありがたいよ。んじゃ、寝るか」
「おやすみなさい」
明かりを消してベッドに潜る。
翌朝2人は屑ヤミーと戦った場所へ赴く。
そこで2人を待ち伏せしていたのは白服の男。
映司には心当たりがあるようだ。
次回、第4話「商人と因縁と欲望の化身」