ソードアート・オンライン≪Sword Magical Girl≫   作:二橋 巴

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現実(ゲーム)の世界へようこそ……


06

 それは、何かの終わりと()()()の始まりを告げるようなそんな音でした。

 

 町のほぼ中央にある広場、つい数時間前にこの世界に始めて降り立った宮殿のような建物が目の前ある広場なのだが、中央にあった巨大な鐘楼がこの音の音源のようだ。町とフィールドを区切る城壁の上にいるため鐘が揺れるちょっと後に警報のような重く大気を振るわせる音が届く。

 

 「何かの合図なのかな?時間を告げる鐘ってわけじゃ……!?」

 

 独り言を呟いている最中に鮮やかなブルーの光が視界を埋め尽くし城壁から眺めていた町並みが薄れていった。眩しさから思わず瞑った目を開いてみると其処は先ほど城壁から遠目に見ていた中央広場だった。

 

 「なにコレ……、もしかして転移(テレポート)?」

 

 周りを見回すと先ほど見た青白い光の柱が其処彼処で輝いては『何があったか分からない』といった顔をしたプレイヤーがぽっかりと口をあけて周囲を見回している。きっと私も同じような顔をしているのだろう。

 そうこうしている内に広場にはずいぶん沢山のプレイヤーが転移(テレポート)されて来ていた。人が多くなってきたので広場の外周の方に逃げることにする。目立たぬように、コソコソと建物の柱の影に引っ込んでいよう。

 

 ……しかし、

 

 「ヘブッ!!」

 

 思いっきり鼻っ柱を打ち付けた!

 

 痛みはたいして無いが突然の出来事に思わずその場で蹲ってしまう。

 周囲のプレイヤーが私の状態に気づき声を掛けてくれたり、私の打ちつけた……どうやら透明な壁のような物の存在に気づき触って確認したりしている。その内の誰かがぼそりと

 

 もしかして、閉じ込められた?

 

と洩らした。

 

 一瞬の静寂の後、「ふざけんな!ココからだせよ!」「オイ!クソ運営!なにやってんだ!」「GM出て来いよ!」「どうなってんだよ?!説明しろよ!」など、思いつく限りの罵詈雑言を未だに鳴り続ける鐘楼に向かい投げかける。気づけばココだけではなく広場の至る所で声を荒げるプレイヤーがいるようだ。

 

 ココから逃げ出したい……そんな思いからか座り込んだまま外周部のほうに下がろうとするが、相変わらす透明な壁は健在でこれ以上の後退を許してくれない。

 

 沢山のプレイヤーの怒声が響く中、唐突に鐘の音が止んだ。なにか始まるのではと鐘楼の方に皆が注目する中何処からか「オイ、アレなんだ?アレ?」という声がした。

 俯いていた私が声のした方へ顔を向けると皆一様に空の一点を見上げている。釣られて見上げてみると其処には横に引き伸ばした六角形の赤いなにかが点滅していた。どうやら英文が書かれているようで確認すると『Warning』『System Announcement』とある。

 

 『注意』『システム告知』という事は何らかの説明が始まるのかと思っていると、表示が空いっぱいに広がりだした。夕暮れの茜色に染まった空が瞬く間にどこか血の色を連想させるような赤に染まっていき第二階層の底を埋め尽くした。

 

 怒声はすでに止んでおりこの異常事態に皆、固唾を飲んで見守っていると多い尽くした六角形のセルの一部の繋ぎ目から()()()と、空の色よりさらに赤黒い粘液上のモノが染み出してきた。

 

 其処彼処から短い悲鳴が聞こえる。私自身、もう声にならない位の恐怖を感じていた。幸いに粘液状のナニカは一定の高さに止まり其処から生き物のように蠢いて形を作っていく。そして現れたのは

 

 

 

 巨大な顔の無い魔導師だった。

 

 

 

 今度は人の形になった事に対する妙な安心感と、なぜ顔が無いのかという不信感がごちゃ混ぜになってきっと変な顔をしていたのだろう。廻りのプレイヤーも一様に空の人物を見上げポカンと口を開いて見ていたり、鋭い目つきで見ている人もいる。

 

 魔導師らしき空に浮いた巨大な人物はゆっくりと客人を迎え入れるように両腕を開いた直後、空の高みから低く落ち着いていてそれでいてよく通る声で告げた。

 

 「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

 

 まるで神様のような言い方だ、其処まで言われて空に浮いている人物がこのゲームを管理・運営しているGM(ゲームマスター)のそれだとようやく思い当たった。しかし、なぜ顔が無いのだ?思いを巡らせていると広げていた両腕を下ろし再び声が響いた。

 

 「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

 茅場…晶彦!!

 このソードアート・オンラインの開発ディレクターでありナーヴギアを作り上げた天才。このゲームの存在を知ったと同時に知ることになり、そのインタビューが乗った記事を何度か読んだことがある。そして私をこの世界に強い憧れを持つようになったあの一言。

 

 『これは、ゲームであっても遊びではない』

 

 と語った人物である。

 

 そのぐらいのリアリティがある世界なのだと。

 まさに現実に近い仮想世界を体験した今ならこの世界で本当に生活できるのではと思ってしまえるほどだ。

 それにしても、開発ディレクターであれば《私の世界》と言ったのもやや大げさな気はするが納得はできる気がするがわざわざそんな事が言いたいがために此処にプレイヤーを集めたのだろうか?

そんな疑問を抱いていると三度、声が響く。

 

 「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である」

 

 ……ろぐあうとできない?どういうことだ?立ち上がって急ぎメインメニューを開きオプションなどが並んでいるタブを引き出すと、本来《LOG OUT》が存在していたであろう場所がぽっかりと空欄になっている。

ではどうしたらいいのだろう。……というか、本来の仕様というのなら空欄ではなくまるっきり無くなっていた方が良かったのでは?などと混乱のあまり良く分からないこと考えていると

 

 「諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない」

 「……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合――」

 

 不吉な間を空けて信じられない言葉が耳に飛び込んでくる。

 

 「――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

 

 ……足がガクガクと震えだしてきた。この人はナニヲ言っているのだろうか? 生命活動の停止……要するに死ぬということだ。

 自分自身に爆弾を埋め込まれたようなものだ。しかも、起爆スイッチはそれこそ部屋の照明のスイッチみたいに気軽に誰でも押せるような状態らしい。

 

 「より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例があり、その結果」

 「――残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している」

 

 ――すでに死者が出ている。当然、外部では大騒ぎだろう。(茅場)の周りにはニュース番組だろうか、緊急放送でこの騒動の事を必死に伝えているレポーターと、その背後には亡くなったプレイヤーの家だろうか警察などが緊急線を張って家の中に立ち入れないようにしている状況が見てとれる。

 私自身、母は家事の最中はテレビをつけっぱなしにしてBGM代わりにしているためこの状況はきっと理解しているだろう。おそらくナーヴギアを外される可能性は少ない……と、思いたい。

 

 「諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーブギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な看護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい」

 

 『体は平気だからずっとゲームしてて構わないよ』――コアなゲーマーなら泣いて喜ぶ状況なんだろうがコレは《自由意志》で行われているモノではない。《強制》なのだ。そんな状況にあるのに『安心してゲームを攻略してほしい』とはある種の拷問かなにかなのではないだろうか? (茅場)の話はまだ続く。

 

 「しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し同時に」

 

 不意に先ほど食べて処分に困ったリンゴの芯を捨てた時の事を思い出し――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――リンゴの芯が自分に置き換わり、ポリゴンを撒き散らしガラスが砕けるように消えていくのを幻視した。

 

 「諸君がこのゲームから解放され――」

 

 死ぬ。死んでしまう。モンスターに攻撃されたら死んでしまう。町の外で怪我をしたら死んでしまう。誰かに襲われたら(PK)死んでしまう。死ぬ。しぬ。シヌ…… 全ての思考が《死》というどす黒いイメージに塗りつぶされていく。

 今度こそ膝から力が抜けその場に座り込んでしまった。満足に力も入らず背後にある透明な壁に体を預け未だに話を続ける(茅場)の言葉をぼんやりと聴いているのがやっとだ。

 

 「――るという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え」

 

 《アイテムストレージ》を《確認する》。かろうじてこの言葉のみ理解する事ができた。座り込んだままメインメニューからアイテムストレージを確認するとそこには『手鏡』と言う見慣れないアイテムがあった。

 おもむろに、手鏡をオブジェクト化してみる。私の小さい手にはやや余るくらいの飾り気の無い鏡が現れて私を映し出す。

 

 (酷い顔してるな……)

 

 泣きたいのか、それとも怒りたいのか、絶望しているのか、そんなごちゃ混ぜの感情が顔に張り付いていた。と、その時周りにいたプレイヤーが突然光に包まれた! 一人、また一人と、光に包まれていく。目の前にいた女性も、私の隣にいた男性も、そして私自身も光に飲まれていき――

 

 ――光が収まり最初に見えたのはスカートを穿いた筋骨隆々の逞しい男性だった。

 

 ……なんだコレは? 隣にいた男性を確認すると、スラッとしたイケメンだったような気がしたが、こちらは私の倍以上はありそうな腰周りをしたニキビだらけの男性だった。

 慌てて自分の手鏡を確認するとそこにはいつもの自分の顔があった。良かった!容姿を変に弄くる物ではなかったようだ。では、コレは一体なんだろう? と考えてると周囲のざわめきから簡単に答えを導き出せた。曰く、今のアバターは現実世界の彼ら自身の容姿と体格なのであろう。ナーヴギアの高密度の信号素子で顔をスキャンしキャリブレーションで体格を測定した事で現実世界の体を再現しているのだと。私の場合、元々現実世界の容姿をそのまま選択したため得に変化が無かったのだろう。

 

 「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO(ソードアート・オンライン)及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのかと? と」

 

 騒ぎをよそに、(茅場)の説明は続いていく。

 

 「私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAO(ソードアート・オンライン)を造った。そして今、全ては達成せしめられた」

 

 それは完全勝利宣言だった。自ら作り出した箱庭に沢山の子羊たちを放して狼に襲われようが群れからはぐれようが一切関知せず、ただ観察し、神様がごとく振舞うのだろう。この告知までが(茅場)の過程と結果で、これから先は結果の後の《経過観察》なのだ。自らの課した試練を乗り越える者が現れるのを勝利の美酒を片手に、遥か高みから愉悦を浮かべながら眺めるのだろう。

 

 「……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る」

 

 最後の宣誓と共に空中に浮かんでいた魔導師に扮したこの世界の絶対者、《茅場晶彦》は出てきた時とは逆再生のように空に表示されたセルの隙間に吸い込まれていき、その欠片が全て飲み込まれたと同時に空はまるで何事も無かったように夕焼け空に戻っていた。

 

 ――静寂が広がる。自分の身におきた事が未だに信じる事が出来ないのだろう。誰もが空を見上げ呆けていると――

 

 ――ガシャン――

 

 という破砕音と共に

 

 「イッ! イャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 少女の絶叫が広場に響き渡り、そして――

 

 「こんなの困る! すぐにここから出してくれよ!」

 「ふざけんな人殺し! 何とか言えよ!」

 「なんだよ……。何なんだよ! コレ!」

 「誰か! 何とかしろよ! こういうのに詳しいヤツ出て来いよ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄の底と化した。

 

 数十分前まで此処は私にとって新天地で自分を新たに始められる場所だと思っていた。それがどうだ、たった数十分のあんな簡単な説明のみで命を掛けろと言ってきたのだ。訳が分からない。もう泣いていいのか、怒るべきなのか、同情してほしいのか、笑い飛ばしたほうがいいのか、なにも分からない。目の前では口論や掴み合いのケンカが起きている。と、その時

 

 「ひゃ!」

 

 ……どうやら、背中を預けていた透明な壁が消失したようだ。当然、そこに体を預けていた私は盛大にひっくり返る羽目になる。

 後頭部を思いっきりぶつける羽目になったがあまり、いや全然痛くは無い。当然だ。コレはゲームの中なのだから。現実世界なら後頭部を押さえて悶絶していただろう。と、その時、嫌な想像が頭を過ぎってしまった。

 

 仮に、コレが町の外でしかもモンスターとの先頭の後でHPゲージがほんの僅か数ドットしかなかったとしたらどうだろう。ダメージ判定とされてHPが無くなり私は死んでしまうのだろう。

痛みとは関係なく死を迎える。些細な事で死んでしまうかも知れない。それこそ今目の前で行われている諍いに巻き込まれただけであっさりと死んでしまうのであろう。

 

 

 

 

 

 そう思った瞬間、私は走り出していた。

 

 

 

 

 

 あの場に居たくなかった。茅場に対する怨嗟や呪詛が蔓延(はびこ)り、その矛先が自分にも向いてきそうで、向いてこなくてもあの場にいるだけでナニカに押しつぶされそうで……。私は広場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ――どのくらい走ったのか分からないが普段の運動不足の私では考えられないくらい走った。商店なども閉まっているのか誰もいないようだ。アバターだからか疲れてはいなかったが路地の片隅に腰を下ろし息を整える。

 視界の端に写る時間を確認するともう午後6時を大幅に過ぎていた。

 

 

 ――こんな時間までゲームをしていたらきっと怒られてしまうな。

 ――怒られてもいいから現実世界に帰してほしい。

 

 

 ――たっぷりと怒られたらごめんなさいして母の作った夕飯を食べよう。

 ――母の料理はしばらく、下手をしたらもう二度と食べる事は出来ない。

 

 

 ――夕飯が終わったら帰ってきた父とお話をして、たまには一緒にお風呂に入ってあげるのもいいかも。

 ――父にも母にも会う事は叶わない。あの家にも帰る事は出来ない。

 

 

 ――お風呂から上がったらきっともういい時間だろう。両親にオヤスミのキスをして眠ろう。

 ――この世界で傷つき、倒れたら瞬間。現実世界の私はそのまま永遠の眠りに付くだろう。

 

 

 膝を抱え声を殺して泣いた。誰に見られているわけでもないだろうが硬く膝を抱きこみ、ナニカから身を守るように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの時間そうしていただろうか、こちらに向かって足音が近づいてくる。私の事など気にせずにそのまま通り過ぎてほしい。そんな事を思っていたが足音の主は私から2mほどの所で歩みを止めた後、一拍置いてゆっくりとこちらに近づき――

 

 「お穣ちゃん。大丈夫か?」

 

 声をかけてきた。

 

 

 思わず、ビクリ! と体を震わせ恐る恐る顔を上げてみると、ぎょろりとした目に鷲鼻、そして無精ひげを生やし頭にバンダナを巻いた赤毛の男性だった。

 

 「あれ? もしかして昼間の子か?」

 

 相手はどうやら私の事を知っているようだ。しかし、私はこんな人は知らない。当然この世界に知り合いがすぐにできるほど私にコミニケーション力があるわけが無いのだから。

そもそも、先ほどの手鏡で容姿が変わっている人間がほとんどなのだろう。私が顔中に疑問符を浮かべていると

 

 「そっか、さっきのヤツで顔が変わっちまってるから分かるわけないか。昼間、西の草原でお穣ちゃんに体当たりされたヤツだよ」

 

 ……思い当たった。イノシシみたいなモンスターに追い回された時に茂みを抜けた先にいた二人組みの内の一人だ!

 

 「思い出してくれたようだな。俺はクライン。こんなとこでどうした?」

 

 私が思い出した事に安堵したようで少し離れて私と目線の高さが合うように向かい側に腰を下ろした。

 しばらくの間、沈黙が二人の間を流れたが私の事を気遣うような視線を感じ、ぽつり、ぽつりと話し始める。

 

 「プラムっていいます……。私たちもう帰れないんですか?」

 

 私の質問に苦虫を噛み潰した様な表情をして

 

 「そいつは……なんともいえないな……。俺自身、これから先どうしたモンか考え中だしな」

 

 言葉にしてから気が付いたがなんとも酷い質問をしたものだ。クラインさんも私と同じ被害者なのだから当然、現状に戸惑い、途方にくれているはずだ。

 

 「ごめんなさい。変な事聞いて……。あの時一緒にいた人は?」

 

 「キリトの事か?アイツはもう町を出た。今はまだ戸惑っているけどいずれ一部の奴等は動き出す。そうなった時にこの町の周辺のモンスターはすぐに狩りつくされてしまう。だから今のうちに次の町に拠点を移して自分に有利になるようにレベルを上げる……らしい」

 

 すごい、もう動き出している人がいるんだ。あの時、私に代わりイノシシを倒してくれた人は倒れれば死につながるこの状況で自身の強化を優先し真っ先に飛び出して言ったのだ。しかし……

 

 「クラインさんを置いて行っちゃったんですか? どうして?」

 

 「俺が断ったんだ。最初は俺の事も連れて行こうと思ってたらしいんだが、俺にはこのゲームの前にやってたMMOで出来た知り合いもログインしてるんだ。そいつ等を置いては行けない。だから、お前一人で行ってくれ……ってな」

 

 心苦しそうな……そんな表情だったよ。と付け加え会話を切った。彼は今頃、次の町までの道程を不安と孤独に心を蝕まれながらもただ前に、ひたすら突き進んでいるのだろう。

 

 その後はクラインさんの方からなせ私が容姿が変わってないのか聞かれたのでアバターを製作した時の様子を語り、その際――

 

 「あー。ちょっと違和感があるなと思ったら胸がへっゲフンゲフン」

 

 そこまで言われて自分の体を良く確認してみると減っていた……増量したはずのモノが減っていたのだ。

胸を隠しながらクラインさんを睨み付けた。気まずいのか視線を明後日のほうに向けて下手くそな口笛を吹いている。

 

 (茅場さんもうちょっと夢を見させてくれてもいいじゃないですか……)

 

 的外れな事を考えている内に自分が先ほどまでよりずいぶんと気が軽くなっていることに気づく。何気ない会話だったが人と話す事でずいぶん楽になったようだ。というより、この人の雰囲気がそうさせているのだろうか? 普段の私では考えられないくらい赤の他人と会話が成立している。自分で言っていて情けない限りなのだが……

 

 その後、これから予想されるトラブル……得に女性や子供だから注意が必要な事などをレクチャーしてもらい最後に……

 

 「どうだ? さっきも言ったが、これから前のゲームで一緒だったやつらと合流するんだが一緒に来るか?」

と誘われた。

 

 正直、心揺れたが彼らはこれから町の外まで行動範囲を広げるのだろう。その時自分が付いて行けるかどうか分からない。単純にお荷物になってしまうかもしれない。だから……

 

 「ごめんなさい。町からは極力出たくないので一緒には行けません」

 

 「そっか……それじゃあしょうがないな」

 

と苦笑いで答えて『あーあ、今日は二連敗だな』なんて笑いながら立ち上がった。

 

 最後に、昼間一緒にいた『キリト』さんが言っていた「この世界で生き残るにはひたすら自分を強化するしかない」という言葉と、だからといって無理は決してしない事。どのくらいこの生活が続くか分からないから所持金を稼ぐ方法を見つける事、困った事があったらどんなことでも気軽に相談する事などを話てフレンド登録した。コレでいつでも連絡できるということだ。

 

 「じゃーなプラム。無茶すんなよ!」

 

 片手を上げて立ち去っていく背中を立ち上がって見送った。本当は一緒に行きたかったのかもしれない。立ち去っていく背中に向かって思わず手を伸ばすが後一歩声が出なかった。次第に遠ざかっていき通りの向こうに消えた時、なんともいえない孤独感が胸に押し寄せてきた……。

 

 「ココで生き抜いていかなくちゃいけないんだ」

 

 自分に言い聞かせるようにはっきりと口に出し踵を返して日の沈んだ町を歩き出した。




前回の更新からだいぶ空いてしまいました。今回はチュートリアル編をお届けしました。いかがでしたでしょうか。

次回からは少しオリジナルな展開をしつつようやくスキルの習得……まで行くといいな?ッて感じだと思います。

どうぞ、長い目で見守っていただきたく思います。
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