ソードアート・オンライン≪Sword Magical Girl≫ 作:二橋 巴
青白い光の粒子が通り過ぎて行き、光を抜けた先に現れたのは巨大な神殿のような建物だった。
一瞬、ゲームの中にいたはずなのにまったく違う現実世界の場所に立っているようで混乱した。そのくらいの圧倒的な存在感とリアリティを放っていた。
視線を落とし自分の手を見る。さすがに指紋までは無かったが女の子らしい細い五本の指が自分の意思通りに動く。
次に、自分の体を触ってみる。細い手足はそのままなのだが現実世界では全体的に肉好きの薄い体一部を仮想世界だからと増量しておいた
まだ、成長途中なのだろうけど将来的にはこのくらいは欲しいものだ、切実に。
遠くの方からは沢山の人が居るであろう賑やかな声が聴こえてくる。
風にのって神殿の周囲に植えられた芝生からなのか雨上がりの土手のような匂いが鼻腔を刺激してくる。
本当にここは仮想世界なのだろうか?
そんな思いを抱いてしまうほど五感全てに訴えてくる感覚は現実世界との違和感は感じられない。あるとすれば視界の端に
深呼吸をして青い空を見上げると太陽こそ見られないが真昼のように明るい空と雲が流れている。
普段の私ならいそいそと木陰に逃げ込むか日傘を差しているレベルの照度だ。空を覆う次の階層は残念だがきっと朝方や夕暮れ時には太陽が見れるだろう。
サービス開始からだいぶ経ったせいかログインしてくる人は少ないが、暫く自分の体や周囲を確認した後に商店などがあるであろう市街地に向けて歩き出していく。
私もそれに習い緊張しながらもこの世界における最初の一歩を踏み出した。
「うわぁ~♪」
神殿らしき建物があったエリアから門を抜けるとそこは中世と言っていいのだろうか?その位の町並みとそこを埋め尽くす沢山の人の波だった。
プレイヤーは勿論、武器や食品などを売る人……おそらくNPCだろうも沢山居るようだ。
今の所、プレイヤーは皆初期の服や防具を身につけているのでNPCとの見分けは簡単だ。しかし、NPC自体の表情や売り込みの声などを聞くと「本当は人が操ってんじゃないの?」とすら思えてくる。そのくらい生活観あふれる光景なのだ。
肝心のプレイヤー達はここから見る限り男女比で半々か若干女性のほうが多くみられるようだ。
私が密かに気にしていた髪の色も金髪・赤毛・栗毛などが多くむしろ黒髪の法が少なく見える。中には私のようなプラチナブロンドや銀髪までいる。
この中なら悪目立ちする事もないだろう。
母譲り(正確には違うのかもしれないが私はそう思いたい)のこの髪はとても気に入っている。髪の色でいじめられる事もあるのだが両親が褒めてくれるこの髪を染めてしまおうとは考えたこともなかった。アバターを作る時も不思議と髪の色を変える気はなかった気がする。なんにせよ、目立たないのは良い事だ。
それにしても、この男女比はちょっとないなと思う。MMORPGをやっている人間の男女比をどこかの掲示板でUPされていたが、大半が男性で女性はせいぜい2~3割程度だったはずだ。それを踏まえて今目の前の光景を改めて見ると……
「ねぇ! 俺とパーティー組もうよ。リードするからさ!」
と、さわやかイケメン好青年風の男性アバターと……
「え~、どうしよっかな~♪」
と、体をくねらせ迷っている素振をしている子悪魔系美少女アバターがいる。
ちゃんと本来の性別なら構わないのだが、もしも片方が違ったらどうなのだろう。MMOが始めての私には若干その辺りが……その……なにやら心の奥底にモヤッとしたものを打ち消すことが出来ない。いずれ慣れてくれるといいのだが。
そもそも、この手のゲームでリアルの事を相手に聞くのはタブーという考え方があるようだから、本当の性別なんて確認の仕様がないのであろう。仮に嘘をついても調べたりするわけにはいかないだろうし、そもそもそんな事をしたらストーカー扱い確定である。他の人から見れば私の事も『少女キャラを操っている年齢・性別不詳の人』になるのだろう。
……なにやら答えのない問題に当ってしまったような気がする。これ以上考えるのはやめておこう。
そういえば五感のうち味覚はまだ試していなかったね。早速試してみよう。
と、思ったところで肝心なことに気づく。NPCとはいえ普通の人と大差ない彼らを相手に私はまともに会話できるのだろうか? 意識した瞬間、お腹の下の方に何やら重たいものが溜まっていく。
せめて人当たりの良さそうなNPCを選ぼう。周囲を見渡すとそれなりに食料品を取り扱っているNPCはいるようだ。
まず、串焼き屋は…気難しそうなオジサンだ…ダメ。
パン屋さんは…沢山人が集まってる…入りたくない、没!
籠で果物を売ってるおばさん…いいんじゃないだろうか?人もいないし恰幅もいい近所の気のいいオバサンっぽい。貴女に決めた!!
深呼吸を一つして話掛けてみる事にした。
「・・・・
勢い良く振り返られたのと商人ならではの良く通る大きな声にビックリしてしまいひっくり返り尻餅をついてしまう……格好悪いな……
「あぁ!ゴメンよ、お穣ちゃん。立てるかい?」
そういって私にそっと手を差し伸べる。
一瞬、この手が私を助け起こすためのモノだと認識できなかった。じっと手を見つめる私を見ていたオバサンは苦笑を一つして強引に私を立たせてくれる。
「怪我は無いようだね。それで?どれにするんだい?」
そこでようやく商品に目をやるとさまざまな種類の果物が並んでいる。その中の一つ、リンゴのような果物に決めて指を差す。
「・・・・・・
「ん?こいつかい?一つ2コルだよ。一つでいいんだよね?」
コクコク!
「あいよ!毎度アリ!っとそうだ…」
受け取ったリンゴ?を受け取った反対の手に自分のエプロンのポケットから何かを取り出し私に握らせる。
「驚かせちゃったお詫びだよ。またきとくれ!」
握らされた手を開くと一粒のアメ玉があった。
「ありがとう、オバサン」
するりと、そんな言葉が出た。お礼を言うのはおかしい事じゃないのに、知らない他人を前にした普段の自分からは伝えたくてもなかなか出てこない言葉があっさり出た。
「……やっと笑ったね。アンタ可愛いんだからもっと笑ってたほうがいいよ!」
オバサンのそんな言葉に「はうっ!!」などと変な声が出てしまい恥ずかしくなりその場からダッシュで立ち去った。私の後ろのほうからはオバサンの豪快な笑い声が通りの角を曲がるぐらいまで響いていた。
それで……ここは何処だろう……
いつの間にか町並みはすっかり消えて目の前には草原が広がっている。遠方には森がありさらにそのはるか向こうにこの第一階層の端であろうか、山のような何かが見える。
町の中では建物があって分かりにくかったが、第1階層の稜線と第2階層の底の部分との間には青い空と雲が流れているようだ。
あそこからなら間違いなく太陽の光が入ってくるだろう。稜線に沈んでいく夕暮れを見るまではログアウトできないな……。
などとちょっとカッコつけながらその場に座り、オバサンから買ったリンゴのような果物を食べてみる。
「甘酸っぱい…♪」
というか、リンゴだった。そのままだった。名前すら一緒だった。リンゴ一つ買うのにあんなにいっぱいいっぱいになってるなんて「はじめてのおつかい」レベルか! と、思わず自分に突っ込んでしまう。はずかしい…
おやつにはちょうど良かったかもと、食べ終わったリンゴの軸をどう処分しようか迷ったのだが、手を滑らせ地面に落ちた瞬間、まるでガラスが砕けるようにポリゴンが四散して消えた。
ゴミにならないのは便利でいいな。などと少々的外れな感想を抱きつつ立ち上がり目を硬く瞑りながら伸びを一つ。たっぷり吸った息を吐き出しつつ振り上げた手を下ろした瞬間
バシ!
と、何かを叩く感触…。不審に思い横を確認すると……
そこにはいつの間にか現れたのか青紫っぽいイノシシさんがいらっしゃいました。
HPバーが表示されていてほんのちょっぴり減少していました。
攻撃されたことに怒っていらっしゃる御様子で、後ろ足を地面に蹴りつけながら「つーかー、自分、マジでー謂れの無い攻撃とかー受けて超ムカツいてんすけどー」と、ちょっとチンピラ風に喋ってくれたらちょっとおもしろくないデスネゴメンナサイ今すぐ謝りますから許してくださいていうか逃げます!
「ブギィ~~~~ッ!!!」
「ギャーーーーーーーーーーーー!!」
怖い!怖い!こわい!コワイ!怖い!!
ちょっと、女の子には有るまじき悲鳴を上げながら逃げる!とにかく逃げる。
どうやったら振り切れるか?走りながらひたすら考える。何か……無いか?!
後ろからの蹄の音に追い立てられながら周囲を見回すと20m先に茂み?のようなものが見える。あそこを突っ切れば見失ってくれるかもしれない!
「オオオリャーーー!!!!」
気合一発で茂みに飛び込んだ瞬間、目の前が真っ赤になり
「グハッ!!」
おもいっきり人にぶつかった。その上巻き込んで一緒に転がった。
「おっおい!大丈夫かクライン!?」
頭の上から声がするがそれどころではない、イノシシは振り切れただろうか?ぶつかった鼻をさすりながら起き上がると、
「ブギィ~~ッ!!」
「おおっ!?」
「うわぁ!?」
「わぁっ!?」
イノシシさんも気合一発!という具合に茂みから飛び出し5mほど進んでこちらを振り返る。
デスヨネ~。
猛然とこちらに向かってくるのを確認した瞬間に走り出す。
「ひ~~~ん!!」
思わず情けない声が出てくる。この状況だれでもいいから何とかして欲しい!!
「おーい。大丈夫か~?とりあえず武器を抜け~。」
先ほどの二人組みの内、私とぶつからなかった方の黒髪の青年が声を掛けてくれる。ちなみに、もう一人の赤毛の人はまだ地面を転がって悶絶しているようだ。
「武器!?ぶき?ブキ……あっありませーーーん!!」
「はぁ!何でだよ!?」
しょうがないじゃないか、走っていたらいつの間にかここに出ていたので武器なんて買っていないのだ。
「はぁ~、しょうがない。こっちで倒していいなら俺に向かって走って来い!」
『地獄に仏』とはまさにこの事!背後から聞こえてくる荒い鼻息と蹄の音で3mぐらい後方にいると中りを付けて、抜刀した黒髪の青年に向かって方向転換する。
「よし!そのまま俺の左脇を全力で駆け抜けろ!」
と、自分の左側……私から見て右側の手をぐるぐる回して駆け抜ける方向を指示してくれる。
青年との距離が20mぐらいになった時、右手に持った剣を構える。一瞬の間をおいて剣が光りだす、準備完了のようだ。
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
あと2mという所で
「プギィィィ~~~……」
イノシシの断末魔が響きわたった。
「ごめんなさい! ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」
「いや、もういいから……」
「つーか、この絵ヅラ……。俺らが虐めてるみたいじゃね?」
苦笑いを浮かべて立っている二人の前に、美しい土下座をしている少女がそこにはいた。
どう考えても『なすりつけ』と言われるノーマナー行為になってしまったのだ、下手をすれば掲示板に晒されてしまう! そんな恐怖感からひたすら地面に額を擦り付ける。
「あー、怒ってないから。ほら、顔を上げて」
「ほ、本当ですか?」
涙で潤んだ顔を上げると……
「ッ!? いいからほら立って」
と一瞬驚いた顔して立つことを促してくれる黒髪の青年と、ヒュ~ゥ♪と口笛を吹いて笑っている赤毛の青年。
はて、なんだろうこの反応は?なんかおかしい事あったかな?
「んで、武器も持たないでこんな所でどうしたんだ?」
と、尤もな疑問をぶつけて来る?
「え~とですね、実は……」
とりあえず、赤っ恥覚悟でこうなった状況を説明することになった。
少女説明中……
「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!それで偶然横に沸いたボア叩いて追いかけられてたんだ!!!」
「フッ!クックック!おい、クラインそんなに笑ったら悪いだろ。ハハハ!!」
……確かに笑い話みたいな状況なのだがそこまで笑うこと無いではないか。
笑われた事にブスッとしていると慌てて表情を整えて
「いや、笑って悪かった。確かにそんな状況ならしょうが無いよな」
と一応、フォローを入れてくれた。ここまで笑われたら開き直りの一つでもしてやらないと気がすまない。
「とにかく、倒してくれてありがとうございました」と未だに戻らない表情のまま告げると
「あぁ、気をつけて町に戻れよ」
「今度町を出るときはちゃんと武器と、それに応じたソードスキルを覚えてから出てこいよ!」
とにこやかに送り出してくれた。
どうやら本当に怒ってないようだ、気が緩み安堵の表情を浮かべて笑顔で別れた。
……後ろの方から「オイ、かなり可愛い子だったな」とか「何だクライン、ロリコンの気があるのか?それにもしかしたら中身は男かもしれないぞ?」など聞こえてきた気がするが、すべて聞かなかった事にした。
町に戻り町の周りをぐるりと囲む城壁の上に立つ。
時刻はもうすぐ5:30を過ぎた所だ。
赤い夕日が階層の間の僅かな空間から美しく世界を照らしている。
ほんの4~5時間の間にいろいろな事が起きた。
「えーと、アバター作りで遊んで、実際ログインして感動して、人の多さにビックリして、NPCの自然さにもっとビックリして、リンゴ買ってアメ玉おまけしてもらって、急に変なこと言われてビックリして駆け出して、気が付いたら町の外に出てて、リンゴ食べて伸びをしたらイノシシに追っかけられて、おもいっきり人に迷惑掛けて、笑って許して貰えて、ここで夕日を見てる……と」
普段ならありえない位の体験をした、そもそもこんなに長時間外にいたことが無い。この世界はきっと私をいい方向に変えてくれる。様々な経験をして両親曰く「更正してこい」と冗談めかしていたがここでならそれができるかもと思えた。
とりあえず、今日の冒険譚を夕食のおかずの一つに添えようと町の方向に振り返った瞬間。
ゴーン…… ゴーン…… ゴーン……
と町の中央付近から鐘の音が重く何処までも響いていく。
まるで、何かの終わりとそして
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よーやく話が進んでほっとしております。
そして、キリトさんと野武士さん登場!
喋り方とかに違和感があったらごめんなさい。
何となくこんな感じかなといういきおいで書いてますので…
今回は結構書いた気がするぞ。